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2006年06月18日
ユーザーイリュージョン―意識という幻想
■ 書籍情報
トール ノーレットランダーシュ (著), 柴田 裕之 (翻訳)
価格: ¥4410 (税込)
紀伊國屋書店(2002/09)
本書は、「意識とは何か、人間生活のどれほど多く――あるいは、どれほどわずか――が本当に意識的であるといえるか」という問題に対し、数多くの科学的洞察を紹介することによって、私たちの自己認識や自由意志の捉え方にとってのこれらの洞察の意味合いや、この世界を理解する可能性、人間同士が言語という狭い経路以外のところでどれだけ接触を持っているのか、を語ったものです。
本書の構成は、
・第1部「計算」
・第2部「コミュニケーション」
・第3部「意識」
・第4部「平静」
の4部構成になっていて、本書のタイトルになっている「ユーザーイリュージョン」は、第3部で語られています。
第1部では、サイエンス読み物で何度も登場する「マックスウェルの魔物」やチューリング・マシーンなどが語られています。ここでの登場人物は、人工知能関係の本に共通する、ゲーデルやヒルベルト、チューリング、ウィーナー、チャイティン達です。
第2部では、第5章「会話の木」で、「ある人が最終的なメッセージを作り上げる過程で、意識にある大量の情報を処分し、メッセ維持から排除」した「外情報(exformation)」(処分された情報)について解説されています。この例として、『レ・ミゼラブル』の売れ行きが気になるユゴーと編集者の間で交わされた「?」と「!」という短い通信文や、所謂「便りの無いのは良い便り」などの例が紹介されています。そして、意識が処理できる情報量(帯域幅)との関連で、「<外情報>は情報より重要である。人が口にした言葉を理解するより、その人の頭で起きていることを知る方が大切」であることが述べられています。
また、本書がよく引用される「意識の帯域幅」に関しては、感覚器官による知覚の段階では、目は少なくとも毎秒1000万ビットを、皮膚からは100万ビット、耳からは10万ビット、嗅覚器官から10万ビット、味蕾から1000ビットなど、合計毎秒1100万ビット(ということは11Mbps?)を超える情報が、外界から感覚メカニズムに入ってきているのに対し、私たちの意識は、毎秒およそ40bps鹿知覚していないことが紹介されています。このことを、ドイツの生理学者のトリンカーは、「人間の頭には、意識が知覚する情報の100万倍の情報が入ってくる」と要約し、「我々の感覚器官から能に常時流れ込んでくる情報のうち、意識に上るのはほんの一部だ、知覚作用と統覚作用の容量の比率は、よくて100万対1である。すなわち、我々の目が見、耳が聞き、その他の感覚器官が伝える情報の100万分の1だけが意識に現れる」と述べています。一方で、本書では「意識を呼び起こすことなく行える」高度な仕事の例として、自動車の運転などがあることも述べられていて、これは第3部の「二分心」の解説にもつながっていて、ジェインズの「意識が心的営みに占める割合は、我々が意識しているよりはるかに小さい。というのも、我々は意識していないものを意識することができないからだ」という言葉が引用されています。
さらに、錯覚の例を多く紹介し、「意識が外界を経験するはるか以前に、感覚情報は無意識のうちに処分され、物事の解釈がすんでしまっている」こと、すなわち「私たちの経験する事柄は、意識される前に意味を獲得している」ことを述べています。そして、「意識を生み出すにも時間がかかる」こと、すなわち、「意識に時間がかかるなら、意識はつねにいくらか遅れていることになる!」という問題を提起しています。
第3部では、意識のリアルタイム性に関する「準備電位」などの議論(指を動かそうと決意する前に脳が始動しているのなら、人間の自由意志があるといえるだろうか)を紹介しています。そして、本書の中心的なテーマである<私>と<自分>の問題に踏み込んでいきます。著者は、自由意志の問題に対する解答を、「人には自由意志があるが、それを持っているのは<私>ではない。<自分>である」と述べています。ここで、<自分>とは、「<私>、意識ある<私>、が引き起こすことのない、あるいは実行することのない、体の動きや精神作用全ての主体が含まれる。<私>という言葉には、意識に上る体の動きや精神作用が全て含まれる」ものであるとされています。
また、本書のタイトルである「ユーザーイリュージョン」(コンピュータの設計に関する用語で、ユーザーが描くコンピュータのイメージ)に関して、「意識が示すものは、生のデータのように思えるが、じつはコンテクストというカプセルに包まれて」いること、「感覚とは、体験された感覚データに深さを与える処理がなされた結果」であること、そして、「人が体験するのは、生の感覚データではなく、そのシミュレーション」であることが述べられています。そして、「私は、私自身の、私にとってのユーザーイリュージョン」であることを指摘しています。
さらに、意識の起源に関しては、1976年にジェインズによって提唱された「二分心」仮説の発展型として、紀元前1000年頃に誕生した意識が、西暦500年頃にはもう一度消滅し、それが500年以上続いたとする説を紹介しています。
第4部では、ガイア理論や細胞内共生説、複雑系などが紹介されています。ただし、第3部までの盛り上がりに比べると「平静」のタイトルどおり、やや盛り上がりに欠ける感じがします。
本書は、意識という哲学的なテーマに対して、科学の視点からアプローチした良書で、500ページをはるかに超える大著ですが、一気に読みきってしまいました。
■ 個人的な視点から
「魔法の数7」に関しては、人間が一度に情報処理できるのは「7プラスマイナス2」という記述がありました。学生時代に予備校で事務のアルバイトをしていた時に、生徒にプリントを配ることが多く、プリントを扇型に広げ5枚ずつ数える数え方を覚えました。これも人によって流儀があって、3+2で「5,10,15」と数える人もいるのですが、私は一度に5枚を見るようにしています(もちろん銀行員の「札勘」には全くかないません)。ところが、さすがに一度に10枚は認識することはできません。やはり「7プラスマイナス2」しか認識できないようです。
こんなところにも脳の働きが解明されているかと思うと、なかなかハードルの高い本書も親しみがもてるのではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・普段意識することのない、自分の「意識」について考えてみたい人。
■ 関連しそうな本
ピーター アトキンス (著), 斉藤 隆央 (翻訳) 『ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論』 2006年5月5日
ジュリアン ジェインズ (著), 柴田 裕之 (翻訳) 『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』 2006年06月04日
グレゴリー・J・チャイティン (著), 黒川 利明 (翻訳) 『セクシーな数学-ゲーデルから芸術・科学まで-』 2005年11月03日
ハワード ラインゴールド (著), 青木 真美, 栗田 昭平 (翻訳) 『思考のための道具―異端の天才たちはコンピュータに何を求めたか?』 2006年01月07日
けいはんな社会的知能発生学研究会 (著), 瀬名 秀明, 浅田 稔, 銅谷 賢治, 谷 淳, 茂木 健一郎, 開 一夫, 中島 秀之, 石黒 浩, 國吉 康夫, 柴田 智広 『知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦』 2006年04月09日
ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 2005年12月17日
■ 百夜百音
【Barbee Boys】 バービーボーイズ オリジナル盤発売: 1992
男女ツインボーカルで男と女の恋愛模様を歌うバンド。面白いけど、すぐにネタが尽きそうな気もします。
イマサのアルペジオギターがアンディ・サマーズっぽくてかっこよかったです。
他のメンバーはどこに行ってしまったやら。
投稿者 tozaki : 2006年06月18日 22:00
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