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2006年11月18日
数量化革命
■ 書籍情報
アルフレッド・W・クロスビー (著), 小沢 千重子 (翻訳)
価格: ¥3360 (税込)
紀伊国屋書店(2003/10/29)
本書は、「ヨーロッパ帝国主義が驚くべき成功をおさめた原因」の一つとして、中世後期からルネサンス期にかけて西ヨーロッパに出現した新しい現実世界のモデル、すなわち、「事物を数量的に把握するモデル」を解説しているものです。著者は、数量化革命を象徴するものとして、時間と空間、数学を取り上げ、また、この革命の十分条件として、楽譜、絵画、複式簿記に象徴される視覚化を解説しています。
第1章「数量化するということ」では、9~10世紀には西ヨーロッパは、「宦官、女や子どもの奴隷、錦織り、ビーバーの皮、にかわ、クロテン、刀剣」などの供給地でしかなく、「呑みこみが悪く、話しぶりも鈍重で、『北に行けば行くほど、愚かしく粗野で残酷になる』」とムスリムから評されていたことを紹介しています。そして、プラトンとアリストテレスに代表される古代の人々に関して、
(1)計量という概念を現代人より春化に狭く定義し、往々にして事物を計量する代わりに、もっと広範に適用できる評価法、すなわち定性的な叙述と分析を有用であるとみなしていたこと。
(2)現代の私たちが受け入れている、数学と物質世界は密接かつ直接的に結びついているという前提条件などが、自明の真理というより驚嘆すべきものとして多くの賢人たちから疑念を表明されてきたこと。
の2点を強調しています。
著者は、西暦1300年前後の革命に関して、
(1)いかにして
(2)なぜ
(3)いつ
の3つの疑問を提示し、(1)が本書の重大なテーマであり、(2)が本書後半のテーマになり、(3)については、1275年から1325年までの50年に絞り込むことができると述べています。
第2章「『敬うべきモデル』――旧来の世界像」では、「中世とルネサンス期の西ヨーロッパ人の大部分が正しいものとして受け入れていた世界像」を「敬うべきモデル」と名づけ、
(1)時間:彼らは時系列的な因果関係という明確な概念を有さず、時間の抽象的な価値を重視し、時間の正確さには無頓着だった。
(2)空間:宇宙は金魚鉢のような有限な球状の空間で、質的な差異のある階層構造をなしていると見なされていた。
(3)数学:ローマ数字を用い、計算には手と指で数える方法と計算盤を使用し、数自身がある種の特性を帯びていた。
という3つの側面から論じています。
第3章「『数量化』の加速」では、中世の西ヨーロッパ社会に芽生えた、「現実世界を従来のように定性的に認知するのではなく、数量的に把握しようとする機運」を論じています。著者は、西ヨーロッパ人が、「過去から受け継いだ知識と彼らが現在体験している――しばしば商業に関連した――事実に基づいて、現実世界を新しい見方で見るようになり始めた」と述べ、「正確さと物理的現象の数量的把握、そして数学を、はるかに重視している」この世界像を、「新しいモデル」と名づけています。
そして、「スコラ学者」と総称される大学の哲学教師と神学教師が、「書物の内容を小分けにして示す目次というシステム」などを開発し、その「ものごとを系統立てる技術」、すなわち、「緻密な体系化、論理、正確な語法を極限までおしすすめ」たものが数学であることが述べられています。また、「事物を数量的に把握しようとする傾向」を生んだ一つの原因が、スコラ学者の「事物の性質を叙述する適切な表現方法」の模索の過程である一方、もう一つの原因が「金(かね)」であることが述べられています。著者は、「価格はあらゆるものを数量化した」として、「西ヨーロッパ人ほど金貨や銀貨に心を奪われ、その重さと純度を気づかい、現物の代替物である為替手形その他の証書類について策略をめぐらせた人々は、かつて存在しなかった」と述べています。
第4章「時間――機械時計と暦」では、機械時計が、「旧来の装置を改良ないし調整したもの」ではなく、「その主要なメカニズムにおいて、真に独創的な発明品」であったことが述べられています。そして、「時間を滑らかに流れる連続体とみなすのをやめて、ある長さを持った瞬間が連続したものとみなし始める」ことによって、「時間をいかに計るかという問題の解決が可能」になったと述べています。
第5章「空間――地図・海図と天文学」では、コペルニクス革命の影響を、「地球を宇宙の中心から引きずり下ろした」ためだけでなく、「空間そのものの量と質について新たな概念を提示した」ためであると述べています。そして、「敬うべきモデル」が提示した空間概念は、16世紀末までに粉砕され、ニュートンが、「その本質からして、外部のいかなるものともかかわりを持たず、常に同じで、不動のままである」と定義した「絶対空間」が出現したことが述べられています。
第6章「数学」では、「事物を数学的に考察し、物質的な現実世界の研究に数学を応用するという姿勢がすみやかに進展するための舞台装置」がかなりの程度整っていた一方で、「数学そのものがすみやかに進歩するための舞台装置」である数字については、十分に発達していなかったことを指摘し、インド・アラビア数字がローマ数字に取って代わったことを、「いかに時間を要したとはいえ、きわめて重大な変化の一つだった」と述べています。
第7章「視覚化するということ」では、「数量的な計測や処理に移行するプロセス」が私たちの想像するように「純粋に合理的には進まなかった」と述べ、「視覚が重視されるようになったこと」を、「数量的アプローチの急激な進展をもたらした」「十分条件」となる「マッチを擦るという行為」と述べています。そして、「作曲家、画家、会計係」が、「巧みなわざをもって、現実の素材を視覚的かつ数量的に表現することに全力を注いだ」と述べています。
第8章「音楽」では、音楽を、「時の流れとともに進行する物理的に計測可能な現象」として上で、「あらゆる社会と時代を評価する一つの尺度となる」と述べています。また、「あらゆる音の相対的な音高を合理的に書き記せる」ことができる「譜表」の発明を、「ヨーロッパで最初に作成されたグラフ」と説明しています。また、13世紀初頭から14世紀にかけて、西ヨーロッパの音楽を新たな道に導いた2つの要因として、
(1)ポリフォニー
(2)アリストテレスの全著作の翻訳の到来
の2点を挙げています。
第9章「絵画」では、中世の絵画では、1枚の絵に、「明らかに時点の異なる複数の『現在』が描かれている場合がある」ことを指摘し、中世の絵画に書かれた「現在」が、「ナイフの刃というより、ある程度の幅を持った鞍のようなもので、私たちはその鞍に座って、過去と未来という二つの方向に向かって時間を凝視する」と述べています。また、15世紀には、画家が、「自分が知っている事実を描く」代わりに、「情景を目に見えるとおりに描かなくてはならない」という遠近法が生まれたことが解説されています。
第10章「簿記」では、「おのれの営みを数量化する人種」である商人が、「生き延びるために、おのれの営みを羊皮紙や紙に書き記して、目に見える形に変えた」として、よい商人が「きちんと帳簿をつけることによって、『バベルの塔にも比すべき混乱』からみずからを救った」と述べています。また、1300年ごろにイタリアの会計係が用い始めた「今日複式簿記と称されている簿記法」の誕生に、「何らかの形で代数がかかわっていたのではないだろうか」と述べ、簿記法が、「日々実践されることによって、私たちの思考様式に強大かつ広範な影響」、すなわち、複式簿記を用いることで、「収集した大量のデータをとりあえず保存しておいてから、しかるべく配列して分析することができる」ことを指摘しています。
第11章「『新しいモデル』」では、西暦1300年前後の数十年間に、「時間と空間および物質的な現実世界を認知する枠組みに変化が生じ始め」、西ヨーロッパの人々が、「現実世界を従来より純粋に視覚的かつ数量的に認知する新しい枠組みを発展させた」ことが述べられ、「現実世界を視覚的かつ数量的に表現した『新しいモデル』」が、旧来のモデルの欠陥を補う「解毒剤の一つ」であり、「新しいモデル」が、「現実世界を検証する新たなアプローチと、現実世界を認知する新たな枠組みを提供した」ことが述べられています。
本書は、西ヨーロッパ社会を急激に変質させた数十年間を、現在の私たちに伝えてくれる貴重な一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の第10章で扱われている、中世イタリアの簿記の始まりに関しては、ボローニャ大にいた星野秀利教授が、フィレンツェの古文書館などにこもって、当時の領収書の類を丹念に調査しています。イタリア政府の奨学生として海を渡った後、そのまま研究を続け、ずいぶん苦労されたと聞いています。また、自宅に遺された大量の蔵書は、研究者としての生涯の重さを感じさせるのに十分な迫力がありました。フィレンツェ郊外の丘の上にある市営墓地から見下ろした風景は、ここで生活していくことを想像すると、くらくらするほど異国でした。
■ どんな人にオススメ?
・普段当たり前に使っている「数で考える」ことが革命の結果であることを知りたい人。
■ 関連しそうな本
アルフレッド・W. クロスビー 『飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで』 2006年10月02日
アルフレッド・W.クロスビー (著), 佐々木 昭夫 『ヨーロッパ帝国主義の謎―エコロジーから見た10~20世紀』
星野 秀利 (著), 斎藤 寛海 (翻訳) 『中世後期フィレンツェ毛織物工業史』
ジャレド・ダイアモンド 『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)』 2006年08月14日
ジョン・ヘンリー (著), 東 慎一郎 (翻訳) 『一七世紀科学革命』
ピーター バーク (著), 井山 弘幸, 城戸 淳 (翻訳) 『知識の社会史―知と情報はいかにして商品化したか』
■ 百夜百音
【「のだめオーケストラ」LIVE!】 のだめオーケストラ オリジナル盤発売: 2006
クラシックブームに便乗して、最近はhttp://www.classiccat.net/で音大が演奏しているMP3などを探してきて聴いています。子供のときから聴いていればよかったのにと思うと残念です。
投稿者 tozaki : 2006年11月18日 21:00
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