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2005年06月28日
ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考
■ 書籍情報
印南 一路
価格: ¥1,785 (税込)
日本経済新聞社(2001/03)
本書は、MBAのカリキュラムでは必須科目となっている「交渉論」について、基本概念から実践的な交渉術まで科学的に解説したビジネス書です。世の中には「交渉術」をうたったハウツー本はたくさん出ていますが、多くが実体験に基づく「術」のレベルの話であるのに対し、本書では、交渉当事者が状況をどのように認識しているかという認知と戦略的な論理展開の観点から交渉問題を扱っています。
本書では交渉を、
(1)分配型交渉:固定されたパイを分割する交渉。
(2)利益交換型交渉:自分の利益の実現のため、重要でない利益を交換として相手に与えるタイプの交渉。
(3)創造的問題解決:パイ自体を大きくして自分と相手の利益を一気に解決する。
の3つの類型に分類しています。「交渉」という言葉には、固定されたパイを奪い合う(1)のタイプの交渉のイメージが付きまといますが、自らの利益と相手の利益とを正しく認識することができれば、(2)や(3)のタイプの解決方法も見つけることができます。
著者は、交渉に関する5つの誤解として、
[誤解1]交渉は駆け引きである。
[誤解2]交渉は経験のみで十分学べる。
[誤解3]交渉は術でしかない。
[誤解4]普遍的な交渉戦略が存在する。
[誤解5]生まれつき交渉力に長けた人物がいる。
を本書の冒頭に挙げていますが、逆にこれらの5つの誤解を強調することによって、自らの交渉術を売り物にしたいビジネス本や、「交渉のプロ」としての評判を得ている人がいることも事実ではないかと思います。
ビジネスの中で、小さなものから大きなものまで毎日様々な交渉が行われますが、本書はそれらの交渉を分析するための理論的なフレームを提供してくれます。営業や労務管理など、交渉を日々の仕事の核にしている人にとっても、自分の行っている仕事を整理して理解する助けになると思います。
■ 個人的な視点から
本書では交渉の基本概念として、「期待・意欲度」「留保価格」「BATNA」「交渉ゾーン」の4つを解説しています。交渉に当たっては、無意識であってもこれら4つの概念を用いているのですが、意識的に理解することで交渉の状況認識が一気に高まります。
(1)期待・意欲度(Aspiration Level):交渉結果について交渉当事者が持つ期待や意欲の程度。(a)これが高いほど分配型交渉では良い結果が出る。(b)これが高すぎると相手の反発を買う危険が大きい。(c)客観的な交渉結果との比較が交渉成功の自己判断になる。(d)これ自体が認識操作の主たる対象になる。
(2)留保価格(Resaervation/Walk-Away Price):自分が受け入れられる最低レベルの価格。
(3)BATNA(Best Alternative To Non-Agreement):交渉不成立の場合に当初の目的を達成するために用意してある最良の代替手段。
(3)交渉ゾーン(Bargaining Zone):売買当事者の留保価格の差。
これらの4つの概念を認識していれば、交渉がより合理的なものになります。本書では逆に避けるべき交渉戦術として、「ボルウェア戦術」(初めから落としドコロを提示して一切妥協しない)、「痛み分け戦術」双方が同じように不利益を被る)、「様子見戦術」(とりあえず相手の出方を見る)の3つの戦術を挙げています。
先にあげた4つの基本概念のうち、本書で繰り返し登場するのが「BATNA」(バトゥナ)です。これは経済学の契約理論でいうところの「威嚇点」に相当するもので、自分と相手のBATNAをいかに正しく認識するかが交渉成功の鍵となります。
また、本書ではいわゆる「交渉術」のハウツー本に登場するような「きわどい交渉テクニック」についても、上記の基本概念や認知心理学の枠組みを用いて解説しています。
・迎合的関係の形成(お世辞やプレゼント)
・ゲームズマンシップ(イライラ、テンポの変更、自信を失わせる、タフな交渉の予感)
・約束と脅し
・擬似説得的主張(同じ主張の繰り返し、一貫性のある主張、社会的証明原理の応用、個人の信用に訴える)
・感情の人質(情報収集、心理的優位、妥協誘導)
・ローボーリング(見かけ上低い価格の提示)
・ベイト・アンド・スイッチ(釣った魚には餌はやらない)
・最終通告・通牒
・チキン・ゲーム
・蒸し返し
・キッチンシンク(おとり戦術)
・グッドバイ・バッドガイ
・権限のない振り戦術
・交渉者の交代
・アジェンダ・コントロール(複数の交渉問題のうち個別の問題から片付けていこうとする)
・「拒否させて譲歩獲得」戦術(ドア・イン・ザ・フェイス戦術)
・二段階要求戦術(フット・イン・ザ・ドア戦術)
悪徳商法などが常套手段としている、これらのきわどい戦術から自分を守ることも大切ですが、これらのきわどい戦術は、知らず知らずのうちに自分が相手に対して使っていることもしばしばあります。「交渉論なんて自分には必要ない」と思っている人も、自分が使ってしまうことを避けるためにも一読しておくと良いのではないでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・「交渉論なんて自分には必要ない」という人。
■ 関連しそうな本
マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』
印南 一路 『すぐれた組織の意思決定―組織をいかす戦略と政策』 2005年03月14日
印南 一路 『すぐれた意思決定―判断と選択の心理学』
アーノルド ピコー, エゴン フランク, ヘルムート ディートル (著), 丹沢 安治, 田川 克生, 渡辺 敏雄, 榊原 研互, 小山 明宏, 宮城 徹 (翻訳) 『新制度派経済学による組織入門―市場・組織・組織間関係へのアプローチ』
ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日
■ 百夜百マンガ
『炎の転校生』や『逆境ナイン』で有名な作者が、師匠である石ノ森章太郎から指名されて引き継いだという作品です。仮面をつけたヒーローや人間と動物が合成された怪人など、『仮面ライダー』の基本フォーマットが既にできています。
投稿者 tozaki : 2005年06月28日 07:00
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