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2006年09月26日

利己的な遺伝子

■ 書籍情報

利己的な遺伝子   【利己的な遺伝子】

  リチャード・ドーキンス
  価格: ¥2940 (税込)
  紀伊國屋書店増補新装版版 (2006/5/1)

 本書は、われわれが生物が、「生存機械――遺伝子という名の利己的な分子を保存するべく盲目的にプログラムされたロボット機械」だという「小説よりも奇なり」な説によって、生物の様々な複雑な行動、親と子、雄と雌との間の争いや、利他的行動などを説明しているものです。著者は、本書の目的を、「遺伝子の利己性と私が呼んでいる基本法側によって、個体の利己主義と個体の利他主義がいかに説明されるかを示」すことにあると述べています。
 第1章「人はなぜいるのか」では、本書が「何でないか」について、
(1)進化にもとづいた道徳を主張しようというのではない。
(2)「氏か育ちか」論争における何らかの立場を主張するものではない。
(3)人間の行動やその他の動物の詳細な行動を記載したものではない。
とした上で、本書で用いられる利他主義と利己主義という言葉が、「行動上のものであって、主観的なものではない」ことを強調しています。そして、「淘汰の、したがって自己利益の基本単位が、種でも、集団でも、厳密には個体でも」なく、「遺伝の単位、遺伝子である」ことを論じるつもりであると述べています。
 第2章「自己複製子」では、ダーウィンの学説を、「進化自体が始まる以前の時期から始めて、従来のものよりもっと一般的な方法でこの偉大な学説を説明してみようと思う」として、3、40億年前に海洋を構成していたと考える「原子のスープ」の中に、「自らの複製を作れるという驚くべき特性を」そなえた「とびきりきわだった分子が生じた」と述べ、それを「自己複製子」と名づけています。そして、この複製過程における重要な特性として、「この過程が完全では」なく、「誤りがおこることがある」ことに着目し、誤ったコピーがひろまっていくにつれ、原子のスープが、「祖先」は同じだが、タイプを異にしたいくつかの変種自己複製分子で占められるようになったと述べています。そして、この分子の中で、「安定した分子、すなわち、個々の分子が長時間存続するか、複製が早いか、あるいは複製が正確か、いずれかの点で安定した分子によって占められるようになったに違いない」と推測し、これが、「生物学者が生物について進化と呼んでいる過程とかわらない」ものであり、そのメカニズムは「自然淘汰」であると述べています。
 第3章「不滅のコイル」では、「あらゆる動植物、バクテリア、ウイルス」を含む「われわれ」が、同一種類の自己複製子、すなわちDNAとよばれる分子のための生存機械」であることが述べられています。そして、DNA分子が行っている、
(1)複製
(2)タンパク質製造の間接的支配
の2つの重要なことを解説しています。また、現代の自己複製子の特徴として、「非常に群居性が強い」点を挙げ、「一つの生存機械はたった一個のではなくて何十万もの遺伝子を含んだ一つの乗り物(ヴィークル)である」ことが強調されています。
 さらに、本書のタイトルにも使われている「遺伝子」について、G.C.ウィリアムズの定義として「遺伝子は、自然淘汰の単位として役立つだけの長い世代にわたって続きうる染色体物質の一部」という定義を引用し、なかでも、「遺伝子がその定義上、コピーの形でほぼ不滅」という点を強調しています。
 第4章「遺伝子機械」では、「生存機械の行動のもっともいちじるしい特性の一つ」として、「人間の意図的な行動によく似」た、「そのまぎれもない合目的性」を挙げています。また、「たとえ遺伝子から行動に至る、胚発生上の原因の科学的な連鎖がどのようなものかをまったく知らなくてさえ、『なになに行動のための遺伝子』といういい方をして、いっこうにかまわない」こと、「遺伝子たちがその共有の生存機械の行動に『協力しあって』作用をおよぼす」ことを指摘しています。
 第5章「攻撃」では、「動物たちがあらゆる機会をとらえて自種のライバルを殺すことに全力を尽くしたりしないのは、なぜなのだろう」という問いに対し、J.メイナード=スミスの「進化的に安定な戦略(evolutionarily stable strategy)」という概念を紹介し、タカ派型とハト派型の2種類の戦略しかないと仮定した例による解説を行っています。
 第7章「家族計画」では、1個の生存機械たる個体が、「新たな個体を生み出すこと」(=子作り)と「現存個体に保護を加えること」(=子育て)というきわめて異質な2種類の決断、すなわち「この子を育てようか、それとも別に一匹産み落とそうか」という決断を下さなければならないという問題を取り上げています。
 第8章「世代間の争い」では、子が食物を得るために行う悪魔的な恐喝の例として、「キツネサン、キツネサン、ぼくを食べにおいで」と「捕食者をわざわざ巣にひきつけるような仕方で、泣きわめく」ことがあり、それを止めさせるために親が取りうる唯一の手段は食物を与えることしかない、という事例を紹介しています。また、カッコウと同じように多種の巣に托卵するミツオシエの雛が、先端のとがった嘴で羽化直後の他の乳兄弟を滅多切りにしてしまう例や、カッコウの雛が他の卵を巣から放り出す例を紹介しています。
 第9章「雄と雌の争い」では、「もし配偶者の一方が、個々の子供に対する貴重な資源の投資量を、公平な割当量以下で済ますことができたとすると、当の配偶者にとってこれは好都合となる」理由として、「別の配偶者との子作りに回せる分が増え、したがって、自分の遺伝子をより多くの子孫に伝えられることになるからである」と述べています。そして、雄と雌がそれぞれどれくらいずつ生まれるかという問題や、新しい妻をめとった直後に継子の可能性のある子供をすべて殺してしまう雄の例やブルース効果などを解説しています。また、家庭第一の雄を選ぶ戦略とたくましい雄を選ぶ戦略の2つの戦略のうち、家庭第一の雄を選ぶ戦略の例として、「気むずかしくはにかみがちな雌」を装い、長い求愛行動あるいは婚約期間を要求する例、雄の巣作りが完成するまでは交尾を拒否する例を紹介しています。
 第10章「ぼくの背中を掻いておくれ、お返しに背中をふみつけてやろう」では、「ぼくの背中を掻いておくれ、ぼくは君の背中を掻いてあげる」という「互恵的利他主義」の解説の他、アリの仲間に奴隷を使役する種類や定住的に食物(菌類)の養殖を行っている事例等を紹介しています。
 第11章「ミーム」では、人類をめぐる特異性を、「文化」という言葉に要約できるとしたうえで、「文化伝達の単位、あるいは模倣の単位という概念を伝える名詞」として、「ミーム(meme)」という造語を解説しています。この具体例としては、「人々に宗教への恭順を強いる上で極めて有効だった教義の一つ」である「地獄の業火という脅迫」を紹介した上で、「われわれが死後に残せるもの」が遺伝子とミームであり、遺伝子機械としてのわれわれは、3世代も経てば忘れられてしまうが、「もしわれわれが世界の文化に何か寄与することができれば」、「それらは、我々の遺伝子が共通の遺伝子プールの中に解消し去ったのちも、長く、変わらずに生き続けるかもしれない」と述べています。
 第12章「気のいい奴が一番になる」では、「自分と同じ種の他のメンバーたちを助け、自らの犠牲において、彼らの遺伝子を次世代に伝えさせるような個体」である「気のいい奴(ナイス・ガイ)」が、一番になることがありうることを、アクセルロッドがコンピュータ・プログラムのトーナメントを行った、繰り返し囚人のジレンマの実験を引用して解説しています。この実験では、「素朴な試し屋」や「後悔する試し屋」などの「意地悪(nasty)」な戦略よりも、「やられたらやり返す(tit for tat)」などの「気がいい(nice)」な戦略カテゴリーの方が成功すること、また、古い悪事をすぐに見逃す「寛容(forgiving)」戦略が重要であることが示されています。そして、「やられたらやり返す」に代表される「幅広い他の戦略に対してうまくゆく戦略」が「頑健(robust)」と名づけられたこと、これらを説明する「集団的に安定的な戦略」という表現が作られたことが紹介され、「利己的遺伝子の基本法側から逸脱することなく、基本的に利己的な世界においてさえ、協力や相互扶助がいかにして栄えうるのか」がこの実験によって示されていることが述べられています。
 第13章「遺伝子の長い腕」では、遺伝子が影響を及ぼす範囲は、その個体の形状だけに限らず、石を積み上げたトビケラの巣や、寄生生物にとっての宿主にも影響を及ぼすことが述べられ、「動物の行動は、それらの遺伝子がその行動を行っている当の動物の体の内部にたまたまあってもなくても、その行動の『ための』遺伝子の生存を最大にする傾向をもつ」ことを、「自己複製子」と「ヴィークル」という用語によって解説されています。
 本書は、生物学の記念碑的な著作であることはもちろん、生物のカテゴリーの中の一つの種であるわれわれの社会のあり方を考える上で多くの示唆を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は読んだのは6年ぶりくらいでしたが、当時読んだ時にはちんぷんかんぷんだったゲーム理論関係の解説が、本書の後にゲーム理論関係の本を読んだことで、以前よりはすっと頭に入ってきたような気がします。
 ここから得られる教訓は、
・『A』という本を読んで、その参考文献として『B』や『C』を読み、その後もう一度『A』を読むという読み方をすると理解が深まること。
・難しくて2~3割しか理解できない、と思った本でも、とにかく最後まで字面だけでも読み通すことで、関連する文献や再読した時の理解が深まること。
・本を読むのに必ずしも難易度の段階や順序にこだわる必要はなく、必要ならば再度読み直せばいいこと。
等ではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・我々の行動の仕組みを知りたい人。


■ 関連しそうな本

 ジョン・メイナード スミス (著), 巌佐 庸, 原田 祐子 (翻訳) 『進化遺伝学』
 ロバート・アクセルロッド (著), 寺野 隆雄 (翻訳) 『対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』 2005年11月15日
 ロバート・アクセルロッド, マイケル・D・コーエン (著), 高木 晴夫, 寺野 隆雄 (翻訳) 『複雑系組織論』 2005年11月29日
 R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳) 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』 2005年12月20日
 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 ニコラス ハンフリー (著), 垂水 雄二 (翻訳) 『喪失と獲得―進化心理学から見た心と体』 2006年4月15日


■ 百夜百マンガ

レベルE【レベルE 】

 『幽☆遊☆白書』では、ペン入れ前の「白い」連載で名をはせた作者ですが、この作品では、アシスタントを使わない、ということで、少年ジャンプにあるまじき月1連載で才能を発揮しています。

投稿者 tozaki : 2006年09月26日 07:00

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