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2006年07月06日
住所と地名の大研究
■ 書籍情報
今尾 恵介
価格: ¥1365 (税込)
新潮社(2004/03/17)
本書は、
・そもそも番地は何か。
・どこから順番に並んでいるのか。
・京都市の「上がる」「下がる」「東入る」「西入る」という特別な書き方。
・「網走番外地」は住所なのか。
など、「身近でありながら、実ああまりよく知られていない『住所』というものの疑問を」解明するためにかかれたものです。著者は、「従来、地名の本はトラック何杯分も出ているというのに、どうして住所の本がないんだ、という思い」を強く持ち、「地名の由来は納得できても、それを組み立てる住所の仕組みへアプローチするための適当なガイドというものが存在しなかった」ので、自分で書いてしまったと述べています。
日本の住所の表示パターンにはいくつか原則があり、
(1)都市タイプ:都道府県―特別区―町名―丁目―街区符号―住居番号(東京都千代田区九段南一丁目6番11号)
(2)郊外タイプ:都道府県―政令市―行政区―町名―番地(千葉県千葉市若葉区桜木町567-1)
(3)農村タイプ:都道府県―郡―町村―大字―字―番地(福島県伊達郡霊山町大字掛田字段居45)
(4)京都市:東西・南北の組合せで地点を特定(京都市中央区寺町通御池上る上本能寺前町488)
(5)北海道の都市:通りの名前も数字を用いたものが多い(札幌市中央区北一条西四丁目)
等が示されています。
本書はまず、「大字」のルーツを明らかにします。これは、明治の大合併によって市制・町村制がしかれた際に、「それ以前の町や村を『大字』」としたもので、この町村制によって誕生した行政村に対して、最小の自治組織であり、幕藩体制下から続いてきたそれまでの村を「藩政村」と呼ぶことがあると述べています(そのため、単独で町村制を施行した町村には大字がない。)。
また、「番地と地番」の違いに関しては、明治6年の「地租改正条例」によって、全国的に1筆ごとに土地の測量が行われて作成された「地租改正地引絵図」が今に至る「公図」のルーツであり(その不正確さが現在の土地境界訴訟の多発を招いている)、この時つけられた土地の番号が基本的には現在まで継続する地番となっていると述べ、その成立から「課税や不動産登記のための土地の符号」であるとしています。また、番地とは、「その土地にある家や工場、またはゴルフ場、という文脈で使う場合に『番地』が使われる」と述べています。
さらに、地番を用いた住居の表示との混乱を招くことが多い「住居表示」については、昭和37年に「オリンピックまでに外人さんにもわかりやすい住所を」という気運の元で施行された住居表示法に基づくものであり、
(1)街区方式:道路、鉄道、河川、水路等によって区画された地域を用いる方式。
(2)道路方式:通りの名称を用いて両側に接する建物等を表示する方式。(欧米型)
の二通りがあるものの、道路方式を採用するには自治省への届出が義務付けられ、ほとんど用いられることがないことが述べられています。
著者は、この「住居表示」に影響を与えた人物として、昭和30年に発足した「町名地番整理研究会」の理事長である元内務官僚の小栗忠七氏を挙げ、「都市の建設がいづれも古いので、封建的名称が大多数を占めているのはやむを得ないとしても、社会生活と遊離した複雑怪奇な町名や、全く意義をなさない字名が多いことに、誰しも驚かないものではないであろう」などの考え方が、町名を「できるだけ読みやすく、かつ、簡明なものにしなければならない」という法律の条文に反映され、歴史的地名が「○丁目」という無機質な表示に変えられてしまったことや、江戸時代以前から通りをはさんで発展してきたコミュニティが道路によって分断されてしまったこと等の問題点を指摘しています。これは、東京都の住居表示の実施基準が、「23区内では原則として丁目を用いる」というものであり、言わば「古くからの小さな町は大々的に統合せよ」という指令に他ならなかったからであり、事実上の「町名抹消事業」であったと述べられています。
本書には住居表示によって歴史的な地名が消えた例がいくつも紹介されていますが、中でも圧巻なのは、名古屋市の「栄」に統合されてしまった52町です。
・全域が栄になった町:南伏見町、横三ツ蔵町、鉄砲町、南桑名町、南長島町、八百屋町、大坂町、住吉町、入江町、小市場町、南伊勢町、南呉服町、南久屋町、月見町、池田町、七曲町、南武平町、松島町
・一部が栄になった町:木挽町、常磐町、竪三ツ蔵町、天王崎町、中ノ町、西洲崎町、東角町、役割町、東洲崎町、広小路通、南園町、栄町、白川町、末広町、富岡町、日出町、御幸本町通、矢場町、東川端町、富沢町、針屋町、南大津通、門前町、南鍛治屋町、東陽町、西川端町、新栄町、西瓦町、南新町、宮出町、松元町、丸田町、南瓦町
これらの地名は、住人の出身地や、職人町などに由来していると述べられています。
この他、公図のルーツとなった地租改正時の測量に関しては、誕生間近の新政府に一斉国土調査権資産調べを行う能力がなかったために、全国の村や町に、「測量の方法を教えるから、手弁当で測量して地図を作ってもらいたい。いろいろたいへんだろうが、お国のためにここは一つボランティア精神でしっかりやってくれ」と命じ、当時の3330万人の人口の3.6倍にあたる1億2千万筆もの土地を短期間に調査させたこと(これが現代の土地紛争の原因になっている)が述べられています。また、「新田」という地名が「田舎風」であるとして嫌われ、
・新兵衛新田 → 新栄町
・長右衛門新田 → 長栄町
・清右衛門新田 → 清門町
・金右衛門新田 → 金明町
・善兵衛新田 → 新善町
などのように「都会風」に変更されたことなどが述べられています。
本書は、普段、ちょっと疑問に思っても突き詰めて調べることのない「住所」についての調査をまとめた貴重な一冊ではないかと思います。
■ 個人的な視点から
千葉県の旭市、八日市場市などは、地名にイロハが用いられていることで知られていますが、これは、大字にイロハが用いられているものです。旭市の場合は、町村制が施行された明治22年に、旧村を、
・網戸村 → 大字イ
・成田村 → 大字ロ
・十日市場村 → 大字ハ
・大田村 → 大字ニ
のように大胆に解消してしまったもので、住所の表記も「旭市ニ-1920」や「八日市場市ハ-793」のように簡略な印象を受けるものであると紹介されています。
■ どんな人にオススメ?
・住所を書く欄に「__都道府県__市町村__町__丁目__番__様方/___マンション」と印刷されていると邪魔だと思っている人。
■ 関連しそうな本
今尾 恵介 『日本地図のたのしみ』
今尾 恵介 『消えた駅名―駅名改称の裏に隠された謎と秘密』
谷川 健一 『日本の地名』 2005年07月10日
片岡 正人 『市町村合併で「地名」を殺すな』
藤原 勇喜 『公図の研究』
佐々木 信夫 『市町村合併』 2006年03月27日
■ 百夜百マンガ
ストーリーはSFなのに、核戦争後の未来の地球の壮大さとかが感じられないのはなぜだろう、という不思議な感じの作品です。
理由の一つは、この人は人間ドラマ向きの構図が得意だからなのかもしれません。ロボットが取っ組み合いをするのに大ゴマを使わない『パトレイバー』(ゆうきまさみ)とか、巨大宇宙人が大暴れしているはずなのに等身大の大きさに見えてしまう(四畳半にメトロン星人という意味ではなく)実相寺昭雄が監督した回の『ウルトラセブン』に共通する「個性」とも言えるでしょうか。
投稿者 tozaki : 2006年07月06日 07:00
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