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2006年08月03日

折れたレール―イギリス国鉄民営化の失敗

■ 書籍情報

折れたレール―イギリス国鉄民営化の失敗   【折れたレール―イギリス国鉄民営化の失敗】

  クリスチャン ウルマー
  価格: ¥2520 (税込)
  ウェッジ(2002/11)

 本書は、英国の「国有鉄道の分割・民営化(とその失敗)を中心テーマに英国鉄道界の内実を詳細に暴いたノンフィクション」です。
 1994年に英国国有鉄道から分離独立し、1996/97年に民間に売却されたレールトラック社は、「上下分離」で民営化された国鉄のインフラ部分の整備を担当する会社です。レールトラック社は、2000年10月17日に4名の死者を出したハットフィールドでの事故をきっかけに、約1年後に再び政府の管理下に戻されます。本書は、このレールトラック社を中心に、民営化の経緯と、何が事故を引き起こしたのかを丹念に追っています。著者は、この原因を、「イデオロギーと狭量な政治的かつ商業的利害の名目のもとになされた」と指摘し、民営化が「乗客にとって、特に長い目で見たときにどんな結果となるかはほとんど考慮されずに始められた」と述べています。
 このハットフィールド事故は、「車輪の輪縁と接触するレール頂部の内側角で、列車の重量を支えると同時に横方向の力も吸収しなければならない」ゲージ・コーナーのひび割れが原因で起こる「ゲージ・コーナー・クラッキング」によって、レールが約300の破片に砕けたことを原因として起きました。著者は、レールトラック社がゲージ・コーナー・クラッキングのレール内での伝播や線路網内での広がりについての工学的知識に欠けていたことを、「1996~97年の性急な民営化のなか、英国国有鉄道が100近い私企業に分割された結果、鉄道に必須の技術が失われてしまった」こと、また、「レールトラック社の主な役割は国家の主要な技術的源泉である一分野の保守整備の統括にあったはずなのに、その会社が関連技術の経験をもたない人たちによって経営されていた」ことを指摘しています。
 本書はまず、政府と鉄道との間の緊張関係と依存関係をヴィクトリア朝期まで遡っておさらいしています。そして、イギリスの鉄道史の奇妙な特徴として、「事態がうまくはこびかけたときに外的要因が介入し、ストップをかける」と述べています。また、1945年に誕生した労働党政府による主要な公益事業の国有化方針に基づいて、1948年に、「ほぼすべての輸送機関が単一の英国運輸委員会(BTC)の支配下に入った」ことが述べられています。その後、衝撃的な1963年のビーチング・レポート、1979年のサッチャー政権の誕生を経て、英国国鉄は、ヨーロッパ随一の効率と生産性の向上を誇り、「世界のいかなる大鉄道組織と比べてもひけを」とらず、「1990年代の初めほど、イギリスの鉄道がうまく運営された時代はない」と言われる運営を行っていました。
 著者は、鉄道事業に先立って民営化されたバス事業の教訓が鉄道民営化に活かされなかったことを、「バス競争への確信が妄想であることがすでに明らかになっていた」と述べ、「多くの経営者があぶく銭を稼げると思い、儲かるルートに路線が重複したが、彼らは都市経済の活力源となるような路線網をつくる義務は負わされていなかった。彼らはひたすら裁量のルートをつまみ食いし、以前は採算のとれない他の路線の維持に使われていた利益をかすめとった」と指摘し、鉄道売却の不可解な一面として、「保守党員が鉄道民営化の青写真を描いたとき、バス市場における競争の失敗から何も学ばなかったと思われる点」を挙げています。ています。
 また、鉄道の民営化検討委員会の慎重派の委員から、(1)地域分割、(2)分野分割の上下統合による二つの選択肢が提唱されたにもかかわらず、フランチャイズとして売却され、多くがバス会社の手に落ちたことを述べています。
 さらに、本書の「主役」であるレールトラック社に関しては、他部門からの分離だけでも十分にクレイジーであるのに、それを民間に売却することはさらに狂っているとしか言いようがないとして、「レールトラック者は鉄道線路、すなわちインフラを供給する会社であり、補助金への依存度が高く、線路を売って収入を得るしかない。そして線路の値段は恣意的に決められるのだ」と理由を述べています。また、日本の国鉄民営化の貢献者である運輸事務次官、JR東日本社長・会長を歴任した住田正二氏の、「もしレールトラック社の利益がインフラの保守整備に必要なコストの削減によるのであれば、安全面で諸問題が起こるだろう」というコメントを引用しています。
 著者は、民営化が始まった1996/76年後の3年間に、90年代の2つの大きな事故が起き、38人が亡くなったことを「憂慮すべきポイント」として上で、「民営化後の第三の惨事となった2000年のハットフィールド事故が、鉄道の新しい組織によって引き起こされたことは紛れもない事実」と述べています。
 また、民営化後の事故を調査した「アフ報告書」は、「民営化によってもたらされた潜在的な問題」として、
(1)運転士と信号係とが分断され、それぞれが列車運行会社とレールトラック社とに別れて働くようになったこと。
(2)信号係と"コントロール"分断されて、それぞれレールトラック社か列車運行会社のどちらかに報告するようになったこと。
の2点を指摘しています。
 この他本書では、国鉄の元で設けられていた43週間の最小訓練期間が、民営化後は定められていなかったこと、レール交換のための閉鎖によって生じる列車運行会社への補償金を避けるためにレールトラック社は極力余分な閉鎖を(特に忙しい夏季に)避けようとしていたこと、レールトラック社が設立初期に新しいレールを注文しなかったこと、新車両の導入に当たりレールトラック社が電気干渉による通信生涯を避けるために極度に厄介な安全基準手続きをとり、広範なネットワークのどこでも走れる仕様にしなければならなかったこと等が述べられています。
 著者は、民営化が、3年間で3つの大事故を起こし、鉄道事業に壊滅的なダメージを与えただけでなく、「競争の活性化や補助金の減額、公共部門借用条件の拘束のない魅力的な投資、労働組合の支配力を打破する、より広い商業的知識を生かして乗客によりよいサービスを提供する、などといった支持者たちの利益予測を何一つ果たせずに終わった」とまとめています。
 本書は、公共部門が非効率であるからといって、民営化すれば問題が解決するほど単純な話ではないことを示している一冊です。


■ 個人的な視点から

 著者は、2001年に労働党政府によって設立された戦略鉄道庁(SRA: Strategy Rail Authority)が、戦略(Strategy)も権威(Authority)もないので、「ただR(Rail)と呼ばれてしかるべき」と揶揄されたことにも触れています。
 まったくこういったことを言わせると英国人はさすがだと思います。


■ どんな人にオススメ?

・盲目的に民営化のすばらしさを信仰している人。


■ 関連しそうな本

 住田 正二 『SUCCESS STORY―THE PRIVATISATION OF JAPANESE NATIONAL RAILWAYS』
 柳川 範之 『契約と組織の経済学』 2005年02月22日
 ポール・ミルグロム, ジョン・ロバーツ (著), 奥野 正寛, 伊藤 秀史, 今井 晴雄, 八木 甫(翻訳) 『組織の経済学』 2005年01月24日
 ロナルド・H. コース (著), 宮沢 健一, 藤垣 芳文, 後藤 晃 (翻訳) 『企業・市場・法』 2005年04月29日
 伊藤 秀史, 小佐野 広 『インセンティブ設計の経済学―契約理論の応用分析』 2005年02月26日
 大谷 健 『国鉄民営化は成功したのか―JR10年の検証』


■ 百夜百マンガ

がんばれロボコン【がんばれロボコン 】

 世代的には、「デンガラガッタ、デンガラガッタ~♪」の主題歌が頭に浮かんできてしまいます。
 ガンツ先生と言えば、奥浩哉の『GANTZ』が出てきてしまうのも世代のせいなのでしょうか。

投稿者 tozaki : 2006年08月03日 08:00

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