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2007年01月07日
地図は嘘つきである
■ 書籍情報
マーク モンモニア (著), 渡辺 潤 (翻訳)
価格: ¥2854 (税込)
晶文社(1995/08)
本書は、「地図について、ちょうど人類が火や電気を制御し、利用するのに似た知識を提供すべき使命」をもったものであり、「地図恐怖症と名づけられるような不健全な懐疑主義を克服する手助け」になるものです。著者は、「地図の作成に免許はいらない」ものであり、地図利用者は、「地図が故意の偽造や巧妙な宣伝の道具としてもっている力に気づかないのである」と述べています。そして、「ひとつの地域についてのデータからは何種類もの地図が作成可能である。1枚の地図は、そのなかのたったひとつにすぎない」という「明白だが、すぐに忘れられてしまう警告」を紹介しています。
第1章「地図はどのようにつくられるか」では、地図の3つの属性、縮尺、図法、記号について解説し、「それぞれの要素に歪曲の原因がある」として、「地図の縮尺、図法、そして地図に使われる記号を理解しなければ、地図を安全に、効果的に利用したり作成したりすることはだれにもできないのである」と述べています。縮尺に関しては、「図による縮尺の表記」を、「地図の縮尺を伝えるうえでもっとも役に立つ手段であり、また、安全なものでもある」と評しています。また、図法に関しては、地図図方が、「面積、角度、距離、方角、そして全体の形の5つの点で地理的関係を歪める」ものであると述べています。
第2章「見やすくするためのウソ」では、「よい地図ほどこまかなウソが多いものである」として、「現実は3次元のもので、詳細で、表記すべきものが多すぎる」ため、「利用者が見たいと思うものを見やすくさせるために、地図は真実を削除する」と述べています。そして、具体的には、
・選択:さまざまな対象から地図に描くべきものを選ぶ。
・単純化:点の数を減らして細部を省略し、図の不恰好さを改める。
・おきかえ:重なったり合体してしまっている対象を移動させて図の相殺を避けようとする。
・スムージング:細部や煩雑な形を省略するために、点の移動や新たな点を書き加えて行う。
・誇張:リアルな感じを出すために地図記号に細部を付け加える。
の5つの手法を紹介しています。
第3章「あやまりといたずら」では、地図のまちがいが、基本地図よりも派生的な地図によくみられることを挙げ、その理由として、「たいていの旅行者用地図や新しい地図は、地図作成の訓練を受けず、地理の詳細な部分には精通していないものによってつくられる」ことを挙げ、1960年代初めに、アメリカ自動車連盟が「シアトルを抹消する」というミスを犯した例やカナダ政府の旅行事務所が、オタワを落としてしまった例を紹介しています。
また、街路地図の製作者が「競争相手用の編集」と呼ばれる、「通りの名前をわざととりちがえたり、変えること」の理由について、「法廷での著作権侵害の訴えを立証するため、うかつな競争相手の盗作行為を押さえて金銭での決着に持ち込ませるためには、地図の発行者は、『おとりの道路』を加筆して、地図に故意の誤りを記すことが知られている」と述べています。
第4章「広告の地図」では、「製品やサービスが場所の移動にかかわるとき」、広告が、「しばしば地図を使うし、それが主要な部分になることもある」として、そのなかに、「穏健なマキャベリズム的な動機」として、
(1)図の相殺を避けるという地図の使命は、省略や誇張を必要とする広告マンには都合のいいものである。
(2)広告は注意を引かなければならないし、地図は関心を持つ人に納得されればいいということがある。
の2点が伺われると述べています。そして、具体例として、1875年にヘルター・スケルター&北部鉄道が、ライバルであるヘルター・スケルター・ヨン社との競合路線の地図を、大幅に改編し、自社の路線がより短距離で他路線への連結も良いものであるかのように描いた例が挙げられています。
第5章「開発地図」では、「抜け目ない地図のための11の原則」として、
(1)選択は抜けめなくやれ
(2)枠組みの戦略
(3)プラスのものは力説せよ
(4)失敗に備えて、言い訳を用意しておけ
(5)マイナスのものはできるだけ小さく
(6)ディティールをごまかせ
(7)紙で説得しろ
(8)空中写真や歴史地図で気をそらそう
(9)概略化は創造的にやれ
(10)エレガントな魅力を付加させよ
(11)失敗した時には、何であれ、賄賂を考えろ
の11点を挙げています。
第6章「政治宣伝のための地図」では、「賢明な扇動家」が、「地図の操作で意見形成が管理できることを知っている」として、「自分に都合のよい情報は強調し、矛盾はかくし、刺激の強い劇的な記号を使って地図にメッセージを盛り込んでいくもの」であり、「何も知らない市民は偏見にもとづく地図、時には事実を作為的に選択した地図を、真実として自発的に受け入れてしまう」と述べています。そして、宣伝地図が、「国や地域を大きく重要に見えるようにつくることもあれば、反対に、小さく書いて周囲の脅威をわかりやすくすることもある」として、アラブ諸国に包囲されるイスラエルを描いた地図や、ソ連や中国の脅威を訴えるために、アメリカの右翼団体であるジョン・バーチ協会やその他の政治グループ高緯度地域の面積が極端に拡大されるメルカトル図法を用いていたことが紹介されています(昔の世界地図では、ソ連は真っ赤に塗られていました。)。この他、戦前にドイツ情報図書館によってニューヨークで発行されていた週刊誌『ファクツ・イン・レビュー』からは、ナチスによるアメリカに対する政治宣伝として、ドイツの西進を正当化するための地図や、大英帝国の面積とドイツとを比較した地図、アメリカ、ヨーロッパ、ソ連、日本の「影響圏」を示すことでモンロー主義を褒め上げた地図等を紹介しています。さらに、「矢印ほど力があって暗示的な地図記号は少ない」として、朝鮮戦争時に韓国領内に侵攻した北朝鮮軍を黒い矢印で表した地図を紹介しています。また、円が、「幾何学的な純粋さを地図にもたらすが、それがまた、容易に正確さや権威を持ってしまう」として、地域の環境活動家が、計画中の焼却炉の周辺を同心円的に表示することで、恐ろしさを喚起している地図が紹介されています。
著者は、地図を、「鉄砲やラクロスのスティックのよう」に、「それを所持する者、ねらいと使われ方、それに理由などによって良くも悪くもなりうるものなのである」と注意を促しています。
第7章「地図の情報操作」では、「政府がなぜ、どのようにして地図を守り、地理的情報を隠し、そしてときには故意にあやまりをつくった地図を配給するのか」を解説しています。そして、国家が、「伝達、防衛、そして輸送についての戦略的な情報を提供して」しまわないために、「戦闘計画や地図を厳しく管理」し、「敵に詳細な地図を与えてしまうことは、しばしば、裏切り行為として考えられてきた」ことが述べられています。
第8章「統計地図のナンセンス」では、「一方的な肯定、あるいは否定という立場から測定された1枚の地図で済ましてしまうこと」の危険を訴えています。
第9章「色の不思議」では、CGでのデモンストレーションや、プレゼンテーション、新聞記事などを見て、「地図を引き立たせたり、だめにする色の原理に対する知識のなさ」を嘆き、「色を意図的に、あるいは無自覚に使うことで、えがきだす対象や計画が魅力的になったり、だいなしになったりする。地図を意識して使うためにはこのことにも注意しなければならない」と述べています。
終章「おわりに メディアとしての地図」では、地図には、「位置や地理的関係についての情報のみを伝える道具」ではなく、「視覚的な装飾物」としての二重の役割があり、「地図作者の専門意見や動機を信頼しきってしまわない、利用者の健全な懐疑主義。それを高めるためには、この二重の役割に対する優柔不断さが必要である」と述べ、「言語や数学とおなじように、地図作成上の中小には利益が生じるが、反対に、具体的なものを損なわないわけにはいかない」ものであるという、「自戒の念、あるいは知識や正直な意図」をもたなければ、「地図の力は制御できなくなってしまう」と述べています。
本書は、メディア・リテラシーの各論として、情報の伝達に携わる人にはぜひ読んでおいてほしい一冊です。
■ 個人的な視点から
本書は、第9章及び終章の「柱」(奇数ページの右欄外に書かれた章名を記載する部分)に誤りがあり、「10 色の不思議」、「11 おわりに」と記載されています。さらにいえば、終章の柱は偶数ページである188ページに記載されているのも変です。
こういう組版の基本的ルールは、普段それほど意識せずに本を読んでいると気になりませんが、ちょっとしたことに気づくと気になりだします。そして、私たちが普段、仕事でつくっている報告書の類でも、組版ルールを守ると読みやすいものがつくれるはずなのですが、なかなか勉強する機会がありません。
■ どんな人にオススメ?
・地図を素直に信じてしまう人。
■ 関連しそうな本
ジョン・ノーブル ウィルフォード (著), 鈴木 主税 (翻訳) 『地図を作った人びと―古代から観測衛星最前線にいたる地図製作の歴史』 2007年01月01日
今尾 恵介 『地図を楽しむなるほど事典』
堀 淳一 『歴史廃墟を歩く旅と地図―水路・古道・産業遺跡・廃線路』
今尾 恵介 『住所と地名の大研究』 2006年7月6日
今尾 恵介 『日本地図のたのしみ』
秋庭 俊 『帝都東京・隠された地下網の秘密』 2006年10月4日
■ 百夜百音
【セーラー服と機関銃】 薬師丸ひろ子 オリジナル盤発売: 1981
『戦国自衛隊』や『時をかける少女』、『セーラー服と機関銃』など、再評価される角川映画ですが、次はいよいよ『幻魔大戦』でしょうか。
投稿者 tozaki : 2007年01月07日 18:00
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