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2006年02月16日

影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか

■ 書籍情報

影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか   【影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか】

  ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会
  価格: ¥3,465 (税込)
  誠信書房(1991/09)

 本書は、社会心理学の研究成果をベースに、他の人にイエスと答えさせる承諾の心理の原理である「影響力の武器(weapon of influence)」を実際の事例(多くは、セールスの例)をふんだんに用いて解説しているものです。本書は、「様々な承諾誘導の実践家がよく使う効果的なテクニックや方略を内側から観察する」ことを目的に、多くは参与観察という方法が用いられています。このために著者は、百科事典や掃除機などのセールス訓練生を求める広告に応募するなどの方法で、広告やPR、基金集めの組織にもぐりこみ、そのテクニックを調査しています。この調査から、何千もあるテクニックの多くは、6つの基本的カテゴリー(返報性、一貫性、社会的証明、行為、権威、希少性)に分類できるとしています。
 著者は、七面鳥の母親が、ヒナ鳥の「ピーピー」という鳴き声がするというだけで、天敵である毛長イタチの人形にテープレコーダーを仕込んだものを抱きかかえてしまう例を引き合いに、「固定的行動パターン」の説明をしています。これはある「引き金特徴」いによって固定的な行動パターンが自動的に反応してしまうと言うものです。そして人間の場合も、日常の判断を行う時に、ヒューリスティックという簡便法に頼ることで、機械的な反応をしてしまう点を指摘しています。
 第1のカテゴリーである「返報性」とは、「他人がこちらに何らかの恩恵を施したら、似たような形でそのお礼をしなくてはならない」というものです。マーケティングでよく用いられる無料の試供品の配布(スーパー・マーケットの試食や、アムウェイの商品を詰めた「バッグ」(BUG)を3日間の試用)や「ドア・イン・ザ・フェイス」(最初に大きな要求を出し、拒否されたらそれより小さな、元々受け入れて欲しいと思っていた要求を出す)などのテクニックが紹介されています。
 第2の「一貫性」とは、「ひとたび決定を下したり、ある立場を取ると、そのコミットメントと一貫した行動をとるように、個人的にも対人的にも圧力がかかる」というものです。馬券を買った後にその馬が勝つ確率を高く見積もったり、大酒飲みのダメ男を選択した理由を後からこじつけたりする例が紹介されています。この一貫性を使ったテクニックとして、「小さな要求から始めて、関連する大きな要請を最終的に承諾させる」、「フット・イン・ザ・ドア」というテクニックが紹介されています。朝鮮戦争時に、中国共産党政府がアメリカ兵の捕虜に共産主義的なエッセイをわずかな見返りに対して書かせた例などが紹介されています(キャリア論で有名なエドガー・シャインの研究はこの脱洗脳の研究から出発しています。)。また、「一度相手に決定を下させてしまえば、その決定が新しく作り出される支柱の上に立つようになる」ために、「最初に相手を誘った条件を」取り除くことができる、という「ローボール」テクニックが紹介されています。この例としては、最初に格安で自動車を売ることを提示し、お客にその車を買う決心をさせた後に、計算上のミスを上司に指摘させ、結局安くない値段で買わせるというものがあります。
 第3の「社会的証明」とは、「私たちは他人が何を正しいと考えているかに基づいて物事が正しいかどうかを判断する」というもので、テレビ番組の録音された笑い声や、素人の振りをした役者が商品のよさを答えるインタビューなどの例があります。本書で紹介されているセールス・コンサルタントは、「自分で何を買うかを決められる人は全体のわずか5%、残りの95%は他人のやり方を真似する人たちです。ですから、私たちがあらゆる証拠を提供して人々を説得しようとしても、他人の行動にはかなわないのです」と述べています。この社会的証明の極端な例としては、世界の終わりとなる大洪水とその直前に自分たちを救いに来る宇宙人の到来を信じるカルト教団の例が紹介されています。彼らは、終末の日までに、多くのもの(家族、職業、社会的立場など)を犠牲にしているので、予言の日が過ぎても自分たちの選択にすがり付いてしまうことが述べられています。この他、自殺のニュースが大きく報じられた直後に飛行機や自動車の事故が増加する「ウェルテル効果」や、渋滞中に前後する2代の車が偶然同時にウインカーを出して車線変更すると後ろの車は事故や工事があるのかと思って次々に車線変更してしまう例などが紹介されています。
 第4の「好意」のルールを用いた例としては、友情の好意の圧力を利用した「タッパーウェア・パーティ」が紹介されています。また、ハンサムな顔や背の高さなどの身体的魅力のハロー効果が以下に大きいか、ということをセールスだけでなく刑事裁判においても影響がある例を引き合いに解説されています。また、天気予報担当者が大雨の時に脅迫される話を、敗北の知らせを伝えると殺害されたペルシャ皇帝の勅旨を引き合いに紹介しています。
 第5の「権威」の解説では、有名なスタンレイ・ミルグラム教授の電気ショックの実験が紹介されています。これは公募された「教師」役の被験者に、問題に答えられない「生徒」に対して罰として何百ボルトもの電気ショック(実は「生徒」役の演技)を与え続けさせるという実験ですが、約3分の2の被験者は犠牲者からの懇願を聞き入れずどんどん強くなる電気ショックを与え続けたということです。この権威者への盲目的な服従は、医師と看護婦や薬剤師らのスタッフとの間で常識では考えにくいような医療ミスを引き起こす一方、警備員の制服を偽造した「銀行検査官」詐欺を成功させてしまいます。著者は、防衛法として、「この権威者は本当に専門家なのだろうか」、「その専門家は、どの程度誠実なのだろうか」という2つの問いを自らに問いかけることを奨めています。
 第6の「希少性」は、「手に入れることが難しい物は、簡単に手にいれることができる物よりも、たいていは良いものだ」という簡便法と、「手に入れる機会が減少するにつれ、私たちは自由を失う」という2つの源泉を持っています。
 本書は、例に多くあげられているセールスや交渉の世界はもちろん、公共的なキャンペーンの世界にも応用可能な「人の心を動かす」ための素晴らしいテキストではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 本書で紹介されているテクニックで、これは引っかかりそうだ、というものが幾つもありましたが、中でも新米の父親が引っかかりそうなのが、玩具メーカーのクリスマス戦略です。これは、クリスマス直前に派手な宣伝をした商品を、クリスマスの時期には品薄になるように出荷して、年明けに商品を供給するという方法です。クリスマス前に子供にせがまれてその商品(例えばロードレースセット)を買いに行っても売り切れで、やむなく同じくらい魅力的な別の商品を買うことでその場を間に合わせた父親は、年明けにおもちゃ屋の前を通る時に子供から「ロードレースセットを買ってくれるって言ったじゃないか」とクリスマス前の約束の履行を迫られるのです。父親は自分の言葉を裏切るわけには行かないので、結果的におもちゃを二倍買わなければならなくなります。
 この手にだけは絶対乗らないぞ、と今のうちに自分に宣言しておけば、今年のクリスマスには玩具メーカーの手口に引っかからないでしょうか?


■ どんな人にオススメ?

・人の心を動かしたい人。


■ 関連しそうな本

 マックス H・ベイザーマン (著), マーガレット A・ニール (著), 奥村 哲史 『マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋』 2005年07月04日
 ウィリアム・L. ユーリ, ステファン・B. ゴールドバーグ, ジーン・M. ブレット (著), 奥村 哲史 (翻訳) 『「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン』 2005年09月15日
 印南 一路 『ビジネス交渉と意思決定―脱"あいまいさ"の戦略思考』 2005年6月28日
 平原 由美, 観音寺 一嵩 『戦略的交渉力―交渉プロフェッショナル養成講座』 2005年09月16日
 鈴木 有香 (著), 八代 京子(監修) 『交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション』 2005年09月30日
 パトリシア ウォレス (著), 川浦 康至, 貝塚 泉 (翻訳) 『インターネットの心理学』 2005年10月15日


■ 百夜百マンガ

百八の恋【百八の恋 】

 人の心を動かす、という点ではこのテクニックを一番使っているのは「ナンパ師」と呼ばれる人ではないかと思うのです。
 単に外見的な魅力や話の面白さではなく、これらの駆け引きのテクニックのほうが重要に思われます。

投稿者 tozaki : 2006年02月16日 07:00

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