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2007年05月10日
ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家
■ 書籍情報
【ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家】(#840)
ムハマド ユヌス, アラン ジョリ (著), 猪熊 弘子 (翻訳)
価格: ¥2100 (税込)
早川書房(1998/10)
本書は、バンクラデシュのグラミン銀行を創設したムハマド・ユヌスの自伝です。グラミン銀行は普通の銀行と異なり、「借り手たちの生活水準を向上させ、世界から貧困をなくすることを最大の目的」とした「貧者の銀行」として知られ、
(1)担保となる資産や土地のない人(特に女性)を対象に指定、資金を貸し付けている。
(2)一般の銀行では融資対象にならないような、数十ドルから数百ドル程度の、ごく小額の資金から貸し付けてくれる。
(3)融資を受けたい人が銀行に出向くのではなく、銀行員が借り手たちのところに直接出向いていって融資をする。
という特徴を持っています。
著者は、「序文」で、グラミンから、
(1)人間そのものや、人間が互いに与える影響力についての私たちの基礎知識は、まだまだとても十分ではないということ。
(2)各個人の存在がとても重要だということ。
の2つのことを教わったと語っています。
第1章「ジョブラ村にて」では、1974年の大飢饉を目の当たりにした著者が、大学の教員という立場から、「貧しい人々の本当の暮らしを理解し、近くにある村で毎日実際に使われるような、本当に生きた経済学を見つけたいと考えるように」なり、その近くのジョブラ村から学ぼうと考え、「もう一度学生になることを決意した。ジョブラ村が私の大学だ。そして村人たちが私の教授だった」と語っています。
第2章「世界銀行との関係」では、1976年に、42世帯に27ドルを貸したところから始まった活動が、1998年には230万世帯に23億ドルを貸すまでになったと述べ、それまでの世界銀行と様々な確執があったことが語られています。そして、「グラミンが一貫して説いているのは、貧しい人たちは借り手として間違いなく信頼できる」こと、「どんな場合でも、施しは金を受け取るものの尊厳を奪い、収入を得ようとする意欲をも奪い去ってしまう」こと、貧しい女性を有志の相手に選び、「彼女たちこそが、貧困に立ち向かう私たちの最も決定的な武器となった」と語っています。
第5章「アメリカ留学」では、著者が経済学のモデルの大切さとともに、「ものごとは私たちが思っているほど複雑にはできていない」ことを学び、「単純な答えを複雑なものしているのは、私たちの傲慢さだけなのだ」と語っています。
第6章「結婚とバングラデシュ独立」では、1971年12月16日のバングラデシュ独立戦争の勝利の後、すっかり荒廃し、「経済は完全に破壊され、数百万人が肉体的な損傷を抱えていた」故国に帰り、国の再建に参加することが、自分の義務だと考えたことが語られています。
第8章「三人農場での実験」では、故国に戻り、「新しいタイプの農業協同組合」を作るというアイディアである「マバジュグ(新時代の)三人農場」を実践した著者が、この方法では本当に貧しい人々に利益を与えることができないこと、「土地を持っていない貧しい人びとにこそ目を向けなくてはならない」ことに気づいたことが語られています。
第9章「銀行経営に乗り出す」では、貧しい人たちが、「朝から晩まで、まるで奴隷のように働かされ」ており、「高利で資金を貸し、彼らの製品を全て買い上げてしまう<パイカリ>の支配下に置かれていて、自由に商売をすることができない状態」であることを改善するため、既存の銀行の支店長に掛け合ったときのやりとりや、著者が発見した「世界の銀行の基礎原理」、すなわち、「金を持っている人は、もっと多くの金を手にすることができる」、逆に言えば、「金を持っていない人は、それ以上のものを手にすることができない」という「経済的差別(ファイナンシャル・アパルトヘイト)」について語っています。そして、「貧困」とは、「人々の周りを高い壁で取り囲むようなもの」であり、グラミンは、「人びとが意志を持ち、チカラをつけて、自分の手で周りにそびえる壁を叩き、いずれは自分の力で壁を壊すことができるようにさせたいと思っている」と述べています。
第10章「男性ではなく女性に貸す理由」では、グラミンが、「女性の借り手を優先」する理由として、「女性にクレジットを貸し付けたときの方が、男性よりもずっと変化が早い」ことを挙げ、それは、「飢えや貧困の問題が、どちらかというと男性よりも女性が抱えている問題だから」だと語っています。そして、「経済発展の最終ゴールに、標準的な生活レベルの向上、貧困をなくすこと、きちんとした仕事につくこと、不平等の是正などという事柄が含まれるならば、女性とともに歩もうとするのはきわめて自然なこと」であり、女性が、貧しい人々の多数を占め、職もなく、経済的にも社会的にも不利な立場に置かれていることから、「女性はバングラデシュの未来を開く鍵となるはず」だと述べています。
第11章「パルダで隠されている女性たち」では、<パルダ>("カーテン"とか"布"という意味)という社会的慣習のため、女性の家に入っていくこともままならなかった著者らが「数々の秘訣と技術」を編み出したとして、そのうちの一つ、女子学生を一緒に連れて行ったことを語っています。
そして、グラミンに参加しようとした女性が、「あたしは生まれた時からずっと、自分が役立たずだと思ってきました。あたしが生まれたことで、うちの親はもっと惨めな暮らしになっただけ。あたしは女だったけど、うちの家族は持参金なんか払えやしません。母さんが、お前なんか生まれたときに殺しとけばよかったって言うのを、何度も聞きました。あたしは自分が金なんか借りられるような人間だと思えなかったし、借金を返せるとも思えませんでした」と語ったことが紹介されています。
第13章「グラミンに参加する方法」では、著者らが独自の"貸付-回収メカニズム"を作り上げ、「事業を成功させるための鍵は、借りる人々にグループを組んでもらうこと」であることを発見したと語っています。
第14章「返済方法」では、著者らが作り上げた返済システムとして、
・ローンの期限は1年間
・毎週一定額を返済
・返済はローンを借りた1週間後から開始
・利率は20%
・返済額は1週間に2%で50週間
・利子の支払額は1000タカのローンに対して1週間に2タカまで
という簡単なものであることを解説しています。そして、貸し手と借り手の間に法的な契約書は交わされず、「信用を礎にして、その上に人々との結びつきを築き上げている」ため、グラミンの貸し倒れ率は1%にも満たないものであると語っています。
また、
(1)私たちは、グラミン銀行の4つの原則である、規律、団結、勇気、勤勉に従い、どんな人生を歩むことになっても、それを実現することを誓います。
(2)私たちは家族に繁栄をもたらします。
など、グラミンのメンバーたちの心に深く浸透した<16カ条の決意>を紹介しています。
第15章「グラミンと一般の銀行との違い」では、著者が、「どうやってその革命的なアイディアを思いついたんですか?」と聞かれたときに、
「一般の銀行のやり方をよく見て、あらゆることを逆にしてみたんですよ」
と応えていると語り、一般と銀行とグラミンのやり方とを比較しています。
第18章「最初はゆっくり始めよう」では、グラミン銀行での実験を国家規模で実現するために、マルクス主義反体制武装ゲリラ<人民軍(ゴノ・バヒーニ)>が支配するタンガイルで新しい銀行プロジェクトを立ち上げた著者らが、反政府の闘士たちに目をつけ、「人民軍あがりの連中は、素晴らしく優秀なグラミンのスタッフに変身」し、「かつて国家を銃の力と革命とで変えたいと願っていた彼ら」が、「今では村々を歩き回って、貧しい人々にマイクロクレジットを広げている」と述べ、著者らが、「彼らのエネルギーをテロリズムよりももっと建設的なものに向けてやった」ことを語っています。
第19章「心の壁を打ち破る」では、「バングラデシュのように成功させるには、何か特別な文化的な背景が必要に違いない」という疑問に対し、グラミンが、バングラデシュで成功するために、「まったく新しい文化を創造するための激しい戦い」をし、大勢の評者が、「社会革命を企んでいる」と言ったほどであることを述べ、貧しい女性たちが、「グラミンがなければこの国では全く考えられなかったであろう生活様式に変えていく」ために活動していると語っています。そして、グラミンに対する保守的な聖職者たちに代表される反発の強さや、「グラミンの活動やスタッフについて、人々に広められた話」として、
・キリスト教に改宗させられる。
・家と財産を盗まれる。
・本当は奴隷売買のための秘密組織だ。
・キリスト教を伝道する教会の隠れ蓑だ。
・金を借りた女性をどこかに連れ去ってしまい、その後その女性を二度と見かけたものはいない。
・金を持ち逃げしてしまう。
・金をくれるつもりなどないらしい。
・大掛かりな国際密輸団の一組織だ。
・新しい東インド会社と言える西洋の謀略組織だ。イギリスが2世紀半前にしたように、私たちの国をもう一度植民地化しようとしているのだ。
・スタッフには、農村の貧しい人たちをキリスト教徒に改宗させるための、秘密の誓約をさせている。
・女性をパルダから解き放って、イスラム教を破壊しようとしている。
・グラミンから金を借りると、模範的なイスラム教徒には決してなれない。
・グラミンの支店長は何か悪い計画を企てていて、それで女性を追い回している。
・グラミンの借り手だった人の死体には、十字架の焼印が押されている。
などを紹介しています。
また、イスラム法の下では、利子を稼ぐことは禁止されているが、「グラミン銀行は借りてたちのものでもある」ため、それは当てはまらないことが語られています。
第21章「グラミンのスタッフへの訓練」では、グラミン銀行の典型的なスタッフの毎日として、
・6:00 起床。
・7:00 視点に出勤。書類と鞄を抱えて自転車で、センターへ行く。
・7:30 40人の借り手たちと体操をしてから会議を始め、ローンの返済と保証金をグループごとに集める。
・9:30 次のセンターに向かう。毎週担当する400人の借り手に会う。
・11:00 メンバーの家を訪ねアドバイスする。
・12:00 支店の事務所で報告書を書き、記録を台帳に綴じる。
・13:30~14:00 昼食。
・14:00 午前中に集めた資金は午後には新しいローンとして支払われる。
・15:00 ローンに関する情報を台帳に記帳する。
・16:30 仲間とお茶。
・17:00~18:30 ローンに関してトラブルを抱えたり、子供の教育プログラムを開始しようとしているセンターへ行く。
・19:00 支店に戻り、書類上の仕事をこなして仕事を終える。
という「グラミンの行員たちの現実の生活」を紹介しています。
第24章「世界のマイクロクレジット組織」では、「他の国でグラミン方式を実践する」ことは、異なる文化的背景において、「本質的な特徴を複写する」ことであると述べています。そして、グラミン方式のクレジット・プログラムが世界58カ国で実施されていることが述べられています。
また、各国でのグラミン方式について言及する中で、「先進国で言う『貧しい人』という言葉には、第三世界で『貧しい人』と言うときよりも、より経済的な、物質的な所有に対する意味があり、その心理的な違いは計り知れない。比較的裕福な社会にいる方が、貧しい人々にとってはより耐え難いものなのである」と述べています。
第25章「合衆国での展開」では、1986年に合衆国に渡った著者が、当時のクリントン・アーカンソー州知事夫妻と会い、「どうやってグラミンを始めたのか、どのように機能しているのか、どうして以前にそれをやってみようと思った人がいなかったのか」と質問されたことが述べられています。
著者は、「バングラデシュにいて気づいた、近代的な銀行が抱える諸問題は、今や世界的な問題になりつつある」と確信するようになったと語っています。
本書は、貧困の問題を、施しではなく、人々自身の力を信じて、経済のしくみで解決しようとする社会起業家を描いた一冊です。
■ 個人的な視点から
ノーベル平和賞を受賞したことで著者の知名度は一気に上がりましたが、実は、2001年に福岡市などが主催する「福岡アジア文化賞大賞」を受賞され、来日しています。3日間の来日の最終日には、「落ち着けるところに」というリクエストがあり、大濠公園を訪れたそうです。
■ どんな人にオススメ?
・貧困を解決する仕組みを知りたい人。
■ 関連しそうな本
シルヴァン・ダルニル, マチュー・ルルー (著), 永田 千奈 (翻訳) 『未来を変える80人 僕らが出会った社会起業家』 2007年03月28日
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■ 百夜百マンガ
「娘の復讐を誓い訓練を受けるする父」というと、バイオレンス読み物みたいですが、ジャニタレ主演で映画にもなった作品です。
投稿者 tozaki : 2007年05月10日 00:00
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