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2007年01月17日

実験経済学入門~完璧な金融市場への挑戦

■ 書籍情報

実験経済学入門~完璧な金融市場への挑戦   【実験経済学入門~完璧な金融市場への挑戦】

  ロス・M・ミラー (著), 川越 敏司 (監訳), 望月 衛 (翻訳)
  価格: ¥2520 (税込)
  日経BP社(2006/3/2)

 本書は、「実験室内に再現された経済環境において経済理論の仮説を実験的に検証する学問」である「実験経済学」に関する入門書です。
 第1章「風洞実験と市場」では、物理的世界において、風洞などのシミュレーションによる分析がうまく行くならば、「同じような方法が市場でも使えるのではないか、市場は結局、買い手と売り手の間をつなぐ橋なのだから」という発想を「自然な成り行き」として、本書が、「実験室に構築した市場が市場のモデルとして有効であるだけでなく、経済の理論と現実の差を埋めるのに役立つのかはなぜかを説明する」ものであることを解説しています。
 第2章「安値拾い」では、「実験室の統制された環境でバブルを生成し、投機的バブルは実在することを示す」と述べた上で、「実験経済学と他の経済学の大きな違い」として、「実験経済学が生きた生身の人間を被験者として使う点」を挙げ、モデル化に当たり、人間の行動が「普遍的な部分と個人的な部分」という2つの部分からなると考えると良いと述べています。そして、史上初めての市場実験が、1940年代、「ウォール街の喧騒から遠く離れたマサチューセッツ州ケンブリッジにある、ハーヴァード大学の平穏な教室」で、チェンバレン教授によって行われたことが述べられていますが、チェンバレンは、「実験結果が自分の独占的競争の理論――市場は非常に不完全な形で機能している――を支持するものになったことを明らかに喜んでいる」一方で、「そうした結果をあまり真に受けなかったようだ」と述べられています。
 第3章「ふたりのスミス」では、アダム・スミスによる『諸国民の富』の出版以降、「アダム・スミスが大まかに説明した理論の細部を詰めようと、たくさんの哲学者、科学者、そして経済学者が仕事を続け」た後に、チェンバレンの実験の一つに参加していたヴァーノン・スミスが、1955年に、「実験のやり方を変えれば、需要と供給の法則に対する反証をチェンバレンよりも強い形で行えることに気づ」き、「自分で設計した市場実験を行うにあたって、被験者がルールを理解し、市場がどう機能するかを把握するに従って結果が変わるかどうかを見ようとした」ことが述べられています。そして、「買い手と売り手の両者が同じ条件で参加」(=ダブル)し、「注文は口頭で競売人に告げられる」、「口頭ダブル・オークション実験の結果」を見て、需要と供給の法則は「マーシャルが思っていたよりいっそう協力に機能することを示す結果」が出たことに衝撃を受け、市場メカニズムが、「買い手と売り手の非公開情報を集計して一意の効率的な価格と数量を実現する驚くべき計算機であること」を発見したことが述べられています。その後、スミスが、
(1)市場をより現実的にするために、政府の補助金や自分のポケット・マネーを使って本物の現金の報酬を支払うようになった。
(2)取引を実現すれば買い手と売り手にそれぞれ一個当たり5千との「手数料」を支払うことで、最後の取引を行う努力に対して報酬が与えられるようになった。
の2つの根本的な変更を加え、「スミスの実験は市場という概念と需要と供給の法則に価値ある証明を提供した」ことが述べられています。
 第4章「実験室のバブル」では、「実験市場が需要と供給の法則に従うことが示された」ことに関連して、スミスの実験で、「口頭ダブル・オークションで実現する競争均衡は安定的であったこと」というもう一つの同じような重要な結果が得られたことが述べられ、スミスの市場が、「完全かつ沈滞した市場」であり、「市場のもっとも好ましくない特性」、すなわち、「まれにしか起きないが、しかし深い傷を残す投機的バブルとそれに続く暴落」も「実験室で再現できるかという問題が残った」ことが開設されています。そして、経済学者たちが、「情報カスケード」と呼ばれる、「トレーダーたちが自分の持つ情報を無視し、『群れの後追い』をしようとする現象」があることに気づいていることや、遅れを伴う価格調整過程が行き着く3通りの可能性のなかから、「軌跡がクモの巣に」似た「クモの巣モデル」などが解説されています。
 そして、「実験に投機を導入するため」、「第3の種類の被験者を持ち込んで投機家の役割を与えれば、彼らに市場を不安定化させる能力があるかどうかを検証できる」として、「一方には投機家を入れ、他方に入れず、出た結果を比べる」ことによって確認できることが述べられています。この実験の結果、驚くべきことに、「実験が複雑であったにもかかわらず、市場メカニズムが相変わらず効率的に機能」し、「均衡に達するのにやや長い時間がかかっただけ」であったことが解説されています。
 著者は、「資産市場では交換はコストや価値の違いで起きるのでは」なく、「被験者のリスクに対する態度と将来における資産価値の評価の違いに基づいて起きる」のであり、「被験者による資産の評価に影響を及ぼす要因」の統制が難しいため、「実験で個人差を利用して取引を促すのは難しい」と述べています。また、「市場バブルとは本質価値ではなく取引価値で資産価値が決まる状態」を言い、「バブルのさなかにある資産は焼けたジャガイモ(ホット・ポテト)のようなもので、トレーダーからトレーダーへと次々に持ち主を換え」るが、実験における「投機家がいて季節が2つの市場では、最後の審判がいつもすぐそこに迫っているため、時間が短すぎてバブルは発達しなかった」ことが解説されています。そして、スミス、スチャネック、及びウィリアムズが、さまざまな実験パラメータの下で、「新しい実験ではバブルがどれほど容易に発生するか」を示したことが述べられ、「初めての実験によるバブル」が、「典型的なバブルと1987年に起きた特殊な状況の両方を含む市場の不安定性の一般的な原因」についての手掛かりを与えたことが解説されています。
 第5章「野生のバブル」では、「実験室でバブルを生成するのが容易だということ」は、金融市場のような「同じような制度に基づいてつくられた自然発生的市場」でも「一般的な現象である可能性」が高いとして、「自然発生的市場で効率的市場理論を否定」するためには、「株式などの資産の価値が期待キャッシュフローの価値と等しくないことを示せばよい」が、効率的市場理論は、これに対して、
(1)キャッシュフローは正確には予測できず、どんな資産でも真の価値を求めるのは難しい。
(2)ノイズが資産価格に入り込む。意味のある新しい情報がなくても市場価格は「ランダムウォーク」と呼ばれる挙動を示す。
の2つのバリケードを築いていることが解説されています。
 また、カーネマン、トヴァスキー他の心理学者が、行った実験が、「経済や金融の基礎理論を拡張し、実験で被験者が示す明らかに非合理な行動を説明する理論を構築しようとする研究分野」である「行動経済学」や「行動ファイナンス」の基礎となったことが述べられています。
 さらに著者は、「市場の不完全性」が、
(1)市場は全て、経済内にある知識を集約して価格に変換する機能を持つが、集約仮定と最終的な結果(市場価格)が共に欠落していると、他の市場が効率的に機能するために必要な情報が得られない可能性がある。
(2)追加された市場は、既存の市場に対し現実的な妥当性を再確認させる働きをするが、この点で不完全な市場は効率性を損なう。
の2つの点で効率性を損ないうることを解説しています。
 著者は、「バブルと市場の効率性について基本的な事実」として、「市場は非常に高い効率性を持ちうるが、バブルが四六時中発生する単純な資産市場を構築することも可能であることが実験でわかっている」ことを挙げ、「実験室でも自然発生的市場でも非合理性が生き延びる可能性を検討する可能性はありそう」だと述べています。
 第6章「ブラック・マンデー」では、1976年に発明されたポートフォリオ・インシュアランスが、「巨大な株式ポートフォリオに対する保険」という「欠けていた市場」の問題を回避しようと、「目新しい取引戦略」を用いた結果、「もっと大きな問題」、すなわち、「市場が激しく不安定化」するという問題を招いたことが解説されています。そして、ウォール街を襲った「金融技術革新の波」である数量的手法が、
(1)ポートフォリオ
(2)オプション
(3)インセンティブ
という、「金融の世界では長い間株式や債券の脇役に甘んじていた」3つの分野に焦点を当て、
(1)モダン・ポートフォリオ理論
(2)オプション評価理論
(3)インセンティブ管理理論
という3つの理論として構築されたことを解説しています。
 また、「取引戦略を実行するためにコンピュータ・プログラムを使う」プログラム取引が、パーソナル・コンピュータの普及によって1980年代のウォール街に広まったこと、そして、ブラック・マンデーの際、「世界はコンピュータによる株式取引がどれほど市場を不安定化させるかを思い知らされた」と述べています。
 第7章「この世はみなオプション」では、MITのフィッシャー・ブラック、マイロン・ショールズ、およびロバート・マートンのオプション評価方法が、「オプションを複製するために保有する株式の数量、および借り入れる資金の額を連続的に変化させていく、ある種のダイナミック・ヘッジ取引戦略」に「相当する」と言えるためには、
(1)原資産の価格変化は基本的にランダムウォークに従う。
(2)原資産と無リスク資産の両方が、いつ何時でも効率的市場の価格で売買できなければならない。
の2つの非常に強い仮定が必要になることが解説されています。
 また、ブラックとショールズが、「無限の可能性をうまく考慮すれば、オプションを評価する一般公式が用意に得られることを発見」し、オプションを評価するためには、
・行使期間の長さ
・行使価格
・無リスク金利
・原資産価格
・原資産のボラティリティ
の5つであることが解説されています。
 そして、「この世は皆オプション」という見方がウォール街に最大の影響を与え、ウォール街は、「債券を発行する側と購入する側のニーズにミスマッチがある」ことに大きなチャンスがあることに気づき、「債権を『さいの目に切り分けて』、年金基金にとって問題の多かったオプションを切り離し、早期償還のリスクをとる気のある他の投資家や投機家に売却」したことが述べられています。
 第8章「見えざる手が価格を掴む」では、フリードマンの有名な「タダのメシなんてものはない」という言葉は、「彼の大好きな制度、すなわち市場そのものにも当てはまる」として、「市場の効率性なるメシの代金は価格発見過程には必ずつきまとう非効率性によって支払われる」ことを述べ、「そういう非効率性を排除できる完全な市場メカニズムが見つかる可能性を残しておくためには、価格発見についてよく理解しなければならない」と語っています。そして、「市場の価格発見のコストを負担する」事を避ける「フリーライダー問題」を、「ある個人のコストを伴う行動が、そのコストを負担しない他者を利するとき、常に発生する」と述べ、「取引が価格に与える影響」である「マーケット・インパクト」と呼ばれる「取引が起こす証券価格の変化の大きさ」について解説しています。
 また、口頭ダブル・オークションが、「開いている間いつでも取引が可能」な「ザラバ市場」であるために、「非常に乱雑」であり、その長所が即時性にあることが述べられています。
 さらに、実験市場に非常に近い関連分野であるオークション・メカニズムの設計について、「オークションを徹底的に分析した初めての経済学者」であるウィリアム・ヴィカレイを取り上げ、その考えは、「オークション過程の設計を変えれば買い手に留保価格を公開するインセンティブを与えることができると気づいた点」で画期的であったことが述べられています。
 第9章「シグナリングと指数」では、1970年にジョージ・アカロフによて発表された論文で使われた「レモンという言葉」に関して、アカロフが、「売り手はモノの真の価値を知っている一方、買い手は完全に暗闇に放置されている場合」という、「逆選択がもたらすもっとも本質的な問題を分析」したことを解説しています。さらに、アカロフの仕事を拡張し、「価格の代わりに、実績を示す外生的な指標を、品質を示すものとして使えないか」と考え、「市場シグナリング」のモデルを開発したスペンスや、シグナリング・モデルを労働市場から金融市場に拡張したスティグリッツ、ロスチャイルドおよびワイスについて解説し、「実験でのシグナリング市場は壊れやすい」ことが、「買い手と売り手に情報に関する足かせをはめると市場の挙動が典型的にどうなるか」を示唆していると述べています。
 第10章「結局この世は金なのだ」では、「経済学の完全な世界」では、お金は存在せず、「お金は市場に開いた一番大きな穴を埋めるべく作り出された方便」であると述べた上で、「そもそも貨幣そのものが最大の貨幣錯覚なのかもしれない」と述べています。
 第11章「市場は絡まりあって大騒ぎ」では、1998年9月に「世界金融の通行を妨害していた金融世界の乗り物」として、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)を取り上げ、「優秀な頭脳と技術の粋を結集した情報システム」によって、「市場で明らかに不適正な価格を一番乗りで発見し、価格が正常に戻れば利益を得られるポジション」を作る、というLTCMの事業戦略が、「単純であるという点で素晴らしかった」と述べる一方、LTCMの知的巨人であるショールズとマートンが作り出し、「今日の金融市場に深く浸透した考え方」である「裁定取引に基づく理論が持つ概念上の欠陥」が、LTCMの崩壊を早めたことが皮肉であったと述べ、「LTCMの栄枯盛衰は市場メカニズムの欠陥によってもたらされたのだと考えることができ」ると述べています。そして、金融経済学の、「効率的市場理論へのほぼ完全な信頼を捨て、行動ファイナンスへと接近する傾向」に、LTCMの崩壊で拍車がかかり、その1年以上前には、シュライファーとヴィシュニーが「裁定の限界」と題した論文を発表し、「LTCMやその他のヘッジファンドが行っている裁定取引では市場が均衡に戻らないことがある」ことを示す理論を展開したことを解説しています。
 第12章「市場に知能を」では、「基本的なスマート・マーケット・メカニズムがどのように機能するか」を示し、「スマート・マーケットは素晴らしいかもしれないが、同時に危険でもある」と述べています。そして、「自己裁定市場システムの最も重要な特徴」として、「そこに含まれる市場はバスケットの市場も構成要素の市場もすべて、ダブル・オークション単体に見られるのと基本的に同じ性質を備えているという点」を挙げています。
 第13章「賢い競売台」では、世界中の国家政府が「所有」している電磁スペクトルのオークションを取り上げ、ヨーロッパ諸国の初期の周波数オークションにおいて、もっとも成功したのは進化ゲーム理論の専門化が設計したオークションであったことが解説されています。
 第14章「良かれと思って」では、実験経済学が直面する課題は、「実験市場を『本物』らしく見せること」ではなく、「作った市場を、整合性を維持したまま実験室から外の世界へ移すこと」であると述べ、「見えざる手は必然的に進歩をもたらす」ものであり、「私たちには、研究室で得られた初期の結論に基づいて、経済の進化に全面的に参加する義務がある」と主張しています。
 本書は、実験経済学や証券・株式投資に関心のある人にはぜひ一読してほしい一冊です。


■ 個人的な視点から

 『実験経済学入門』という本書のタイトルは、あたかも経済学の教科書のような印象を与えますが、むしろポピュラーサイエンスのような読み物として、特に基礎知識を持たなくても、場合によっては、経済学自体に関心がある必要すらありません。実験経済学という新しくエキサイティングな新領域が、ブラック・マンデーに代表される市場の不安定性をどのように解明していくか、という展開は発見・発明モノの科学読み物の趣があります。


■ どんな人にオススメ?

・市場の仕組みを再現したい人。


■ 関連しそうな本

 多田 洋介 『行動経済学入門』 2006年08月31日
 友野 典男 『行動経済学 経済は「感情」で動いている』
 A. シュレイファー 『金融バブルの経済学―行動ファイナンス入門』
 スティーヴン・レヴィット 『ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する』
 ペリー・メーリング (著), 今野 浩, 村井 章子 (翻訳) 『金融工学者フィッシャー・ブラック』 2006年12月27日
 エマニュエル ダーマン (著), 森谷 博之, 長坂 陽子, 船見 侑生 (翻訳) 『物理学者、ウォール街を往く。―クオンツへの転進』


■ 百夜百マンガ

SHADOW SKILL【SHADOW SKILL 】

 とにかく、連載時の岩明均作品とは対照的な「黒い」作品です。どのくらいかというと、アフタヌーンを読んでいると指先が真っ黒になるのは、半分くらいはこの人のせいでしょう(後の半分は高橋ツトムか?)。スクリーントーン職人として生きていく道が開けそうです。

投稿者 tozaki : 2007年01月17日 21:00

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