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2006年03月12日

本棚の歴史

■ 書籍情報

本棚の歴史   【本棚の歴史】

  ヘンリー ペトロスキー (著), 池田 栄一 (翻訳)
  価格: ¥3,150 (税込)
  白水社(2004/01)

 本書は、『フォークの歯はなぜ四本になったか』等の著作を持つ著者が、今では当たり前になった図書館や書斎の「本棚」が、今の形になるまでの2000年の歴史をたどった「人工物の発達におけるケース・スタディ」です(本箱の話だから「ブックケース・スタディか」と駄洒落も混じります。)。著者はその重要性を、「本棚の話を掘り下げれば本の話に行き着き、逆に本の話を突き詰めれば本棚に到達する。」と述べています。本棚の歴史に関心を持った著者は過去の著作を調べ始めますが、「本の歴史やその取り扱い方、あるいは本を収納して見せる家具のデザインや発達についても、広く知られていないことが判明した」として、わずかに存在する本棚に関する文献、例えば『鎖につながれた図書館』などは米国有数の研究機関に図書館に収められながら、1930年代には10人ほどしか、1940年代にはほとんど誰にも貸し出されていなかったことを述べています。
 図書館の歴史は、紀元前300年頃設立され、世界中から何十万冊もの「巻物」を収蔵していたアレクサンドリアの図書館までさかのぼって紹介されています。この当時の巻物は、部屋の壁に設置された仕切り棚に横にして並べられていました。
 中世期になると、蔵書は保管箱であるチェストに収められ、移動の際にはそのまま運ぶことが多かったと紹介されています。しかし、利用しやすさに難があったために、縦置きしたチェストのようなアルマリウムが用いられるようになります。このアルマリウムには、宝石や貴金属をふんだんに使った装丁を施した本が収められたわけですが、盗難を防止するためには、倉庫のような図書室に押し込むのではなく、特別な部屋の広い書見台の上で鎖につながれるようになります。この鎖の存在が、「鎖の届く範囲内にある机やテーブルの類に載せないと読めない」という制約が、その後の図書館の構造と発展を左右したと著者は述べています。火事の危険を考えると、光源として火気は使えなかったので、古い図書館の構造は採光と書見台システムに制約されることになったのです。そして、蔵書が増え、部屋が書見台で一杯になると、「別の部屋にも書見台を置き始めるか、上へ築き上げていくように書見台の形を変更する」しか選択肢はなくなり、16世紀に採用されたのは後者の方であったのです。
 そこで採用されたテクノロジーは、「ストール・システム」(屋台店システム)と呼ばれる形式で、「一組の机を数インチといった単位ではなく相当な間隔で、つまり幅広の棚で二つに分け、さらにその上にいくつ棚を作る」という方法がとられました。このときに、本を平置きではなく縦置きするという収納方法が始まりますが、当時は現在と異なり、本の背を棚の内側に、前小口を外側にして収納されました。その理由は、「本がまだ鎖につながれていた」からでした。平置きするときには裏表紙につけられていた鎖は、縦置きするようになるとページを傷つけないために表紙の前小口側につけられるようになったと述べられています。背表紙ではなく、前小口を前にする収納方法は、後に本から鎖が取り外された後も習慣として残り、小口には装飾が施され、本を識別するための標題が入れられることもありました。その後、蔵書数の爆発的な増加とともに、本を識別するために背表紙に標題が入れられるようになりますが、題名を上から書くか下から書くかについては意見が分かれ、「英語圏の国々では、二十世紀半ばまで決着がつかず、イギリスで装丁された本は下から上へ、アメリカで装丁された本は上から下へ題名が書かれていた」ことが述べられています。
 本書には、その後、17世紀に壁を背にした「ウォール・システム」が取り入れられるようになったことを始めとする図書館のレイアウトの変遷の歴史が納められています。19世紀には、「本を一般の図書館利用者の目に触れない書庫に保管する」閉架書庫という考え方が実行に移されます。図書館の電化によって、書庫は自然光源を考慮せずに配置できるようになり、後に可動式書庫に発展して行きます。
 本書は、本好きの人ならば誰もが大変お世話になっている、しかし顧みられることの少ない本棚と図書館の歴史に目を向けさせてくれる一冊です。本書を一読した後は、見慣れた図書館の配置や本棚の造りが新鮮に見えるのではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 図書室が本で一杯になったときの対策の一つとして、本書では、知恵者の図書館司書が、「本をどんどん貸し出して、返却を滞らせるようにし向ける」という方法を取ることがあることを紹介しています。しかし、目録上は存在しているのに長年貸し出し中のままの本には泣かされているので、できればこの方法はお奨めしたくないものです。
 自宅の本棚が一杯になると、大きな本を奥に、小さな本を手前に並べてしまいますが、イギリス元首相のグラッドストンは、本の収納方法に確固たる持論を持っていて、「本の列の前にさらに本を並べて、問題を解決しようとしたり、ある程度の妥協をはかる連中すべてを、呪わしい者として」切り捨てたと言いますから、ちょっと我家にはお招きできそうにありません。
 また、本書には、書籍蒐集者の共通する悩みである、空間との戦いについて、「台所と食糧貯蔵庫の戸棚が、本棚スペースを獲得する戦いのために重用され、家族の食習慣まで変わることがある。陶磁器の代わりに紙皿を使えば、食器洗い機に本を入れてはいけない理由はもはやない。空の冷蔵庫は非常に貴重な本を入れる、すばらしい保管場所になる。」など、家中のどんなスペースでも本棚にしてしまう例を紹介しています。


■ どんな人にオススメ?

・日々不足する本棚のスペースと格闘している人。


■ 関連しそうな本

 ヘンリー ペトロスキー (著), 忠平 美幸 (翻訳) 『フォークの歯はなぜ四本になったか―実用品の進化論』 2005年12月31日
 ヘンリー・ペトロスキー (著), 忠平 美幸 (翻訳) 『ゼムクリップから技術の世界が見える-アイデアが形になるまで』
 ヘンリー ペトロスキー (著), 渡辺 潤 (翻訳), 岡田 朋之 (翻訳) 『鉛筆と人間』
 アン・ファディマン (著), 相原 真理子 (翻訳) 『本の愉しみ、書棚の悩み』
 ウィリアム ブレイズ (著), William Blades (原著), 高橋 勇 (翻訳), 高宮 利行 『書物の敵』


■ 百夜百音

スペクトラム伝説【スペクトラム伝説】 スペクトラム オリジナル盤発売: 2005

 「日本一のトランペット回し男」といえばやはりこの人。
 沢田研二の「渡り鳥はぐれ鳥」でもトランペット回していた記憶があるのですが、もはや20年以上前のことなので定かではありません。


『NON POLICY』NON POLICY

投稿者 tozaki : 2006年03月12日 06:00

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