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2006年10月16日
民主化するイノベーションの時代
■ 書籍情報
エリック・フォン・ヒッペル (著), サイコム・インターナショナル (翻訳)
価格: ¥2940 (税込)
ファーストプレス(2005/12/9)
本書は、「製品やサービスの作り手であるメーカー(製造業者)ではなく、受け手であるユーザー自身の、イノベーションを起こす能力と環境が向上している状態」である「イノベーションの民主化」について、このイノベーション・プロセスがどう機能するのかを詳細に説明し、ユーザーによるイノベーションがメーカーにとっての重要な補完機能・フィードバックとなるかについて論じているものです。
第2章「リード・ユーザーによる製品開発」では、「斬新な製品とサービスはメーカーによって開発されるものだ」という考え方が、一般にも学問の世界でも根強く信じられてきたにもかかわらず、「現在はユーザー企業と個人ユーザーの双方による製品開発とその改良が頻繁に起こり、大きく広がり、しかも重要性を増している」という事実について論じています。
著者は、「リード・ユーザー」を、
(1)重要な市場動向の最先端に位置している。
(2)自分のニーズに対する解決策の獲得による高い効用がイノベーションを起こす。
という2つの特徴を持ったユーザー母集団の構成員として定義しています。
第3章「多くのユーザーがカスタム製品を望む理由」では、ユーザー・ニーズの多様性として、「もっとも望ましい製品の特徴」を、「個々のユーザーや企業に特有のものだ」とした上で、カスタム製品への支払い意欲について検討しています。
第4章「自分で作るか、購入するか」では、この問題を考える上で、「ユーザーとメーカーの間に発生する取引コストと『情報の非対称性』の両方を考慮する必要がある」と述べ、大きな影響を与えるものとして、
(1)望ましい解決策とはそもそも何なのかに関して、ユーザーとメーカー間に存在する見解の相違。
(2)ユーザー側のイノベーターとメーカー側のイノベーターとの間に発生するイノベーションの品質表示(信号)に関する要求度の違い。
(3)ユーザー側、メーカー側それぞれのイノベーターに課せられる法的要件の差。
の3点を挙げ、このうち(1)と(2)はエージェンシー・コストに関わりがあると述べています。
また、その事例として、オープン・ソフトウエア・プロジェクトに参加するユーザーが、「必要なイノベーションの一部分を自分で作り出し、それを無料で公開することは、結局、自分にとってプラスに作用することになる」ことを紹介しています。そして、個人のユーザー・イノベーターが、開発した製品から以外にも、「製品を開発したり修正したりするプロセスからも利益を得ているかぎり」、製品自体の期待利益が低くてもイノベーションを行う可能性が高いことを示しています。
第5章「ユーザーによる低コスト・イノベーションのニッチ市場」では、試行錯誤による問題解決のフェーズを、
(1)問題解決者は、自分の知識と理解を総動員して問題を把握し、可能性のありそうなソリューションを着想する。
(2)思いついたソリューションの有形・無形の試作品と、それを使用する環境を構築する。
(3)試しに作ってみたソリューションを稼動させ、何が起こるかを観察する。
(4)結果を分析し、実験で起こったことを理解して、獲得した「エラー情報」を評価する。
の4段階に分けて解説しています。そして、「もし情報がある場所から別の場所へと何のコストもかけずに移転できるのであれば、問題解決者が利用できる情報の質は、それがどこに存在するかという事実からは無関係となる」が、実際には、情報の移転にコストがかかり、中でも、「製品やサービスの設計者が求める情報」は、(「ある所与の単位の情報をその情報の受け手に利用可能な形で、ある特定の場所へ移転するのに必要な(限界)費用」と定義される)「粘着性の高い」情報であることが解説されています。さらに、ときには情報の粘着性がとてつもなく高くなる理由として、
(1)多くの技術的知識は、特定かつ特殊なものを対象としている。
(2)問題解決以前にはどの項目が重要なのかがわからない。
の2点を挙げています。
著者は、この情報の粘着性が、「情報の非対称性」を生み出し、この解消は容易ではなく、相当なコストがかかると述べ、「結果的に、それぞれのイノベーターは、自らがすでに保有している粘着性の高い情報に依存したイノベーションを開発する傾向が強い」と解説しています。
第6章「ユーザーは、なぜイノベーションを『無料公開』するのか」では、イノベーションの無料公開が頻繁に行われている事例を紹介し、「ユーザーにとってみると、無料公開がイノベーションからの利益を増大させる最善の現実的手段となりうることが少なくない」点を指摘しています。著者は、ユーザー・イノベーターである企業や個人が、イノベーションの無料公開を行ったとしても、現実に犠牲にしなければならない利益はほとんどないが、無料公開されて他者に採用されたイノベーションは、インフォーマル・スタンダードになりうるものであり、この公開情報がイノベーターの固有の条件に合わせて設計されていれば、イノベーターにとって「永久的な優位性の源泉を作り出すことになる」ことが述べられています。
第7章「イノベーション・コミュニティ」では、イノベーターたちが、「異なる2つのコミュニティに帰属している事実」から、「以前までは共通点のなかった要素を統合している」ことを紹介しています。また、1人1人は少ないイノベーションしか提供できないユーザーたちが集団で提供する「無料で開放されたイノベーション・コモンズ(共有化されたイノベーション)」の実用的価値が、その情報への容易なアクセス方法が施されると上昇することが、「イノベーション・コミュニティ」の重要な機能の一つであると述べています。
第8章「ユーザー・イノベーションへの適合政策」では、ユーザー・イノベーションがユーザーによって開発されたイノベーションが、「メーカーの持つユーザーのニーズに関する情報を改善し、新製品導入の成功率を向上させる」と述べるとともに、イノベーション関連情報などのリソースが、「多数の所有者がそれぞれ他者を排除する権利を有し、だれもそれを使用する効果的な特権を持たないときには十分に活用されない傾向がある」という「反共有地の悲劇」に言及しています。
第9章「民主化するイノベーション」では、ユーザー主体のイノベーションでメーカーが果たす役割として、
(1)メーカーはユーザーが開発したイノベーションを製品化して一般販売したり、特定ユーザーのためにカスタム生産を行うことができるか。
(2)メーカーは製品設計用のツールキットや、ユーザーによるイノベーション関連作業を容易にする「製品プラットフォーム」を販売できるか。
(3)メーカーはユーザーが開発したイノベーションを補完する製品かサービスを販売できるか。
の3つの可能性について多くの実験が行われていることを述べています。
第10章「適用例:リード・ユーザー・イノベーションを追え!」では、「イノベーターからより先進的なイノベーターへのネットワーク」である「ピラミッディング」が、社会学者が用いる「雪だるま方式」の修正版であることを述べています。
第11章「適用例:ユーザー・イノベーションとカスタム設計のためのツールキット」では、「ユーザーがイノベーションを安く、迅速に行える環境」を整えることによって、イノベーター予備軍が直面する条件そのものを変更することを指摘しています。そして、ツールキットの機能を、「製品開発とサービス開発の業務を粘着性の高い情報と同一場所に配置して行うこと」と述べ、その例として、「ユーザーが操作する」財務用表計算ソフトを挙げています。また、高品質なツールキットの特徴として、
(1)ユーザーは、試行錯誤を通じて学びながら次に進むという完成したサイクルをたどることができる。
(2)ユーザーが作り出したい設計内容を実現できるソリューション・スペースが提供される。
(3)専門的な訓練をほとんど受けることなく操作できる、使い勝手のよさを提供する。
(4)ユーザーがカスタム設計に使うことのできる標準的モジュールのライブラリーが含まれている。
(5)ユーザーによって設計されたカスタム製品やサービスを、メーカーが手を加えることなく生産設備で生産することができる。
の5点を挙げています。
第12章「ユーザー・イノベーションと他の現象や分野との関連性」では、イノベーション・コミュニティにかなり類似したものとして、「コモンズに立脚した情報コミュニティやネットワーク」が、
(1)一般には知られていない情報を持った人々がいる。
(2)自分が知っていることを無料公開してもよいと考える人々がいる。
(3)情報公開者の手から離れて、公開された情報を利用する人々がいる。
の条件が満たされたときに発生すると述べています。
本書は、現在起こっているイノベーションの変容を、オープンソース・ソフトウェアなどの特定の分野や理論からではなく、あくまで企業研究の事実から出発して解説し、的確に捉えた一冊ではないかと思います。
■ 個人的な視点から
本書の表紙には、なにやら稲妻のような図があしらわれていますが、これは、著者の父親のアーサー・フォン・ヒッペル(1989-2003)が1940年にMITで撮影したものです。名前に貴族を表す「von」とあるように、彼はドイツ人の科学者で、妻(ノーベル物理学賞受賞者であるジェイムス・フランクの娘)がユダヤ人であったために、ナチスの台頭を嫌い、各国を転々としたのち、アメリカに落ち着いたそうです。
Wikipediaには、彼の100歳の時の写真が掲載されていますが、大変元気そうです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Arthur_R._von_Hippel
■ どんな人にオススメ?
・イノベーションにおけるユーザーの重要性を確認したい人。
■ 関連しそうな本
クレイトン・クリステンセン (著), 玉田 俊平太, 伊豆原 弓(翻訳) 『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』 2005年10月17日
クレイトン・クリステンセン, マイケル・レイナー (著), 玉田 俊平太, 櫻井 祐子 (翻訳) 『イノベーションへの解―利益ある成長に向けて』 2005年09月29日
キム・クラーク, カーリス・ボールドウィン (著), 安藤 晴彦 (翻訳) 『デザイン・ルール―モジュール化パワー』
ジョー ティッド, キース パビット, ジョン ベサント (著),後藤 晃, 鈴木 潤 (翻訳) 『イノベーションの経営学―技術・市場・組織の統合的マネジメント』 2006年03月17日
伊丹 敬之, 岡崎 哲二, 沼上 幹, 藤本 隆宏, 伊藤 秀史 (編集) 『戦略とイノベーション リーディングス日本の企業システム第2期』 2006年05月01日
ヘンリー チェスブロウ (著), 大前 恵一朗 (翻訳) 『OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて』 2006年06月12日
■ 百夜百マンガ
演技と並行して長く続く登場人物のモノローグ部分が、やたらに長い上に熱いのが特徴です。そういえば、少年マガジンにも勝新みたいな人が出てくる役者マンガがありましたが名前が思い出せません。
投稿者 tozaki : 2006年10月16日 07:00
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コメント
vonが貴族ならBon JoviのBonは?と思って調べたら,本名はJohn Francis Bongioviだったです…
投稿者 ユキエ : 2006年10月17日 05:27

【アクター 】