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2007年01月11日

少子化と日本の経済社会―2つの神話と1つの真実

■ 書籍情報

少子化と日本の経済社会―2つの神話と1つの真実   【少子化と日本の経済社会―2つの神話と1つの真実】

  樋口 美雄, 財務省財務総合政策研究所
  価格: ¥3465 (税込)
  日本評論社(2006/02)

 本書は、財務総合政策研究所の「少子化の要因と少子化社会に関する研究会」の成果を取りまとめたもので、「『子育てが楽しい』と思える社会を構築するための基本情報を提供すること」を目的に、
(1)だれが現在のわが国では子育ての時間的・経済的コストを負担しているのか。
(2)諸外国における家族や企業、行政、そして社会のコストの負担、配分はどのようになっているか。
(3)個人のコスト負担軽減は出生率をどの程度上げるのか。
(4)経済の長期低迷や若者の将来不安の増大、そして労働市場の二極化が婚姻率や出生率にどのように影響しているか。
(5)育児支援策は個人の福祉向上に役立つのみならず、一国全体の経済成長や税収、財政支出、地域社会にどのような影響をもたらすか。
を検討しています。
 序章「2つの神話と1つの真実」では、
・働くことと子どもを持つということがトレード・オフの関係にある。
・女性の就業しやすい環境を整備するには、多額の直接的、間接的費用がかかり、企業の競争力が低下する。
という2つの「神話」を挙げ、諸外国の事例からは、「出生率は、社会環境によって上昇しうる(変化しうる)」ことが明らかであることを述べています。
 第1章「人口学からみたわが国の少子化」では、「少子化」を「出生率が人口置換水準を持続的に下回っている状態」と定義し、出生率を決定する要因として、
・近接要因:人口学的要因、医学・公衆衛生学要因
・社会経済的要因:出生力転換要因、政策・制度要因、価値規範的要因、政治的要因
等を挙げ、「人口減少の原因事象である少子化が30有余年前から始まり、人口減少の伏線がすでに敷かれていた」惰性期間が、「人口問題への政策を後手に回してきた」一因であると指摘しています。
 第2章「子育てに伴うディスインセンティブの緩和策」では、「子育てにかかる直接的な費用」として、養育費と女性に発生している機会費用という2つの要因を、子育てのディスインセンティブ要因として取り上げています。そして、最近の政策ターゲットとして、夫の育児参加を挙げ、女性の就業支援策としての有効性を論じ、「夫の育児協力度が高く、就業時間が短く、帰宅時間が早いことが、妻の就業や正規就業を支援することが明らかになった」と述べています。まとめとして、
・児童手当は少子化対策という観点からはほとんど効果がない。
・子育ての精神的コストの軽減のいう観点からも夫の役割は重要。
・今後は、男性労働者に対する子育てと就業の両立支援策の充実が重要。
・これまでの両立支援策は、正規就業者を対象としたものになりがちであった。
等を述べています。
 第3章「就労と出産・育児の両立」では、
(1)育児休業制度が、女性の出産にどのような効果を持っているか。
(2)育児休業制度の企業にとってのミクロ経済学的な効果。
(3)保育所の特別保育が出産に与える効果。
を検証しています。このうち、(1)に関しては、第1子は無職の女性よりも出産確率が高まり就労との両立が促進され、第2子についても就業によるマイナス効果を緩和させる効果のあることを明らかにしています。また、(2)に関しては、「育児支援につながる制度・慣行そのものは、直接的には業績に影響しないが、女性従業員の能力活用を積極的に行っていれば業績にプラスの影響を与える」ことを明らかにしています。
 第4章「雇用と所得の環境悪化が出生行動に与える影響」では、「最近の若い世代における出生行動の変化」が、「就業環境や所得環境の悪化により影響されている可能性」が高いことを指摘しています。
 第5章「北欧諸国における出生率変化と家族政策」では、北欧諸国における婚外出生率が、結婚の現象と同棲の広がりによって、急激に増加したことを紹介しています。また、家庭内労働の男性の分担割合が、3~4割と世界最高の水準にあり、わが国の数字が1割未満にとどまっていることとは対照的であると述べています。さらに、有給休暇期間を、就業しながらパートタイムで取得できる制度として、スウェーデンの「時間預金制(タイムバンク)」、ノルウェーの「時間口座制(タイムコント)」を紹介しています。
 第6章「フランスの家族・出生率・家族政策」では、フランスの家族の特徴を、
(1)学歴や社会的地位による家族形成・出生行動の違いがあまり認められない。
(2)生涯子供を産まない女性の割合が低い。
(3)3子以上の世帯は、貧困層と富裕層の両端に多くなっている
(4)結婚行動と出産行動の相関はあまりない。
の4点挙げています。(3)に関しては、さまざまな給付や税制の優遇によって、「所得の移転は、総じて低所得者層と高所得者層に対して厚く、中間層に対しては薄い結果となっている」と述べ、この結果、所得を横軸にとると、所得移転や出生率を縦軸にとった場合に「U字カーブ」を描くことを指摘しています。著者は、「職業と家庭の両立支援など地道な政策の積み重ねにより、さまざまな家族のさまざまな選択が可能となり、出産・子育てをするにふさわしい社会となることが重要」であると述べています。
 第7章「イタリアにおける少子化と少子化対策」では、イタリアの家族政策が、「歴史的に子どもの有無により課税やサービスの提供に区別をしてこなかったために、子どもが多いほど負担が大きくなっている」ことから、「家庭の貧困率では明らかに子どもの数とともに高くなる傾向にある」ことを指摘し、イタリア厚生労働省の言葉として、「イタリアにおいて子どもが1人いる世帯が子どものいない世帯と同じ生活をするためには、約25%の収入増が必要であり、子どもが2人、3人いる世帯はそれ以上に厳しい状況」であることを紹介しています。そして、少子化政策が効果をあげる条件として、子どもを産めない若年層の高い失業率を解消し、若年層を中心とする非典型雇用者が社会サービスを受けられるようにすることが必要であると述べています。
 第8章「イギリスの家族と家族政策」では、イギリスには、「家族や子どもの対象とする明示的に公式化された政策」は、長い間存在せず、1997年に成立したブレア政権が推進した「ワーク・ライフ・バランス」政策が、初めてのものであることや、
・職業と家庭の両立について実効性を高めるべく努力していること。
・保育サービスの量的な充足と質の向上を同時に満たすべく教育の観点を導入していること。
が注目すべき点であることが述べられています。
 第9章「アメリカの家族と家族政策」では、「アメリカでは家族政策は貧困対策としての意味合いが強く、子どもを持つ家庭や女性を支援することは政府の責任とは考えられていない」にもかかわらず、アメリカの合計特殊出生率が安定的に高水準を維持してきた要因を分析しています。そして、政府の代わりに民間主体が保育サービスの担い手として大きな役割を果たし、多様な選択肢が確保されていることや、出産・育児のために労働市場から一時的に退出しても再参入が容易であるため、出産に伴う機会費用が低く、就業と出産・育児の両立が容易であることなどが挙げられています。
 第10章「少子化がマクロ経済や財政・社会保障などに及ぼす影響」では、「現在の水準よりもさらなる少子化の進行」が、「趨勢的に経済成長の鈍化、国内貯蓄投資差額の悪化、財政・社会保障負担の増加に結びつく」ことを、マクロ計量モデルというシミュレーション方法を利用して明らかにされています。
 第11章「少子・高齢社会の進行と地域社会」では、「人口規模の現象や高齢化率の上昇により、人口1人あたりの歳出は増加し、1人あたりの地方税収は減少する可能性」を指摘し、高齢社会においては、「これまでの地方交付税を通じた地域間の財源再分配制度は困難になる」ことが述べられています。
 第12章「わが国における政策オプション」では、諸外国との比較を踏まえた保育政策の評価として、
(1)保育政策を生涯学習の基礎を築く重要な時期と考えた教育制度の一環と位置づける動き。
(2)保育料の公平性への配慮が見られる諸外国に対し、日本では不公平感が強い。
(3)保育内容の充実に向けて、親の参加を重視している。
(4)就学前教育への参加率を高めるために施設に対して積極的な投資を行っている。
(5)学童保育について、学校教育との連携を強める動きがある。
の5点を挙げています。
 本書は、日本の少子化問題について、網羅的にまとめた資料として、関心のある人にとっては割安な一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 少子化問題ほど、さまざまな当事者の利害やイデオロギーの交錯する分野はないのではないかと思います。本書は、財務省の研究所の研究会ということもあり、少子化によって、年金制度や地方交付税制度の維持が困難になることを強調していますが、主張する人によっては、社会保障制度の充実や地方への再分配の充実こそが少子化対策として行うべきであると言う場合もあるので難しいものです。


■ どんな人にオススメ?

・次の世代が健全に育つことを期待している人。


■ 関連しそうな本

 白波瀬 佐和子 『少子高齢社会のみえない格差―ジェンダー・世代・階層のゆくえ』 2006年03月10日
 子育て体験出版委員会 『ストップ・ザ・少子化 : 27人の子育て体験』
 樋口 美雄, 太田 清, 家計経済研究所 (編集) 『女性たちの平成不況―デフレで働き方・暮らしはどう変わったか』 2006年03月30日
 目黒 依子, 西岡 八郎 (編集) 『少子化のジェンダー分析』 2006年06月23日
 柏木 恵子 『子どもという価値―少子化時代の女性の心理』 2006年09月07日
 佐藤 博樹, 武石 恵美子 『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』 2005年04月07日


■ 百夜百マンガ

帝都物語―Babylon Tokyo【帝都物語―Babylon Tokyo 】

 映画にもなった大ヒット小説のコミック化作品。『雷火』の藤原カムイの起用は個人的には賛成です。どちらの作品も「凍結」の副題がついたシリーズがあるのは偶然でしょうか。

投稿者 tozaki : 2007年01月11日 07:00

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