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2006年07月30日

健康法と癒しの社会史

■ 書籍情報

健康法と癒しの社会史   【健康法と癒しの社会史】

  田中 聡
  価格: ¥2730 (税込)
  青弓社(1996/08)

 本書は、「紅茶キノコ」や「ぶら下がり健康器」など個々には「ブーム」ではあっても、健康願望や健康関連産業の市場は拡大し続けている現状を、「『健康』願望の歴史があり、文化がある」と考えることで、現代の状況を捉えるべき、というスタンスから、「日本に行われた様々な健康法や一部の民間療法を主な素材として、日本人の『健康』願望の歴史を展望することを」目的としているものです。
 昭和14年に刊行された『わが健康法と闘病術』には建築家の山本拙郎氏が実践している「環獣法」という健康法が紹介されています。これは、人間の病気の原因は「二本足で立つようになって内臓が下に押し下げられたため」なので、「動物の四つん這い生活を人の暮らしにも取り入れよう」と、「四つん這いになって歩き回り、動物の鳴き真似をする」、それも一つの声だけでなく、百獣の声、中でも牛と猛獣の声が最も自然だと紹介されています。
 本書は、「健康法」という言葉が、近代以後に使われたるようになった言葉であり、それまで現代の「健康法」という意味で使われたのは、「日常生活の上で心得ておくべき注意事項であり、そのため倫理的な意味も強かった」「養生法」という言葉であったことを紹介し、その起源を、「シャーマニズムの技術としての呼吸法や舞踊のうちに含まれていた可能性がある」と述べています。また、特殊な食品による健康法としては、平安時代にクコが回春財としてもてはやされたことが紹介されています。
 日本の健康法の歴史を、昭和初期の健康雑誌(『健康時代』、『健康日本』、『世紀之健康』、『先づ健康へ』など)から戦争をはさみ、昭和40年に流行した「奇跡の草」コンフリー(食べると危険らしいですが)、昭和48年の『にんにく健康法』、そして昭和50年代前半に流行したものとして、
「クコ、ウメ、シイタケ、紅茶キノコ、麦飯石、青竹踏み、米酢、マコモ、アマチャヅル、花粉、深海ザメ、クロレラ、酢卵、アロエ、霊芝、ゲルマニウム、酵素、磁気ネックレス、ルームランナー、ぶら下がり健康器」
等を紹介しています。著者は、この背景として、「薬害の怖さや現代医療の非人間性、現代社会の不自然さなどの文明批判」が当時の健康雑誌に記されていることを指摘し、紅茶キノコのブームも、火付け役となった『紅茶キノコ健康法』に「自然そのもので、商業主義に毒されていない原始性」が讃えられていること、商品として売買されず、知り合いの間で授受されて培養されることによって増えるという、特権性や秘密性を感じさせることがある点などが紹介されています。ただし、『紅茶キノコ健康法』の本当の著者は読売新聞元社会部長の小川清であり、マスコミによって広く紹介され、本に添付されていた進呈券を版元に送れば無料で菌をもらえるという仕組みであったことが述べられています。
 著者は『健康ブーム』の背景には、「現状の不安を解消する『秩序』確立への願望」でもある「世直し」の欲望が隠されていたと指摘しています。
 本書では、呼吸法は、「文明に冒される以前の、すべてが調和している資源の理想郷への帰還を、自らの身体で実現しようとする」もの、つまり、「太古のユートピアたる『自然』への復古――革命の夢想をはらんだ健康法」として分析されています。
 この他本書では、「もっとも近くて遠い秘薬」である人肉について、明治以降の薬を目的とした殺人事件を紹介するとともに、「人間の肉や肝、あるいは骨が非常に効果のある薬だということ」がかつては常識であったとして、江戸時代の首斬り浅右衛門の逸話を紹介しています。
 回春法に関しては、大正期のホルモン・ブームの盛り上がりを紹介するとともに、「日本ではホルモンはしばしば生命の源のエネルギー、『記』のようなものとも解釈されてきた」ことが述べられています。ホルモンの他には、フグ毒の成分テトロドトキシンの注射、臭素・サルチル酸・ヨードなどの複塩であるアチカロリン注射や、ツル植物の「何首烏(かしう)」の根、オットセイの肉やペニス、マムシ酒、ニンジンエキスなどが回春効果を謳われたことが紹介されています。
 健康グッズ関連では、昭和35年の「中山式胃腸腹巻」、昭和46年の「中山式磁石腹巻」などの腹巻類、昭和40年代の乾布摩擦ブームを支えた健康タオル、電気や磁気を利用した健康製品、健康枕などが紹介されています。
 薬の広告に関しては、かつての王貞治選手のCMを8年間流していた「リポビタンD」が、「ドリンク剤のCMにスポーツ選手を登場させるのは誤解を招くと警告を受けた」という逸話が紹介されています。
 健康法と並んで週刊誌の広告のお得意様である「コンプレックス産業」に関しては、やせる薬や商品が氾濫している現代とは異なり、戦前には、「少なくとも男の場合なら、むしろ太っているほうがよいとさえ考えられていた」と述べ、「この薬でこんなに太りました」という当時の広告が紹介されています。また、女性の場合にも、頬のこけた顔が病気や貧困、生活苦を連想させる「貧相」と見られていたことから、「豊頬器」や「豊頬液」、「豊頬術」などが広告され、当時は小顔は全くもてはやされていなかったことが述べられています。
 男性にとってハゲが大きなコンプレックスである理由に関しては、ハゲが「老い」の徴であり、それが若いうちに現れてしまうためではないかと述べ、後頭部の写真を使った大正時代の「毛生え薬」の広告を紹介し、その危機感のあおり方の見事さを讃えています。
 性格に関するコンプレックスに関しては、多くの人が、「自分は人づきあいが下手なために損をしている」と思っていることを、「成功者への嫉妬がらみのナルシズム」と指摘し、これが「自分だって、もっと人づきあいがうまければ」という欲望に転じたものであるとして、かつては「話し方教室」などの形で、昭和60年代からはよりストレートな人格改造を目的とする「自己開発セミナー」が流行したことを紹介しています。
 本書にはこの他、「富山の薬売り」の業態の変化(現地営業所で現地採用する業者が増えた)や、売薬の起源が修験道にあり、富山以外の奈良、滋賀、佐賀の売薬も修験道上のあった地で発達したものであること等が紹介されています。
 本書は、出版業界の大お得意様である「健康法業界」を、冷静に分析し、健康法に取り付かれることのばからしさをストレートに表現してしまっている、ちょっと勇気のある一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 紅茶キノコブームの際には、女性週刊誌に、「芸能界における紅茶キノコの授受系統図」が掲載されていたそうです。今でも週刊誌などに芸能人の交友関係図などが紹介されていますが、紅茶キノコの菌を分けてもらえるというのは、今で言えばmixiなどのSNSに誘われるのに近かったのかもしれません(昔のorkutとかはレアでしたし)。
 芸能界の社会ネットワーク分析としては、ケビン・ベーコン・ゲームが有名ですが、どこかに「芸能界薬物汚染系統図」や「芸能界性病感染経路図」とかを作成する勇敢な雑誌はないものでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・新しい健康法が気になって仕方がない人


■ 関連しそうな本

 水道橋博士 『博士の異常な健康』
 と学会 『トンデモ本 女の世界』
 野村 一夫 『健康ブームを読み解く』
 北沢 一利 『「健康」の日本史』
 鹿野 政直 『健康観にみる近代』
 上杉 正幸 『健康不安の社会学―健康社会のパラドックス』


■ 百夜百音

コンプリート・オブ・B.B.QUEENS at the BEING studio【コンプリート・オブ・B.B.QUEENS at the BEING studio】 B.B.QUEENS オリジナル盤発売: 2002

 BBキングをもじって適当に付けたグループ名にもかかわらず近藤房之助ほか本格的ミュージシャンが紅白に出ちゃっているのが痛快でした。


『まるまるぜんぶちびまる子ちゃん』まるまるぜんぶちびまる子ちゃん

投稿者 tozaki : 2006年07月30日 21:00

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