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2006年09月01日
阪神大震災と経済再建
■ 書籍情報
藤本 建夫
価格: ¥3045 (税込)
勁草書房(1999/09)
本書は、「外見的に復興してくるにつれて人々の記憶から次第に印象が薄れ」た阪神大震災の陰に山積している未解決問題を、産業復興の分野について分析したものです。
第1章「震災からの復興に影さす不況」では、兵庫県経済の復旧・復興が日本経済の不況に大きく影響され、回復は足踏み状態であることを分析しています。鉱工業生産や企業倒産、購買力回復の遅れ、新設住宅着工、公共工事、失業率、通関貿易などの各種指標を分析した結果、もともと兵庫県経済が、「素材型経済のウェイトが高い近畿経済がそうであるように、新たな外的条件の変化に産業構造がうまく対応できないうちに自身に遭遇した」ものであり、「震災を契機として震災前に企業が潜在的に抱えていた矛盾が一挙に噴出した」こと、したがって、「震災以前においてさえ限界的な企業が新たな条件の下で復興することは極めて難しい」ことが述べられています。
第2章「震災からの産業復興の現状と政策的対応」では、神戸商工会議所と産業復興推進機構のアンケート調査を元に、
(1)復興の遅れが突きつけられているのは、観光業界、ケミカルシューズ業界、洋菓子業界など、これまで兵庫県・神戸市の経済構造を特徴づけてきた地場の零細企業であること。
(2)震災復興プロジェクトとして提案されたさまざまなプロジェクトが、神戸の企業家たちにインパクトを与えていない一方で、「集客・観光都市」や「国際都市」を目指せるだけの物理的・自然的準備資産、他都市に対して優位に立てるほどの付加価値に疑問符がつくこと。
が述べられています。
第3章「震災復興と金融問題」では、兵庫県が高いシェアを占める中小企業金融安定化特別保証制度が、「貸し渋り」に悩む中小企業救済という社会政策的側面をもつ一方で、「本来なら保障を利用できないような財務体質の企業までが融資を受けるのを可能にし」、この制度が単なる資金繰りの改善という後ろ向きに使われれば、「保証協会は第2の住専になりかねない」ことが指摘されています。
第5章「雇用の復興と政策課題」では、
(1)雇用は、住宅と並んで市民生活の柱の一つをなしており、雇用の喪失は、単なる所得源泉の喪失ではなく、社会とのつながりとともに生きがいの喪失をも意味する。
(2)雇用の復興は産業経済の復興とともにあるが、日本経済の深刻な景気低迷が経済復興を一層困難にしてきた。
(3)雇用の問題は均一構造ではなく、勤労者の年齢、職業能力、生活地域、要求などの多様性と、雇用を提供する側の業種、地域、規模、性格などの多様性を持つ。
ことが述べられ、震災以前からの問題として、鉄鋼業や造船業などの重厚長大型産業中心で、第3次産業への転換が遅れていたことが、雇用の復興にも影響を及ぼしていることが指摘されています。
神戸市役所出身の高寄昇三氏による第7章「震災復興としての観光開発」では、震災復興経済政策として、最も効果的なプロジェクトは、「短期実現可能性があり、収益性・波及効果に富んだ事業」であり、「神戸経済の復活を、全国にアッピールし、再建への起爆剤的効果をもった事業でなければならない」として、流通・ファッション・観光・コンベンション産業を挙げています。そして、集客能力が疲労・衰退しつつある神戸観光都市の起死回生を狙う、大規模集客装置の建設が焦眉の案件であるとして、テーマ・パークの建設を主張し、「他の復興事業が精力的に展開されているのに、テーマ・パーク事業が宙に浮いているのは、理解に苦しむ」と述べています。著者は、観光都市としてのカンフル注射として、「大都市圏の人口集積の利点」を活かせば「事業的に成功する確率が、きわめて高い」テーマ・パークを建設すべきであると主張しています。
第8章「神戸港の将来展望」では、ハード的には全面復旧した神戸港が、フロー面では回復せず、中でも神戸港の顔とも言うべきコンテナ貨物は、1997年時点で1994年比7割弱、全国6大港中のシェア20%にとどまっていることが指摘されています。また、内外経済情勢の激変として、(1)日本経済の失速、(2)アジア通貨・金融危機の影響、(3)震災以前より直面していた構造問題、の3点を挙げています。そして、震災までは日本第1位のコンテナ扱い実績を持っていた神戸港が3分の2の水準まで落ち込んだ理由として、震災直後の代替港として利用された大阪・横浜・九州各港へ流れた貨物が戻ってこないこと、より深刻な要因として、「国際コンテナ・ハブ港」の生命線である外貿トランシップ貨物が台湾の高雄・基隆港、韓国の釜山港に浸食され、極度の不振に陥っていることを挙げています。著者は、神戸港のハブ機能弱体化の基本要因として、
(1)神戸港へ貨物を接続するための費用があまりにも高かったこと。
(2)設備稼働率の低さや技術革新への未対応による高コスト体質。
(3)日本の6大港に見られる日曜荷役問題。
(4)港湾運送業の価格・参入規制問題
を指摘しています。
本書は、災害の後に必要になるものが、単に災害前の姿に戻そうとする「復旧」ではなく、災害を機に問題を解決する「復興」であることを教えてくれる一冊ではないかと思います。
■ 個人的な視点から
震災の一番の脅威は、もちろん家屋崩壊による圧死や火災ですが、生き残ったとしても、被災者や地域に深刻な影響を及ぼすこと、つまり、震災の被害は何年も長く続くものであることを、本書は教えてくれます。
災害は、「歴史の歯車を一回転前進させる」機能を持つといわれますが、地域や産業の衰退などの社会変化(一回転進んだ歯車)と、人の人生のサイクルとの軋轢(昨日までの生業が時代遅れになるなど)を、目に見える形に顕在化させる力があるのかもしれません。
■ どんな人にオススメ?
・ハード面での復旧後も続く災害の怖さを知りたい人。
■ 関連しそうな本
藤本 建夫 『甲南大学の阪神大震災』
広瀬 弘忠 『人はなぜ逃げおくれるのか―災害の心理学』 2006年08月16日
山村 武彦 『人は皆「自分だけは死なない」と思っている -防災オンチの日本人-』
広瀬 弘忠 『無防備な日本人』
■ 百夜百マンガ
実際に生き残る上でどれほど役に立つかは不明ですが、『日本沈没』に続いてこちらもぜひ映画でリバイバルしてみるとかはどうでしょうか。
投稿者 tozaki : 2006年09月01日 07:00
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