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2007年03月03日
ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語
■ 書籍情報
【ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語】(#772)
スティーヴン・ジェイ グールド
価格: ¥987 (税込)
早川書房(2000/03)
本書は、「歴史の本質という、科学が取り組めるものとしては最も幅のある問題へのタックルを敢行した」ものです。著者は、本書の書名を、「生物そのものの美しさに対する驚嘆と、それらが駆り立てた新しい生命感に対する驚嘆」の「二重の驚嘆(ワンダー)の念を込めたもの」であると述べています。本書の副題である「バージェス頁岩層」とは、「カナディアンロッキー、スティーヴン山に連なる参詣の高度2400メートルの斜面に露出しているカンブリア紀中期の頁岩層(バージェス頁岩)」を指し、ここで発見された化石動物群には、「堅い殻を持たないため普通ならば化石として残りにくい生物」が、「精緻な構造をとどめた化石として保存されている点」であり、「それらの生物が生息していた時期は、さまざまな多細胞生物の爆発的出現(「カンブリア木の爆発」)が起こった時期の直後にあたる」ものであり、それまで堅い殻を持つ三葉虫などの動物化石だけで語られてきたカンブリア期の爆発の規模が「じつはもっとすごいものだったことが判明」したと述べられています。
第1章「期待の図像を解読する」では、本書の大きな目的として、
(1)表面上は穏やかそうに見える生物進化の歴史全体をも視野に入れた再解釈の背後にある激しい知的ドラマの年代記である。
(2)その際解釈からの必然的な結論として、歴史の本質、人類は進化していなかったかもしれないという恐ろしい可能性に言及する。
(3)これほど重要な研究プログラムがなぜこれまで人々の関心を引かずにきたのかという謎に取り組む。
の3点を挙げています。
著者は、「進化を扱ったおなじみの図像」が、「人類が登場したのは必然であり他に優越しているという心地よい考え方」を補強するためのものであることを指摘しています。そして、進化の系統樹が取りうる形状はほとんど無限に近いにもかかわらず、「従来の図式はそれらを無視し、クリスマスツリーを逆さにしたような"逆円錐形状の多様性増大"という唯一つのモデルにしがみついてきた」と述べています。著者は、「地質学がもたらした驚愕の事実を直視」するときに取りうる選択肢として、
(1)その意味するところを受け入れ、道徳律の源泉を含めて人生の意味を科学以外の最も適切な領域に探る術を学ぶ。
(2)歪んだ観点から生物進化の歴史を読み取ることで自然界に宇宙の慰めを求め続ける。
の2つがあると述べています。そして、「バージェス以後に見られる粛清パターン」が、「逆円錐形図という図式からは出てこない、実に過激なもう一つの解釈」、すなわち、「生物集団は、平常ならば反映を約束するダーウィニズム流の基準とは何の関係もない理由で繁栄したり死滅したりすることがありうる」ことを指摘しています。
著者は、本書について、「偶発性というテーマと生命テープのリプレイというメタファーに照らすと、人類が進化する可能性は圧倒的に治盛ったことを論じるための本である」と述べています。
第2章「バージェス頁岩の背景説明」では、生命の歴史が、「たゆみない発展」ではなく、「地質学的には瞬間といっていい場合もあるほどの短期間の大量絶滅と、それに続く多様化によって区切られた記録」であると述べています。著者は、「バージェス発見以前にどこかの古生物学者がアラジンの魔法のランプを手に入れていたとしたら」、「カンブリア期の爆発直後の軟体性動物群を私にください。その大事件が実際にもたらしたものをぜひとも見たいんです」と申し出るに違いないと述べ、バージェス動物群こそが「魔人の贈り物」であると述べています。
第3章「バージェス頁岩の復元――新しい生命感の構築」であは、バージェス頁岩をめぐる新解釈が、
(1)バージェスの見直しはとてつもなく知的なドラマである。
(2)科学的発見に関する標準的なイメージのすべてが、バージェス頁岩の見直しによって崩されてしまった。
の2つの根本的な理由のため「最も見えにくい改革の一つ」だが、「われわれの生命観を変えるほどの影響力を持つものでこれに匹敵する古生物学上の発見はありえない」と述べています。
そして、1909年にバージェス動物群を発見したウォルコットが最初に行った分類と1960年代にステルマーが行った分類方式を事細かに対照させることで、「すべての分類は、細部の違いは多々あるものの、微塵も疑われていない大前提の下でなされていることを示すことで、"靴べら"の威力のほどをはっきりと示すことができる」と述べ、ウォルコットが、バージェスで発見された化石を現在の生物の門に、"靴べら"で押し込んだことを指摘しています。
また、1975年にハリー・ウィッティントンが古生物学会において「オパビニア」の図を披露した際に、「大笑いで迎えられた」ことを、本人は、「おそらくその笑いは、この動物の不思議な姿に向けられたものだったのだろう」と記していることについて、「ハリーには、オックスフォードでの同業者たちの笑いは困惑の表れであってあざけりの笑いではないことがわかっていた」が、「それでも彼は、わき起こった笑い声に動揺させられた」と述べています。この「オパビニア」については、
(1)オパビニアの眼は2個ではなく、なんと全部で5個である。
(2)前頭部のノズルは、伸縮自在の吻デモないし、触角が癒合してできたものでもない。ノズルは、東部仮面の最前部に付着し、そこから前方に伸びている。柔軟な器官で、細い溝のついた円筒状の管になっている。
(3)消化管は、ほぼ全体長にわたってからだの中心をまっすぐに貫く一本の管である。
(4)胴の主要な部分には15の体節があり、各体節の側面には一対の薄い葉状の薄い突起がついている。
(5)先頭のものを除き、個々の葉状突起の背面付け根付近にはオール状の鰓がついている。
(6)胴の最後の3つの体節は、"尾"になっていて、そこには3対の葉片状の薄板が外側上向きについている。
などの特徴が紹介されています。
(オパビニアの姿については、http://www.hcc.hawaii.edu/~pine/book1qts/opabinia.htmlなどを参照)
著者は、「バージェス頁岩をめぐる2つの大問題」として、
(1)起源:進化は着実に進行する減少だと通常は考えられているというのに、このように高い異質性がこれほど急速に生じたのはいったいどうしてなのだろうか。
(2)生存と増殖:現生する生物はバージェス後に起こった悲運多数死によってもたらされたものだとしたら、どの生物がかち、どの生物が負けるかというパターンを設定するのは、はたして構造面のいかなる特徴で、機能のどのような特性で、どのような環境変化なのだろうか。
の2点を挙げています。
第4章「ウォルコットの観点と歴史の本質」では、著者が、ウォルコットの解釈とそういう解釈を生んだ原因を詳しく論じる理由を、「理論はデータと観察に対して、微妙ではあるが避けがたい影響力を発揮する」という「科学史が伝える最大のメッセージをこれほど見事に語っている例を他に知らないからである」と述べています。そして、バージェス頁岩を巡る新しい見解を、「生命の進化を読み取るための好ましい原理としての歴史そのものの勝利に他ならない」と評しています。
そして、ホモ・サピエンスを、「偶発性という領域の中で起こったとてもありそうにない進化の一事件である」として、「それは気分を引き立ててくれるもの、自由とその結果としての倫理的責任の源である」と常々考えてきたと述べています。
第5章「実現しえた世界――"ほんとうの歴史"の威力」では、「ダーウィンが構築した体系において偶発性が演じる強力な役割は彼の理論からの論理的な帰結ではなく、彼自身の生涯と業績の中心をなす明瞭なテーマ」であると述べ、彼が、「進化擁護論を一つのパラドックスに埋め込んでいる」と指摘し、「進化を裏づける一番の証拠は、歴史の経路を露わなものとする奇抜で奇妙で不完全なものにこそ求めねばならない」と述べています。
著者は、本書で展開した重要な主張として、「バージェス頁岩から得られた重要な洞察により、偶発性の意味が計り知れないほど高められた」と述べ、「現生生物に見られるパターンは、連続的な多様性の増大と進歩向上とによってゆっくりと進化したわけでなく、(形態的なデザインが最初に急速に多様化した後に起こった)とんでもない悲運多数死によってしつらえられたもの」であり、それは、「もしかしたら強力な支配力を発揮する運不運という要因によって達成された」としています。そして、「初期の多様性の幅が最大というパターン」が「いくつかの時代のいくつかの分類階級に属する系統では一般的な特徴」であることを指摘しています。
また、「逆円錐形図と梯子図が崩壊したこと」で、「実際には出現しなかったが、過去の出来事のどこかがちょっとでも違っていたなら生じていた可能性のあった世界」への「水門」が開かれたと述べ、「人間の本性、地位、潜在能力に対して生物学が提供しうる最も重大な洞察は、偶発性の化身という単純な言葉にこそあると結論するしかない」として、「ホモ・サピエンスは実体であって趨勢ではないのだ」と述べています。
本書は、歴史における偶発性の素晴らしさを実感させてくれるワンダフルな一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の表紙には、著者のお気に入りであるオパビニアのほかに、「幻覚が生んだ動物」を意味する「ハルキゲニア」の図が描かれています。このデザインは、「現生する多細胞生物の進化史ではそのごく初期に驚くほどのすばやさで、解剖学的デザインの呆然とするような異質性と独自性が生み出された」というバージェス頁岩のメッセージを一身に背負い込んだものを一つ選ばなければならないとしたら、「マニアの圧倒的多数が選ぶ生物」であると述べられています。
■ どんな人にオススメ?
・生命の素晴らしさを実感したい人。
■ 関連しそうな本
スティーヴン・ジェイ グールド (著), 渡辺 政隆 (翻訳) 『フルハウス 生命の全容―四割打者の絶滅と進化の逆説』
キム・ステルレルニー (著), 狩野 秀之 (翻訳) 『ドーキンス VS グールド』 2007年02月10日
リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆, 岸 由二, 羽田 節子, 垂水 雄二 (翻訳) 『利己的な遺伝子』 2006年09月26日
ジョン・メイナード スミス (著), 巌佐 庸, 原田 祐子 (翻訳) 『進化遺伝学』
ジョン・アシュトン (著), 高橋 宣勝 (翻訳) 『奇怪動物百科』 2006年07月15日
ドゥーガル・ディクソン 『フューチャー・イズ・ワイルド』
■ 百夜百音
【JOY】 YUKI オリジナル盤発売: 2005
一曲通してほとんど同じコード進行なので、「頭グルグル」率の高い曲です。
もともとは、プロデューサーの未発表曲だったものらしいです。
投稿者 tozaki : 2007年03月03日 10:00
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