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2006年11月24日

行政組織とガバナンスの経済学―官民分担と統合システムを考える

■ 書籍情報

行政組織とガバナンスの経済学―官民分担と統合システムを考える   【行政組織とガバナンスの経済学―官民分担と統合システムを考える】

  赤井 伸郎
  価格: ¥3,570 (税込)
  有斐閣(2006/11)

 本書は、「行政組織の改革、特に官と民の役割分担の適正化とそのガバナンス・システムの構築に向けた研究をまとめたもの」です。著者は、ガバナンスを、「ある権限を持った主体」が、「希望する目的を達成させるように、権限を持たない主体の行動をコントロールすること」と定義し、このようなコントロールによって、目的を効率的に達成させるシステムが、「適切なガバナンス・システム」であると述べています。そして、行政組織におけるガバナンスとは、「資金、すなわち税金を提供する住民(国民)が、行政実務担当者をコントロールすること」を意味すると述べています。また、住民(国民)と行政実務担当者間のエージェンシー問題を取り除くガバナンス・システムとして、
(1)限定合理性
(2)情報の非対称性
をできる限り取り除ける制度設計を行うことであるとして、
(1)明確性(不確実性の可能な限りの排除)
(2)透明性(情報の非対称性の可能な限りの排除)
の2つをまず実行することになると述べています。
 第1部「理論編」は、第1章から第4章で構成されています。
 第1章「行政組織とガバナンス改革の流れ」では、本書の狙いを、「これまで行われてきた民間的組織、民間活力導入の事例からの教訓を、理論モデル分析に加えて、データに基づく実証分析を通じて導出し、今後の改革の方向性、改革を実現するために注意すべき事柄を明確にするために材料を提供すること」であると述べています。
 第2章「コミットメントとガバナンスの分析」では、「ソフトな予算制約概念を用いて、組織間のガバナンスの欠如に潜む問題点を理解」するために、
(1)これまでのソフトな予算制約に関わる研究生を蚊を紹介し、その理論的構造および議論の流れを明らかにする。
(2)この問題が組織内部で実際に非効率な政策を招いているのかについて実証した研究結果を考察する。
(3)近年議論されている政府構造の改革がこの問題を解決するために有効的なのかについて検討する。
の3点を行うとともに、「ソフトな予算制約」の議論が、契約理論の分野における「コミットメントの欠如」(lack of commitment)の問題との融合によって、より厳密な分析に進展したことを述べています。そして、公的企業の行動を、
・fastプロジェクト:価値がある(補助金を上回る社会便益が発生する)
・slowプロジェクト:価値がない(補助金を上回る便益は発生しない)
の2つに単純化した上で、「分権化された政府システム(小規模な政府を想定)では、政府はslowプロジェクトに対して追加補助をするための充分な財源を保有していない(各政府は1単位の資金のみを保有)とする」というDewatoripint and Maskin(1995)の論文における分権政府での本質的な過程を紹介し、「1つの大政府だけが存在する集権化されたシステム(centralized credit system)のケースに比べて、予算制約がソフトになる可能性は小さくなる」と述べ、「政府が情報を持たない状況でも、文献的なシステムが事後的な予算(バジェット)をハードにすることを通じて、企業に適正なインセンティブを与え、初期段階で適正なスクリーニング(screening)が行われる」ことを解説しています。このことは、「モラル・ハザードを引き起こしている日本の中央集権的な地方財政システムを地方分権下の競争によって改革し、地方政府に自立意識を高めさせようという地方分権の議論と一致するもの」であると述べられています。
 さらに、注意しなければならないことは、「効率的な資源配分を実現するためには、事後的な裁量の余地を狭め、ハードな予算制約を実現できる組織構造が必要であり、すべてにおいて事後的補填を行うべきでない」ということではなく、「裁量的なソフトな予算制約が生み出すインセンティブ問題を考慮して、事前の制度設計を行うこと」であると述べています。
 第3章「独立行政法人のガバナンスの経済分析」では、「効率性を重視した新たなサービス提供手法を構築する」ことを目指した独立行政法人の試みの評価と今後のあり方を論じています。著者は、独立行政法人の特徴を、
(1)目標の明確化+計画+政策評価を通じた説明責任の達成(情報公開)
(2)インプットの裁量
(3)インセンティブ契約
であるとしながらも、このあり方に関する研究は、「成果がつかみにくいことなどから、理論的・実証的にもほとんどなされていない」と指摘し、経済学的な理論モデルによる分析の必要性を説いています。
 そして、独立行政法人システムの特徴を、
(A)裁量性の確保による柔軟な活動の推進
(B)評価委員会の明確な基準に基づくインセンティブ契約の導入による運営努力の推進
の2点に絞り込んだ上で、(A)は、「これまで監督官庁が関与・統制してきた資源を、独立行政法人が自由に活用することによって、社会的に価値のあるサービスを効率的に実施しようという試み」であり、(B)は、「目的を達成するためには、可能な限り社会的な価値を計測する明確な基準・目標を作成し、その目標を達成させるように」独立行政法人を規律づけるメカニズムの構築に当ると述べています。
 さらに、独立行政法人のガバナンス・システムのあり方として、
・提言1:観察可能なインプットと、観察不可能なインプットのアウトカムに対する重要性の把握
・提言2:私的インセンティブと社会的インセンティブの差の把握
・提言3:エージェントのリスク回避傾向の把握
の3つの提言を行っています。
 第4章「損失補填・出資形態のインセンティブ問題」では、利得がプラスになる状況において、「その一部を自治体が搾取してしまうモデル」であるホールドアップ問題と、利得がマイナスになる状況において、「その一部を自治体が補填してくれるモデルであり、どこまでさぼるかがポイントになる」事後的救済問題との2つの概念が、本質的に同じであることを開設した上で、Stiglitz and Weiss(1981)を応用した、損失補填がある場合の事業選択との関係を説明するモデルと、Besley and Ghatak(2001)を拡張した第三セクターへの出資と努力インセンティブの関係を導出するモデルとを示しています。そして、共同出資において、出資主体にとっては、
(1)自分が過半数を占める場合:出資が少ないことにより交渉力が落ち、出資が多いほど努力する。
(2)自分が過半数を占めない場合:出資をしてもその大部分が相手の交渉力を高める源泉となってしまうので、出資が少ないほど努力する
ために、U字型になると述べています。
 第2部「実証編」は、第5章から第8章で構成されています。
 第5章「第三セクターのガバナンスの経済分析」では、第三セクターの経営悪化の制度に起因する原因として、
(1)官と民の共同出資:官と民の中間という特殊な事業形態ゆえに、官民間のリスク分担に関わる契約が十分に締結されていない、または馴れ合いが生じる。
(2)主体の位置づけ:官民の出資により設立されるため、より透明度の低い(地方公共団体の)外部組織となり、公益性のチェックがおろそかになる。
の2点を挙げています。
 そして、第三セクターを、(1)設立数、(2)フロー(経営赤字)、(3)ストック(債務超過)の3つの側面から検討し、
(1)観光・レジャー、農林水産、教育・文化分野の法人数が大きなシェアを占める。
(2)教育・文化は民間法人が多く、観光・レジャー分野は商法法人が多い。
(3)設立は、バブル崩壊前後に最高となっていて、近年は、観光・レジャー、農林水産分野が多い。
(4)フロー面では35%が経常赤字に直面し、運輸、観光・レジャーの額が大きい。
(5)観光・レジャー分野の経営破綻には地域間の差が見られる。
(6)ストック面では、6.6%が債務超過状態にあり、観光・レジャー分野が特に悪い。
(7)資本赤字法人数の地域別割合は、観光・レジャー分野に地域間の差が見られる。
の7点を明らかにしています。
 著者は、財務状況悪化の原因として、
(1)外生的要因主導:失敗することが分かっている分野への進出(事前調査不足または政府による損失補てんを期待した民間による利己的分野への進出が原因)。
(2)内生的要因主導:経営および計画の不備が引き起こした失敗。
の2点を挙げた上で、「経営悪化または破綻法人の出資形態」が及ぼした影響として、
(1)官が出資主体:情報収集能力の不足から設立分野が限定され、リスクの高い分野への進出を回避し、民間企業の影響も受けない。→ローリスク・ローリターン・タイプの設立
(2)官民出資:設立分野が拡大し、責任体制の曖昧さから事前調査努力の低下や、民間の情報操作による問題のある分野への進出の可能性。→馴れ合いによるハイリスク・ハイリターン・タイプの設立
(3)民が出資主体:民間企業がある程度の将来リスクを引き受けるため、外生的に問題のある分野への進出は抑えられる。
の3つのケースを想定し、官民の出資割合と破綻の間での山型の関係を論じ、実際の推計結果としては、
(1)結論1:民間出資比率が山型の影響――民間出資割合約40%ポイントを頂点として、破綻が多い。
(2)結論2:破綻割合と財政力指数やGDP成長率、失業率との間に有意な相関は見られないことから、破綻は地域的な経済要因とは独立であると考えられる。
(3)結論3:出資規模が破綻割合に有意に正の影響――大規模プロジェクトが破綻。
(4)結論4:観光・レジャー分野への進出が失敗原因。
の結論を得ています。そして、第三セクター内部に潜む制度的要因として、
(1)契約の不完全性による責任感の欠如
(2)外部組織の不透明性:説明責任の欠如
(3)政治的効果
の3点を指摘しています。
 さらに著者は、個別法人の財務データの分析から、経営悪化要因を、
(1)マクロ的な景気悪化の影響は、大規模な開発を行った法人の経営に、より大きな打撃を与えた。
(2)官と民の責任分担の曖昧性により、民の努力が低下し、経営が悪化した。
(3)官と官の責任分担の曖昧性により、官の努力が低下し、経営が悪化した。
(4)地域における需要競争(同業者との競合)により、経営が悪化した。
(5)雇用確保として設立、継続により、経営が悪化した。
(6)地域における政治的圧力を通じた過大投資により、経営が悪化した。
(7)情報公開の不備による説明責任の欠如により、経営が悪化した。
(8)リゾート法などのマクロ政策による非効率な設立を通じて、経営が悪化した。
の8点にまとめています。
 著者は、これらの分析を通じて、
・提言1:契約によるリスク分担の明確化が成功の鍵
・提言2:契約の明確化に向けて、官民双方の能力向上が不可欠
の2点を提言しています。
 第6章「地方3公社のガバナンスの経済分析」では、土地・住宅・道路の3公社に関して、
・土地開発公社:バブル前には、その柔軟性から公共用地の先行取得とそれに伴う効率的な公共事業に貢献したが、一方で業務が拡大し、バブル崩壊からは中央政府の土地の買い支え政策に利用されてきた。
・住宅供給公社:2006年度からの会計基準の変更により、債務超過の公社が増えると予想されるが、隠された実態を明らかにし、債務超過の実態を明らかにする上では望ましい。
・道路公社:当初の償還予定が達成できない場合に、延長または税金投入という事実上の破綻となり、事後的な判断としては正しい場合もあるが、そもそもこの道路を作る価値をあったのかを含めた道路建設の事後評価を行うべきである。
と分析しています。
 その上で、各公社に関して、
・後向きの問題:将来このような問題を繰り返さない方策を考える必要。
・前向きの問題:現在保有している資産をどのように活用・処理するのか。
の2つの問題を論じ、今後の3公社の改革に関して、
○土地開発公社
(1)財務状況における債務超過の意味:母体自治体の責任は他の公社よりも大きい。
(2)土地開発公社の存在意義(時代の変化):3公社中もっとも曖昧。
(3)廃止に向けた議論:蓄積されたプロ集団のノウハウはあるのか。活かせるのか。
○住宅供給公社
(1)経営状況を単なる財務上の債務超過で議論すべきなのか。
(2)住宅供給公社の存在意義:公が住宅を作るべきか(時代の変化)――公益性の評価
(3)廃止に向けた議論:蓄積されたプロ集団のノウハウはあるのか。活かせるのか。
○地方道路公社
(1)経営状況を単なる財務上の債務超過で議論すべきなのか。
(2)道路建設のあり方:採算道路と不採算道路
(3)地方道路公社の存在意義
などの論点を提示しています。
 第7章「公営企業のガバナンスの経済分析」では、公営企業とは、「料金徴収が可能で民間でも供給可能性は高いが公益性・安定性を確保する必要のあるサービスに関して、政府がそのサービスを直接供給するもの」であるが、「高度な契約技術による安定供給の確保の可能性や、技術の専門化による官民のノウハウ格差などが現れてきた現在においては、効率性の観点から、民間で供給すべきサービスを官が提供しているものが多いと思われる」と述べています。そして、公営企業に関してさまざまな研究が行われているものの、
(1) 交通分野において、経済学的な理論、日本の制度、日本のデータに基づく実証を含めて、民間委託、民間移譲など官民の役割分担を通じた公営企業の組織形態のあり方の議論は十分になされていない。
(2)データの制約のため、改革効果に関する実証分析がなされていない。
の2つの不足があることを指摘しています。
 そして、公営企業の長所として、
(1)安定度・リスク許容度の違い:突発的なリスクが生じた場合に、そのリスクに対応できるかどうか。
(2)生活保障・ニーズを反映したサービス:不採算路線の維持など生活保障が可能になること、ニーズを反映したサービスが可能になること。
(3)情報公開・説明責任:情報公開や説明責任が達成されること。
(4)規模の経済性:民間単体では最適な投資や黒字経営による事業の存続が達成できない。
(5)(ネットワーク)経済性:他の行政サービスとの相乗効果。
を挙げた上で、それぞれについて、
(1)→官民のリスク許容度の違いと創意工夫のインセンティブの可能性に応じて官民で分担。
(2)→サービスに責任を持つ主体と提供主体が一致する必要はなく、アウトプット・コントロールのインセンティブ契約が可能。
(3)→補助金によるインセンティブ契約に基づき、公共サービス提供に関するデータの開示は請求できる。
(4)→PFIなどの近年の事業手法を用い、補助金を適切に与えることなどで対象可能である。
(5)→外部性を内部化するように、補助金を適切に与え、インセンティブ契約を結ぶことで対処可能。
等を論じ、「考えられている個別の課題はすべて、適切なインセンティブ契約で対象可能」であると述べ、そのためには、情報とそれをうまく利用する能力、技術力、マネジメント能力が重要であると指摘しています。
 著者は、「民営による長所は公営では実現できないのに対して、公営による長所のほとんどは適切なインセンティブ契約で可能である」と述べ、官と民とで事業の継続リスクが異なることを解説した上で、
(1)官のほうがコスト面で効率的な場合、官で供給すべき。
(2)民の方がコスト面で効率的な場合、民で供給すべきかどうかはこの継続リスクとコスト節約のトレードオフで決定される。
と整理しています。
 さらに、大都市の交通事業の効率化が進んでいない要因として、
(1)現行の官民分担と民の受入れ体制
(2)国土交通省規制:バス移譲路線数(もしくは走行距離)の制約
(3)民間と比べ高額な給与水準
(4)人事問題
(5)補助金制約
(6)契約システム・ノウハウの不足
の6点を挙げています。
 著者は、適切な官(国と地方)民分担に向けたガバナンス構築のため、官民の役割分担の改革の具体策として、
・第1段階:民間委託やPFI、指定管理者などを通じた効率化を勧め、コンサルタントを活用した高度な契約技術を学ぶ。
・第2段階:インセンティブ契約・規制を活用した、民営化を含む所有権の適正化の議論を行う。
ことが現実的であるとした上で、
(1)官民の責任分担が明確な契約による、市場からのガバナンス機能を働かせる。
(2)官が契約で責任を持つ部分に対しては、官からのガバナンスを的確に行う。
の2つのガバナンスを働かすようにすべきであると主張しています。
 第8章「地方自治体のガバナンスの経済分析」では、「投資的経費に着目し、透明性が自治体の財政運営の効率性に与える影響を検証」しています。その結果、情報公開の必要性は認識されましたが、前章までの議論の結果と異なった理由として、
(1)地方自治体本体では、目標の設定が難しく、住民も施策の評価が難しい。
(2)データの幅の違い。
(3)国によるガバナンスとしての地方財政制度の不備。
の3点を挙げています。
 終章「行政組織とガバナンス・システムのあり方」では、ガバナンス強化に向け、
(1)官と民の役割分担の適正化の流れで最も着目されている新しい事業手法としてのPFIのあり方。
(2)国と地方の役割分担の適正化の流れで最も着目されている地方財政改革のあり方。
(3)地域住民と地方自治体との目的に乖離が生じている一般的な場合におけるガバナンスのあり方。
をそれぞれ議論し、契約によってリスクを適切にコントロールすることで、リスクとインセンティブのトレードオフ問題を緩和することや、「地方交付税と国庫支出金を統合した上で、財源保証機能と財政調整機能、効率化機能の3機能を分離」した、
(1)財源保証機能を担うブロック補助金
(2)財政調整機能を担う水平的移転または、新交付税
(3)効率化機能を担う特定補助金
の3つの補助金システムを提唱しています。


■ 個人的な視点から

 本書は、わかりやすさ、データの入手・比較しやすさなどの分析しやすさという点では、公営企業や第三セクターを例に挙げていますが、考え方や分析方法自体は行政の個別事業に当てはめて考えることが可能です。
 構想日本が行っている事業仕分けが、外部の人間による常識的な判断をベースにしているものであるのに対し、本書の分析の視点は、経済学の理論的な裏づけを与えてくれるものではないかと思います。
 
※p.225のl.7の「ニーズに反映したサービス」は「ニーズを反映した」か「ニーズに対応した」のどちからの誤字と思われます。


■ どんな人にオススメ?

・官民の役割分担に経済学的裏づけをつけたい人。


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■ 百夜百マンガ

バリバリ伝説【バリバリ伝説 】

 中高生をバイクに憧れさせるマンガはいくつもありますが、80年代はこの作品でしょうか。『ふたり鷹』という人は少ないと思います。。

投稿者 tozaki : 2006年11月24日 21:00

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