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2007年01月13日

パラドックス大全

■ 書籍情報

パラドックス大全   【パラドックス大全】

  ウィリアム・パウンドストーン (著), 松浦 俊輔 (翻訳)
  価格: ¥2940 (税込)
  青土社(2004/9/30)

 本書は、「われわれがものごとをどう知るのかを明らかにする逆説」を扱ったものです。著者は、逆説を、「証明の概念の形態模写のようなもの」と述べたうえで、「矛盾の生じ方や矛盾が生じる場面」により、
(1)誤謬(ファラシー):推論に小さな、それでもうまく隠されたあやまりを介して生じる矛盾。
(2)常識が間違っている:「思考実験」など、想像はできても実際には実現しにくい状況。
(3)本物の逆説:「嘘つきの逆説」など、内因性のものであり、答えが出ない。
等に大まかに分類できると述べ、「いい逆説は、どんな種類の矛盾が生じうるのか――どんな種類の不可能がありうるのか――という問題を立てる」と語っています。
 また、論理学において、「逆説を検出するという抽象的な問題」を、「充足可能性」と呼び、「この陳述は必ず矛盾するか」、すなわち、「これらの前提がすべて正しい世界はありうるか」を問うものであるものであることを述べています。そして、充足可能性と等価な問題群が、「NP完全」と呼ばれ、これらが全て、「逆説を認識する」という充足可能性の問題が姿を変えたものだということが明らかになったことを解説しています。
 第2章「帰納――ヘンペルのレイヴン」では、1946年にアメリカの哲学者ヘンペルによって提起された「カラスの逆説」、すなわち、「すべてのレイヴンは黒い」という仮説の真偽を確かめようとしているバードウォッチャーを想像し、この仮説を、「すべての黒くないものはレイヴンではないものである」と言い換えたときに始まる逆説を解説しています。著者は、このような「何かが存在しないことを言う仮説」である「否定仮説」を証明することは極めて難しく、「無限回の行動が必要な手順」である「超作業(スーパータスク)」であることを指摘しています。
 著者は、「科学はたいてい一般論、つまり「すべてのXはYである」を相手」にし、「一般化を通じて」、「感覚経験を扱いやすい形に圧縮」するものであるが、一般論は、「隠れた否定形の仮説」、すなわち「YでないXはない」に対応しており、「無限回の宇宙においては、否定形の仮説を証明することは超作業」であり、「スーパータスクを介さないと到達できない知識には、疑念が生じるのも無理はない」と述べています。
 第3章「カテゴリー――グルー=ブリーンの逆説」では、1953年にアメリカの哲学者グッドマンが提起した「グルー=ブリーン」逆説を紹介しています。これは、グルーブリーン語を話す宝石商がいて、この言語には、グリーンという色を表す語はなく、代わりに「1999年12月31日の深夜12時以前はグリーンで、その後はブルーであれば、それはグルーである」と定義できる「グルー」という語があり、グルーブリーン語を話す宝石商は、「すべてのエメラルドはグルー」と定義すると考えた時に、英語の宝石商とグルーブリーーン語の宝石商に、「このエメラルドは西暦2000年には何色になりますか」と尋ねると、どちらも「エメラルドが今の色と別の色になるという話は知らない」と答えるが、「西暦2000年のグルー」とは、「普通の英語ではブルー」を指す、というものです。ここにおける逆説とは、「グルーブリーン語の宝石商の予測は、英語の宝石商の予測とは」合わず、「2000年になると、少なくともどれか一つの予測は間違いということになる」ものであると解説しています。
 著者は、すべての事物の色が刻一刻、少しずつ変化している、とする「回転する色環」を想定し、この考え方が、「逆転スペクトル」という思考実験と融合して、哲学者に盛んに論じられていると述べています。これは、「自分は生まれたときから、色を他の人々と正反対に見てきた」とするときに、「2人が、自分たちは同じ色を見ていることを確かめられるような形で、お互いの主観的な色の感覚を記述できるようにする方法はあるだろうか」というものであり、「これは不可能なのではないか」と述べています。
 また、科学がもつ美意識、すなわち、「理論の『美しさ』は、おおむねその単純さで測られる」とする「オッカムの剃刀」と呼ばれる重要な原理を解説しています。これは、「必要以上に事物を増やしてはならない」、すなわち、「必要な場合以外には、新たな仮定や仮説(事物)に訴えるべきではない」とする考え方であることが解説されています。
 第4章「知りえないこと――一夜で二倍?」では、科学者ポアンカレが立てた「史上最も有名な謎」として、「昨夜、みんなが眠っている間に、宇宙にあるすべてのものが2倍の大きさになったとしよう。何があったか知る方法はあるだろうか」という謎を紹介し、この思考実験の要点は、「変化を検出することができないのであれば、変化はあるのだろうか」というものであると述べています。
 また、時間に関する思考実験で最も有名な話として、1921にラッセルが考えた、「世界が5分前にできたとしよう。記憶や『以前の』出来事の痕跡も、造物主のいたずらとして5分前に作られたのである。そうでないことを、どうやって証明するだろう」というものを紹介し、それはできないとラッセルが語っていると述べています。
 また、認知科学が扱う事項には確かめられないものが多く、「他者の心」という「われわれが他人に自分と同様の思考や感情があることをどうやって知るか」という大問題を紹介しています。
 第5章「演繹――積み重ねの逆説」では、パズルと逆説の関係について、「パズルではいろいろと考えられる仮説の家(「うち」の誤植)一つだけが矛盾を避けられる」が、「逆説では、成り立つ仮説は一つもない」と述べ、「論理パズルは世界を理解するために用いる演繹的推論のミクロコスモスである」と述べています。
 第6章「信じること――予期せぬ処刑」では、絞首刑好きの裁判官が、囚人が、「毎晩、翌朝は絞首刑になるのだろうかと思いながら眠ることになる」ために、「来週の7日のうちいずれかの日の日の出の時刻に絞首すること」を宣告する「予期せぬ絞首刑」の逆説を紹介しています。この宣告に対して囚人の弁護士は、最後の土曜日に執行しようとすると金曜日には明日が執行日だとわかってしまうため土曜日はありえない、同じように金曜もありえず、逆算していくと、全部の曜日が除外されるため、「この宣告は実行できない」と語り、これを聞いて安心して眠った囚人は、ぐっすり眠った後、火曜を迎え、「その日とは知らずに」刑場に送られる、というものです。この逆説の逆説たる所以は、「一見すると最もな宣告が実行できない――それなのに実行できる」ところであり、この逆説には、戦時中のスウェーデン放送の、「今週、民間防衛演習が行われます。民間防衛組織の体制を万全に整えてもらうために、この演習が何曜日に行われるかは、前もって知らされません」という発表が元になっているという特徴が述べられています。
 また、哲学者が「三部立ての説明」として定義してきた知識の基準として、
(1)信じていること
(2)信じる根拠があること
(3)本当にそうであること
の3点を挙げ、多くの人が知識の第4の条件を見つけようとして苦労してきたことが述べられています。
 第7章「ありえないこと――予期の逆説」では、「集合の要素として党の集合が入ることの古典的な例題」としてラッセルの「理髪師の逆説」を紹介し、これらのような逆説に対しては、「現実世界でそういうことになりうるか」と応じられることがあると述べています。そして、「存在する可能性がある世界」という意味の「可能世界」という考え方が、西洋では最初にドイツの哲学者ライプニッツによって書かれたものであり、「この文は間違っている」が逆説であるとは、「この文が正確に自らのことを記述しているような可能世界はない」という意味であると述べています。
 第8章「無限――トムソンのランプ」では、「逆説にはよくある主題」として、「完全には把握できない広大な世界の象徴」である「無限大」を取り上げ、「逆説はしばしば無限大を含み、穏やかな日常世界に衝突し、それを脅かす」と述べ、最古クラスの無限大の逆説として、ゼノンによる「アキレスと亀」の逆説を紹介しています。
 第9章「NP完全――崔奔の迷宮」では、迷路をたどる問題が、「NP完全」といい、「どんな強力なコンピュータをも困らせる可能性がある、普遍的な問題群に属する問題」であると述べた上で、最も知られている迷路を解くアルゴリズムとして、「選ばなければならないところへ出たら、必ず一番右手にあるブランチを選ぶ」という「右手法」を紹介し、単純という長所がある一方、(1)効率的でない、(2)切り離された「島」がある迷路では同じ区域をぐるぐる回ることになる、という2つの短所があることが述べられています。
 第10章「意味――双子の地球」では、ヴォイニッチ手稿を取り上げ、「全体が暗号で書かれていて、まだ解読されていない。その著者、主題、底知れない謎である。解読されたとして、原文が何語になっているのかということさえ、誰も知らない。風変わりな裸婦像、奇異な発明品、存在しない動植物が、解読しようという人々をそそっている(後略)」と解説し、ヴォイニッチ手稿の謎が、「それが読めないことによって、知識の弱点に関する批評になっている」という「ほろ苦い魅力」があると述べています。
 第11章「心――サールの中国語の部屋」では、「脳が『機械』あるいは『コンピュータ』の類であり、意識は――何らかの形で、――この機械の動作の結果」だと想定する心についての考え方を紹介し、この「意識の機械論的な説明――加えてそれに対する懐疑論」が、1714年にライプニッツによって論じられた「思考する機械」にルーツを持つことが述べられています。
 第12章「全知――ニューカムの逆説」では、「全知ほど逆説を内在する概念は、そうはない」と述べ、「全知の逆説」として、「すべてを知っていると不利になる」ことを、「チキン・ゲーム」のゲーム理論による解説を用いて述べ、全知の逆説が、「常識は間違い」タイプの逆説であると解説しています。
 本書は、パラドックスを通じて私たちの世の中の見方に潜む思い込みや思考パターンを気づかせてくれる1冊です。


■ 個人的な視点から

 本書は、タイトルには「世にも不思議な逆説パズル」とありますが、これは受け狙いっぽい感じで、おそらく同じ著者・訳者による『ビル・ゲイツの面接試験』の二匹目のドジョウ的な狙いがあったのではないかと思います。
 本書の表紙の迷路は、『世界でもっとも美しい10の数学パズル』でも紹介されていて、確か『不思議の国のアリス』に出てきたヤツじゃないかと思うんですが、確認しておきます。


■ どんな人にオススメ?

・思考を鍛えたい人。


■ 関連しそうな本

 ウィリアム パウンドストーン (著), 松浦 俊輔 (翻訳) 『ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?』 2005年11月11日
 ウィリアム パウンドストーン 『囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論』 2006年09月11日
 マーセル ダネージ (著), 寺嶋 英志 (翻訳) 『世界でもっとも美しい10の数学パズル』 2007年01月08日
 ゲリー ケネディ, ロブ チャーチル (著), 松田 和也 (翻訳) 『ヴォイニッチ写本の謎』 2006年09月10日
 ジョセフ・メイザー (著), 松浦 俊輔 (翻訳) 『数学と論理をめぐる不思議な冒険』 2006年12月16日
 スティーヴン ウェッブ (著), 松浦 俊輔 (翻訳) 『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス』 


■ 百夜百音

キューティーハニー SONG COLLECTION SPECIAL【キューティーハニー SONG COLLECTION SPECIAL】 les 5-4-3-2-1 オリジナル盤発売: 2004

 「オリジナル・ラヴ」の前身、「レッドカーテン」を輩出した80年代後半のネオGSブームの主役と言えば「ファントムギフト」ですが、そのベーシストであるサリー久保田が作ったのが「les 5-4-3-2-1」です(大学時代にコピーもしました)。
 10年ほど前にキューティーハニーのOVAの音楽を担当しています。


『ザ・ファントムギフトの奇跡』ザ・ファントムギフトの奇跡

投稿者 tozaki : 2007年01月13日 05:00

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