« 政府会計の改革―国・自治体・独立行政法人会計のゆくえ | メイン | 分権化と地域経済 »
2007年04月25日
クリティカル・シンキングと教育―日本の教育を再構築する
■ 書籍情報
【クリティカル・シンキングと教育―日本の教育を再構築する】(#825)
鈴木 健, 竹前 文夫, 大井 恭子
価格: ¥1995 (税込)
世界思想社(2006/11)
本書は、「意識的に観察や分析、推論をし、一定の標準に照らして評価すること」と定義され、米国では、「双方向の会話を生む考え方を育む方法」として30年以上前から教えられている「クリティカル・シンキング(批判的思考)」と呼ぶ手法について解説しているものです。
第1章「クリティカル・シンキング教育の歴史」では、世界的には、「自ら考える力のある前向きの子供たちを育てるための処方箋としてクリティカル・シンキングが多くの国で採用」されていることを紹介し、「なぜ今そうした教育が必要とされているか」について、
(1)教育の目的は、知識を教え込むのではなく、子供一人一人がもともと持っている創造性や才能を伸ばすことである。
(2)しばしば、社会には正しい答えを一つに決めることができない問題が存在する。時には、常識を疑ってみることも大切である。
(3)個人は独自な存在で、異なった考えを持っていることは当然である。
の3つの理由を挙げています。
その上で、クリティカル・シンキングを、「狭量で決まりきった一つの解釈や知識に対して、独自の解釈や異なった理解の可能性を開こうとする態度」であり、「情報や知識を複数の視点から注意深く、かつ論理的に分析する能力」であると解説しています。
また、クリティカルに考えるための基本モデルとして、
(1)査定:何が問題なのか、何がなされるべきかを決定留守。
(2)診断:問題解決のプロセスに必要なデータを収集する。
(3)計画:何がなされるべきかを熟考する。
(4)施行:プランを実行に移す。
(5)評価:目標が達成されたかどうかの決定を下し、もし結果が納得のいくものでなければ、プランを修正する。
の5点を挙げています。
第2章「日本におけるクリティカル・シンキング教育」では、「多様化した学生を抱えて学部教育の新しいあり方を探らなければならない日本にとって説得的な説明」として、アメリカに登場している「四つのC]、すなわち、
(1)Communication
(2)Critical Thinking
(3)Creativity
(4)Continuous Learning
の4点を挙げています。
そして、「これからの日本は、文明の衝突から対話へと視野を広げ、異なった文明の共存を考えていかなければ」ならず、「その対話の一助となるCT教育であってほしい」と述べています。
第3章「クリティカル・シンキング教育の現状と将来」では、「コミュニケーションについて学ぶ意義」が日本の教育界にも浸透しつつあり、日本の大学において近年コミュニケーション学科新設ラッシュが起こっている理由として、
(1)教養教育の行き詰まり
(2)現代社会におけるコミュニケーション教育の重要性が、日本でも認識されるようになってきた
(3)「大学・冬の時代」に向けて、関係者が切実に感じている魅力あるプログラムの構築
の3点を挙げています。
また、日本の指導者層に、「言葉によって人を説得し、社会を動かす」コミュニケーション技術の習得が急務となっている理由として、
(1)政治家は、積極的に国民に語りかけることで彼らを説得し、世論を形成していくことが必要になってきている。
(2)これまで中央が政策を押し付けて済ましていた行政の問題に、地方の人々が反旗を翻すようになり、住民投票や条例制定の直接請求といった新しいしくみによって、地域住民が行政に直接介入するようになった。
(3)マスメディアが「公的政策決定を議論する場」として機能していないことに対する強い不満。
の3点を挙げています。
第4章「クリティカルに読み解く」では、「誰にでもできるのが当たり前の行為」と思われがちなリーディングを、「理解のメカニズムを把握した上で練習すれば、能力を伸ばすことができるスキル」と位置づけ、「そうした技術を身につけてはじめて、クリティカル・シンカー(批判的・検証的にものごとを考えられる人)への道が開ける」と述べています。
そして、英文を題材に、辞書を引き引き苦労して精読するのではなく、「英文を読む目的に応じて、その読み方も変えるべき」であるとして、
(1)Scanning(飛ばし読み):「ざっとみる」あるいは「走り読みする」の意味。
(2)Skimming(要点を押さえる読み方):「要点だけをとらえて読む」、あるいは「ざっと(表面に)目を通す」の意味。
(3)Intensive reading(精読):文章の展開や理由づけにも気を配って、内容を完全に理解するための読み方」。
(4)Extensive reading(多読):「あるテーマについて、広く情報を得ることを目的とした読み方」。
の4つの読書法を目的に応じて使い分けることを解説しています。
さらに英文の構造として、「英文では、第1センテンスに書くパラグラフのトピックを提示することが多く、そこだけを拾い読みしても全体の内容を把握できる」ことを挙げ、「そのパラグラフの内容を提示している文」をトピック・センテンスと呼ぶことを解説しています。
また、「一つ一つのパラグラフこそが、書き手のアイディアの単位」であるとして、「パラグラフ・リーディング」の技術を身につける必要を述べ、主なパラグラフの種類として、
(1)Topic Paragraph(トピックk・パラグラフ)
(2)Need Pragraph(必要性パラグラフ)
(3)Information-Giving Pragraph(情報提供パラグラフ)
(4)Discussion Pragraph(検討パラグラフ)
(5)Key Pragraph(キー・パラグラフ)
(6)Proof Pragraph(証明パラグラフ)
(7)Exsample Pragraph(具体例パラグラフ)
(8)Summary Pragraph(サマリー・パラグラフ)
の8種を解説しています。
さらに、「積極的な読み手」を、「論の展開や理由づけの確かさにも気を配りながらテクストを読める人」と定義し、
(1)何が重要なアイディアなのか
(2)まとめと結論は何か
の2つの条件が「考えながら読む人」に必要であり、その上、クリティカル・リーダーになるためには、
(3)どのような説得の材料が用いられているか。
(4)自分はどのような評価を与えるべきか。
が必要になると述べています。
そして、「テクストの中の説得の材料」を知ることが、叙述的な分析をする必要性があるとして、
(1)テクストの「目的」(purpose)を知る
(2)テクストの「論調」(tone)を知る
(3)テクストの「構造」(structure)を知る
(4)テクストの「読み手」(reader)を知る
(5)テクストの「筆者のペルソナ」(persona)を知る
(6)テクストの「補足資料」(supporting materials)を知る
(7)テクストの「レトリック戦略」(strategy)を知る
の7点を挙げ、この分析の観点を用いて、尾崎豊の「卒業」の歌詞を分析しています。
第5章「クリティカルにエッセイを書く」では、「エッセイ・ライティングの完成に至るまでの各プロセスにおいて、クリティカル・シンキングがどのようにライティングと関わっているのか、そして、ライティングの様々な作業を通して、以下にクリティカル・シンキングの力が強化されていくのか」を論じています。
著者は、「単に正しいか間違っているかを判断するだけの思考体系、さらには情報さえ手に入ればよいと考える態度のままでは、次世代の行く末が不安」であり、「こうした現状を打開し、真に自分で考える能力を身につけた次世代を育てていく」ために必要な方策の一つとして、「作文=文章を書く」という知的作業の活用を挙げています。
そして、エッセイ・ライティングのプロセスとして、
(1)テーマについて考える(thinking)
(2)書く(writng)
(3)推敲する(revising)
の3つの段階があることを述べています。
また、自分の考えや意見を述べる文章を組み立てる上で、実社会での論証を反映させて生み出した「トゥールミン・モデル(Toulmin Model)」が参考になるとして、
・データ
・理由付け
・留保条件
・裏づけ
・主張
・限定条件
の6つの要素を挙げています。
第6章「クリティカルにディベートする」では、ディベートを「1つの論題に対して、対立する立場を取る話し手が、聞き手を論理的に説得することを目的として議論を展開するコミュニケーションの形態」と定義し、教育訓練としてのディベートの効用として、
(1)批判的施行の力がつく
(2)論旨を組み立てる力がつく
(3)問題解決意識が身につく
(4)社会的な問題に対する関心が高まる
(5)学生が自信を持つ(特に人前で話すことについて)
の5点を紹介しています。
第7章「クリティカルに異文化を読み解く」では、「クリティカルな異文化問題理解能力」を、
(1)態度:共感、内政、保留、相対化・複合化、差別・偏見・ステレオタイプ
(2)知識:文化、異文化・自文化・高級文化、生活文化、地理・歴史
(3)技能:情報処理、言語処理、分類・整理、分析、批判的思考
の3つの領域に分類・整理しています。
第8章「クリティカルに日本を考える」では、国内外での日本語学習者数を、国際交流基金の海外日本語教育機関調査での235万人に、テレビやラジオ講座を加えると数百万人にのぼるとした上で、その目的を、
(1)日本語そのものを学習するため
(2)何らかの目的を達成する手段として
(3)その他
の3つに大別しています。
本書は、教育を切り口にしていますが、クリティカル・シンキングを学ぶ機会がなかった社会人にとっても重要な示唆を与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
本書で一番実用的だったのは、第4章の「クリティカルに読み解く」でしょうか。本章では、英文の読み方を解説していますが、同じことは、英文を元にした翻訳書にも使うことができます。
このように体系的に整理されると、自分が本を読むときの読み方も、このような手法によっていることが分かります。その意味では、一番「読み解く」のに時間がかかるのは日本語で書かれた小説で、むしろ英文の学術論文の方が(もちろん内容が難しすぎて理解できないことは別として)読みやすいことが分かります。
■ どんな人にオススメ?
・クリティカルに世の中を見る目を持ちたい人。
■ 関連しそうな本
苅谷 剛彦, 西 研 『考えあう技術』 2006年06月30日
穂坂 邦夫 『教育委員会廃止論』 2006年01月26日
菅谷 明子 『メディア・リテラシー―世界の現場から』 2005年09月07日
横江 公美 『判断力はどうすれば身につくのか―アメリカの有権者教育レポート』 2005年07月13日
高瀬 淳一 『情報と政治』 2005年06月23日
ドナルド・R. キンダー (著), 加藤 秀治郎, 加藤 祐子 (翻訳) 『世論の政治心理学―政治領域における意見と行動』 2006年06月19日
■ 百夜百マンガ
13歳でデビューした早熟な天才漫画家。当時の価値観と言うかかっこよさを引きずり続けている感じはしますが、読者も一緒に歳をとっているので、80年代のかっこよさを保存し続ける、ある意味タイムカプセルとも言えなくもないです。
投稿者 tozaki : 2007年04月25日 21:00
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1345
【B.B.フィッシュ 】