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2006年08月15日
文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)
■ 書籍情報
ジャレド・ダイアモンド
価格: ¥2100 (税込)
草思社(2005/12/21)
本書は、主に過去に崩壊した社会を紹介してきた<上巻>に引き続き、主に現代の社会の崩壊の危機、そして将来に向けて書かれたものです。第2部の「過去の社会」の最終章である第9章だけは<下巻>である本書に持ち越されています。
第9章では、過去の6つの社会の崩壊過程をふり返り、「環境問題の解決には、ふたつの対照的な方式」があること、すなわち、
(1)ボトムアップ方式:下から上へ
(2)トップダウン方式:上から下へ
があることが述べられ、前者の例としては、ニューギニア高知とティコピア島が、後者の例としては江戸時代の日本が取り上げられています。
まずニューギニア高地は、ヨーロッパ人から見て"原始的"な生活をしているように見えながら、数万年にわたる社会の維持に成功していました。よー六班追う学者が首をかしげるような急斜面を垂直に走る排水路は、高地特有の降雨と土壌の条件下に適したものであり、彼らは、「年間最大1万ミリもの降雨量があり、地震や地すべりや(海抜の高いところでは)霜が頻繁に襲う地域で作物を育てるために、数千年のときを費やして試行錯誤を重ねてきた」ことが述べられています。
また、太平洋南西部(P.25には「大西洋」と誤植されています)に浮かぶティコピア島は、環境持続能力にプラスに働く、降雨量の多さ、適度な緯度、火山灰とアジアからの黄砂に加え、焼き畑式農業とは一線を画す細部まで管理された食糧生産と、人口制限の7つの方法(性交中絶法、堕児、嬰児殺、独身を貫く、自殺、他部族を皆殺し等)、すべてのブタを殺し、代わりに魚介類とカメの消費を増やしたこと、等によって社会を維持してきたことが述べられています。
トップダウン方式の例として挙げられている江戸時代の日本については、「平和と繁栄によって逆説的にもたらされた環境及び人口の危機に対する目的」で生まれた森林政策が述べられています。戦国時代が終わり、徳川幕府が「日本を戦争と外国の影響から遠ざけ続けた」ことで、日本の人口と経済は一気に押し上げられ、17世紀には木材消費の拡大による森林乱伐によつ環境及び人口危機に直面します。しかし、日本は、
(1)農業に対する圧力を緩和するために、魚介類とアイヌとの貿易で得た北海道産の食糧への依存を増やす。
(2)人口のゼロ成長(晩婚化、授乳期間の長期化、避妊、堕児、嬰児殺等)
の2つの方針転換によって、安定した人口と持続性のある資源消費率を達成します。また、幕府は、木材供給網を森林管理、木材運搬、町での木材消費の3段階において監視し、ドイツとは別個に、「植林による森林管理、すなわち樹木を成長の遅い作物とみなす概念」を発達させ、政府も商人も植林を始め、18世紀中には日本中に広く受け入れられ、1800年までには木材生産の落ち込みをストップします。
著者は、日本社会が崩壊しなかった要因として、
(1)降雨量の多さ、降灰量の多さ、黄砂による地力の回復、土壌の若さなどのおかげで樹木の再生が早いこと。
(2)多くの土地や森林を荒廃させる山羊やヒツジがいなかったこと、戦国時代が終わりウマが減ったこと、魚介類が豊富にあったこと。
等を挙げています。
本書の第10章以降は第3部として現代の社会を見ています。第10章では、ルワンダの大量虐殺を取り上げ、今では民族紛争と結び付けて考えられることが多いその背景にある、世界でも最も高い部類に入る人口密度を挙げ、「民族間の憎悪」以外の理由を探っています。独立後のルワンダが、「新たな農地獲得のため森林を開拓して沼の水を抜き、休耕期間を短縮し、一箇所の畑で年2、3回の連続的な作物の収穫を試みること」によって、増え続ける人口を支えてきたこと、土地不足によって引き起こされた土地争いによって家族や親類感を引き裂き、恨み重なる敵同士にしてしまったこと(大虐殺では同じ民族間での殺戮も多数発生した、「子どもをはだしで学校へ送り出さねばならない人々が、子どもに靴を買うことのできる人々を殺したのです」)等が述べられています。
第11章では、カリブ海のイスパニョーラ島を二分するドミニカ共和国とハイチを取り上げ、2国間の経済や環境面での格差について論じています。この島は、コロンブスの到着以前には50万人程度の人口を抱えていたにもかかわらず、疫病や虐殺によって、コロンブス到着27年後(1519年)には、およそ1万1千人まで減少し、大部分が同年中に天然痘で死亡し、3千人に減少してしまいます。そして、スペイン人が、代わりにアフリカや北米・南米大陸から奴隷を送り込んだことが述べられています。著者は、島の東西の国を分かつ要因として、
・環境的相違:おもに東から雨が降る。
・社会的・政治的相違(1):ハイチが裕福なフランス、ドミニカが貧しいスペインの植民地であったため、ハイチが狭い土地に多くの人口を抱えてしまったこと。
・社会的・政治的相違(2):ドミニカがヨーロッパ系のスペイン語を話す国民が主であるのに対し、ハイチはクレオール語を話す国人奴隷が多数を占めるため、ヨーロッパからの投資がドミニカに集まってしまう。
等を挙げています。
第12章では、「他の主要国と比べて特に申告であるだけでなく、さらに悪化している」環境問題を抱える中国が取り上げられています。著者は、「加速する環境被害と加速する環境保護運動の間で振り子のように揺れ動いている」とした上で、巨大な人口と巨大な経済、中央集計体制のために、中国の振り子は他の国よりも「強い弾みがつくことになる」と述べ、世界全体に影響を及ぼすことを指摘しています。
第13章では、「過去から現在に至るまで、再生可能な資源がまるで鉱物のように"採掘"されてきた」オーストラリアが取り上げられています。著者は、オーストラリアが、「過去と現在の事例研究の掉尾を飾る地」としてふさわしい理由として、
(1)先進国の中で、人口や経済の規模が小さく全体が把握しやすい上、脆弱な環境は将来他の先進国で起こるはずの数々の問題の毒見のようなものであり、高い教育を受けた国民と高い生活水準などを有していること。
(2)将来的な生態系の衰退や社会の崩壊を理解するのに役立つとみなしてきた5つの要因の相互作用を非常に良く冷笑していること。
(3)著者自身がこの国を愛し、長い経験を積み、直接得た知識と共感の両面から語ることができること。
の3点を挙げています。
本章には、かつてのオーストラリア政府が国有地を貸し付ける際に、自生植物の除去を義務付けていたこと、灌漑による塩水化という「多すぎる水」の問題が貴重な農地を失わせ、都市の飲料水に流れ込み、インフラを腐食させていること等が述べられています。
第14章以降は、第4部として将来に向けて書かれています。第14章では、社会が破滅的な決断を下す理由を論じています。まずは、環境問題を予知できない理由として、将来を予見できない場合や、過去の経験が忘れ去られてしまうほど遠い昔の出来事だった場合、誤った類推に基づく理論等を挙げています。また、実際に生まれた問題を感知できない理由としては、文字通り感知できない場合、管理者が遠く離れている場合、触れ幅の大きい上下動に隠された緩やかな傾向の形をとる場合などが挙げられています。最期に、問題を感知していても、解決を試みることにさえ失敗する例として、人間同士の利害の衝突("共有地の悲劇"や"囚人のジレンマ"、"集団行動の論理"など)があることが述べられています。著者は、ある社会が失敗し、ある社会が成功する理由を、環境の違いの他に、「部分的に一個人の特異性に依存」していること等を挙げています。
第15章では、大企業と環境の関係について、業者が東南アジアの樹木を不法に伐採する際の接待の手口や、1993年めに設けられた国際的な非営利組織である森林管理協議会、企業への非難は、その状況をつくった責任を突き詰めると一般市民に戻ってくること(持続不能な伐採によって作られた木製品を買い続けた、等)を忘れてはいけないことなどが述べられています。
最終章では、過去及び現在の社会が直面する深刻な環境問題を、
(1)自然の棲息環境の破壊
(2)野生の食料源である魚介類の枯渇
(3)種の多様性の喪失
(4)土壌浸食
(5)化石燃料の枯渇
(6)水資源の枯渇
(7)野生植物の光合成能力の枯渇
(8)毒性化学物質
(9)外来種のもたらす損失
(10)人間の行動から発生するガス
(11)増え続ける人口
(12)人口増加が与える環境負荷の増加
の12点挙げ、そのどれもが今後数十年のうちに私たちのライフスタイルのくびきになりうると述べています。
著者は、土地のほとんどが海面下にあるオランダが、おなじポルダーに暮らす運命共同体として環境問題に高い関心を持っていることを引き合いに、世界は同じ運命共同体であると述べ、自身を「慎重な楽観主義者」と称し、私たちが選択しなければならないことには、長期的な思考を実践する勇気が必要であること、価値観を捨て去る勇気をともなうことが述べられています。
本書は、環境問題をテーマにしていますが、社会問題全般に通じる問題設定と課題解決の思考方法のヒントが得られるものではないかと思います。
■ 個人的な視点から
本書の上下巻を通して読んで感じるのは、やはりヨーロッパ人が世界中に進出したことのインパクトです。過去の歴史を善悪で断じるつもりは全くありませんが、世界中の人間が住む環境に与えた影響の大きさは驚嘆すべきものです。
同じ著者による『銃・病原菌・鉄』の方は未読なので、ぜひ読んでみたくなります。
■ どんな人にオススメ?
・環境問題を、政治・経済との関係から考えてみたい人。
■ 関連しそうな本
ジャレド・ダイアモンド 『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)』 2006年08月14日
ジャレド ダイアモンド 『銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎』
ブライアン・フェイガン 『古代文明と気候大変動 -人類の運命を変えた二万年史』
ジャレド ダイアモンド 『人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り』
■ 百夜百マンガ
まさかこの人が『ヒカルの碁』や『DEATH NOTE』を描いているとは想像もつきませんでした。ペンネームもちがいますし。デビュー当時は師匠の影響(路線)が強すぎたのかもしれません。
村に初めてできたコンビニを壊しちゃうくだりが笑えました。当時、近所にコンビニがなかった田舎に住んでいる人間にとっては他人事ではありませんでした。
投稿者 tozaki : 2006年08月15日 07:00
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