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2006年10月15日
妻を帽子とまちがえた男
■ 書籍情報
オリバー サックス
価格: ¥2982 (税込)
晶文社(1992/02)
本書は、神経科医である著者が、「病気と人々との両方に、同じように関心を」持つ「自然科学者と医者との両方」の立場から、「アイデンティティの神経学」とでも言うべき、自らの患者との経験をまとめたものです。
本書のタイトルにもなっている第1章「妻を帽子とまちがえた男」では、抽象的な形や顔の特徴や写真の色彩を見ることはできても、ものを全体として、直感的に「見る」能力を失った音楽教師の男性が紹介されています。著者は、帽子を探し始めた彼が、「手をのばし、彼の妻の頭をつかまえ、持ちあげてかぶろうとした。妻と帽子とまちがえていた」ことにびっくりしています。そして、「われわれはものに接したとき、それが他者との関係においてどうあるかということを、直感的に『見る』ので」あり、彼には、「この『見る』能力、他者とのかかわりを把握する能力」が欠けていると分析しています。
第2章「ただよう船乗り」では、19歳の若い時代から先の記憶を失った、コルサコフ症候群の49歳の男性の症例を紹介しています。そして、彼が、ミサの精神とピッタリ一体になって、一心不乱の態度をとっているのを見て、「芸術や聖体拝領や魂のふれあいなどによって人間らしさは回復されうる」と述べています。
第3章「からだのないクリスチーナ」では、人間には五感の他に、6番目の隠れた感覚として、「体が自分固有のもの、自分のものである」と感じる「固有感覚」があることを述べ、感覚神経の炎症によって、体の感覚である「視覚、平衡器官、固有感覚」のうち固有感覚を失ったクリスチーナが、視覚によるフィードバックによって歩くことを習得し、日常生活を送れるようになれたものの、「脊髄を抜かれた」と感じている例を紹介しています。
第4章「ベッドから落ちた男」では、自分の足を自分のものとして感じることができなくなってしまい、自分のベッドの中に、「切断された人間の足」があると感じてベッドから落ちてしまう男の話が紹介されています。また、第5章「マドレーヌの手」では、60年間、自分自身の手を認識できなかった盲目の女性が、粘土で人の顔や体を造る盲目彫刻家として有名になった例が紹介されています。
第6章「幻の足」では、逆に、体の一部分を失った肢切断患者が、切断された部分がまだあるように感じる「ファントム」(幻影肢または幻肢)の症例が紹介されています。この幻影肢の有無は義肢の使用にとって重要なもので、「いわゆる身体イメージというものがその義足の部分にぴたりとおさまって、一体化したように感じられなければ、満足に歩くことはできない」ことが述べられています。一方で、痛みなどのような「悪い」ファントムがあった場合には、「それを追い出すのに一番大事なことは、『使う』こと」ではないかと述べています。
第8章「右向け、右!」では、自分の体を含めて「左」という概念をまったく失ってしまい、左側のものを見るには右回りに一周し、顔の半分にしか化粧しない片側失認の女性の症例を紹介しています。著者は、彼女に、ビデオで撮影した彼女の姿を見せたところ、彼女にとって存在していない体の左半分を見た彼女にとっては、「不気味なことこの上なかった」ため、「『これを片付けて!』と、悲しそうに当惑したようす」で叫んだことが述べられています。
第9章「大統領の演説」では、言葉を理解できない失語症の患者が「元俳優の大統領」の演説をテレビで見て笑い出した例を紹介し、「自然な発話とは単語のみで成り立っているのではなく」、「話されるときには必ず調子がつき、言葉をしのぐ力を持った表情がつく」こと、そして、失語症患者には嘘をついても、言葉によって欺かれることがなく、すぐに見破られてしまうことを述べています。
第15章「追想」では、真夜中に突然、アイルランドの子供時代の歌が流れ続け始めた88歳の婦人の症例が紹介されています。そして、この原因が右側頭葉にできた小さな血栓によって、「大脳皮質にある音楽の記憶の痕跡がとつぜん活発になったせい」出会ったことが述べられています。また、第16章の「おさえがたき郷愁」では、著者が「ふしぎな心のタイムマシン」と呼ぶLドーパで覚醒されたてんかんや偏頭痛の患者に「追想」が起きることが多いと述べています。
第19章「殺人の悪夢」では、薬の作用中の側頭葉発作によって恋人を殺してしまった男が、交通事故をきっかけに蘇った殺人の記憶に悩まされる症例が紹介されています。
第23章「双子の兄弟」では、「過去のどの日でも未来のどの日でも、それが何曜日であるか即座に答えられる」無意識のアルゴリズムを持った「知恵遅れの天才(イディオ・サバン)」の双子を紹介し、その鍵を「視覚化」にあるらしいことを述べています。
本書は、『脳のなかの幽霊』など、類書が多数出版されるきっかけとなったベストセラーだけに、各章も読みやすい一冊です。
■ 個人的な視点から
著者は本書のほかにも多数の著書を著していますが、他の様々な書籍でもサックス教授は登場しています。単に著作が引用されるのみならず、『言葉のない世界に生きた男』では、著名なサックス教授に相談するエピソードが掲載されています。
日本ではそれほど著名ではありませんが、アメリカでは有名人のようです。
■ どんな人にオススメ?
・自分でもたまに間違えそうだと思う人。
■ 関連しそうな本
オリヴァー サックス (著), 春日井 晶子 (翻訳) 『レナードの朝』
オリヴァー サックス (著), 吉田 利子 (翻訳) 『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』 2006年03月26日
V.S. ラマチャンドラン, サンドラ ブレイクスリー (著), 山下 篤子 (翻訳) 『脳のなかの幽霊』 2006年09月03日
前野 隆司 『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』
ニコラス ハンフリー (著), 垂水 雄二 (翻訳) 『喪失と獲得―進化心理学から見た心と体』 2006年4月15日
スーザン シャラー 『言葉のない世界に生きた男』
■ 百夜百音
【Jamiroquai】 Jamiroquai オリジナル盤発売: 1993
グループ名の由来が「Jam+Iroquai」というのは有名ですが、同じネイティブアメリカンでも「ハゲに朗報」のシャンプーの代名詞にされてしまったほうは可哀想だと思います。
『HIGH TIMES : SINGLES 1992-2006』
投稿者 tozaki : 2006年10月15日 21:00
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