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2006年06月04日

神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡

 おかげさまで、本日で500冊目を迎えることができました。
 次はいよいよ千冊?


■ 書籍情報

神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡   【神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡】

  ジュリアン ジェインズ (著), 柴田 裕之 (翻訳)
  価格: ¥3360 (税込)
  紀伊國屋書店(2005/04)

 本書は、人類の「意識」の誕生は比較的最近、今から3000年ほど前に芽生えたものであり、それ以前の人類は、「二分心(Bicameral Mind)」の持ち主で、右脳からささやかれる神々の声に従って行動し、文明を築き上げ、そして言葉の発達とともに人間に「意識」が芽生え二分心は崩壊し、右脳からの神々の声は通常聞くことができなくなった、とするものです。
 まず著者は、「意識とは何かを規定する」ために、「それが何でないかを問うことから始め」ます。著者は、「意識が心の営みに占める割合は、私たちが意識しているよりはるかに小さい」とし、
・意識は経験の複写ではない
・意識は概念に必要ではない
・意識は学習に必要ではない
・意識は思考に必要ではない
・意識は理性に必要ではない
・意識に在り処などない
ことを例証し、「私たちの活動の多くに意識はたいした影響をもたない」と結論付け、「私たちのとる行動のほとんどを、全く意識をもたぬ状態でこなす人々がかつて存在しえた可能性は十分ある」と述べています。
 その上で、意識の特性として、
(1)<空間化>:内観するとき、私たちは意識に上る新たな事物や関係でこの比喩上の<心の空間>を絶えず更新し、「広げて」いる。
(2)<抜粋>:ある事物には様々な注意を向けうるが、私たちはその一部を<抜粋>し、それがこの事物に関するわたしたちの知識となる。
(3)アナログの<私>:「想像」の中で私たちの代わりに「動き回り」、私たちが実際にはしていないことを「する」。
(4)比喩の<自分>:アナログの<私>は、比喩の<自分>でもある。
(5)<物語化>:意識の中で私たちはつねに、自分の人生の物語に出てくる主要な登場人物として代理の自分自身を見ている。
(6)<整合化>:知覚された対象がやや曖昧なとき、それを過去に学習されたスキーマに整合させる。
の6つの点を挙げ、
・意識が比喩から生まれた世界のモデルであるという考え方から、じつに明白な推論がいくつか得られること。
・それらの推論は私たちの日常における意識ある経験によって検証できること。
を示し、「意識が言語に基づいて想像されたアナログ世界であり、数学の世界が事物の数量の世界と対応するように、行動の世界と対応していると」すると、意識の起源は「これまで考えられてきたより、かなり現在に近いことになる」と述べています。
 本書の第3章では、これらの仮説を検証するために、「確実な翻訳が行える言葉で書かれた人類史上最初の著作」である『イーリアス』における心とは何かを分析しています。著者は、『イーリアス』に用いられている語彙から、この作品の登場人物に、主観的な意識も心も魂も意志もない可能性を指摘するとともに、彼らが、今日では幻覚と呼ばれる神々からの指示に従って行動していたのではないかと推論しています。つまり、「トロイア戦争は幻覚に導かれて戦われた。このように幻覚に導かれた戦士たちは、私たち現代人とはまったく違っていた。彼らは何をしているのか自覚のない、気高い自動人形だったのだ」と述べているのです。著者は、このようなミケーネ人の精神構造を<二分心>と名づけています。その意味で、著者は『イーリアス』を、「主観的な意識のない時代を垣間見させてくれる窓」であるとして、時代の一大転換期に立つ作品と位置づけ付けています。
 また、著者は、人間の言語が主に左半球だけでつかさどられていることに着目し、右半球の領域を、「訓戒的な経験を統合して『声』に変え」る、神々の言葉のための領域だったのではないかと推測しています。著者はこれらの仮説を裏付ける証拠を、
(1)両方の半球が言語を理解できる。
(2)ウェルニッケ野に相当する右半球の領域には、神々の声に似た機能の名残がある。
(3)二つの半球は、特定の状況下ではそれぞれが独立して機能することができる。
(4)二つの大脳半球の認識機能の違いは、人間と神との違いを反映している。
(5)脳は環境によって形作られる余地が大きく、主に学習と文化の影響により、<二分心>の人間が意識を持つ人間へと変化した可能性がある。
という5つの知見としてまとめています。
 第2部では、第1部で示した説により、古代の諸文明が持つ考古学的特徴を解き明かしています。まず、<二分心>の文化に由来した土地計画として、「中央に比較的大きな建物があり」、「とりわけ、その建物内に人間をかたどった像のようなものがある場合」を挙げています。
 また、紀元前2000年紀には、戦争と大災害と民族移動による大混乱により、ヒエラルキーが崩壊し、行為と神からの言葉との間に影が差し、ついには、「言語に基づいてアナログの<私>を伴うアナログの空間が創造され、神々の専制政治は遮蔽された。入念に作られた精巧な<二分心>構造はぐらつき、意識に変わっていった」ことが述べられています。
 そして、<二分心>から意識への飛躍の過程で作用した要因として、
(1)文字の出現によって幻聴の力が弱まったこと。
(2)幻覚による支配には脆弱性が内在していたこと。
(3)歴史の激変による混乱の中で神々が適切に機能しなかったこと。
(4)他人に観察される違いを内面的原因に帰すこと。
(5)叙事詩から<物語化>を習得したこと。
(6)欺きは生き残るために価値があったこと。
(7)少しばかり自然淘汰の力を借りたこと。
の7点を挙げています。
 本書は、この時期に、「人間の精神活動から幻覚の声が消えてしまった影響」を、
・権威そのものに対する混乱。
・<二分心>と神々の権威の崩壊に呼応して、新しい文化的テーマが芽生えたこと。
の2点とし、特に後者が重要であることを強調しています。
 第3部では、「そう遠くない<二分心>の時代を偲ばせるもの」として、現代にも残る数々の儀式、特に多種多様な宗教の伝統を挙げた上で、古い時代に<二分心>の名残をとどめる習慣として、
(1)神託
(2)預言者と憑依
(3)詩と音楽
(4)催眠
(5)統合失調症
(6)科学という占い
の6点についてそれぞれ章を割いて解説しています。
 本書は、600ページを越える大著であるため、読むのに時間がかかるかもしれませんが、普段意識していない「意識」について深く考えるための良いきっかけになる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、その荒唐無稽ともいえる発想から、最初のうちは、「このまま最後まで読み進んじゃって良いのだろうか?」と不安になることも少なくありません。かなりこじつけっぽく感じる推論には、「やっぱりトンデモ本の類かな」と警戒させられるのですが、そえrでも途中まで読んでしまうと、その発想の豊かさに惹きつけられてしまいどんどんと読み進んでしまいます。
 本書の前には、『喪失と獲得―進化心理学から見た心と体』や『火星の人類学者』を読んでいたので、言葉機能を用いることが人間の脳の使われ方をどのように規定するのか、という著者の問題意識にはすんなり入っていけたのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・人間の意識の誕生に思いを馳せたい人。


■ 関連しそうな本

 ニコラス ハンフリー (著), 垂水 雄二 (翻訳) 『喪失と獲得―進化心理学から見た心と体』 2006年4月15日
 オリヴァー サックス (著), 吉田 利子 (翻訳) 『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』 2006年03月26日
 けいはんな社会的知能発生学研究会 (著), 瀬名 秀明, 浅田 稔, 銅谷 賢治, 谷 淳, 茂木 健一郎, 開 一夫, 中島 秀之, 石黒 浩, 國吉 康夫, 柴田 智広 『知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦』 2006年04月09日
 ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 38703
 スティーヴ・グランド 『アンドロイドの脳 人工知能ロボット"ルーシー"を誕生させるまでの簡単な20のステップ』 38745
 トール ノーレットランダーシュ (著), 柴田 裕之 (翻訳) 『ユーザーイリュージョン―意識という幻想』


■ 百夜百音

十七歳の地図【十七歳の地図】 尾崎豊 オリジナル盤発売: 1983

 500回記念ということで、初心に戻って中学時代に聴きまくった尾崎ネタです。
 「盗んだバイクで走り出す」や「夜の校舎窓ガラス壊して回った」という歌詞から、一般には親や学校、社会に反抗する若者の象徴のように見られがちですが、歌い手の立ち位置は、そんな感情を、過去を回想するか幽体離脱して見下ろしているかのように客観視していて、そのクールな語り口が良かったです。
 決して親を悪く言わない、学校や社会のせいにはしない、でも自分は無力で何もできない、というジレンマを等身大で歌っているところに共感できたのではないかと思います。
 先日、渋谷の記念碑のある歩道橋を通りかかって思い出しました。


『回帰線』回帰線

投稿者 tozaki : 2006年06月04日 21:00

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