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2006年01月02日
「日本株式会社」を創った男―宮崎正義の生涯
■ 書籍情報
小林 英夫
価格: ¥2,345 (税込)
小学館(1995/11)
本書は、「日本株式会社」とも揶揄される、戦後復興と高度成長を支えた日本の経済システムの原案を作成した人物の記録です。彼は、急激な経済成長を達成したソヴィエトを手本に、以下のような特徴を備えた「日本株式会社」の特徴となる官僚による経済統制システムの構築を目指します。
(1)産業統制政策の展開と企業の国家目的への従属→「資本と経営の分離」
・・・株式の配当などの目先の利益にとらわれた資本家を排除し、国家目的を理解し実践する有用な人材を登用する。
(2)金融機関の統制の強化と貿易・為替統制の強化、物価統制の実施
・・・産業融資を効率的に行うため日銀中心に金融機関を再編成、輸出促進、輸入抑制を図るために貿易、為替、物価を統制する。
(3)熟練工の養成と職業紹介の促進
・・・労働者や農民を大切にしない限り産業の振興はありえないとして、熟練工養成所の新設拡張、職業紹介機能の強化、下請け業者の素質・能力向上、農村新興、国民労働力の培養と産業平和の維持、過激労働の緩和と傷病者保護などの勤労者福祉の増進。
(4)総務庁の設置と大臣ポストの統廃合
・・・国務院に直属する「総務庁」を儲け、総務庁の企画局が政策を立案する体制を構築。
戦後の高度成長を支えた日本型経営システムの特徴を持つこれらの案は、宮崎(敬称略)らが1937年(昭和12年)に作成した「重要産業五カ年計画要綱実施に関する政策大綱案」に収められたものです。この案はどのように作成され、またどのように具体化されたのでしょうか。
宮崎は、金沢市に生まれ、中学卒業後、石川県の官費ロシア語留学生として、中国のハルビンとモスクワに派遣された後、満鉄のロシア留学生としてペテルブルグ大学に派遣されます。この地で彼はロシア革命を体験することになり、著者はこの体験が宮崎に、国家というものは変わりうるものという実体験を与え、後に日本の国家改造に駆り立てたのではないかと推測しています。
宮崎は、帰国後は満鉄調査課のロシア・ウォッチャーとして頭角を現し、盟友石原莞爾らを得て、1932年に関東軍のシンクタンクとしての役割を持つ「満鉄経済調査会」を立ち上げます。宮崎はここでソ連の五カ年計画の調査に没頭し、その成果は同年6月に作成された『満鉄経済統制策』に結実します。この後、東京勤務となった宮崎は、1936年に「日満財政経済研究会」を発足させ、20代後半を中心とした英才を結集し、各国の統制経済を調査し、その成果が日本と満州の両国における産業政策の立案につながっていきます。まずは、満州が先行して「満州産業開発五カ年計画」が作成され、岸信介ら満州国の「革新官僚」によって宮崎の構想が実現されます。革新官僚らは満州国における統制経済の実験を着々と実施し、「蚕が糸を吐くように」法律を整備していきます。
しかし、宮崎が構想した経済統制のアイデアは、日中戦争の拡大と石原莞爾の退場によって、平和時の生産力拡充の計画から戦時の物資動員計画へと大きく変容することになります。「臨時資金調整法」、「輸出入品等臨時措置法」、「国家総動員法」の戦時統制三法が制定され、革新官僚らによって日本の経済統制は強化され、宮崎が構想した金融統制、貿易統制などが実現し、宮崎プランでは「経済参謀本部」たる「総務庁企画局」に該当する企画院が官僚統制の要として新設されることになります。
その後、終戦を経て、宮崎のアイデアは戦後の経済復興に活かされることになります。戦時の統制経済の手法が経済安定本部(安本)の「傾斜生産方式」などの経済復興計画に応用されることになったのです。「資本と経営の分離」は、戦時統制と戦後の「財閥解体」によって急速に実質化し、戦前の産業報国会組織を引きずった企業別組合が形成されることになります。著者は、宮崎を今日まで続く官僚統制の経済システムの創設者であるとし、この「日本株式会社」は岸に代表される革新官僚によって完成されたと述べています。
■ 個人的な視点から
戦後の日本型経済システムの源流が満州国における革新官僚の実験にあるという話は、『1940年体制』やそのベースとなった『現代日本経済システムの源流』などに詳しく解説されていますが、本書は、そのアイデアを作った「黒子」である宮崎正義氏を「発掘」したものです。タイトルの仰々しさに比べて、宮崎氏は歴史の表舞台に姿を現すことはなく、地味と言えばこれ以上ないくらいに地味な存在です。しかし、官僚主導のシステムを、帝大卒でも官僚でもない、ロシア通の満鉄の調査員が構想したということに痛快さを覚えました。むしろ自身が官僚ではなかったことで、省庁の利益ではなく、国家の長期的な目的を達成するために官僚を「道具」としてシステムを構想することができたのではないでしょうか。
■ どんな人にオススメ?
・「日本株式会社」の制度疲労の問題を感じている人。
■ 関連しそうな本
小林 英夫, 米倉 誠一郎, 岡崎 哲二, NHK取材班 (著) 『「日本株式会社」の昭和史―官僚支配の構造』
岡崎 哲二, 奥野 正寛 (編集) 『現代日本経済システムの源流』
野口 悠紀雄 『1940年体制―さらば戦時経済』
小林 英夫 『満鉄―「知の集団」の誕生と死』
山室 信一 『キメラ―満洲国の肖像』
新しい霞ヶ関を創る若手の会 (編集) 『霞ヶ関構造改革・プロジェクトK』 2005年12月22日
■ 百夜百マンガ
思春期男子の身長コンプレックスに正面から挑んだ(というか設定一発という感じでもありますが)ラブコメの名作です。この他に身長差ラブコメと言えば『南くんの恋人』くらいでしょうか?
投稿者 tozaki : 2006年01月02日 09:00
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