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2006年08月14日

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)

■ 書籍情報

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)   【文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)】

  ジャレド・ダイアモンド
  価格: ¥2100 (税込)
  草思社(2005/12/21)

 本書は、社会の崩壊、すなわち、「環境面の脆さ、近隣社会との関係、政治制度、その他、社会の安定性に影響を及ぼすとされるいくつかの"入力"変数などについて、過去と現在の多くの社会を」比較研究法を用いて分析しているものです。プロローグでは、モンタナ州のハルズ農場とノルウェー領グリーンランドのガルザル農場を比較し、「最も豊かな、最も技術的に進んだ社会ですら、今日、環境と経済の両面で数々の軽視しがたい問題を抱え、それが日増しに大きくなりつつある」ことを痛感し、問題の多くが、「ガルザル農場及びノルウェー領グリーンランドの衰亡を招いたのとほぼ同質のものであり、、また、過去の多くの社会が解決に向けて苦闘してきたもの」であると述べています。
 本書は、過去の世界各地での文明の崩壊の事例が取り上げられていますが、著者は、「わたしたちは過去の崩壊から、おそらく現実的な教訓を引き出せるだろう。過去には崩壊した社会もあればしなかった社会もあることを、わたそたちは知っている」と述べ、これらを検証することで、「現代のどの社会に最も大きな危険が潜んでいるのかを、また何が最善の救済策になりうるのかを、的確に見定めることができるかもしれない」と述べています。
 著者は、社会の崩壊は環境被害という唯一つの原因からもたらされるのではなく、いくつかの要因が必ず存在するとして、潜在的な要因を次の5つの枠組み、即ち、
(1)環境被害
(2)気候変動
(3)近隣の敵対集団
(4)友好的な取引相手
(5)環境問題への社会の対応
の5点を挙げています。
 第1章では、現代のモンタナを取り上げています。著者は、過去と現在の環境問題を取り上げる本書でモンタナを最初に扱う理由として、「ともすれば抽象的と思われがちな主題に、ここの具体的な色付けを」施すことを挙げています。著者は、「現代のモンタナの環境問題は、産業改善の過去の社会を蝕んだ問題や、今や同じように世界じゅうの社会を脅かしている問題など、多種多様な問題のほぼすべてを含んでいる」として、特に、有毒廃棄物、森林、土壌、水資源(大気)、気候変動、生物多様性の低下、有害な外来種の問題を抱えていると述べています。
・有毒廃棄物:鉱業残留物、中でも堆積進出(ヒープリーチング)で用いられるシアン化溶液。
・森林:伐採と森林火災。
・土壌:リンゴ果樹園による窒素の枯渇、家畜の放牧による浸食、塩分が土壌と地下水に集積する塩性化。
・水資源(大気):地球温暖化による降雨量の減少と水不足、肥料や高山の有毒金属による水質低下など。
・有害な外来種:外来寄生虫が媒介する"旋回病"による在来種の減損、シカとヘラジカに感染する慢性消耗性疾患(CWD)、有害な外来性の雑草。
 著者はこれらの環境要因のほかに、モンタナ住民の収入の半分が州外からモンタナに流入してくる金であり、「モンタナ自体の経済が、すでにモンタナのライフスタイルを支えるにはほど遠いところまで落ち込んでいる」ことを指摘しています。
 第2章では、イースター島のモアイ像が、「数十年前までは、そのすべてが、おもに首を折ることを狙って故意に倒され、放り出されていた」ことが紹介されています。著者は、「石造を掘り、運搬し、台座にすえるという作業を組織化するためには、人口の多い複雑な社会が、それを維持できるだけの豊かな環境下で運営されていることが要件となる」として、18世紀にヨーロッパ人が出会った2~3千人の人口から推定される数値より、「はるかに多くの人間が居住していたことが伺える」と述べています。
 著者は、イースター島が西暦900年ごろにポリネシア人によって初めて領有されたと推測し、住居の土台や石像・台座から推測される最盛期の人口として6千人から3万人という数字を挙げています。モアイは、「身分の高い先祖の象徴」であり、石像の大きさが増している事実から、敵対する首長同士が競い合った様子が伺えるとしています。
 また、18世紀にイースター島を訪れたヨーロッパ人は、ほとんど樹木を目にすることができませんでしたが、かつては「背の高い樹木と低木の茂みからなる亜熱帯性雨林の島だった」ことが述べられています。しかし、乱獲と森林破壊、人間が持ち込んだネズミによる捕食により陸鳥が姿を消し、甲殻類も姿を消しました。また、畑を造るために樹木が切り払われ、薪に使われたことによって、樹木が絶滅し、それによって公開に耐えるカヌーの材料が失われ、ネズミイルカやマグロなどの遠海魚を得ることができなくなります。
 この森林崩壊は、太平洋における森林破壊の最も極端な事例であり、その結果、原料の欠乏、野生食料の欠乏、作物生産量の減少が島民に襲い掛かります。その結果、飢餓が始まり突発的な人口激減、そして失われた野生の肉の代わりに「それまで利用しなかった身近な供給源のうち、最大のもの」であった人間、すなわち人肉食に向かいます。島民が敵を貶める言葉は「オレの歯の間にはお前の母親の肉がはさまっている」という意味を持つそうです。
 イースター島がなぜ、これほど極端な森林破壊の事例になってしまったのか。著者はその理由として、太平洋の島々の島々の森林破壊に影響する要因として、
・湿潤な島より、乾燥した島
・赤道付近の温暖な島より、高緯度にある寒冷な島
・新しい火山島より、古い火山島
・火山灰が大気中を降下する島より、降下しない島
・中央アジアの風送出すと(黄砂)に近い島より、遠い島
・マカテアのある島より、ない島
・高い島より、低い島
・近隣関係のある島より、隔絶した島
・大きい島より、小さい島
の9つの物理的な変動要素を挙げています。そして、イースター島の森林破壊が異常なほど激しく進行した理由を、島民たちの性質や先見性のなさにあるのではなく、「太平洋において、最も脆弱な環境の中で、最も高い森林破壊のリスクを抱えながら暮らすという悲運を背負った人々」であったためであると述べています。
 著者は、イースター崩壊の引き金になった主要な二つの要因、人為的な環境破壊とその侵害行為の背後にある政治、社会、宗教的な要因に関して、孤立したイースター島と総体として見た現代の世界との間の瞭然たる共通点を見出し、「イースター島社会は、私たちの前途に立ちはだかりかねないものの暗喩(メタファー)として、最悪のシナリオとして、私たちの目に映る」と述べています。
 第3章では、南東ポリネシアのマンガレヴァ、ピトケアオン、ヘンダーソンの3島のうち、18世紀には無人島となってしまったピトケアン島とヘンダーソン島にかつて居住者がいたこと、マンガレヴァ島との交易が途絶えたことで必要な資源(金属や石、釣針の材料となるクロチョウガイなど)が入手できなくなったこと、内乱と慢性的な飢餓という泥沼にはまり込み政治的混乱が続いたことなどが述べられています。著者は、この交易のストップがもたらした悲劇を、「現代のグローバル化の拡大と、全世界における経済的な相互依存性の増大について、<利点と同様>リスクの面から考えてみてほしい」と問いかけています。
 第4章では、古代アメリカ先住民のアナサジ遺跡を取り上げ、「人為的な環境侵害、重複しあう気候変動、武力闘争を誘発する環境問題と人口問題、輸出入に依存した複雑な非自立型社会の強みと危険性、人口と勢力が頂点に達した後休息に崩壊する社会のありよう」など、本書の主題を鮮やかに描き出すものであると紹介しています。そして、アナサジの崩壊には、
・さまざまな型の人為的な環境侵害:森林破壊とアロヨの下方浸食
・気候変動:降雨と気温の面での変動が人為的な環境侵害と相互作用しあった。
・友好的な集団との内部交易:異なるアナサジの集団が構成していた相互依存型の複雑さが社会全体を崩壊の危機にさらした。
・宗教的要因と政治的要因:複雑な社会の維持に不可欠な役割を果たしていた。
の4つの要因の枠組みが作用していることが述べられています。
 第5章では、メキシコに存在していたマヤ文明の崩壊に関して、話を複雑にしている理由を、
(1)大規模な古典期の崩壊に先立ち、少なくとも2度小規模な崩壊が起こっている。
(2)明らかに古典期の崩壊が全面的なものではなかったこと。
(3)人口という面では、崩壊は緩慢に進んでおり、急速に崩壊したのは王制と長期暦であったこと。
(4)都市の崩壊と思えるものの多くが、実際には"勢力の循環"にすぎないことがあること。
(5)間や地方のそれぞれ異なる場所の都市が、異なる仮定を通じて繁栄したり衰退したりしていること。
の5つ挙げています。その上で、古典期マヤの崩壊を、次の5つの暫定要素に要約しています。
(1)入手可能な資源の量が人口増加の速度に追いつけなくなった。
(2)森林破壊と丘陵地の浸食。
(3)減少する資源をめぐる戦闘行為が増加した。
(4)気候変動
(5)これらの問題をマヤの王たち、貴族たちが認識し解決することができず、短期的な問題(私腹を肥やす、戦争、石碑など)に注がれていた。
 第6章では、ヴァイキングの西方進出を、「示唆に富んだ"自然実験"」と位置づけた上で、
・なぜ793年から広範な進出を始め、急速に最盛期を迎えたのか。
・なぜ、300年足らずで失速し、やがて完全に停止したのか。
の2点を分析しています。ヴァイキングは、北大西洋の島々に6箇所の植民地を設けますが、オークニー諸島、シェトランド諸島、フェロー諸島が1千年以上危なげなく存続し、アイスランドが貧困と政治上の深刻な問題を抱えたこと、グリーンランドのノルウェー人が450年後に死に絶え、ヴィンランド(北アメリカ大陸)は10年足らずで遺棄されますが、著者は、「これらの異なる結果に、各植民地の環境の差が関係していることは間違いない」と着目し、その環境上の変数として
・ノルウェー及びイギリスからの会場距離と航海時間
・非ヴァイキングの住民による妨害
・特に緯度と気候によって決まる農業の適否
・浸食と森林破壊の起こりやすさ
の4点を挙げています。
 著者は、アイスランドがヨーロッパで最も深刻な生態学上の被害を受けた理由を、「ノルウェーとイギリスの経験則では、一見緑豊かなアイスランドの環境に潜む脆弱性に対応できないという事実に気づくのが遅すぎた」からであると述べています。また、ヴィンランドに渡った「赤毛のエイリークの息子ふたり、娘ひとり、義理の娘ひとり」らとその後継者たちが、ビンランドを遺棄した理由は、彼らが「敵意を持った大勢のアメリカ先住民との間に良好な関係を築けなかった」(いきなり殺してしまった)からであること、グリーンランドの植生に対応した家畜の放牧に失敗したこと等が述べられています。著者はグリーンランドのノルウェー人社会の特色を、"共同型、暴力的、階層的、保守的、ヨーロッパ志向"の5つで表しています。また、ノルウェー人とイヌイットとの関係においては、鉄の欠乏によってイヌイットとの戦闘で優位が保てなくなったこと、交易関係を築けなかったことなどが述べられています。
 著者は、グリーンランドのノルウェー人について、「特に自滅的とは言えない」とした上で、彼らの考え方を方向付けている、
(1)グリーンランドの不安定な環境の中で生計を立てていくのは、現代の生態学者や農学者にとってさえ難しい。
(2)ノルウェー人は、グリーンランドの問題に虚心坦懐に取り組むつもりで乗り込んだわけではない。
(3)他の中世ヨーロッパキリスト教徒と同様、非ヨーロッパ人の異教徒を軽蔑し、そういう相手とうまく付き合うだけの経験をもたなかった。
(4)権力が最上層(首長や聖職者)の手に集中していた。
の4つの条件を挙げています。
 本書は、前半だけ読むとなにやら歴史の話に終始しているようですが、これを読んでおくことが後半になって効いてきます。


■ 個人的な視点から

 本書、特に上巻は、妙に人肉食の描写が多いような気がしますが、一つには、環境破壊による飢餓と、人間同士の政治的な問題とを結びつけるポイントであること、もう一つには、アナサジで発見された遺体をめぐる論争があったこと、ではないかと思います。
 食べ物がない切実さを一番表現しやすい方法なのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・社会の崩壊に不安を持っている人。


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 ブライアン・フェイガン 『古代文明と気候大変動 -人類の運命を変えた二万年史』


■ 百夜百マンガ

ベムハンター・ソード【ベムハンター・ソード 】

 SF小説の文脈を読みなれていると、元ネタがわかってもっと楽しめるような気がします。

投稿者 tozaki : 2006年08月14日 08:00

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