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2006年03月26日

火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者

■ 書籍情報

火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者   【火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者】

  オリヴァー サックス (著), 吉田 利子 (翻訳)
  価格: ¥2,625 (税込)
  早川書房(1997/03)

 本書は、脳神経科医である著者が出会った、不思議な体験を持った患者との交流を描いたエッセイです。
 本書に登場するのは、事故や先天的な障害などで、常人と異なる能力や感覚を身につけた人たちです。
 自動車事故で脳震盪を起こしたグラフィックデザイナーは、見るものが全て白黒テレビのように「色」が失われ、代わりに視力がワシのように鋭敏になってしまいました。「絵が描けないなら、生きていても仕方がないと思っていた」という彼は、自分が全色覚異常であることを受け入れ、白と黒だけで一日15時間以上もアトリエで絵を描き続け、芸術家として生き延びます。
 グレイトフル・デッドの大ファンだった若者は、巨大な脳腫瘍によって、視力と側頭葉の記憶システムを失い、60年代に置き去りにされた「最後のヒッピー」になってしまいます。1964年から68年までの歌を鮮明に記憶しているのに、ロン・"ピッグペン"・マッカーナン、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリンらが故人となってしまったことは知らないのです。著者は、父の子に直面して落ち込んでいる彼を、大ファンだったグレイトフル・デッドのコンサートに連れて行くことに決めました。マディソン・スクエア・ガーデンの熱狂した観客の一人として、古い曲を一緒になって夢中に歌った彼は、帰りに「今日のことは決して忘れないよ。人生で最高の日だった」と語ります。
 幼い頃に見た、故郷の詳細な記憶、寝ても覚めても現れる精密な模型のような故郷の映像に押しつぶされそうになった患者は、そのイメージを筆をとって写し取り始めます。この絵によって、画家として名を成した彼が、現実の廃墟のような故郷に戻る場面には胸が締め付けられます。
 本書のタイトルとなっている「火星の人類学者」とは、自閉症のハンディキャップを自ら冷静に書き綴った自伝である『我、自閉症に生まれて』で知られるテンプル・グランディンの言葉にちなんでいます。著者は初めてこの自伝を読んだ時に、本人ではなくジャーナリストによって書かれたものではないかと疑ったと述べていますが、このことは著者が彼女に会ってから、半分正しかったことがわかります。つまり、彼女の中には、自分自身を含めて人間社会を観察する人類学者が存在していることがわかったからです。彼女はこの感覚を、自分は火星から送られてきた人類学者のようなものだ、と表現しているのです(このことは、本章の中で紹介されている、自閉症の家族が語る「わたしたちは、輸送機関で一緒に地上に下ろされたんです」という言葉にも現れています。)。彼女は、人間社会の細やかな社会的な行動である、ほのめかしや過程、皮肉、比喩、冗談がわからない代わりに、自分の中に「膨大な経験のライブラリー」を作り上げ、見たものに関連付けて参照していくと述べています。彼女は、自分を、「脳をモジュラーとして、多数のそれぞれ独立した演算能力あるいは『知性』の集合として考える」という見方を持っています。そして、彼女を駆り立てるのは、「自閉症一般を説明する理論を見出したい、すべての症例、すべての現象に当てはまる理論を見出したいという思い」と、「自分の障害の多様な面、修正不可能な、複雑で自分でも予測のつかない部分や、他の自閉症のひとたちのさまざまな現象を見つめている彼女の現実的、経験的な部分」の2つであることが語られています。
 本書が持つ、「奇妙な患者」の不思議な体験自体のインパクトも大変大きなものですが、それ以上に、著者が一人ひとりの患者の身になって、感じている不安や喜びを自分のことのように語る筆致に引き込まれる部分が大きいと思います。


■ 個人的な視点から

 よくマンガで、盲目の少女が手術によって初めて外の世界を見ることができるようになったときに、献身的に看病を続けてくれたハンサムな恋人やダンディな先生が、想像とは異なる不細工な顔だった、というギャグがありますが、実際には視覚があることと物が見えることとは異なるということが、本書で紹介されている、数十年ぶりに光を取り戻した患者の体験を通じて知ることができます。かれは、視覚として入ってくる情報と現実の物との関連付けをすることに大きなストレスを覚え、盲目のときには自信を持って歩くことができた階段を、目が見えることでかえって登れなくなってしまいます。
 結局彼は、ストレスから来る症状によって、再度光を失うのですが、著者はこのことを、「救いが与えられ」、「盲目を彼は贈り物のように受取った」と述べています。何だか、寓話のような教訓めいた話に感じます。


■ どんな人にオススメ?

・自分が普段見ている世界が誰にとっても当たり前のものだと思っている人。


■ 関連しそうな本

 オリヴァー サックス (著), 春日井 晶子 (翻訳) 『レナードの朝』
 脳のなかの幽霊 『V.S. ラマチャンドラン, サンドラ ブレイクスリー (著), 山下 篤子 (翻訳)』
 ブライアン バターワース (著), 藤井 留美 (翻訳) 『なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか』 2005年11月13日
 ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 2005年12月17日
 前野 隆司 『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』
 スティーヴ・グランド 『アンドロイドの脳 人工知能ロボット"ルーシー"を誕生させるまでの簡単な20のステップ』 2006年01月28日


■ 百夜百音

BEGIN シングル大全集【BEGIN シングル大全集】 BEGIN オリジナル盤発売: 2005

 今ではすっかり5弦ギターの「一五一会」の人になってしまった丸い顔の人ですが、イカ天に出たときの「恋しくて」はどう聴いても松田聖子の「Sweet Memories」のパクリに聴こえました。
 ちなみに作曲者の大村雅朗氏は1997年に46歳の若さで亡くなられています。(参考 http://www32.ocn.ne.jp/~ebinapage/index.html)


『Sweet Memories '93』Sweet Memories '93

投稿者 tozaki : 2006年03月26日 06:00

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