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2007年05月15日

近代日本公営水道成立史

■ 書籍情報

近代日本公営水道成立史   【近代日本公営水道成立史】(#845)

  高寄 昇三
  価格: ¥4200 (税込)
  日本経済評論社(2003/12)

 本書は、公営水道事業を対象に、その成立過程をたどることで、今日の水道事業、公営事業、地方財政運営について、「経営戦略となる歴史的事業成果」を、
(1)明治期の政府施策において、水道建設は通信・鉄道建設に比べてなぜ大幅に遅れたか。
(2)地域社会は伝染病の恐怖におののきながら、当該都市予算の数倍という水道建設への決断を迫られた。
(3)事業形態は資金問題とともに、都市自治体にとって重大な選択課題であった。
(4)水道事業の建設経営は、明治気という地方自治権の制約された環境の下で展開されたが、それは地方債の公募や日本人技術者の活用など、都市自治体の卓抜した事業能力を立証した事業であった。
の4つの視点から論述し、「水道事業創設を、地方財政・都市経営の視点から分析」したものです。
 第1章「旧水道と公益事業」では、明治前期において、水道事業の起業化を促進させた外圧・内圧として、
(1)条例改正という「外圧」:長崎・横浜などの居留地に住む外国人は、政府・地方団体に早期の水道建設を迫った。
(2)伝染病という「内患」:明治初期から明治10年代にかけて伝染病が猛威をふるい、流行年次には死亡者10万人を超えた。
(3)都市膨張という「社会的要因」:従来の人力車・旧水道などの方法では、増大する交通・水需要への対応は困難であった。
(4)公益事業の外部効果・独占利益という「経済的要因」:伝染病予防や火災防止効果など外部経済効果という公共性が、公営方式の牽引車となった。
の4点を挙げています。
 また、水道事業が、「交通事業と同様に民営化の危機にされされ、苦難の末の産物」であった背景として、政府の「民営事業志向性」を挙げ、その理由として、
(1)市町村の水道建設の能力は、「近代的地方自治制度としての基盤が確立せず、また内外他事の国家財政は、これを援助する余猶がなかった」ので、自力建設は不安視された。
(2)船舶・鉄道会社などの事業用水の確保を迫られたため、私営旧水道事業に「民間の有力者が会社組織をつくって、市営水道を計画するものが続出した」。
(3)水道事業は一般的には収益性はないと見なされていたが、特定の所得階層に対する個人専用線、事業用の給水サービスに限定すれば、必ずしも収益性がないものではない。
の3点を挙げています。
 さらに、民営市街地交通が、「破天荒ともいうべき巨額の資金」で都市自治体に買収されたのに対し、づ移送事業は、「多くの首長・関係者の努力で民営水道を阻止でき、「このような賢明な選択によって、都市自治体は民営水道買収における、無用の紛争と無駄な財源を回避」できたと述べています。
 明治初期の都市が進めた旧水道の整備に関しては、その致命的欠陥として、
(1)伝染病予防機能の欠落:明治15年にはこれらが流行し5000人以上の死者が出た。
(2)水質汚染の問題:開渠の疏水によって市内まで導入され、そこから木樋で井戸まで運ばれる方式であったため、汚泥、汚物の混入が避けがたかった。
の2つの問題があったことが指摘されています。
 また、水道事業の建設方式に関しては、明治維新期において、「多くの産業・企業が官営で創業され、以後も官業払下げ、同族会社的に経営」されたのに対し、水道事業は、「まず官庁が、危険を民間に転嫁し、民間が会社方式で危険を分散しながら資本を調達し、事業化する」という「逆の形成システム」であった点を指摘しています。
 さらに、横浜民営旧水道に関して、明治4年に起工、6年に竣工したが、経営は半年で破綻し、神奈川県にその事業が引き継がれ、その後も赤字経営を脱することができなかった理由として、
(1)水道給水能力の問題:漏水が多く市内全部に供給できなかった。
(2)当初予想した料金収入をあげることができなかった。
(3)木樋の維持に多額の費用がかかった。
ことを指摘しています。
 著者は、明治20年代になって、公益近代水道建設の機運が高まった理由として、
(1)公共セクターの水道能力が、市制町村制の実施により、水道事業を開始する事業実施能力を持つようになり、政府も財政支援の姿勢を強めた。
(2)私営旧水道事業も、「必ずしも営利主義的目的より出発したものとすることはできない」ものであり、「これらの市営水道計画は、実現を見なくてもその計画設計の多くは公営水道計画に無事引き継がれていった」ものであったこと。
の2点を挙げています。
 第2章「近代水道創業の政策課題」では、「衛生関係の海外視察・留学経験官吏が、政府内部において推進論を展開」したうえ、「ほとんどの水道設計計画書が、技術のみでなく水道建設の効用を力説」していることが述べられています。
 一方で、水道建設に対しては、「事業効果と建設負担費から見て、今日、巨額の経費投入をしても建設効果はなく、事業化を延期すべき」との反対論が出されたことが解説されています。
 また、近代水道建設の効果として、
(1)旧水道・水屋との比較による給水コストの節減
(2)給水安定化による生活・経済活動の活性化
(3)伝染病抑制による志望者減少、衛生費の節減
(4)噴水などによる都市美観の創出
(5)消火栓による火災被害件数の抑制
などが主張されたことが紹介され、中でも水道建設による伝染病抑制が、「即効的効果」があり、「給水前後の年平均伝染病死亡者数」が激減していることが述べられています。
 さらに、「市制町村制が制定され、水道事業に関する方針」が、「民営方式より公営方式へ傾斜していった」背景として、
(1)水道事業は、旧水道の事業経営を見ても、市営水道は経営破たんを来たしている。
(2)当時、旧水道の経営主体は、東京府、神奈川県、北海道開拓使(函館)、長崎県などで、公営方式が主流であった。
(3)水道事業は、旧水道の事業状況から見て、ガス・馬車鉄道などにより収益性が低い事業である。
(4)横浜・函館の近代水道は、公営方式で建設されている。
の4点を挙げています。
 資金調達に関しては、明治40年代まで、政府資金の貸付がなく、「都市自治体は民間市場から資金調達をせざるを得なかった」ため、「金融逼迫気には、極端な高金利でも資金調達を余儀なくされ、最悪の場合は、神戸・岡山市のように不安定極まりない外資にまで手を出して、塗炭の苦しみを味わうはめになる」として、「政府系資金の融資の遅れが、都市自治体にとって致命的欠陥」であったことを指摘しています。
 第3章「近代公営水道の建設普及」では、横浜市の近代水道建設が「東京より緊急かつ切実」であった理由として、
(1)開港都市として伝染病の恐怖が大きく、新興都市として、給水能力の欠乏が深刻で、旧水道の破損・用水欠乏などでしばしば供給不能となり、結局は水屋に依存した。
(2)横浜は巨額の費用で旧水道を建設したが、木樋のため伝染病を阻止できず、市民の非難を浴びていた。
(3)近代水道建設への外圧は、東京より厳しかった。
(4)横浜の井戸水の水質悪化。
の4点を挙げています。
 また、函館水道を、「基金の積み立て、租税での補填、区税の改革などの一連の措置」を、「細民重課ではなく、まさに事業者負担重視の都市政策的施策の実践」であるとして、「都市財政の政策対応の模範として、高く評価されるべきである」と述べています。
 さらに、長崎水道について、「行政当局の長崎市・市議会も反対するという、異常事態を克服して完成された」と述べ、注目すべき点として、
(1)260年の蓄積である貿易五厘金と、国庫補助金によって住民負担が3分の2になった。
(2)住民の反対を考慮して水道料金の軽減措置が導入された。
(3)軽い負担で水道普及を目指し、普及後に料金を引上げた。
(4)労務に受刑者を使用し、人夫費を半額で済ませた。
などの点を挙げています。
 大阪市水道事業に関しては、水道開設によって廃業に追い込まれた水屋組合が、「上水道の敷設は同業者の死活の問題であるから、その完成後は浄水の販売を認めて欲しい」と要望したが、「このような方式を認めると、上水道の普及を妨げ、上水道敷設の目的に反する結果となる」との理由から請願を却下したことが解説されています。
 この他、秦野水道建設事業に関しては、その特筆すべき点として、
(1)自治的精神の発露としての水道建設事業であり、発案・建設・運営において、住民一致の合議制で処理されている。
(2)巨額の建設工事費を粘り強く負担していった。
(3)陶器水道管方式について、工夫を重ねて、水道管として対応できる耐久性を持ったものを開発していった。
の3点を挙げています。
 本書は、今でこそ当たり前になった日本の公営水道事業について、その意味を再確認させてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 本書を読むと、戦前の自治体の資金調達が、市場や海外資金までを当てにしたかなり自由なものだったことがうかがえます。これは、自治体に限らず、企業の資金調達も戦前においてはメインバンク頼みではなく市場から調達していたことが明らかになっています。
 企業も自治体も、戦争前後の統制経済の下で、資金調達先が限定されてきましたが、だんだん、元の市場型に戻りつつあるのかもしれません。


■ どんな人にオススメ?

・戦前の自治体の企業的な活動を知りたい人。


■ 関連しそうな本

 赤井 伸郎 『行政組織とガバナンスの経済学―官民分担と統合システムを考える』 2006年11月24日
 赤井 伸郎, 山下 耕治, 佐藤 主光 『地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革』 2005年01月27日
 桂 望実 『県庁の星』 2005年09月23日
 荻原 浩 『メリーゴーランド』 2005年12月03日
 白川 一郎 『自治体破産―再生の鍵は何か』 2006年10月30日
 吉富 有治 『大阪破産』 2006年10月20日


■ 百夜百マンガ

なんてっ探偵アイドル【なんてっ探偵アイドル 】

 キョンキョン? そういえば「なんてったって小泉」と歌った政治家もいたような。
 それにしてもこんな地味な作品がプレステのソフトになってたのが驚きです。

投稿者 tozaki : 2007年05月15日 22:00

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