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2006年08月29日
「みんなの意見」は案外正しい
■ 書籍情報
ジェームズ・スロウィッキー
価格: ¥1680 (税込)
角川書店(2006/1/31)
本書は、有限の合理性しか持っていない個々人の不完全な判断が正しい方向に積み重ねられることで、集団として優れた知力が発揮される、「集団の知恵(集合知)」に関する、「一見するとバラバラだけれど実は根本的には似通っている現象」を、「この世界のありのままの姿」、そして「この世界のあるべき姿」として描いたものです。著者は、集合的な知力に関する問題を、
(1)認知:どこかの時点で必ず明快な答えが存在するタイプの問題。
(2)調整:集団のメンバー全員が同じような行動を取る中、他の人と調整する方法を考え出す。
(3)協調:利己的で、不信感いっぱいの赤の他人同士が一丸になって何かに取り組むようにする。
の3種類の問題に議論を絞っています。
1986年、スペースシャトル・チャレンジャー号が発射74秒後に爆発した際に、チャレンジャー発射に関わる主要企業4社の株は瞬く間に下落し始めますが、爆発から1時間後にはモートン・サイオコール社だけが下落し続け、他の3社の株価は持ち直します。著者はこの現象を、「ほぼ瞬時に株式市場がチャレンジャー爆発の原因はモートン・サイオコールにあり、この惨事が同社のボトムラインに与える影響は深刻だと判断したことを示す確たる証拠」であると述べています。果たして、6ヵ月後に調査委員会が発表した事故原因は、サイオコール製のブースターロケットにあることを発表し、サイオコールの責任が認められます。
著者は、市場が賢い判断を下せたのは、
(1)意見の多様性:それが既知の事実のかなり突拍子もない解釈だとしても、各人が独自の指摘情報を多少なりとも持っている。
(2)独立性:他者の考えに左右されない。
(3)分散性:身近な情報に特化し、それを利用できる。
(4)集約性:個々人の判断を集計して一つの判断に集約するメカニズムの存在。
の4つの賢い集団の特徴の要件を満たしたからだと述べています。著者はその理由を、「多様で、自立した個人から構成される、ある程度の規模の集団に予測や推測をして」もらい、「その集団の回等を均すと一人ひとりの個人が回答を出す過程で犯した間違いが相殺される」ことで、個人の回等が持つ、「情報」と「間違い」の2つの要素のうち、間違いが引き算され、情報が残るからだと解説しています。
著者は集合知の例として、
・ページランクアルゴリズムによって、一番得票数の多いページを検索結果の上位に表示するグーグル。
・あらゆる選挙結果を予想する市場を設けた「アイオワ・エレクトロノック・マーケット(IEM)プロジェクト」
等を示しています。
著者は、「確度の高い予想をする鍵は、一つの方法の完成度を高めることではなく、集団が賢明な判断を下すのに必要な多様性、独立性、分散性という要件を満たすところにある」とこの問題を要約しています。
また、私たちが、「専門化が自分たちを救ってくれる」という考えにしがみつく理由として、
・平均することは妥協であり、レベルを下げることだと直感的に思っている。
・本当の知力は個人に備わっているという私たちの思い込み。
・世の中に予測をしている人がたくさんいれば、そのうち何人かは何年かの間になかなかの成績を収めることになるという「偶然のいたずらにだまされてしまう」。
の3点を挙げています。
著者は、賢明な意思決定に独立性が不可欠である理由として、
(1)人々が犯した間違いが相互に関わりを持たないようにできる。
(2)独立した個人はみんながすでに知っている古い情報とは違う、新しい情報を手に入れている可能性が高い。
という2つの理由を挙げるとともに、独立性は合理性や中立性とは異なり、「どんなに偏っていて非合理でも、その意見が独立していれば集団は愚かにならない」と述べています。
また、情報不足の状態で次から次へと判断が積み重なる「情報カスケード」の問題点として、「ある時点をすぎると自分が持っている指摘情報に関心を払う代わりに、周りの人の行動を真似することが合理的に思える」ことを指摘しています。そして、情報カスケードがうまく働いた例として、規格化したネジの広がりの事例を、悲惨な間違いをもたらした例として、1990年代後半のITバブルの事例を取り上げています。
分散性に関しては、「人々はなぜか分散性は『自然』だとか『自発的』な状態だという考え方に取りつかれている」と指摘し、分散性を機能させることが難しいことを、交通渋滞やCIAの例を挙げて示しています。
この他本書では、リーダーに導かれているように見える椋鳥の群れが、
(1)中心にできるだけ近いところにいるようにする。
(2)隣の個体と2、3羽分の距離を空けて飛ぶようにする。
(3)ほかの個体にぶつからないようにする。
(4)鷹に襲われたら逃げる。
の4つのルールに従っているだけであることや、みんなに税金を負担してもらうためには、
(1)人々がある程度自分の周りの人間を信頼し、だいたいにおいて彼らは正しいことを行い、相応の義務を果たすだろうと信じられること。
(2)政府は税金で得た資金を賢く、国益に適うような形で使ってくれるはずだということ。
(3)国家が悪者を探し出して罰してくれる一方、無辜の市民は罰しないだろうということ。
という3つの信頼が必要であることが述べられています。また、科学者の研究が他の人の情報に依存しているという事実から、
(1)科学の発展のためには、科学者同士が競争しながらもある程度お互いを信頼し合い、自らが公表するデータに関して公平無私な態度で望まなければならない。
(2)科学はつねに新しい知識が流入する共有の知識の泉に依存していると同時に、信頼できる仮説かどうかを選り分ける科学のコミュニティの集合的な知恵に対する暗黙の信頼にも依存している。
という論理的帰結につながっていること等も述べられています。
著者は最後の章で、民主主義に関して、世界中で実施されている討論型世論調査の根底には、「政治的議論は一握りの専門家や政策エリートに限定されるべきではないし、そういった限定も必要でない」という考えがあること、「身近な状況や自己利益が具体的な問題や候補者に関する有権者の意見を形づくるという主張と、それでもなお有権者は職務を全うするのに一番適っている人を選ぶという主張」が矛盾なく両立すること、そして民主主義は、「私たちはどのようにすれば共生できるのか。どのようにすればみんなの利益になるように力を合わせられるのか」という問いに答える力を貸してくれるものであることを述べています。
本書は、多くの人がおぼろげに抱いている民主主義や集合知への素朴な信頼に、自信を与えてくれる一冊ではないかと思います。
■ 個人的な視点から
本書には、社会心理学者のスタンレー・ミルグラムが1980年代に行った実験として、「大学院の学生に地下鉄に乗って、丁寧な口調で、でも単刀直入に座席を譲って欲しいと頼むよう指示した」ことが紹介されています。その結果は、話しかけた人の半数が座席を譲ってくれた、というものでしたが、話しかける勇気を振り絞るのが難しく、「不安だし、緊張して恥ずかしい」という「すさまじい苦痛」と感じることも述べられています。
次にミルグラムは、学生たちに、場外の賭け店や券売場の列に割り込むよう指示します。その結果は、半分の確率で問題なく割り込めたものの、
・割り込んだ人をど突くなど、何らかの行動に出る人・・・10%
・言葉で強く抗議して割り込みを許さない人・・・25%
・「卑劣なヤツだ」とでもいうような敵意に満ちた視線を投げかけた人・・・15%
という大変苛烈な反応を示したことが紹介されています。
ミルグラムといえば、新聞広告で募集した「教師役」の被験者に対し、答えを間違えた「生徒」に電気ショックを与えるよう指示することによって、人間が権威者の指示にどこまで従うかを調べた「アイヒマン実験」というえげつない実験を行った心理学者として知られていますが、心理学のゼミに所属する学生というのも大変そうです。
そういえば、大学時代には、心理学の学生は、視界が上下逆転する特殊な眼鏡をかけて生活する実験をさせられる、という話を聞いたことがありますが、自らが実験台にならなければならない過酷な研究分野なのかもしれません。
■ どんな人にオススメ?
・民主主義に自信を持ちたい人。
■ 関連しそうな本
ジョン・バッテル (著), 中谷 和男 (翻訳) 『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』 2006年06月20日
梅田 望夫 『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』
佐々木 俊尚 『グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する』
嶋田 淑之, 中村 元一 『Google―なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか』 2005年08月18日
R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳) 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』 2005年12月20日
ロバート・アクセルロッド (著), 寺野 隆雄 (翻訳) 『対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』 2005年11月15日
■ 百夜百マンガ
メスを包丁に握り替えたブラックジャックというかタイガーマスクというかは別として、ラーメン屋に置いてあったりしましたが、基本的に人情話なので、料理自体はおいしそうには見えないところがポイントです。
投稿者 tozaki : 2006年08月29日 08:00
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