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2005年09月25日
筒井版 悪魔の辞典
■ 書籍情報
アンブローズ ビアス (著), 筒井 康隆 (翻訳)
価格: ¥2,100 (税込)
講談社(2002/10/09)
本書は、これまでにも何種もの訳が出版されているアンブローズ・ビアスの『The Devil's Dictionary』を小説家(昔はSF作家と書かれることが多かった気がしますが)の筒井康隆氏が9年の歳月をかけて(と言っても間には言葉狩りに抗議する断筆期間の4年を含みますが)翻訳したものです。
筒井氏が本書の翻訳に取り組んだ出発点は、過去の翻訳が「ビター・ビアス」と呼ばれた風刺が冴え渡る原著の「毒」が、日本語に訳してしまうと上手く伝わらず、単純に笑えるものになっていなかった、というところにあります。これには、日本の文学界で「笑い」と「毒」の微妙なバランスの上で長年活動してきた筒井氏ならではの自負があるのではないかと思います。過去に数々のきわどい作品や表現(昭和40年の「堕地獄仏法」とかその続編とかは今じゃ書けないかもしれないですが)と笑いのバランスの上を歩いてきた筒井氏ならではの切れ味鋭い毒が楽しめる、と期待してはいました。しかし、何しろ元が100年前の風刺ですので、残念ながらダイレクトに笑えるかというと難しいという感じです。
内容としては、通して読むとコケにされる人や物事のパターンが大体決まっていて、その一つは風刺の定番として権力者をこき下ろすものです。例えば、
・Saint【聖人】名 死後に改訂・編集された罪人。
・Poliyician【政治屋】名 組織化された社会という建物の土台になっている泥の中のウナギ。
・Adherent【支持者】名 期待するだけのものをまだ得ていないので、ついてきている人。
・Metropolis【首都・大都市】名 地方出身者の拠点。
・Income【収入】名 社会的地位を計る、自然で合理的なモノサシ。
・Poverty【貧乏】名 改革ネズミの刃を研ぐためのヤスリ。
などは、社会風刺の典型的なパターンの一つでしょう。
また、人生に対するシニカルな下記ぶりも多く見られ、
・Birth【誕生】名 生涯に遭遇するあらゆる大惨事のうち、最初で最悪のもの。
・Life【生命・人生】名 肉体が腐らないように保存している精神の漬け汁。
・Zeal【熱心】名 未熟で世間知らずの若者を苦しめる神経症の一種。
など冷笑家ぶりを徹底しています。
この他、この手のものの定番として女性に対する攻撃も激しく、
・Beauty【美貌】名 恋人を魅惑し夫を不安にさせる力。
・Marriage【結婚】名 主人がひとり、女主人がひとり、奴隷がふたりからなり、それでいて合計ふたりになるという共同体の状態、または境遇。
などの他、【参政権】で女性を皮肉ったりもしています。
そして、もちろん自らに対する皮肉も忘れていません。
・Cynic【冷笑家】名 目が悪くて、物事を、あるべき姿にではなく、あるがままに見てしまう悪人。
・Mad【狂った】形 高度の知的独立心に冒された。
などの項目では自分自身に対する攻撃(予防線とも言いますが)をかけています。
他の訳を読んでいないので、筒井氏の訳の良し悪しは判断できませんが、読んでクスリと笑える良書であることには違いないと思います。
■ 個人的な視点から
本書を読んで感じたのは、100年前の著者が論敵をコケにするやり方に比べて、現代はそれほどの進歩をしていないのではないか、ということです。むしろ、直接的な中傷や人格攻撃などより低俗になっているような気がします。これは、本書の著者が「文筆界の解剖学者」とあだ名されるほどの傑出した毒舌を持っていたということもあるかもしれませんが、当時の論戦が、主に新聞や雑誌などの定期刊行物上で行われ、熟考するだけのタイムラグがあったことも関係すると思います。
現代の論戦、例えばテレビの討論番組では、相手の論理展開を注意深く噛み砕いてその矛盾を突く、というやり方よりも、リアルタイムで相手の言葉尻を掴まえてやり込める、声の大きい方が強くなってしまっています。
この点で、現代の日本人の論戦能力を高めるかもしれないのが「2ちゃんねる」です。現在批判を受けることが多い匿名巨大掲示板「2ちゃんねる」では、議論の中心になって投稿している人たちの存在と同時に、数多くの見物人がインターネット中を検索しまくって検証をかけ、ツッコミを入れています。2ちゃんねる上の論戦のあちこちで必ず見かけられる「ソースは?」というツッコミ(たいていの場合、「ブルドック」というボケが付随するのがお約束になっていますが)は、我々に情報源を明らかにしながら議論する習慣をつけさせてくれるかもしれません。
■ どんな人にオススメ?
・100年前の卓越した毒舌を満喫したい人。
■ 関連しそうな本
アンブローズ ビアス (著), 西川 正身 (翻訳) 『新編 悪魔の辞典』
筒井 康隆 『東海道戦争』
筒井 康隆 『笑うな』
アンブローズ ビアス (著), 郡司 利男 (翻訳) 『悪魔の辞典 対訳篇 (1)』
アンブローズ ビアス (著), 奥田 俊介 (翻訳) 『新撰・新訳 悪魔の辞典』
■ 百夜百音
【TIMERS】 THE TIMERS オリジナル盤発売: 1989
社会風刺の音楽と言えば、今から16年前、原発批判を歌ったRCのアルバムを放送禁止にしたFM東京を、生番組に出演したタイマーズが「FM東京 腐ったラジオ~ 政治家の手先 何でもかんでも放送禁止さ~」と徹底的にこき下ろした「事件」(放送事故)がありました。
投稿者 tozaki : 2005年09月25日 13:00
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