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2005年03月23日

日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済

■ 書籍情報

日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済   【日本的雇用慣行の経済学―労働市場の流動化と日本経済】

  八代 尚宏 (著)
  価格: ¥1,890 (税込)
  日本経済新聞社(1997/01)

 本書は、日本的雇用慣行を、「雇用者の技能形成のカギを握る企業内訓練を効率的に行うための、きわめて経済合理的なシステムとして評価」すると同時に、今後の経済社会環境の変化に対応して、より流動的な雇用パターンの比率が高まる「雇用ポートフォリオ」の変化について論じています。
 「日本的雇用慣行」とは、長期的安定的雇用、年功昇進・賃金体系、企業内組合などの雇用・賃金形態とされていますが、著者は、企業内訓練を通じた人的資本形成を経営者と雇用者が共同で負担する合理的なメカニズムが、雇用者の高い勤労意欲と労使関係安定の基礎になり、この雇用慣行のカギとなっていることを指摘しています。
 同時に、この企業内訓練重視の雇用慣行が、先進国の中で最も大きな男女間賃金格差や長時間労働、頻繁な転勤などの社会的コストと公平性の問題を生み出しているという点にも言及しています。
 また、補論としての扱いではありますが、日本的雇用慣行の典型例の一つとして日本の公務員制度について触れています。特に「公務員一括採用」に対しては、専門的能力形成や人事評価を困難にし、官僚組織の巨大化・硬直化を招くとして反論しており、むしろ、公務員の中途採用を容易にする法改正によって、特定の専門的能力を持つ人材の官民交流を行うことによって、閉じられた内部労働市場での過剰な仕事競争(job competition)を抑制することができるとしています。


■ 個人的な視点から

 人事異動の季節になりました。3月も後半ともなると自治体職員の関心は4月の人事異動一色になり、気もそぞろの状態で、あちこちから漏れ聞こえる人事異動の噂話に一喜一憂します。そして、3月中に人事異動の内示が出ると、ある者は自棄酒を飲んで憂さを晴らし、ある者は人事担当課長の机を叩いて抗議し、妬みと怨嗟の声がそこかしこに渦巻くことになります。

 なぜ公務員はこれほどまでに人事異動にこだわるのでしょうか。その答えの一つが本書にあります。
 日本の公務員制度が、日本的雇用慣行の典型例の一つであるとすると、そのインセンティブ・メカニズムは本書で指摘されている
 (1)年齢が高くなるにつれ、同一年齢層間での賃金格差が拡大する。
 (2)課ベースでの集団的生産活動が中心となることで、個々人の昇進について、職場での「評判」が重要になる。
 (3)より良い仕事のポストをめぐる「仕事競争」(job competition)。
が、公務員の場合にも働いているということになります。
 このうち特に人事異動に関係するのは、(3)の「仕事競争」のインセンティブ・メカニズムです。ここで言う「良いポスト」とは、
「外部の人々にはわかりにくいが、企業内部の者には自明なものであり、企業の盛衰を担う花形の部署や急速に仕事量が伸びている重要な部課を指す場合が多い。」
とされています。
 そして、「良いポスト」と「悪いポスト」を比較すると次のようになります。

●良いポスト
 ・他では得られないような貴重な業務上の訓練が経験できる。
 ・上記訓練を通じて個人の能力向上が図れる。
●悪いポスト
 ・企業の衰退分野や、誰がやっても同じ成果の単調な仕事。
 ・何年勤めても技能の向上が期待できない。

 特に公務員の場合は、仕事競争が激しくなり、本書ではその原因として以下の2つの要因を挙げています。
 (1)最初に良いポストを与えられると、能力の向上とともに上司に認められる機会が増え、次も良いポストにつける好循環メカニズムが働く。逆に悪いポストに就くと悪循環メカニズムにとらわれやすい。
 (2)キャリア官僚の場合は、組織外への出向退職の選別プロセスが働く。

 以上の点を踏まえると、なぜ公務員がこれほどまで人事異動に執着するかが理解できるのではないかと思います。基本的に賃金や昇進では大きな差が付かない公務員の世界において、その評価の差が顕在化するのは人事異動の機会しかないからです。

 枕草子の「すさまじきもの」の時代から、日本の公務員は「除目」に一喜一憂を続けているわけですが、本書が指摘しているとおり、中途採用の増加などによって人材の流動性を高めることで、閉じた世界での過剰な仕事競争メカニズムを抑制することができるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

 ・日本の雇用慣行について整理されたものを読みたい人。
 ・なぜ公務員がこれほど人事異動にこだわるのかを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
 伊丹 敬之, 伊藤 元重, 加護野 忠男 (編集) 『人的資源 リーディングス 日本の企業システム』
 小池 和男  『仕事の経済学』
 エドワード・P. ラジアー (著), 樋口 美雄, 清家 篤 (翻訳) 『人事と組織の経済学』
 樋口 美雄  『雇用と失業の経済学』
 青木 昌彦 (著), 永易 浩一 (訳) 『日本経済の制度分析―情報・インセンティブ・交渉ゲーム』 2005年04月01日


■ 百夜百マンガ

以蔵のキモチ【以蔵のキモチ】

 「義妹にドキドキする高校生」というシチュエーションだけ見ると『みゆき』か妹萌え系かという感じですが、昔の少年マンガ的な雰囲気のしっかりとした作品です。
 連載途中で終わってしまったのが残念ですが、どうしても続きが読みたくなる作品の一つです。

投稿者 tozaki : 2005年03月23日 07:00

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