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2007年02月17日

渋滞学

■ 書籍情報

渋滞学   【渋滞学】

  西成 活裕
  価格: ¥1260 (税込)
  新潮社(2006/9/21)

 本書は、渋滞が嫌いで、「混むには必ず理由がある。そしてその理由を取り除けば渋滞はなくなるはずだ」と考えた著者の10年間の「渋滞の理由探しの旅日記」をまとめたものです。著者は、建築士や生物学者、情報処理技術者が、「異なる分野でも案外似たようなことを考えている」という「相似性や相違点に注目」したと述べています。
 第1章「渋滞とは何か」では、ホースの出口の断面積を半分に絞れば水は2倍の速さで出て行くのに、人や車には無理な理由として、「人は水の分子と違って自らの意思を持っており、別に誰かに押されなくてもいろいろな方向に勝手に動ける」ことを指摘し、水分子は、(1)「慣性の法則」、(2)「作用=反作用の法則」、(3)「運動の法則」という力学の基本原理が成り立つ「ニュートン粒子」であるのに対し、人や車はこれが成り立たない「非ニュートン粒子」であり、著者はこれらを「自己駆動粒子」と名づけています。そして、これら「自己駆動粒子系」とその渋滞を考える上で性質の良い理論モデルとして、「ASEP(エイセップ:Asymmetric Simple Exclusion Process、非対称単純排除過程)」と呼ばれるモデルを紹介しています。そのモデルとは、
(1)初めにたくさんの箱を用意し、それをずらりとまっすぐ並べる。
(2)箱には玉が一つだけ入り、適当にいくつかの箱に玉を入れておく。
(3)玉をいっせいに右隣の箱に移す。ただし、すでに玉が入っていれば動けない。
という簡単なルールで、この操作を繰り返すと、玉全体が右にぞろぞろ動いてゆき、これを人や車の動きに見立てることができることが解説されています。そして、「一つの箱には一つしか玉が入れない」という「排除堆石効果」があることで渋滞が発生することが述べられています。このとき、玉が少なければ渋滞は発生しないが、玉を増やしていくと、「お互いが邪魔になって動くことのできない玉の集団」(クラスター)が発生し、クラスターは流れとは逆に右から左へ進むことや、渋滞クラスターができ始める玉の数は、サーキットの長さの半分だけ玉を入れた状態で、このギリギリの状態は、「臨界状態」と呼ばれることが解説されています。
 この他、従来の渋滞の理論として、現在で銀行やデパートなどっで実際に使われている「待ち行列理論」について、「リトルの公式」と呼ばれる、
   待ち時間 × 人の到着率 = 待ち人数
が紹介されています。著者は、この待ち行列理論には、「人の実際の動き」である「排除体積効果」が考慮されておらず、「ところてんのように後ろから押されて全体が一気に動く」というイメージであり、「自己駆動粒子系としての扱いは、車や人の排除体積効果を考慮しなければならないときに本質的に重要になってくる」ため、「ASEPを基礎とした自己駆動粒子系の渋滞学はこれからの分野」であると述べています。
 さらに、人や車が道の上を「連続的」に移動するのに対し、ASEPでは箱から箱に「離散的」に動くモデル化をしていることについて、このような手法は、近年多くの分野で見られるようになった「セルオートマトン法」と呼ばれる新しいモデル化の手法であることを解説しています。
 第2章「車の渋滞はなぜ起きるのか」では、高速道路の渋滞原因について、平成17年度の第1位は、「サグ部・上り坂」であり、昔は渋滞原因のトップであった「料金所」はたったの4%でしかないことについて、ETCの導入の効果を指摘しています。そして、「サグ部」について、「棚などの真ん中の部分が重みで『たわむ』という意味」であり、緩やかにたわんだような状態の道、100m進むと1m上昇または下降しているぐらいの気がつかない坂道であると解説し、明らかな原因が見えず、「自然渋滞」といわれる「このサグ部での渋滞こそ、本書の中心テーマである『自己駆動粒子』系が作り出す物理的現象といえるもの」であると述べています。
 著者は、研究の切り札として、「縦軸に交通流量、横軸に交通密度をとって描いた図」である「基本図」について解説し、東名高速道路では、「自由走行のときの車」(自由走行相)は「お互いに邪魔されないために、皆ほぼ同じような最高速度」で(およそ時速84km)走り、右上がりの直線を描くのに対し、渋滞してくると基本図の右半分の高密度側にデータ点が出現し、右下がりの広がったデータ分布を示し、「ちょうど渋滞が起きるところはこの右上がりが右下がりに変わるところである」ことを指摘しています。この形は、感じの「人」の形をしているため、「基本図は人型である」といわれ、上に突き出た部分は、「メタ安定」部分と呼ばれる「自然渋滞発生のメカニズムを考える上で最も大切」な部分であることが述べられています。これは、「車間距離が40m以下になっても相変わらず自由走行の時速80kmぐらいで走っているような状況」であり、「渋滞になってもおかしくない密度にもかかわらず、渋滞せずに自由走行相と同じ速さで動いているので、車群が車間距離をつめて高速走行しているかなり危ない状態」であることが解説されています。
 この他、「2車線道路はどっちが得か」という問題に関して、「自由走行のときは追い越し車線のほうが速いのだが、渋滞してくるとわずかに走行車線のほうが平均速度は速くなっている」という事実を指摘し、「混んできた場合は走行車線を入ったほうがよい」ということについて、「長距離トラックの運転手はこのことを経験的に知っている」が、「この結果を皆が知ってそのように振舞ってしまってもまた意味がないため、本音をいえば、この結果は本書に書きたくなかったのだ」と述べています。
 さらに、信号のある都市交通に関しては、基本図は、人型ではなく、メタ安定のある辺りがごっそりと削り取られたような台形に近いことを述べ、このような流れを絞ってしまうものを「ボトルネック」と呼ぶことが解説されています。さらに、信号機がたくさんある道では、「ある速度で走る車だけノンストップで通り抜けられるようにした」「スルーバンド」と呼ばれる信号機制御が可能であることが解説されています。
 第3章「人の渋滞」では、2001年7月21日発生し、死者11人を出した明石市大蔵海岸花火大会の事故を取り上げ、死者が出た場所では、1平米の面積に15人ぐらいいたのではないかという調査結果があり、「そのときに人が感じた力は1平米あたり約400kgという、とてつもない大きさだったらしい」ことが解説されています(現場付近の300kgの荷重に耐える手すりが壊れ、医学的には約200kgで人間は失神するといわれている)。
 著者は、群集の状態をその動因によって、
(1)会衆:興味の対象への直接行動には訴えず、むしろ受動的関心から集まっているもの――音楽会や劇場
(2)モッブ:強い感情状態に支配され、抵抗を押しのけつつ敵対する対象に直接暴力的に働きかけるもの――手段テロ、襲撃
(3)パニック:予期しない突発的な危険に遭遇して、強烈な恐怖から群集全体が収拾しがたい混乱に陥るような場合――劇場やホテルでの火事や客船の沈没
の3通りに分類し、状況の変化で、「会衆がモッブ化したり、モッブがパニックに陥ったりすることもある」と述べています。
 そして、非常口の手前で混雑し、「出口がつかえてしまってスムーズに出られなくなる」状態である「アーチアクション」について解説し、避難の際のボトルネックに発生する閉塞に関する「ミンツの実験」を紹介しています。また、避難経路の問題に関して、安全な避難の原則が「2方向避難」という言葉に集約されていることを解説しています。
 第4章「アリの渋滞」では、アリが1列で歩けるのはフェロモンと呼ばれる化学物質のおかげであり、重要なフェロモンとして、
(1)道しるべフェロモン
(2)警報フェロモン
(3)性フェロモン
の3種を紹介しています。
 そして、アリの運動の基本図について、「密度が増加すると平均速度が上昇しているところ」があり、これこそが「混んでくると逆に速く動ける」という「アリの場合で起きるフェロモン特有の効果」を解説しています。
 また、アリがフェロモンの効果によりダンゴ状態になることに関して、バスのダンゴ運転との類似性を指摘し、「バスもアリも同じメカニズムでダンゴ運転になってしまう」として、「バスの場合の渋滞は、『フェロモン=乗降客の少なさ』という公式で、アリとまったく同じモデルで研究できる」と述べています。
 第5章「世界は渋滞だらけ」では、「砂時計で1分を正確に測るのに必要な砂の量や容器の形を理論的に計算すること」はまだ誰にもできておらず、粉つぶの動きの計算については、「基礎になる方程式すら物理学ではまだ確立されていない」ことを解説しています。そして、粉粒体の解析にセルオートマトンがうまく使えない理由として、
(1)粉粒体の内部での相互作用はある意味で「非局所的」である。
(2)「多体衝突」の問題。
の2点を挙げています。
 この他、地下鉄がダンゴ運転を避けるために、「時間調整のために当駅で1分停車いたします」などの放送が入って停車することや、空港での離陸許可待ちなどについて解説されています。また、マネーフローと渋滞、すなわち、渋滞学の経済学への応用や、医学の分野への応用などについて解説されています。
 第6章「渋滞学のこれから」では、車やアリなどが、「決して直線状の道の上を動くだけでなく、実際にはネットワーク上の道の上を動く自己駆動粒子」であるとして、ネットワークモデルの拡張を行っています。具体的には、インターネットや高速道路網、航空機の路線などのネットワークについて解説しています。そして、ネットワーク理論に関しては、
・「スモールワールド」:ネットワークの接続形態において規則性とランダム性の両方の性質を持ったネットワーク。
・「スケールフリー」:ある程度ランダムなつながりのネットワークの中にも、実は多数の接続をもつ中心的な役割のものが少数存在し、ネットワークを特徴づける代表的なスケールがない。
という2つの新しい概念の発見によって、ここ数年の間に新しい動きが出ていることが解説されています。
 また、複雑なものを理解する上でも、「いつかは立ち止まってじっくり考え、得られた結果を要素還元的なアプローチで料理することが大切であり、それこそが科学」であると述べています。
 本書は、高速道路でノロノロ走りながら誰もが思い描く「渋滞の先頭」について、科学的な分析を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書の中で、「スルーバンド」と呼ばれる「ある速度で走る車だけノンストップで通り抜けられるようにした」信号制御技術が紹介されています。これを読んで、小学校4年生くらいのときに、社会科見学で県警本部の交通管制センターを見学させてもらい、「ちゃんと制限速度を守って走ると信号機に引っかかって止まることなく走り続けられるようになっているんだよ」と解説されたことを思い出しました。もう四半世紀も前の出来事ですが、まさかこんなところで再会するとは思いませんでした。
 ところで、県警の交通管制センターって一般の人でも見学可能なんでしょうか?
 ということで「交通管制センター 見学」でググってみると、要予約で、平日の昼間、というパターンが多いようです。
・警視庁
・埼玉県警
・千葉県警
・神奈川県警


■ どんな人にオススメ?

・渋滞の列の先頭が気になって仕方のない人。


■ 関連しそうな本

 ダンカン ワッツ (著), Duncan J. Watts (原著), 栗原 聡, 福田 健介, 佐藤 進也 (翻訳) 『スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス』 2006年03月22日
 ウィリアム パウンドストーン 『囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論』 2006年09月11日
 アルバート・ラズロ・バラバシ (著), 青木 薫 (翻訳) 『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』 2005年10月24日
 土場 学, 佐藤 嘉倫, 三隅 一人, 小林 盾, 数土 直紀, 渡辺 勉, 日本数理社会学会 『社会を"モデル"でみる―数理社会学への招待』 2005年11月30日
 スティーヴン・ストロガッツ (著), 蔵本由紀, 長尾力 (翻訳) 『SYNC』 2006年04月10日
 蔵本 由紀 『新しい自然学―非線形科学の可能性』 2006年12月03日


■ 百夜百音

hirose kohmi THE BEST Love Winters【hirose kohmi THE BEST Love Winters】 広瀬香美 オリジナル盤発売: 1998

 厭味とかそういうのではなく、本当にどういう人がこの人のアルバムを買っているのか興味があったのですが、やはりスキーに行くときに聞く曲なのでしょうか。


『Harvest』Harvest

投稿者 tozaki : 2007年02月17日 21:00

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