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2007年03月24日

言葉のない世界に生きた男

■ 書籍情報

言葉のない世界に生きた男   【言葉のない世界に生きた男】(#793)

  スーザン シャラー
  価格: ¥2447 (税込)
  晶文社(1993/07)

 本書は、序文を書いているオリバー・サックスによれば、「言葉を知らない青年イルデフォンソの人となりの美しい、細やかな研究であり、彼と何とか接触して言語の世界の扉を彼のために開こうと心をくだくシャラーの忍耐強い、献身的な努力を伝える、斬新な思いつきに満ちみちた記録」です。
 著者は、聾者のための通訳者として働いたロサンジェルスのコミュニティー・カレッジで、耳が不自由で、言葉という概念そのものを知らない青年、イルデフォンソに出会います。田舎育ちで教育を受ける機会を持たず、手話もまったく知らないイルデフォンソは、27歳になるまで言葉のない世界を生きてきました。著者は、イルデフォンソの27年間を、「牢獄の囚人だって、彼ほど孤独ではなかったろう。彼の監房の窓は開いていたはずだ。彼は世界のあらゆるものを経験することができた。すなわち、匂いをかぎ、味わい、眺めることができた。それなのに精神的にはまったくの孤立状態がつづいていたのだ」と述べています。
 著者は、イルデフォンソに言葉を教えようと、マイムやサイン、黒板に書いたC-A-Tという文字を行ったりきたりしながらネコの名前と絵やしぐさとを繰り返し結び付けます。そしてついにイルデフォンソは、「ヘレン・ケラーがかつてあの井戸端で手のひらにほとばしる冷たい水の感触にはっとして、それを師のアン・サリバンがもう一方の手のひらに綴ったW-A-T-E-Rという単語と結び付けたそのときに瞬時にして飛び越えたのと同じ川」を、飛び越えることに成功します。この天啓に触れたイルデフォンソは、周りのものを次々と、「生まれてはじめて見るかのようにしげしげと眺め」、テーブルや本をたたいては著者に名前を求めます。イルデフォンソは唐突に、「さっと顔を曇らせたと思うと、テーブルの上にいきなりつっぷしてさめざめと泣いた」と記されています。「イルデフォンソは人間の住む宇宙にはじめて足を踏み入れ、精神の交わりというものがあることに」気づき、「すべてのものに名前があるということを悟った」のです。
 その後著者は、イルデフォンソに言葉を教えてしまったことを、「私の努力は、現実のむごい衝撃を和らげてくれる無知という唯一のクッションを彼から奪ってしまったのではないだろうか?」と悩みますが、イルデフォンソは諦めず、粘り強く言葉を覚えようとします。著者は、「与えるものを拒まない、彼の柔軟な精神は、教師にとって喜ばしい楽園であった。与えられたものをむさぼるように吸収し、さらに多くを求めるその態度に、私は大きな満足感を覚えた」と述べています。イルデフォンソは、「科学者に不可欠の、観察と推理という二つの道具」を備え持っていましたが、「世界最初の科学者と同様、彼の手元には彼以前の人々による観察記録がなかった」世界に暮らしてきました。しかし、今やイルデフォンソの目の前には、「彼自身が見出すことができなかったものへと彼を導いてくれる扉が開け放たれた」と述べられています。
 この他著者は、イルデフォンソが示す、「緑」に対する不可解な反応、「男たち、走る。こわい。隠れる。腕、握る。ポケット、調べる。友達、ポケット、紙、調べる」というマイムやサインに戸惑いますが、ある日、不法滞在者であったイルデフォンソが、国境警備隊員の緑色の制服と緑色の車を恐れていることに気づきます。著者は、イルデフォンソと国境警備隊との関わり方を知るために、国境警備隊員に取材しています。
 この他本書には、言葉を覚えたイルデフォンソによって語られる彼の過去や、イルデフォンソが仲間たちと交わす手話と身振りによる厚い議論などが紹介されています。
 本書は、多くの人が当たり前のように使っている「言葉」がいかに人を結びつけ、生活を豊かにしているかを知ることができる一冊ではないかと思います。


■ 個人的な視点から

 著者は、北米最後の野生インディアンである「イシ」の話を思い出しています。「ヤヒ族の中間達がことごとく死に絶えた後」、カリフォルニア州オロヴィルの畜殺場に迷い込んだイシをイルデフォンソと対比した著者は、「二人の相似こそ彼らの人間性を裏づけるものであって、彼らの相違そのものが言語の重要性、また一つの部族に所属するということの重要性を物語っている」と述べています。
 イシのエピソードは昔何かの本で読んだことがありましたが、ぜひきちんと読んでみたいと思いました。


■ どんな人にオススメ?

・言葉のない世界を想像できない人。


■ 関連しそうな本

 オリバー サックス 『妻を帽子とまちがえた男』 2006年10月15日
 オリヴァー サックス (著), 春日井 晶子 (翻訳) 『レナードの朝』
 オリヴァー サックス (著), 吉田 利子 (翻訳) 『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』 2006年03月26日
 ニコラス ハンフリー (著), 垂水 雄二 (翻訳) 『喪失と獲得―進化心理学から見た心と体』 2006年4月15日
 けいはんな社会的知能発生学研究会 (著), 瀬名 秀明, 浅田 稔, 銅谷 賢治, 谷 淳, 茂木 健一郎, 開 一夫, 中島 秀之, 石黒 浩, 國吉 康夫, 柴田 智広 『知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦』 2006年04月09日
 ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳) 『考える脳 考えるコンピューター』 2005年12月17日


■ 百夜百音

The Best Of Jig Saw: Sky High【The Best Of Jig Saw: Sky High】 Jig Saw オリジナル盤発売: 1995

 ミルマスカラスのテーマ曲として有名な曲です。全日派には忘れられない曲でしょう。
 サバスの方は、無法者のロード・ウォリアーズのテーマ曲です。

『Paranoid/Iron Man』Paranoid/Iron Man

投稿者 tozaki : 2007年03月24日 22:00

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