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2006年02月14日
階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ
■ 書籍情報
【階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ】
苅谷 剛彦
価格: ¥3,990 (税込)
有信堂高文社(2001/07)
本書は、教育と社会の階層分化の問題をテーマに実証分析と政策提言を行っているものです。「時代や世代をまたがる営みである」という教育の特性は、階層問題の現在の分析と同時に、過去と未来の両方を見通すことができると述べられています。また、教育に焦点を当てることで、階層化社会の担い手である「個人」の形成メカニズムにも目を向けることができるとされています。著者は、教育を「それ自身一つの社会的資源であり、階層を構成する要素の一つ」とする一方で、「階層的な地位を決める重要な要因の一つ」であると述べています。
本書はまず、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、日本、韓国の国際比較を元に、1950年から80年までの30年間(一世代)に、日本と韓国が農業中心社会から雇用者中心の社会へ職業構造が大きく変化したことを指摘しています。この急速な職業構造の変化とそれに伴う急速な教育拡大は、教育を媒介とした社会的な選抜を大衆的な規模まで拡大させてきたと述べられています。そして、現在の変化は、戦後30年間の「階層形成」から階層の「再生産」へ変化として捉えなおされます。そして著者は、1980年代以降の教育改革が、「それまでの、だれをも勉強へ駆り立てるプレッシャーを弱めることで、潜在化していた階層の影響を拡大する背景を用意した」と指摘しています。
1960年に58%だった高校進学率は、60年代の10年間に25ポイント近く上昇し82%に達します。この急速な高校教育の拡張は、農業出身者の多くが高卒後に雇用者になるルートとなっていきます。同時に、この進学率の拡大は、1950年代には農業出身の中卒者が中心であったマニュアル職就職者の供給源を、高卒者にシフトさせます。このことによって、「出身階層の影響を受けつつも、学歴や学力といったメリトクラティックな選抜の影響をより強く受ける職業配分のメカニズムがより強く働くようになった」と述べられています。
また、習熟度別学級編成などの学力による序列化を「能力主義的差別」とみなす日本の教育の認識がどのように発展していったのかに関して、著者は、アメリカやイギリスの研究において、「個人の能力差に基づく最適な処遇のことをさして「差別」と同定する議論は、寡聞にして知らない」と述べています。そして、「差別感を生み出す教育が、差別教育なのであり、教育における差別という社会現象を、序列の中で下位に置かれた人々の意識や感情の問題、さらには、そうした感情を生み出す制度や組織、実践の問題として捉える認識枠組みが、差別教育の原型(プロトタイプ)」であると指摘しています。また、「学校は社会の平等化に寄与するよりも、不平等を再生産する装置である」という教育観は、研究の世界では定説となっていることが述べられています。
さらに、本書では、1979年から97年までの18年間に学習時間の階層差が拡大し、専門・管理職の父親と大卒の両親を持つことが学習時間の減少を抑える一方、マニュアル職や中卒の場合は学習時間が大きく減少していることが指摘されています。また、「だれでもがんばれば……」という努力=平等主義がイデオロギーの一つに過ぎず、出身階層の影響を受けた努力の不平等の存在にもかかわらず、個人の失敗を努力の欠如に帰着することが、能力の階層差や結果の不平等を隠蔽し、教育達成における階層差を作り出してきたことを指摘しています。そして、受験競争に向けた動員力の弛緩によって、学力における階層間の不平等が拡大・顕在化する可能性をも指摘しています。
また、「内発的動機づけ」や「自己効力感」の理論が教育現場に取り入れられる過程で、<主体的な学習者>という「強い個人の仮定」が前提となってしまったことを指摘しています。この結果、「低い階層の生徒たちは学校の業績主義的な価値から離脱することで、「自分自身にいい感じをもつ」ようになっている」ことが述べられています。つまり、「自分は人よりすぐれているという自己意識を持つほど、他の要因とはかかわりなしに学校の外で勉強しなくなる」のです。
最後に、本書の副題でもある「インセンティブ・ディバイド」(誘因・意欲の格差拡大)に関して、著者は、「意欲をもつ者ともたざる者、努力を続ける者と避ける者、自ら学ぼうとする者と学びから降りる者との二極分化の進行であり、さらに問題と思われるのは、降りた者たちを自己満足・自己肯定へと誘うメカニズムの作動である」と述べています。その理由として、上位の社会階層で育った子供たちはインセンティブを見抜き意欲を維持するとともに、「学ぶことの喜び」を知るための学習経験と知的な構えを有している可能性があると指摘しています。
本書は、複雑な要因が絡み合う社会格差の問題に対して、教育に絞り込んで分析を行うことで、非常にわかりやすい格差が生まれるメカニズムの例を提供してくれる一冊ではないかと思います。
■ 個人的な視点から
本書で初めて知った言葉の一つに「ブライト・フライト」という言葉があります。これは「優秀者の逃亡」という意味で、公立高校から私立高校に「いい生徒」が逃げ出してしまう現象を指しています。学力格差を作り出さない理想的な教育モデルとみなされ、無試験・小学区制の「高校全入運動」のメッカとなっていた高知県において、公立高校間の格差が是正された結果、私立高校からの高偏差値大学への進学が有利になり、結果として、私立学校への入学機会が社会階層との関係を強めていったことが述べられています。
いわゆる「進学校」と「底辺校」を作らないための善意の政策が、結果的には親の収入を反映した教育機会の格差を生み、貧しい学生の大学進学のチャンスを閉ざしてしまったという悲劇に、善意と理想に基づいた建前論と現実とのギャップと皮肉さを感じます。
■ どんな人にオススメ?
・教育と格差問題の関係に関心がある人。
■ 関連しそうな本
橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹 『橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹』 2006年02月10日
斎藤 貴男 『機会不平等』
佐藤 俊樹 『不平等社会日本―さよなら総中流』 2005年03月22日
橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』
樋口 美雄, 財務省財務総合政策研究所 『日本の所得格差と社会階層』 2006年02月01日
■ 百夜百マンガ
「鳥のオリンピック」ということは鳩レースは外すわけには行きません。
「777」を「アラシ」と読ませてしまうところは、花札知らないとわからないのですが。
投稿者 tozaki : 2006年02月14日 06:00
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