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2007年01月09日

民営化という名の労働破壊―現場で何が起きているか

■ 書籍情報

民営化という名の労働破壊―現場で何が起きているか   【民営化という名の労働破壊―現場で何が起きているか】

  藤田 和恵
  価格: ¥1470 (税込)
  大月書店(2006/09)

 本書は、「合理化や利益至上主義までもが『民間並み』に行き過ぎてしまった」日本郵政公社とその周辺に働く労働者の「労働破壊」の実態を赤裸々に描いた(はずの)一冊です。
 第1章「郵便局の現場」では、ノルマに追われ、部下の肩代わりをして毎月十数万の身銭を切って「ゆうパック商品」を購入し、「国際エクスプレスメール」のノルマをこなすために、わざわざ自身が韓国まで出かけ、自分の泊まるホテル宛に送り、「そんなことまでしなくちゃいけないの。意味ないじゃない」とあきれる奥さんを残して自殺した郵便局の集配営業課長のエピソードを取り上げ、「小泉(純一郎)さんが民営化、民営化って言い出してから、主人はおかしくなりました。主人は小泉さんに殺されたと、思っています。このまま民営化が進んだら、第2、第3の主人が出てきますよ」という奥さんの言葉を紹介しています。
 また、この数年の日本郵政公社における過労死の背景に、
(1)ジャパン・ポスト・システム(JPS):トヨタ自動車の生産管理方式を取り入れたもの。「ムダ・ムラ・ムリをなくす」を理念に、主に郵便物の仕分け作業を再分化し、立ったまま仕分けする「スタンディングワーク」等を導入。
(2)「深夜勤(ふかやきん)」制度:「効率的な服務方法の導入」を目的に、従来の深夜勤務が午後5時~午前10時の17時間拘束で2日出勤と見なし途中2時間の仮眠があり、翌日明け、翌々日も非番が多かったのに対し、11時間拘束で仮眠時間はなく、3~4日連続して勤務しなくてはならないこともある。
の2つの制度の導入が影響していると指摘しています。
 また、ノルマを達成するために自腹を切る「自爆」の手口や、「グルメゆうパック」のノルマ達成を偽装するために、親戚などの名義で料金引き落としの口座を作って申し込み、残高不足で自動解約される「カラグルメ」という手法などを紹介した郵便局員による座談会を紹介しています。
 さらに、中央郵政研修所で開かれた、人事評価の低い職員に「今後の行動変革を促す動機づけ」をすることを目的にした「パワーアップ研修」について、「定年まであと2年なんです。どうして、私がこんなところに来なくちゃいけないんでしょうか。情けない」と泣き出した参加者がいたことを紹介し、この研修が「事実上の退職強要との批判がある」と述べ、「国鉄の人材活用センターやJR西日本の日勤教育のような、誰が見ても人権侵害だとわかるやり方」ではないが、「こういう相手を見下したやり方は、僕たちの自尊心を傷つける巧で陰湿な方法」だという参加者の言葉を紹介しています。
 第2章「しわ寄せはどこに向かうか」では、第1章で取り上げた「本務者」以外の労働者の実態を取り上げています。国家公務員法に基づく人事院規則が定める「非常勤職員」である「ゆうメイト」については、その身分について、「任期1日」との定めを絶対視する見方と、「常勤公務員と同じ内容の仕事に就かせる」場合には、「身分は常勤公務員並みに保証するべき」(この場合は「保障」ではないかと思いますが)という見方とを紹介しています。
 また、下請け業者である「日本郵便逓送」の社員や「小配(こっぱい)業者」と呼ばれる小包郵便物の配達委託業者など、「もっと弱い立場の人たち」を取り上げ、諸手当の廃止や賃下げなどの労働条件の切り下げや、随意契約から入札への突然の切り替えや本務者の営業機会とするための委託廃止など、「なりふり構わず、利益追求に奔走する公社が通ったあとは、死屍累々だ」という廃業予定の小配業者の言葉を紹介しています。
 そして、これらの取材の中で、「労働組合の声が一向に聞こえてこないこと」に疑問を感じ、かつて「権利の全逓」と呼ばれた最大の組織である「日本郵政公社労働組合(JPU)」が、今では末端の組合員から「JPUは当局(日本郵政公社)のいいなりだ」と批判され、JPU自身も「労使はともに経営を支えるパートナーであり、運命共同体です」と労使の結束を強調していることを述べています。そして、中央本部の専従役員の基本給や専従手当、通勤費、調査研究費などを含めた「諸給与計」が一人当たり約1370万円になり、三役クラスでは「2000万円を超えるともいわれる」のに対し、郵政公社の平均年収が610万円であることを比較し、「JPU役員の年収は相当に高いといえる」と指摘しています(調査研究費を含んだ相対的に高年齢と思われる役員にかかっている人件費とヒラを含む全職員の平均年収を比較していることに注意)。
 第3章「民営化の代償」では、郵政公社のライバル(と言うよりも死に物狂いで開拓した市場を公社に食い荒らされている)宅配便のドライバーたちの悲惨な労働実態として、「ビンタ、けり、張り手、ちょっとしたことで手がでるので、みんなびくびくしてました」、「僕らは、積もるだけ積もったストレスの、最後のはけ口みたいなものでした」という大手運送会社の社員の言葉を紹介しています。
 また、自治体の民間委託がハイスピードで進む背景として、行き過ぎた公務員バッシングがあるとして、「公務員の待遇切り下げの余波」が民間企業にも波及していることを指摘しています。
 本書は、郵政公社の民営化を前に、ぜひ一度読んでおきたい一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、元北海道新聞社会部記者のフリーライターが日本郵政公社の労働問題について大月書店(「マルクス主義の文献を中心に、歴史書、子供向きの本などを発行」している出版社)から出したものです。こういう概略的な情報だけでも読む前から相当な先入観を持ってしまいそうですが、中身も相当偏りがあるので、心して読む必要があろうかと思います。
 たとえば、郵政公社の仕事を請け負う「日本郵便逓送」(日本郵政公社の郵便共済組合が出資する株式会社)の社員について「公社の周辺には、もっと弱い立場の人たち」すなわち「弱者」がいるとして紹介していますが、その「弱者」が、「必死で倹約して稼ぎを維持する」目的は、高校生と中学生、幼稚園の3人の子供に、「金のことで肩身の狭い思いは絶対にさせたくない」ためであり、「上の二人は塾に行かせているし、プールやダンスを習いたいといえば、教室に通わせ」、東京23区内に買ったマンションのローンもなんとしても払い続けなくてはならない」からだと紹介しています。その「倹約」の内容も、「自家用車を売り」(23区内に住んでいて自家用車を持たないのが「倹約」?)、「たばこをやめた」(当たり前?)、「小遣いは6万円から2万円に減らした」(小遣いが6万円?)、「5~6年前まで、家族旅行は3~4泊で北海道や九州に出かけていたが、最近は伊豆や大阪などの近場がほとんど。ビジネスホテルを2部屋取り、夫婦と子供3人の5人家族が、2組に分かれて素泊まりする」(それまではどんな大名旅行をしてたの?)、というものだそうです。 これが「必死で倹約」だというのだから、いったいそれまではどんな生活をしていたのかが想像されます。
 郵政公社や関連企業の「悲惨な」労働の実態を世間に問うつもりが、それまでの「天国」ぶりを世間に知らしめる結果になっている一冊ではないでしょうか。


■ どんな人にオススメ?

・郵政公社やその周辺で働く「労働者」たちの「悲惨な労働実態」を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 クリスチャン ウルマー 『折れたレール―イギリス国鉄民営化の失敗』 2006年08月03日
 大谷 健 『国鉄民営化は成功したのか―JR10年の検証』
 ポリー・トインビー (著), 椋田 直子 (翻訳) 『ハードワーク~低賃金で働くということ』 2006年03月08日
 八代 尚宏 (編集) 『「官製市場」改革』 2006年01月27日
 鎌田 慧 『自動車絶望工場―ある季節工の手記』 2006年03月09日
 鎌田 慧 『自律と協働、はたらきがいをもとめて―大阪市現業労働者の60年』 2006年01月18日


■ 百夜百マンガ

ナルミ【ナルミ 】

 学生時代、「きめうち」とかつぶやいてる人、多くいました。あまり考え込まなくていいので気楽なのですが、終盤になってフリテンしやすいのが難点です。

投稿者 tozaki : 2007年01月09日 07:00

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