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2007年01月15日
選挙ポスターの研究
■ 書籍情報
東大法・蒲島郁夫ゼミ
価格: ¥10500 (税込)
木鐸社(2002/11)
本書は、「国政選挙の候補者の選挙ポスターをすべて収集し、それを一冊の本に」まとめることで、日本の政治文化を知る上での重要資料とすることをめざしたものです。ゼミの指導教官である蒲島教授は、「常々、『人のやっていない研究をしなさい』といっている」が、本書は、「選挙ポスターに関する研究所として、最初の(たぶん最後の)本格的なもの」ではないかと述べています。
この選挙ポスターという「独特の選挙メディア」は、「政治学の分野においてはほとんど研究の蓄積がないといってよい分析対象」であり、著者は、本書を、「選挙キャンペーンの研究」の1つであると同時に、「2000年総選挙における選挙戦術・戦略分析」としての側面を持ち、「候補者が『何をどのようにアピールしているか』を知ることは、候補者と有権者のコミュニケーションのあり方を知る上での第一歩であることには違いなく、『政治的コミュニケーション研究』にも何がしかの貢献ができたのではないか」と述べています。
本書の分析対象は、前候補者1199名中の57.1%に当たる685枚であり、その収集方法は、各政党本部に依頼した結果、社民、自由は90%以上収集できたのに対し、共産、民主ややや低かったこと、自民党、共産党のポスター収集率に地域的不均衡があること、などのバイアスがあることが注記されています。
著者は、ポスターというメディアが広く用いられる理由として、
(1)公的補助制度のために低コストであること。
(2)効率性の高いメディア資源が限られていること
の2点を挙げ、「選挙ポスターのメディアとしての特徴」として、「最も高い受動的接触率」を挙げ、「選挙ポスターは候補者の政策や経歴などを載せているにもかかわらず、効率性が非常に低」く、「有権者にとって候補者選択に役に立つ媒体ではないが、接触率は非常に高く、そのために候補者の認知度を高めるには役に立っているといえる」と述べています
第1章「選挙ポスターの構成要素1~デザイン」では、ポスターの重要な構成要素である、候補者名・顔写真・政党名・スローガンの4つの要素の面積を分析し、平均値は、53.7%とその半分強をこの4要素が占めていること、なかでも共産党は、候補者名と政党名に広い面積を割いているため60%近くにまで達し、さらに政党名は、「平均値の2倍を軽く超えており、極端に大きい」一方で、「顔写真は小さい部類に入る」ことが述べられています。また、自民党と民主党を比較すると、自民党は政党名・顔写真が大きく、民主党はスローガンが大きいことがわかり、支持層の違いが現れていると述べられています。また、ロゴマークと当選率の関係については、新人ではロゴありが20.0%に対し、ロゴなし9.5%と大きく差が開いていることが特記されています。
第2章「選挙ポスターの構成要素2~写真」では、「顔の中心」の分布が、自民党・共産党ではまとまっているのに対し、民主党は点が散り気味であることが分析されています。また、無地の白いシャツを着ているケースが高い中であえて色シャツを着用する率は30代の候補者に多く、「型にはまらない服装が若さや斬新さの間接的なアピールになっている」ことや、政党別では民主党の率が高く、都市部において率が高いことが述べられています。さらに、ポスターに使われる小道具としてもっとも多く利用されているのは、「演説風景を演出し、雄弁なイメージをアピール」するマイクである他、バレーボールや野球のボール、自転車、白衣と聴診器などが用いられていることが述べられています。
現職の証である議員バッジの着用については、「比較的都会の代議士が議員バッジをつける傾向がある」ことや民主党候補のほうが着用率が高いことなどが分析されています。
第3章「選挙ポスターの構成要素3~文字情報」では、名前の縦書き・横書きを分析した結果、自民党では、「横書き候補ほど、当選回数が少なく、年齢が若く、その選挙区では老年人口比が低く青年人口費が高い」という有意差がある一方、民主党には傾向がないことから、「自民党が候補者の当選回数や年齢に合わせた、さらには選挙区の有権者構成に合わせたポスター作りをしている一方、民主党ではそのような配慮はまったく感じられない」と分析しています。
また、書体については、どの政党でもゴシック体が圧倒的に大きいが、共産・社民の女性候補者では、丸ゴシック体を使用する率が高いことが指摘されています。
さらに政党名の表記に関しては、面積では共産党がずば抜けて大きく、「全国一丸となった『比例区は共産党へ』の大合唱は並ではない」こと、社民党も比較的広いスペースを充てていることなどが分析されています。また、比例区宣伝に関しては、
・比例代表「も」○○党へ
・比例代表「は」○○党へ
の2つについて、前者は小選挙区を重視している一方、後者は「比例区のために党の広告塔となっている」ことが指摘されています。
候補者の経歴の表記については、与党候補者が政権党ゆえに就けるポストなどの経歴アピールに熱心であった一方、野党の新人候補者は、新人らしいフレッシュな経歴をアピールし、また細かい経歴も積極的に載せていることが分析されています。
第4章「候補者属性と選挙ポスター」では、「若さを訴えかけるもっとも有効な手段」として、年齢を表記している候補者が7名いたことや、都市では「若いということを前面に打ち出すことは有効な手段」である一方、地方では「若さに頼りなさ・実力のなさを感じる人々が多くいる」ためストレートなアピールが難しいのではないかと分析されています。
また、
・勝ち組(相対得票率60%以上)
・負け組( 〃 6%以下)
のポスターを比較したところ、保守層の多い地域の共産党候補者では、「候補者独自の要素(経歴や独自のスローガンなど)さえ掲載せず」党のスローガンを重点的に掲載し、「候補者の当選より比例区で1人でも当選者を確保するという戦略」が見えると述べています。
さらに、言葉遊びを用いた「迷スローガン」としては、
・「こう」という名前の候補者が、「こう!と決めたら(氏名)××こう」
・「ごう」という名前の候補者が、背景に「Go」
・「ゆみ」という名前の候補者が、「You&Me」
・「かつ」という字を使う候補者が、「政治にカツ!」や「カツを入れよう」
等の例が掲載されています。
第5章「選挙区属性と選挙ポスター」では、レイアウトの地域差として、
・顔の大きさは、北海道で大きく、南巻頭と東京で小さい。
・苗字は近畿、北海道が大きく、名前は東北、東海が大きい。
・九州では氏名共に小さいが政党の表示が大きい。→組織を重視した選挙運動の可能性。
・スローガンは関東・四国が大きく、近畿、中国は小さい。
等の特徴があり、それぞれ選挙運動形態と結びついている可能性が指摘されています。
第6章「政党と選挙ポスター」では、79年の総選挙と比較して、政党の公認を示す表記の率が87%から76%に下がっている理由として、選挙制度の改変の影響を挙げ、「小選挙区制よりも低い得票率で当選できる中選挙制では、自民支持者の票を"確実に"集めることの重要性は相対的に高」く、後任表記が重視されたが、「小選挙区制の下で各候補者は他党支持者や無党派を意識せざるを得なくなったため、政党公認のアピールが弱まった」と分析しています。
第7章「並立制下の選挙運動」では、「並立制において候補者が担う役割を明らかにし、これを手掛かりとして候補者の政党に対する自立性を分析」した結果、
(1)候補者の存在は政党の比例区の得票を増大させる。
(2)選挙区における候補者の強さは、比例区における政党の得票にも影響を及ぼす。
(3)候補者の強さと選挙運動の自立性のあいだに相関関係が見られる政党と見られない政党が存在する。
(4)民主党に関しては、選挙運動における政党宣伝の量が政党と候補者の得票分布を規定していた。
の4点を明らかにしています。
第8章「政党組織と候補者の比例区行動」では、「野党が比例区を重視するほど、小選挙区での野党分断を招き自民党に漁夫の利を与えている」ことが指摘され、「共産党が、『小選挙区での当選よりも比例区得票を優先する』候補者を全区に立てることが小選挙区での野党乱立を招き、第二党である民主党を苦戦に追い込むという構図」が明らかになっています。
終章「選挙ポスター研究の意義」では、本書の分析結果を、
(1)ポスターの構図・デザインは画一的である。
(2)内容と細かい表現はバライエティーに富んでいる。
(3)選挙メディアであるにも関わらず(「拘らず」の誤字)、政策的な内容に乏しい。
(4)候補者、政党、選挙区の違いを反映している。
(5)選挙ポスターは、候補者の合理性の産物である。
の5点にまとめ、選挙ポスターが、「有権者とのコミュニケーション能力を欠いている」ことが本書の基調をなす認識であることを述べています。
本書は、政党や選挙事務所関係者にはぜひ参考になる一冊ではないでしょうか。
■ 個人的な視点から
名前の読みの韻を良くするために、本名では訓読みするのをあえて音読みする場合も多いようです(例:つよしorたけし→ごう)。井上陽水が「ようすい」ではなく「あきみ」であることは有名ですが、訓読みすると柔らかい印象を与える一方で、音読みさせることで歯切れがよく攻撃的なイメージを与えることができるのかもしれません。
さて、本書の資料編「選挙ポスターの作られ方」では、自民党のポスター作成マニュアルである『選挙宣伝―新・目で見る選挙戦―』が紹介されていますが、「自民党サービスセンター」のサイト(とても政権与党の関係サイトとは思えない、個人の趣味のページかと思った。何とかしてくれ)を見ると、出版物のコーナーに、『目でみる選挙宣伝』(4000円)が販売されています。図書館にはない類の本だと思いますが、ぜひ一度読んでみたい。でも高いので躊躇してしまいます。
このサイトには、党則や機関紙の他、
・必勝だるま(10000~40000円)
・必勝マーク入り紙コップ(2000個入り16000円)
・必勝帽子(1000円)
・卓上党旗(10000円)
等が販売されています。
■ どんな人にオススメ?
・選挙のときのポスターがどれも似たり寄ったりだと思っている人。
■ 関連しそうな本
藤谷 治 『いなかのせんきょ』 2006年10月28日
林 真理子 『幸福御礼』
奥田 英朗 『町長選挙』
村松 岐夫, 伊藤 光利 『地方議員の研究―日本的政治風土の主役たち』 2005年02月21日
横江 公美 『判断力はどうすれば身につくのか―アメリカの有権者教育レポート』 2005年07月13日
選挙制度研究会 『統一地方選挙の手引』
■ 百夜百マンガ
ヤクザとか選挙とか原作者の得意そうな題材を扱っても、結局は「播磨灘」になってしまう個性の強さが不思議です。
投稿者 tozaki : 2007年01月15日 06:00
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