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2006年02月10日

封印される不平等

■ 書籍情報

封印される不平等   【封印される不平等】

  橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹
  価格: ¥1,890 (税込)
  東洋経済新報社(2004/07)

 本書は、拡大中である日本における貧富の格差の背景として、「結果の不平等」(所得分配、貧富の格差)のみならず「機会の不平等」かも進行中であることを論じているものです。本書のタイトルは、「世の中に不平等は存在しているようであるが、それを意図的に黙殺するか、あるいは本格的に見ようとしない雰囲気」が国民の意識の底辺にあることを表しています。
 本書は2部構成となっており、第1部は、1990年代後半から21世紀にかけて日本の不平等化の問題を提起した、経済学者、社会学者、教育社会学者及びジャーナリストの4人による座談会に、第2部は、編者による理論的・実証的な分析と政策提言となっています。
 第1部の座談会では、それぞれの持論がスムーズに噛み合って展開されています。苅谷氏は、現在の「自ら学ぶ」教育政策によって、家庭環境の学力への影響が強く現れるようになり、「やる気」の格差が拡大したことを指摘しています。また、編者の橘氏は、日本において機会の不平等を被っている存在として、女性と若者を挙げています。そして、彼らが機会の不平等を感じながらも声をあげていないことを指摘しています。
 一方、格差が少ない国として北欧の例が挙げられていますが、座談会の中ではその影の部分としてスウェーデンで進められてきた断種政策(特定の人々を遺伝的に劣った性質を持つとして子供を作らせない政策)が行われ、出発点で強制的に均質化されている可能性が指摘されています。
 第2部では、1950~70年代の日本が、「結果の平等」(所得分配の平等)と「機会の平等」(社会移動の高さ)の双方を概ね達成していた事実を指摘し、そのことが有能で意欲のある人の発掘・育成に貢献していたとする一方で、大企業と中小企業の賃金格差に代表される「二重構造」を内包して受験競争や就職戦争を引き起こしていたこと、平等の確保は男性のみに与えられた特権であったように同じグループ内での平等であり、異なるグループ間の不平等が大きかったことを指摘しています。
 この他、セーフティネットの重要性や所得再分配制度、競争社会と公平な社会の両立のための政策提言などを行っていますが、印象としては本書の第2部は寄せ集め的な感が否めません。
 結論として著者は、統計資料に基づく事実として、日本の所得分配の不平等化/貧富の差の拡大はほぼ確実に発生しているとしています。その上で、前半の座談会で一致した意見として、日本が見えにくい不平等化を経験しつつある、ということを指摘しています。このことが、不平等の存在に気づかない、または目を背けさせているということを本書のタイトルに表されています。
 本書は、日本の格差問題の代表的な論者の意見をまとめて読めるという点で前半の座談会は「買い」ではないかと思います。後半はエッセイ集的ですが、座談会の解読編として読めるのではないでしょうか。


■ 個人的な視点から

 本書の第7章において、生活保護制度の支給額と最低賃金額との衝撃的な比較が示されています。これによると、最低賃金から計算される月額の賃金額の方が生活保護支給額よりも4~5万円近く上回っていることになります。このことについて著者は、最低賃金額が生きていくだけの生活費を支給していないことと、勤労へのインセンティブとしてマイナスであることを指摘しています。
 著者はこれを受けて、最低賃金制度を充実させる政策の強化を主張していますが、この問題に関して、ベッカー教授の『ベッカー教授の経済学ではこう考える』では、最低賃金規制の強化が労働需要を減らし、本来の意図とは逆に失業者を増加させる、ということを解説しています。
 学派やイデオロギーの違い、と言い切ってしまえばそれまでですが、目の前の穴をふさぐことで本来の意図とは逆の方向に政策が作用してしまうとしたら皮肉な話です。


■ どんな人にオススメ?

・日本の格差論者の意見をまとめて読みたい人。


■ 関連しそうな本

 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』
 斎藤 貴男 『機会不平等』
 佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
 橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』
 樋口 美雄, 財務省財務総合政策研究所 『日本の所得格差と社会階層』 2006年02月01日
 ゲーリー・S. ベッカー, ギティ・N. ベッカー (著), 鞍谷 雅敏, 岡田 滋行 (翻訳) 『ベッカー教授の経済学ではこう考える―教育・結婚から税金・通貨問題まで』


■ 百夜百マンガ

あした天気になあれ【あした天気になあれ 】

 このマンガの影響で、たとえ口には出さなくてもスイングの時に頭の中で「チャー、シュー、メン」とつぶやいてしまう人が日本に何万人いるでしょうか。
 作者は『あしたのジョー』でそぎ落とされた筋肉のボクサーを書いて「燃え尽きた」反動でデブのキャラクターしか書けなくなったと『マンガの深読み、大人読み』に収められたインタビューの中で語っています。

投稿者 tozaki : 2006年02月10日 05:00

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