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2006年01月13日

キメラ―満洲国の肖像

■ 書籍情報

キメラ―満洲国の肖像   【キメラ―満洲国の肖像】

  山室 信一
  価格: ¥1,008 (税込)
  中央公論新社増補版 版 (2004/07)

 本書は、1932年に中国東北地方に出現した「満州国」(本書中では「満洲国」と表記)の、歴史的な意義は何か、そこには近代日本の国家観、民族観、アジア観がどのように現れたのかを、建国の背景や国家理念、統治機構などから明らかにしているものです。著者は、満州国の研究の道に入った動機を「増補版のためのあとがき」の中で、1963年に書かれた「満州国研究の意義」(竹内好)の「日本国家は満州国の葬式を出していない。口のぬぐって知らん顔をしている。これは歴史および理性に対する背信行為だ。」、「どんなに主観的に嫌悪を伴おうとも、目をつむって責任を回避するわけにはいかぬ」、「満州国とは何であったか。日本人はいつか、この問いに答えねばならない」という文章に出会ったことだったと述べています。本書は、この「問い」に対する著者からの回答であると言うことができます。
 本書のタイトルとなっている「キメラ」とは、ギリシア神話に出てくる想像上の怪物で、頭が獅子、胴が羊、尾が龍でできていて、「口から炎を吐き、大地を荒らし、家畜を略奪して去っていく」と説明されていますが、著者は、獅子を関東軍に、羊を天皇制国家に、龍を中国皇帝・近代中国にそれぞれなぞらえています。
 本書の本編は4つの章から構成されています。第1章「日本の活くる唯一の途―関東軍・満蒙領有論の射程」では、満州の地政学的な位置づけや満蒙領有論の背景にあった石原莞爾の「世界最終戦論」など、当時の関東軍の中国認識を中心に展開されています。第2章「在満蒙各民族の楽土たらしむ―新国家建設工作と建国理念の模索」では、満蒙領有論から独立国家建設案への急転回によって、猛スピードで建国の準備がなされている半年間、「兵站基地国家建設という軍事的リアリズムと民族協和の王道楽土建設というアイデアリズムという二つの極の間」で、関東軍の石原莞爾や「保境安民・不養兵主義」の干沖漢、「民族協和」を掲げる満洲青年連盟、大雄峯会、橘樸らの様々な思惑が交錯するさまを描いています。第3章「世界政治の模範となさんとす―道義立国の大旆と満洲国政治の形成」では、「順天安民、民本主義、民族協和、王道楽土」などの建国理念の背景にある政治的な思惑や、「ラスト・エンペラー」溥儀の期待と落胆、中華民国との法制の比較、満洲国政治の実態を解く「日満定位、日満比率、総務庁中心主義、内面指導」の4つの鍵概念等が述べられています。第4章「経邦の長策は常に日本帝国と協力同心―王道楽土の蹉跌と日満一体化の道程」では、国家と個人との係わり合いを中心に、東京帝国大学植民地政策学教授の矢内原忠雄が見た満洲国の現実、満洲国統治の姿勢を一変させた1932年8月の関東軍の人事異動、「洋奴漢奸」を汚名を雪ぐことができなかった国務総理大臣の鄭孝胥らの姿が描かれるとともに、「二キ三スケ」(星野直樹、東條英機、岸信介、鮎川義介、松岡洋右))らによる統制国家の実験場としての満洲国の変貌などが解説されています。
 本書は、13年間という歴史の一瞬の間に産まれ消えていった実験国家を知るには、新書サイズで読みやすく、しかし内容は決してお手軽ではない充実した一冊です。


■ 個人的な視点から

 「キメラ」という言葉は、ギリシア神話を元に、現在では一個体に別個体の組織が存在する現象として、接木した植物や胚を融合させた動物などのことを指すのに使われています。著者は本書のタイトルを、関東軍、天皇制国家、中国皇帝・中華民国が同居する国家として使っているようですが、実験的に作られた「人造国家」または「人工国家」としての意味合いも込められているのではないかと感じました。
 満州国で行われた様々な国家的実験を目にすると、満州国は1945年8月に消滅したのではなく、「1940年体制」と呼ばれる戦時中~終戦後~現在までの日本に実験の本拠地を移したといえるのではないかと思われるほどです。遠い過去の歴史の一エピソードとしてではなく、現在の日本の様々な制度とその間の補完性を考える上で、満州国の成り立ちやそこで行われた実験を押さえておく必要があるのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・現在の日本の各種制度の成り立ちを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 草柳 大蔵 『実録満鉄調査部』
 小林 英夫 『満鉄―「知の集団」の誕生と死』
 小林 英夫, 米倉 誠一郎, 岡崎 哲二, NHK取材班 (著) 『「日本株式会社」の昭和史―官僚支配の構造』
 小林 英夫 『「日本株式会社」を創った男―宮崎正義の生涯』 2006年01月02日
 岡崎 哲二, 奥野 正寛 (編集) 『現代日本経済システムの源流』
 野口 悠紀雄 『1940年体制―さらば戦時経済』


■ 百夜百マンガ

バタアシ金魚【バタアシ金魚 】

 『ドラゴンヘッド』や『座敷女』などの設定が理不尽な作品に対して、主人公のキャラクターの理不尽さで当たった出世作です。
 映画にもなりましたが、高岡早紀も筒井道隆も浅野忠信も今やすっかり立派な役者さんになってます。

投稿者 tozaki : 2006年01月13日 06:00

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