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2005年11月08日

報酬主義をこえて

■ 書籍情報

報酬主義をこえて   【報酬主義をこえて】

  アルフィ コーン (著), 田中 英史 (翻訳)
  価格: ¥6,090 (税込)
  法政大学出版局(2001/02)

 本書は、報酬によって行動をコントロールしようとする「行動主義」に基づいた通俗的な報酬の考え方、すなわち「これをすればあれをあげるよ」という考え方と、この報酬主義に基づいた経営論、教育論、育児論を、主に心理学の立場から徹底的に批判したものです。
 本書は、「馬ニンジン」的な報酬の問題点として次の5点をあげています。
(1)報酬は罰になる・・・報酬と罰は同じコインの裏表に過ぎない。
(2)報酬は人間関係を破壊する・・・報酬を受ける側の協力や仲間意識にとっても、報酬を与える側との関係にとっても悪影響を与える。
(3)報酬は理由を無視する・・・報酬は間に合わせであり、真の問題を隠す。
(4)報酬は冒険に水をさす・・・報酬目当てに働くときは、報酬を得るのにちょうど必要なだけの仕事をやり、それ以上はやらない。
(5)興味を損なう・・・外発的報酬は内発的動機づけを減退させる。
 また、仮に報酬を与えるとしても、その害を最小限に抑えるため、著者は次の6点を提案しています。
・報酬を見えないようにせよ
・報酬は事後に、思わざる贈物として出せ
・報酬をめざすことを競争に変えるな
・報酬をできるだけ課題に似たものにせよ
・報酬の出し方について、もらう方が選択できる余地をできるだけ残せ
・報酬が動機づけを殺す効果に対して各人に免疫性を持たせるようにせよ
 本書は、お金やキャンディーのような目に見えやすいニンジンだけではなく、通常「馬ニンジン」を嫌う人にも奨励されている「賞賛」の問題点についても指摘しています。他の報酬と同様に、褒めることが、それを受ける側よりも与える側の利益になるような場合、すなわち、誉めることによって人をコントロールしようとする場合に問題があることを指摘しています。
 著者は、賞賛を行う基準として、誉められる側の自己決定と内発的動機づけの2点をガイドラインとすることを提案しています。そして、誉めることの害を小さくするために以下の4点を提案しています。
・人間を誉めずに行為だけを誉めよ
・できるだけ特定した誉め方をせよ
・まやかしの誉め方を避けよ
・競争をあおるような誉め方は避けよ
 本書は、企業における業績給、学習への動機づけ、そして子供のしつけの3つの分野で、報酬の具体的な問題を指摘しています。業績給に関しては、その誘因プランが上手くいかない理由として、以下の14点を指摘しています。
(1)必要性がないこと
(2)秘密性
(3)給料と働きがぴったり連動しない
(4)経費
(5)大きすぎ 対 小さすぎ
(6)短期的 対 長期的
(7)客観的 対 主観的
(8)「業績の査定は不毛な仕事だ」
(9)「給料は動機づけ要因にあらず」
(10)報酬は罰になる
(11)報酬は関係を壊す
(12)報酬は理由を無視する
(13)報酬は冒険に水をさす
(14)報酬は興味をそぐ
 著者は、真の動機付けへの条件作りとして、企業でも、教室でも、育児でも「3C」が重要であると述べています。それは、「協力(collaboration)」、「内容(content)」、「選択(choice)」の3つです。本書では、経営、教育、育児のそれぞれに1章ずつ割き、この3つのCを具体的に解説しています。
 本書は、『虚妄の成果主義』などを読んで「内発的動機づけ」に関心を持った人が、直接、心理学の理論書に立ち向かう前段のガイドライン的な役割を果たせるものではないでしょうか。「馬ニンジン」的な考え方が、どうも自分の働き方にしっくりこないと思っている方は、本書を読むことがその違和感の解決につながるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書を読んで感じることは、本書が扱っている経営と教育と育児の3つの分野は、それぞれバラバラなのではなく、特に内発的動機づけや報酬の問題点においては、同じことが繰り返し述べられているということです。特に「3C」に関する解説の部分では、教育や育児について述べられていることは、ほとんど企業でも当てはまることが多く、気づきが多かったと感じています。おそらく、企業の分野での解説にはどうしても仕事上の先入観が入ってしまうのに対し、教育や育児では素直に読むことができるからではないかと思います(おそらく、教師が読む場合は、企業に関して述べている章からの気づきが多いのではないかと想像します。)。
 業績給に関しては、それが盛んに取り入れられている米国と、そうでない国として日本やドイツが対比されています。また、公務員に対する業績給の適用についても少々触れられています(そして、有意の違いが現れないことが紹介されています。)。日本企業で業績給が「成果主義」という名目と主に人件費削減の目的で導入されたこと、そして、日本の公務員に業績給が取り入れられようとしている点についての著者のコメントが聞きたいところです。


■ どんな人にオススメ?

・自分が「馬ニンジン」的に動機付けられている、という考え方に違和感を持つ人。


■ 関連しそうな本

 ペッカ ヒマネン, リーナス トーバルズ, マニュエル カステル (著), 安原 和見, 山形 浩生 (翻訳) 『リナックスの革命 ― ハッカー倫理とネット社会の精神』 2005年10月29日
 エドワード L.デシ (著), 安藤 延男, 石田 梅男 (翻訳) 『内発的動機づけ―実験社会心理学的アプローチ』
 M. チクセントミハイ (著), 今村 浩明 (翻訳) 『楽しみの社会学』 2005年02月08日
 エーリッヒ・フロム (著), 日高 六郎 (翻訳) 『自由からの逃走』 2005年11月07日
 高橋 伸夫 『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 2005年3月30日
 金井 壽宏 『組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法』 2005年06月09日


■ 百夜百マンガ

ドラゴン桜【ドラゴン桜 】

 「モチベーションと教育」というテーマであればこの本を無視するわけにはいきません。「東大合格」や受験テクニックばかりが強調されて取り上げられていますが、生徒の気持ちの変化こそが重要なテーマなのかと思います。

投稿者 tozaki : 2005年11月08日 06:00

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