« 歴史を変えた気候大変動 | メイン | 詳解 公共サービス改革法―Q&A「市場化テスト」 »

2006年12月03日

新しい自然学―非線形科学の可能性

■ 書籍情報

新しい自然学―非線形科学の可能性   【新しい自然学―非線形科学の可能性】

  蔵本 由紀
  価格: ¥2415 (税込)
  岩波書店(2003/02)

 本書は、現代科学に対する人々の極論、すなわち、「一方では人類の夢を次々に実現し未知の世界へ私たちをいざなう魅惑にみちたものと称揚され、他方では、人間のコントロールの範囲をすでに逸脱し、人類を破滅に導きつつある悪魔的なものと忌み嫌われている」という極論が、「科学に対する一方的な思い込みによるものではないだろうか」という著者の問題意識から、「このような極論に陥らないための免疫力を自らも含め多少とも養いたいという思い」でかかれたものです。著者は、「科学の言葉で世界を描写するとはそもそもどういう営みなのだろうか」という問題から考え直すために、「現代科学のある種の異端児」である「非線形科学」の中に、「近代科学から現代科学を貫くある特有の姿勢に対して反省を促すような、新しい考え方の芽生えを見る」ことができる語っています。
 第1部「科学描写の構造」では、「複雑多様な生ける現実世界の科学描写の可能性というものをどう考えたらよいのか」という問題意識から、多少の科学的精神の持ち主ならば、「科学的に世界を理解するとは一体どういう認識の仕方を言うのだろうか」という基本的な問題に思いを馳せるべきだと説いています。そして、「人が流転する自然の中に比較的安定して変わらないもの、恒常的なものにまず目を付けることはほとんど本能的である」とした上で、「変わらないものを通じてこそ変わるものが理解できる、あるいは多様なものを理解するためにこそ同一普遍のものを見出さなければならない」という自然観こそ、「科学の基本的な姿ではないか」と述べ、「科学はとりわけ鋭利な刃物で『変わらないもの』『同一不変の性質』『現象間の恒常的な関係』を切り出そうと」し、その切り出し方にはさまざまな可能性があるはずだが、「現代科学がバランスを欠いているとすれば、それらの方向の一つがあまりにも強調されたためではないか」との疑念を呈しています。
 そして、ポラニーの「暗黙知」に代表される、「言語化することのはなはだ困難な、しかしそれなしでは人間がとうてい生きられないような重要が知識がある」ことは認めながらも、「非言語的な知識というものを安易に考えすぎないようにしたい」と述べ、「科学的言明のユニークさは、その意味するところが間然に一義的ではないにしても、不確定の幅が極めて小さいこと」であると指摘しています。
 さらに、「一般システム理論的な立場から、しばしば『全体は部分の単純な総和ではない』という主張がなされ」、「システムを構成する部分をいくら詳しく調べても」、「システムに全体として現れる様相」は見出すことができず、「それを無視した科学は『要素還元論』的科学として批判」されることについては、「このような主張は『部分』とか『要素』とか言われるものの意味について少し無頓着すぎる」のではないかと述べ、「詳しく調べようにも調べようがない」、すなわち「全体的な様相を記述するにさいして、個別原子に焦点をあわせた局所的な記述が不適切であるということにすぎない」と反論しています。
 また、「物質にとっての境界条件が自然的に制御されるプロセスのうち、特に基本的なものを明らかにすることを目的」とした、「『周辺制御の基礎科学』とでもよぶべき科学の領域がきわめて大きな重要性を持ってクローズアップされてくる」と述べ、それは、「通常『非線形科学』と呼ばれているものと大きく重なり、これが示唆する新しい自然の見方という意味あいを込めて私が『新しい自然学』と仮によんでみたものにもほぼ重なる」と述べています。そして、サイバネティックスや一般システム理論などの類似の意図を持つ科学と非線形科学を比較すると、
(1)非線形科学は、物質の高次の組織化原理に関して、非平衡統計力学という強固な物理学的基礎を持っている。
(2)カオスの発見がもたらしたインパクト、分岐理論をはじめとする充実した数理的基礎、シミュレーション手段としてのコンピュータの驚異的な進歩などがある。
という決定的な違いがあるとして、「非線形科学は規模においても深度においても、その前駆者の比ではない」と述べています。
 第2部「非線形科学から見る自然」では、非線形現象とは、「大雑把に言えば」、「何らかの形でフィードバック効果が働く減少であるといってよい」と述べ、「あるプロセスが進行すればそれによって生じる事態がそのプロセスの進行を促進したり阻害したりする」ようなフィードバック機構を内蔵しているシステムを「非線形系」とよんでよいと述べています。
 そして、「神経細胞にきわめて似た動的特性を示すシステム」を実現することができる化学反応系として、「開放化学反応系の代表例として繰り返し取り上げられるベルーソフ-ジャボチンスキー反応系」を紹介し、「まるで生き物のようにパターンが自己組織していくさまは、強烈なインパクト」であったと語っています。
 また、「同一のプロセスが繰り返される現象」である「リズム」について、私たちが知りたいこととして、
(1)リズム発生の物理的原因
(2)リズムとリズムが相互作用するとき、そこに何が生じるかという問題
の2つがあると述べ、このうち後者に関しては、「時間領域における自己組織化現象であり、近年は生命現象との関わりで大いに注目を集めている」、「引き込み現象」または「同期現象」と呼ばれる重要な概念について解説しています。
 さらに、カオスに関しては、マクスウェルやポアンカレが、「エネルギー散逸のないニュートン力学系のカオス」をとらえたのに対し、ローレンツが「散逸を伴う力学系におけるカオスの存在を最も説得的に示した最初の人」であると述べています。そして、「自然が示す柔軟で複雑多様な運動を、秩序だった運動やその合成の中に押し込めて理解しようとするのは、いかにも窮屈」であり、カオスの発見が、「自然のある種の複雑さを、その本質を損なうことなく科学的記述の中に取り込むことを可能にした」と述べています。
 第3部「知の不在と現代」では、「生活の快適性への欲望を直接間接の動因」とする、「自然の部分部分に関する知識を頼り」にした人間の自然への働きかけが、「生態系の破壊や大気汚染」に見るような「巨大な損失となって人間に跳ね返ってくるという構図」は、「知識と価値との分裂からくるというよりも、知のいびつさから来るものと思われる」と述べ、「個物の相互関連の中に同一不変構造を求めるような知、すなわち述語的世界の記述における知の発達が遅れているということも重要なのではないか」と指摘しています。
 また、「科学の世界においても日常世界においても、「客観的存在」とよばれるものは、喩えていえばクロスワードパズルのマスに入るべき文字に似ている」と述べ、「自然現象の総体は、三次元ならぬ超高次元クロスワードパズルにおいて、さまざまな場所におけるさまざまな方向へのヒントの集団に喩えられる」と述べています。
 本書は、科学によって世界をどのようにとらえるか、という問題を論じている点で、自然科学者はもちろん、社会科学者にとっても得るところの大きい一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 著者の名前は、ストロガッツの『SYNC』の訳者であり、その中で言及されている「蔵本モデル」の提唱者であるということで知っていました。
 2004年3月に京都大学を定年退職された際の最終講義録での紹介によれば、1984年に出版されたモノグラフ、"Chemical Oscillations, Waves, and Turbulence"は、「非線形動力学の分野において最も引用される本のひとつで、出版部数より引用部数が多いというくらい(笑)高い評価を得て」いると紹介されています。
 
・「蔵本由紀」(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%94%B5%E6%9C%AC%E7%94%B1%E7%B4%80
・蔵本由紀教授 最終講義録 「非線形科学の形成 - その一断面」
http://www.ton.scphys.kyoto-u.ac.jp/nonlinear/kuramoto-finallecture.pdf


■ どんな人にオススメ?

・科学との退治の仕方を模索している人。


■ 関連しそうな本

 スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳) 『SYNC』 2006年04月10日
 ダンカン ワッツ (著), 辻 竜平, 友知 政樹 (翻訳) 『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』 2005年09月28日
 ダンカン ワッツ (著), Duncan J. Watts (原著), 栗原 聡, 福田 健介, 佐藤 進也 (翻訳) 『スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス』 2006年03月22日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 増田 直紀, 今野 紀雄 『複雑ネットワークの科学』 2005年11月18日
 増田 直紀, 今野 紀雄 『「複雑ネットワーク」とは何か―複雑な関係を読み解く新しいアプローチ』 2006年04月18日


■ 百夜百音

こんにちは またあした【こんにちは またあした】 コトリンゴ オリジナル盤発売: 2006

 「矢野顕子+ロリコン趣味」って人としていかがなものかと思いますが、そんなことも許されてしまうのが「世界のサカモト」の特権なんでしょうか・・・?


『ピヤノアキコ。~the best of solo piano songs~』ピヤノアキコ。~the best of solo piano songs~

投稿者 tozaki : 2006年12月03日 20:00

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1199

コメント

コメントしてください




保存しますか?