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2006年09月11日
囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論
■ 書籍情報
ウィリアム パウンドストーン
価格: ¥2730 (税込)
青土社(1995/03)
本書は、「ゲーム理論の成立、展開を、フォン・ノイマンという人物の略伝と、冷戦時代の米ソ対立に重ねて物語った読み物」です。フォン・ノイマンは、スタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情」に出てくる車椅子の主人公のモデルの一人と言われている人物で、1944年にモルゲンシュテルンとの共著『ゲームの理論と経済行動』を表した他、現在の「ノイマン型」コンピュータの動作原理の産みの親であるとともに、「マンハッタン計画」にも参加し、原子爆弾の誕生に携わっています。
著者は、軍事戦略の世界で登場することの多い「囚人のジレンマ」を、「我々の時代の、主要な、哲学的かつ科学的問題の一つである。我々の生き残りに関係する問題なのだ」と述べています。
ノイマンの頭脳にまつわる逸話は数知れないほどあります。幼少時には、来客の前で、電話帳を暗記し見せたり、一度読んだだけの本を諳んじて見せるなど、超人的です。
ゲーム理論には、「勝つことだけに関心をもっている完全に論理的なプレーヤー」に関するものであることが述べられています。本書では、二人・ゼロサムゲームにおける合理的な会を決めるために、ノイマンが立てた「ミニマックス原理」をケーキ分割の問題によって解説しています。また、「混合戦略」の解説では、モルゲンシュテルンが気づいた『シャーロック・ホームズの冒険』における矛盾が紹介されています。
ノイマンは、1948年にはランド研究所に身を置くことになります。このランド研究所には、「フォン・ノイマンに続く『ゲーム理論』の大御所」であるジョン・F・ナッシュがコンサルタントとして在籍していました。ナッシュは、ノイマンのミニマックス定理を拡張し、「すべての二人・有限ゲームには、少なくとも一つの均衡点が存在すること」を証明し、ゲーム理論に多大な貢献を果たしています。
同じくランド研究所のメリル・フラッドは、人間の不合理さをゲーム理論を用いて分析した先駆者として紹介されています。フラッドは、「さまざまな興味深いゲーム、ジレンマ、日常生活上の取引を見いだし」、1952年には、「いくつかの実験的ゲーム」と題した記録にまとめています。これらのランドの実験に刺激を受けたアルバート・タッカーは、1950年に、スタンフォード大学の心理学科におけるゲーム理論についての講演で、「ゲーム理論の予備知識がない心理学者なので、ストーリー仕立てで話した方がいいだろう」と思い、今では有名になった「囚人のジレンマ」のストーリーを作り上げたことが紹介されています。
本書は、ゲーム理論の発達を東西冷戦とも重ね合わせています。本書では、1945年には2つだった米国の即時使用可能な完成原爆数が、1950年には「292から688の間」まで増加した様子が紹介されています。ノイマンは晩年には水爆のプロジェクトに携わり、そのためには、膨大な計算が必要になったこと、「水爆を作るにはたぶん、人類がこれまでにした計算を全部合計したよりも、もっとたくさんの基本的な演算をしなければならないだろう」というノイマンの言葉が紹介されています。そして、ノイマンは骨ガンに侵されていることが明らかになります。この原因は、ビキニ環礁で立ち会った原爆実験で浴びた放射能ではないかと言われていることが述べられています。死が近づいたノイマンは、ひどいうつ病や痴呆に悩まされ、1957年2月8日にこの世を去ります。
本書はこの他、ジェームズ・ディーンの映画で有名になった「チキン・ゲーム」の解説や、キディ・ジェノヴィーズ殺人事件で知られる「志願者のジレンマ」、「シカ狩りゲームのジレンマ」等の解説の他、ゲーム理論の生物学、社会学などへの応用、アクセルロッドの繰り返し囚人のジレンマの実験等が解説されています。
本書は、ゲーム理論の概説書、歴史書としてはもちろん、フォン・ノイマンをはじめとする登場人物たちの評伝、米ソ冷戦の緊張など、当時の社会背景と絡めた解説とによって、読みやすくも読み応えのある一冊になっているのではないかと思います。
■ 個人的な視点から
著者は、ノイマンを始めとした「マンハッタン計画」に参加した科学者にハンガリー出身者が多かった(「火星人集団」と呼ばれた)ことについて、「中央ヨーロッパのこの地域の社会に外部から加えられた圧力、個人の潜在意識の中にある極度の不安感、及び傑出したものを生み出さなければ、絶滅に瀕するという必然性によるのだ」というウタニスラフ・ウラムの言葉を紹介しています。
ハンガリー出身の数学者といえば、「エルデシュ数」で知られるポール・エルデシュが知られていますが、彼はその奇行ぶり(デパートの袋を抱えて世界中の数学者の家をアポなしで渡り歩く)でも知られています。
■ どんな人にオススメ?
・ゲーム理論の産みの親である「天才」の姿に触れてみたい人。
■ 関連しそうな本
アビナッシュ ディキシット (著), バリー ネイルバフ (著), 菅野 隆 (翻訳), 嶋津 祐一 (翻訳) 『戦略的思考とは何か―エール大学式「ゲーム理論」の発想法』 2005年01月31日
R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳) 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』 2005年12月20日
ノーマン マクレイ 『フォン・ノイマンの生涯』
鈴木 光男 『ゲーム理論の世界』 2005年08月02日
中山 幹夫, 船木 由喜彦, 武藤 滋夫 (編集) 『ゲーム理論で解く』
梶井 厚志 『戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する』 2005年02月20日
■ 百夜百マンガ
キャッシュカードで全額引き出しておいた通帳と印鑑で取引する、という騙しが登場しますが、ATMでの引き出しに制限のある現在ではなかなか難しくなってます。
投稿者 tozaki : 2006年09月11日 07:00
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