« 「悪所」の民俗誌―色町・芝居町のトポロジー | メイン | エシュロンと情報戦争 »
2007年05月04日
日本の公安警察
■ 書籍情報
【日本の公安警察】(#834)
青木 理
価格: ¥756 (税込)
講談社(2000/01)
本書は、「公安警察を中心とする日本の治安機関が何をなし、何をなさなかったのか。治安を名目としてどのような活動を繰り広げてきたのか、繰り広げようとしているのか」を「知る」ことで、「密行性と閉鎖性の壁の向こう側で活動は肥大し、制御を失いかねない」恐れを制御することを目的としたものです。
第1章「厚いベールの内側」では、現代日本の警察が、「建前上、自治体警察を標榜している」が、現実においては、「警察庁を頂点とし、北海道から沖縄まで全国各地の都道府県警察を配下に置く巨大なピラミッドを形作っており、きわめて中央集権制の高い国家警察的機構である」と述べています。そして、「自治体警察とされている都道府県警察においても、警視総監、各道府県警本部長をはじめとする警視正以上の階級の幹部警察官は国家公務員とされ、主要部門のトップは警察長採用のキャリア官僚の指定席と化し」、「予算面でも選挙違反、広域犯罪などと同様、公安関係予算は国庫から支出されることになっている」ことが解説されています。組織的にも予算的にも「公安警察の活動は現実的にはほぼ全てが『国の公安』に包含され」、「公安警察の活動費は全てを中央が握り、その額は警察長警備局と各都道府県警備部長との間の直結回路において決定され、警察長から直接渡される公安関係予算は当事者以外には知りようもないシステム」であることが解説されています。
また、公安警察と刑事警察の違いについて、「公安警察とは情報警察である」とした上で、「公安警察の捜査手法とは、いわば完全な"見込み捜査"」であり、その目標は被疑者の逮捕以上に、「対象団体の動向と組織実態の解明が何より優先される」ことが述べられています。そして、その姿勢の違いを端的に表すものとして、「逮捕」に対する認識を挙げ、公安警察における「別件逮捕」は、「対象団体組織に対する情報収集活動の一環としての色彩が濃く、時には対象組織に対しダメージを与えることに重きが置かれる傾向が強い」として、身柄確保最優先の場合の"伝家の宝刀"である「転び公妨」について解説しています。
第2章「特高から公安へ」では、第二次大戦敗戦後の1945年10月4日、GHQから「人権指令」(政治的・市民的及び宗教的自由制限の撤廃に関する覚書)が発せられ、
(1)治安維持法などの治安法規を廃止すること
(2)政治犯、思想犯を即時釈放すること
(3)一切の秘密警察機関、検閲などを営む関係機関を廃止すること
(4)内務大臣、警保局長、警視総監、特高警察官を罷免すること
が指令されたが、「解体されたばかりの特高警察に代わって、内務省警保局内に『公安課』が新設されたのは1945年12月19日のこと」であり、これが現在の公安警察の源流であることが解説されています。そして、GHQ内部にも民政局(GS)と参謀二部(G2)との内部対立があり、情報・保安・占領地行政などを担当するG2が、「罷免、あるいは追放された元特攻関係者を雇って日本国内の情報収集や謀略活動に利用した」ことが、『内務省史』にも「秘密警察として追放された日本の特高警察を密かに利用したのも参謀部第二部であった」と記されていることが紹介されています。
また1952年の警視庁の機構改革では、「新特高の中核」と呼ばれた警備二部が新設され、「配下に公安一課から三課までを置き、左右両翼、及び外事事案の取締りにあたった」ことが述べられています。
1954年には警察法が成立し、「公安警察的な"効能"」としては、
(1)警察組織の中央集権化
(2)それによる公安警察の機能強化
(3)公安関係予算の大幅増
の3点に尽き、1957年には警視庁において、警備二部が「公安部」に移行し、全国の都道府県警で唯一「公安」の文字を冠した部が誕生したことが解説されています。
第3章「監視・尾行から工作まで」では、1962年に出版され、かつては「公安警察官の教科書的存在」といわれた『警備警察全書』において解説されている情報収集手段として、
(1)視察内偵
(2)聞き込み
(3)張り込み
(4)尾行
(5)工作
(6)面接
(7)投入
の7手法を挙げ、「一部を除き今も公安警察の情報収集活動の基本である」と解説しています。
この中でも最もベーシックな「視察」については、「集会視察への潜入時における公安警察官の"心構え"とも言うべき留意点」として、
(1)集会には自然な形で入場し、その場の空気に溶け込むよう注意すること
(2)会場内では視察しやすく、連絡または退避しやすい場所に位置すること
(3)会場内に視察員が数名いるときは、一箇所に集まることのないよう分散すること
(4)メモ・写真撮影・録音などは秘匿して行うこと。その場合、原則として防衛員をつけること
(5)視察員が関係者に普請を抱かれたと認めるときは、すみやかに退場すること。退場時には休憩時間、手洗い、喫煙など所用にかこつけるなど不自然で内容に注意すること
などの5点が挙げられています。
また、情報収集活動の"王道"である、「対象団体内部に『協力者』と呼ばれるスパイを獲得することによって情報を引き出す作業」である「工作」については、警察庁警備局が第一線の公安警察官に対する講習用として作成した「協力者設定作業の基本」から、「協力者獲得」の手法について解説しています。協力者獲得工作の内容については、1958年12月に、大阪府警平野署の公安警察官が忘年会帰りに落とした内部資料から「協力者の獲得と維持に必死になっている様子」が紹介されています。
さらに、「対象団体の中に身分を隠した警察官が組織の一員に成りすまして潜入し、スパイ活動に従事する」公安警察らしい情報収集作業である「投入」については、「1950年代から60年代を最後に投入が姿を消した」と紹介しています。
第4章「公安秘密部隊」では、東京・中野の警察大学校にかつてあった「さくら寮」という木造の建物について、「こここそが戦後間もなくから日本の公安警察に存在する秘密部隊の本拠地」であり、「地方分権を建前としながら、中央集権的な機構を持つ公安警察の中枢として全国の公安警察官の活動を指揮・管理する裏組織」、警察内や関係者の間では「サクラ」と隠語で呼称されるようになった組織について解説しています。著者は、「戦後公安警察の暗部を辿っていくと、糸は全てが中野へと収斂されていく」と述べています。
そして、1986年に発覚した神奈川県警による共産党国際部長宅の盗聴事件では、公安関係者の名義で借りられた「メゾン玉川学園」の206号室に、電柱に取り付けられた電話端子から電話ケーブルが引き出され、「専門的知識に通じたプロの手口」を想起させた上、当初、告発を受理しなかった警察は、突如として実況見分を実施し、大量の"証拠品"を持ち帰ってしまったことが述べられています。その遺留品は、「公安警察による秘密任務が行われていたにしては、あまりに稚拙な証拠品が数多く残されていた」として、
・テープレコーダーにカセットテープ、イヤホンなどの盗聴の"必需品"
・公安警察官の名前が記された懐中電灯やズボン
・1985年9月から86年11月までの日付のサンケイ新聞や雑誌
・神奈川県警の共済組合の勧誘パンフレット
・(「サクラ」のある)中野駅前のコーヒー前専門店の袋
などの遺留品について解説しています。この事件によって、処分は「サクラ」を指示していた公安一課理事官にまで及んだことが解説されています。
この事件を契機に、1991年には組織改革が実施され、「サクラ」を引き継ぐ「チヨダ」が発足し、この「サクラ」「チヨダ」のキャップを経験した「裏理事官」OBには、衆議院議員の亀井静香議員を筆頭に全国の警察本部長経験者がずらりと並ぶことなどが述べられています。
第6章「オウム・革マル派との"戦い"」では、1995年3月30日に発生した、国松孝次警察庁長官狙撃事件を契機に、公安警察がその本領を発揮し得た約2ヶ月間を、「公安警察が最も"公安警察らしさ"を発散して教団捜査へ邁進した"幸せな"時期だった」として、その1年半後に、「公安警察の組織を根底から揺さぶる事態」として、「国松警察庁長官狙撃の犯人は警視庁警察官(オーム信者)」と告発する文書がマスコミに送り付けられ、ついには現職の公安警察官による自供が飛び出し、本人がテレビニュースにも登場してしまう事態に発展したことが述べられています。
また、革マル派のアジトから押収した物品の中には、無線傍受のための設備以外に、使用可能な状態に加工された7000本もの鍵があり、その中には、「警察庁、警視庁幹部をはじめとし、公安部員の自宅の鍵までが含まれていた」だけでなく、元警察庁長官の自宅には実際に進入した形跡があることが確認されていることなどが述べられています。
本書は、実態が報じられることの少ない公安警察の内幕にわずかながらでも触れることができる一冊です。
■ 個人的な視点から
公安警察の"伝家の宝刀"である「転び公妨」については、「複数の公安警察官が対象人物を取り囲み、職務質問なり所持品検査なりを強行し、相手が抵抗して取り囲んだ公安警察官に触れたり、押しのけようとしたら直ちに公務執行妨害。時には公安警察官が対象人物の前で勝手に転び、公務執行妨害という"虚像"を演出することすらある」と解説されています。そして幹部の中には、「転び公妨の名手」という称号が与えられている人もいるそうです。
本当にあったら怖いですが、「各都道府県公安対抗サッカー大会」とかがあったら、
あちこちで勝手に転んでファウルをアピールする選手が多そうです。
■ どんな人にオススメ?
・厚いベールの向こう側を覗いてみたい人。
■ 関連しそうな本
春名 幹男 『秘密のファイル(上) CIAの対日工作』 2006年08月24日
竹前 栄治, 中村 隆英, 天川 晃 『GHQ日本占領史 (15)警察改革と治安政策』 2007年02月01日
中村政則 『占領と改革』 2007年03月09日
大日方 純夫 『近代日本の警察と地域社会』 2007年04月18日
勝田 政治 『内務省と明治国家形成』 2007年02月16日
大内 顕 『警視庁裏ガネ担当』
■ 百夜百音
【めざせポケモンマスター】 松本梨香 オリジナル盤発売: 1997
「デスノートでポケモン言えるかな?」にはまってしまい、勢いでデスノ全巻一気読みしちゃいました。
『みんなで選んだポケモンソング&ポケモンカード~ポケモン・ベストコレクション』
投稿者 tozaki : 2007年05月04日 08:00
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1354