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2005年09月23日

県庁の星

■ 書籍情報

県庁の星   【県庁の星】

  桂 望実
  価格: ¥1,365 (税込)
  小学館(2005/09)

 本書は、とある県庁からの民間企業研修生として小さなスーパーに派遣されたエリート職員が、役人生活で培われた四角四面さと持ち前の青臭さで、周囲にあきれられながら、スーパーの危機に立ち向かい、自分を変えていく物語です。
 主人公の「県庁さん」は、庁内では将来を嘱望された若手優良株。しかし、Y県庁初の特別研修民間企業派遣として送り込まれたスーパーでは、お客さんや他の従業員とトラブルを起こす「役立たず」の烙印を押されます。そこに、低迷する店を揺るがす様々な危機が次々に降りかかり・・・というのが本書のあらすじですが、続きはぜひ実際に手にとって読んでみてください。今朝一気に読めてしまったくらいのボリュームと読みやすい文体なので、一度読み始めるとノンストップでエピローグまで到達してしまうでしょう。
 さて、外からやってきた素人がスーパーを改革する、というストーリーは、映画『スーパーの女』やその原作となった『小説スーパーマーケット』が思い出されますが、これらと本書には大きな違いがあります。それは『スーパーの女』の主役は宮本信子扮する花子ではなく、お客様のための店に生まれ変わるスーパー正直屋そのものであるのに対し、本書は主人公の「県庁さん」こと野村聡がスーパーを舞台に生まれ変わることが主題になっていることです。もちろん、正義感の強い「県庁さん」の性格は、元銀行員で不正を許さない『小説スーパーマーケット』の主人公である香嶋良介を彷彿とさせますが、『小説スーパーマーケット』や『スーパーの女』ではスーパーとその従業員たちが生まれ変わる姿が感動を呼ぶのに対して、本書では、スーパーの変革に取り組む中で生まれ変わっていく「県庁さん」自身の姿が読者の心を打ちます。
 そのせいか、スーパーの変革自体の描かれ方は脇役的で詳しくは語られていませんし、「怠け者のダメ従業員」に見えたのが実は・・・という下りはかなりご都合主義的に感じましたが、本書が主人公の生まれ変わる姿を中心に描いているものである限りは、仕方がないのかもしれません。
 本書の中で笑われている「お役人」の描かれ方は、公務員自身の目から見ると「いまどきこんな奴はいない」と思えるかもしれませんが、公務員の方も「大げさに書いてるんだ」とグッとこらえて続きを読んでみてください(実際、こんなもんだと思いますが・・・。)。途中まで読むと止まらなくなると思います。


■ 個人的な視点から

 この本を読んで一番最初に浮かんだのは、雰囲気の悪いスーパーのバックヤードに漂う、ドロっとした停滞感でした。学生時代にスーパーの食肉工場や販促応援のバイトをしていましたが、店やチェーンによって雰囲気はまるで異なっていました。
 特に某D社の食肉工場はきつかったです。大学に入って最初にやったバイトだったのですが、ムダ話ばかりしてサボる社員につき合わされ、外国人のバイトは衛生のためにビニール手袋をした手で床に手洟をかみ(生まれて初めて目の当たりにした手洟技は衝撃でした)、手待ち時間が長く、工場の中に無気力と生産性の低さが立ち込めていました。高校時代にバイトしてた機械工場は、冶具にピンセットで順番どおりに部品を並べてプレス機でカシメる、という単純な仕事一つとっても、製造数や不良率など目に見える数字に向かって従業員が一丸となって(誰か一人作業が遅れると全体の作業が遅れることもあり)、それなりの達成感もあったのですが、この食肉工場には「仕事嫌だな~」という空気が蔓延していて、働いている充実感を感じることができませんでした。慣れない職場での手待ち時間ほど辛いものはないです。
 他には販促応援のバイトで色々なスーパーに行きました。これは、卸が自分のところの商品の店頭セールをやる際に、商品と合わせて人も出させられる、というもので、よくある試食販売(ホットプレートで商品を焼いて小分けするもの)や、商品詰め放題などのキャンペーンの他、目玉商品の品出しもあれば、棚卸要員として「供出」させられることもありました。「乳製品をカゴに詰め放題」のキャンペーンでは、カゴに「詰める」というよりも、壮大なタワーを「積み上げる」お客さんがいて、周りのお客さんは驚嘆の声を上げていました。本人は「どうだ!」という感じだったのですが、運ぼうとしたら崩れてしまったんですけどね。
 バックヤードの雰囲気は店によってまるで違いました。某I社や某Y社のお店の社員さんは、しっかりした人が多く、パートや我々のような出入り業者にも敬語を使い(社会人ですから当たり前ですが)きちんと対応してくれました。一方、某M社に棚卸応援で行った時の社員の態度は、出入り業者に対しての上下関係を顕わにした完全な命令口調で、軍隊的・体育会的な社風を体現したものでした。社員とパートの身分の差も大きく、パートさんや棚卸に来ていた他の業者に陰口を叩かれながら、あちこちで怒鳴り散らしていました。
 雰囲気の悪いスーパーのバックヤードには、ワゴン(と言うか名前忘れちゃったのですが台車に1.8Mくらいの高さの籠がついたもの)が乱雑に置かれ、在庫のダンボールが堆く積み上げられ、照明が遮られるため喩えではなく現実に「暗い」です。本書を読んで、そんなスーパーの暗いバックヤードの光景が蘇りました。


■ どんな人にオススメ?

・全国の公務員。


■ 関連しそうな本

 安土 敏 『小説スーパーマーケット』 2005年03月08日
 伊丹十三DVDコレクション 『スーパーの女』
 安土 敏 『日本スーパーマーケット原論―本物のスーパーマーケットとは何か』
 中尾 英司 『あきらめの壁をぶち破った人々―日本発チェンジマネジメントの実際』
 ジョン・P. コッター (著), 梅津 祐良 (翻訳) 『企業変革力』 2005年02月19日


■ 百夜百音

らいぶあっとざばーぼんはうす【らいぶあっとざばーぼんはうす】 餃子大王 オリジナル盤発売: 1989

 「県庁の星」ではなく「教師の星」と言えばこのバンド。教育現場の経験を元に歌うロックが話題になりました。
 当時は「~大王」という名前が流行ったのか「バビロン大王」というバンドも同じ時期にありました。


『あらくれ者』あらくれ者

投稿者 tozaki : 2005年09月23日 09:00

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 桂望実さんの小説『県庁の星』(小学館刊)が話題です。[url=https://www.honya-town.co.jp/P3/CM/html/bookclip... [続きを読む]

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