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2006年02月22日

公共事業を、内側から変えてみた

■ 書籍情報

公共事業を、内側から変えてみた   【公共事業を、内側から変えてみた】

  桑原 耕司
  価格: ¥1,470 (税込)
  日経BP社(2004/12/09)

 本書は、談合が蔓延る公共事業の世界に、「良い建築を安く」の理念の下、著者が経営する希望社独自の建築生産システムである日本型コンストラクション・マネジメント(JCM)によって、第三者の立場から切り込んでいったノンフィクションです。
 岐阜県内に事務所を構える希望社は、岐阜県の公共事業の指名を受けた際に、談合への誘いを断ったことからその後指名を受けることが無くなり、公共事業に対する大きな不信感を抱いていました。
 しかし、2003年の4月に著者が2001年に出版した『「良い建築を安く」は実現できる!」を読んだ佐賀市の木下市長(当時)からの一本の電話をきっかけに、佐賀市の小学校建設事業にJCMで取り組むことになります。
 JCMの特徴は、
(1)建築費の内容を透明にし、すべて建築主に開示する。
(2)建築費を競争的なプロセスで決定する。
(3)建築の目的を明確にし、それを実現するための「品質」「機能」「コスト」を整合させる。
の3点に集約され、建築主のためになっていなかった従来の建築生産システムを否定することに+J270端を発しています。
 当初、それまでの経験から、JCMは公共事業からは拒否反応を受ける、と考えていた著者は、木下市長の依頼は43歳という若さゆえの勇み足ではないかと考えましたが、改革を進める職員だけを連れてきた市長の意気込みに、「もしかしたら、いけるかもしれない」という思いを抱き、引き受けることになります。
 JCMで中心的な役割を担うのは、建築プロジェクトを統括・運営するCMr(コンストラクションマネジャー)です。本書の中核は、このCMrと従来からの談合システムを維持しようとするゼネコンや、サブコンと呼ばれる専門工事会社との丁々発止のやり取りの部分です。ゼネコンの購買部や調達部や現場の所長を、ゴルフに接待し肉を食わせなければ受注できない、というこれまでの専門工事業とゼネコンとの「特殊な関係」にメスを入れ、発注者の利益のために競争原理によって工事費を安くするというJCMは、サブコンにとっては受注機会の拡大になるからです。
 しかし、専門工事会社には、地元ゼネコンに対する不信感があり、元請け会社によっては、現場代理人の能力・資質の問題や元請け会社が倒産するリスクがあることで、一緒に仕事をしたくないところが出てきます。一方でゼネコンにとっても、リスク管理の技術を持たない発注者に代わり、工程・品質・安全・原価の4つの管理に磨きをかけることが生き残りをかけた道になると述べられています。
 このような最初の仕掛けにもかかわらず、10月29日に行われた見積り開封の結果は、佐賀市の職員を落胆させるに十分なものでした。その結果からは談合の形跡が伺われ、従来どおりの入札ならば100%に近い落札率を示したものになってしまいます。しかし、著者は、JCM発注方式の真価が問われるのはここからだと言います。
 ゼネコンの協力会社としてしがらみにとらわれている専門工事会社を解き放てば、本当の実力を示すことができることを、著者らは、見積り提出以降の折衝によって明らかにしていきます。著者らが全国の工事で得ている情報を元に、提出された見積りを徹底的に精査し、専門工事会社どうしを競争させていきます。中でも最も手強かったのは、メーカーが価格決定権を持つエレベータ工事でした。代理店は文字通り、メーカーの代理店でしかないのですが、それでも妥協せず、全国の情報を元に折衝を重ねていきます。
 この工事は、以前から地元ゼネコンであるA建設が本命であるという噂が流れていましたが、A建設とは組みたくない、という専門工事会社の抵抗に遭い、本命は敗れることになります。著者は、この逆転劇を、「元請け・下請け関係の常識を覆す日本建設業史に残るエポックメーキングな出来事」と評しています。
 最終的に、その年の12月議会に提出された金額は、7億1581万円の設計金額に対し、6億973万円となり、1億608万円のコストダウンを達成することができました。また、その後、本命視されていたA建設は多額の負債を抱え倒産します。今回の件を受注しても焼け石に水であったことが、専門工事会社が組みたくない、と不安視していた理由であったことが明らかになります。
 著者は、佐賀市の工事でJCMが受け入れられた理由を、木下前市長の存在にあるとしています。地元行政の最高権力者である自治体首長が、「天の声」を言わず、JCMの仕組みを受け入れたことが大きかったと言います。著者は、起業後の15年間の経験の中で味わった公共事業への不信感を払拭してくれたのは、紛れも無く「人」であり、人の信念であったと語っています。
 本書は、いつまでも止むことの無い公共事業に絡む談合システムに投じられた一石でしかないかもしれませんが、変えようと思えば変えることができる、ということを実証している点で、私たちに勇気を与えてくれる一冊だと思います。


■ 個人的な視点から

 マンションの耐震偽装問題が国中を揺るがしている今のご時世では、建設コストを下げる手法は、「安かろう悪かろう」という強度偽装や手抜き工事と同一視する人がいるかもしれません。
 しかし、耐震偽装も公共事業の談合も根は同じなのです。それは、買い手である発注者側が、建築物の品質や価格についての情報を持っておらず、売り手である建設会社の言い値で買わされるという「情報の非対称性」が問題だからです。
 この情報の非対称性を放置したまま、高い金額を支払ったとしても、買い手である発注者に建築物の品質を見極める力がないままであれば、品質の悪い建築物(レモン)を高値でつかまされることさえあるのです。
 建築工事の透明性を高め、ゼネコンの管理能力とサブコンの専門能力を追求するCM方式は、手抜き工事を防ぐ効果こそあれ、「安かろう悪かろう」との批判は当たらないと考えられます。むしろ、従来の丸投げ方式の方が「高かろう悪かろう」になる可能性が高いと考えられるのです。


■ どんな人にオススメ?

・日本の公共事業は談合まみれだと感じている人。


■ 関連しそうな本

 桑原 耕司 『「良い建築を安く」は実現できる!―建築コストを20%も削減するCM方式』
 桑原 耕司 『建設業のコンストラクションマネジメント』
 加藤 正夫 『談合しました―談合大国ニッポンの裏側』
 鬼島 紘一 『「談合業務課」 現場から見た官民癒着』
 〈横浜改革〉特別取材班, 相川 俊英 『横浜改革中田市長1000日の闘い』 2005年10月19日
 田中 成之 『"改革"の技術―鳥取県知事・片山善博の挑戦』 38769


■ 百夜百マンガ

BE-BOP-HIGHSCHOOL【BE-BOP-HIGHSCHOOL 】

 ツッパリマンガ全盛の時代の不良のバイブル。映画化もされましたが、中山美穂が主題歌を歌っていたことは今や公然の秘密です。

投稿者 tozaki : 2006年02月22日 22:00

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