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2006年03月13日
少子化をのりこえたデンマーク
■ 書籍情報
湯沢 雍彦
価格: ¥1,365 (税込)
朝日新聞社(December 2001)
本書は、1983年に出生率が1.37まで落ち込んだ後、出生率が上昇し、94年、95年には1.82まで回復したデンマークの結婚や出産、共働きと子育て、教育、高齢者の暮らしなどを紹介しているものです。
編者は、デンマークに関心を持ったきっかけを、駐日デンマーク大使館の参事官が取材に答えた以下のやり取りだと述べています。
「仕事の帰りに一杯やって、夜遅く帰るなんてできませんね?」
「そういうケースは少ないですね。デンマークでは、午後4時に仕事が終わるとさっさと帰ります。夏なら、4時頃はまだ明るく、日没は11時頃ですから、日没まで7時間もある。(略)ですから、仕事は能率的にやり、時間内に終わらせる。残業をするよりも、朝早く出勤して仕事を処理する人が多い。日本のように、夜遅くまで残業するケースはありませんね。」
編者はこの10年後、少子化問題を取材するためにデンマークの現地調査に訪れることになります。
デンマークは、面積は北海道の半分程度、人口は千葉県よりも少なく、最高でも海抜173メートルしかない平坦な国です。編者たちは、出生率向上の理由を、家族政策、両親が家庭にいる時間が長いからか、教育費はほぼ無料だからか、住宅費が下がったのか等、様々な仮説を立てています。
デンマークは、他の北欧諸国と同様、「二人だけの愛に基づくプライベートな生活に、どうして法律や教会が必要なのか」という法律的に登録されない事実婚が多い国の一つです。この結果、登録婚以外から生まれる子も増大しましたが、差別感もなく、権利上も登録婚の子との差はないことが紹介されています。
出産・育児への支援も手厚く、産前産後の出産休業に対しては、失業給付最高額と同額の約17万円が国から支払われることに加え、公務員や一部企業では賃金との差額が補填されます。また、父親休暇は、対象者の58%が取得していると述べられています。一方で、育児休業の問題点としては、(1)代替要員確保、(2)復帰後元のポジションに戻れるとは限らない、(3)代替要員の採用・教育コスト、(4)規模の小さい企業での若い女性採用の敬遠、(5)女性の将来の年金が下がる、(6)上の子が保育園に行かないため昼間遊ぶ仲間がいない、(7)男性が取得しにくい職場の雰囲気、(8)家族当たりの収入低下、等が指摘されています。
仕事と家庭とのバランスに関しては、デンマークにおける家庭生活と職業生活のバランスに関してリーダーシップをとってきた「国立労働市場事故取り扱い委員会」が採用した以下の3つの取り組みが紹介されています。
(1)フレックスタイム制:10~15時のコアタイム以外は7~19時の間で自由に労働時間を設定できる。
(2)子連れ勤務:一定の条件下で、子供を職場に連れてくることができる。
(3)在宅勤務:時間を静かに有効に使え、家庭生活が豊かになった反面、職場との関係の希薄化、通信コスト増などの短所がある。
このように、充実して見えるデンマークの子育て環境ですが、
・父親が親休暇を取ると言い出しにくい職場の雰囲気
・女性の平均賃金の低さ(男性の7割)から、女性の9割が育児休業を取るため、将来の年金が減る。
・出産後、多くの女性が労働時間を減らすため、男性の家事育児への参加が減る。
などの問題点も指摘されています。
この他本書では、国民学校の7年生までは順位や成績をつけるためのテストはしてはならないことになっている教育制度、日本と異なり里親制度が施設以上に充実した児童福祉、青少年の3分の2が参加していると言われる「フォルケオプリュスニング」という活動等が紹介されています。一方で高齢者に関しては、熱心な老人福祉に比較して老人医療が充実していない点、先進国トップ(日本の1.5倍)の老人自殺率の高さ、延命治療には熱心でないことなどから、平均寿命の短さが指摘されています。
本書は、少子化対策に右往左往する日本社会とは、税金や宗教観が異なるため、そのまま安易にいいとこ取りできるようなものではありませんが、参考になることは間違いないのではないかと思います。
■ 個人的な視点から
デンマークといえば高福祉の豊かなのんびりした国、という良いイメージで語られることが多いのですが、本書は必ずしもデンマークマンセー!だけの内容ではなく、きちんと問題があることも伝えているところに好感が持てます。
特に、よく言われるような、「古い因習的な家庭観や性別分業意識に縛られず、男性が家事や育児に参加するため、女性も仕事を辞めずに働き続けることができ、老後は充実した年金と福祉を受けて安心して暮らせる」というイメージと現実にはかなりギャップがありそうです。現実には、女性の賃金は低い上、そのことが女性の育児休業取得を後押しして、将来の女性の年金が低くなってしまうことや、古い家庭観に縛られず登録しない事実婚が多いことは、離婚や同棲解消によって老後の生活の不安定要因となっていること等の問題があり、イメージどおりの生活が将来まで続くわけではないことが伺えます。
また、福祉水準の高さにもかかわらず、自殺率が高く、特に老人男性の自殺率が飛びぬけていることや、平均寿命の短さ、薬物犯罪など犯罪件数の多さは、「聞いて極楽、見て地獄」ほどではないですが、少なくとも私たちが見聞きするイメージに「隣の芝は青く見える」バイアスがかかっていることを教えてくれます。
■ どんな人にオススメ?
・平らな国デンマークに関心がある人。
■ 関連しそうな本
白波瀬 佐和子 『少子高齢社会のみえない格差―ジェンダー・世代・階層のゆくえ』 2006年03月10日
子育て体験出版委員会 『ストップ・ザ・少子化 : 27人の子育て体験』
山田 昌弘 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2006年01月11日
山田 昌弘 『パラサイト・シングルの時代』
宮本 みち子 『若者が『社会的弱者』に転落する』 2005年05月04日
苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
■ 百夜百マンガ
相撲取りやらお寺やらの「男の世界」を少女マンガの眼から描くとこんなに面白い・・・。
映画にもなったのでそちらを見た人も多いと思います。
投稿者 tozaki : 2006年03月13日 06:00
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