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2007年06月30日

祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上

■ 書籍情報

祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上   【祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上】(#891)

  リチャード・ドーキンス (著), 垂水 雄二 (翻訳)
  価格: ¥3360 (税込)
  小学館(2006/8/31)

 本書は、『利己的な遺伝子』の著者として知られる進化生物学者による、生物の進化の歴史書の上下巻ものの上巻です。
 著者は、人間という「一つの種が進化の『本線上』、つまり主役の座にあり、ほかのものは脇役、端役、一場面だけしか見せ場のない俳優であると考えたい人間の誘惑を否定するのは難しい」が、「その誤りに屈することなしに、歴史的な礼儀を尊重しつつ、公明正大に人間を中心にすえる方法」として、「わたしたちの歴史を後ろ向きにさかのぼること」を挙げ、「これが本書の方法である」と述べています。
 また、歴史を語る上での誘惑として、
(1)歴史家は繰り返されるパターンを過去に捜し求めたいという誘惑に駆られる。
(2)後知恵(歴史の結果を知った上で意見を述べること)の思い上がり、過去は私たちが生きている、この現在を生み出すために仕組まれたものだという考え。
の2点を挙げ、後者については、「進化をめぐる神話の象徴(イコン)」として、スティーヴン・ジェイ・グールドが指摘した、「サルの祖先から、直立歩行に向かって漸進的に順次、姿勢を延ばし、大股で歩くようになり、ついには威厳に満ちたホモ・サピエンスに至る、荒唐無稽な隊列を描いた戯画」が、人類は、「進化の再集計であり、すべての営みがそこを目指すべきものであり、過去からの進化をその高みに向かって惹きつける磁石であるという思い上がり」であると指摘しています。
 さらに、「後ろ向きの年代記では、どの主の組合せを取り上げても、その祖先どうしは、必ずどこか特定の地質学的な瞬間に出会うことになる」として、「前向きの年代記で全く違う意味で使うために、是非ともとっておきたい」言葉である「収斂(convergence)」の代わりに、本書では「ランデヴー(rendezvous)」という言葉を用い、「彼らすべてにとっての最後の共通の祖先」である「そのランデヴーの時点でであう生物」を、「コンセスター(consestor)」と呼ぶとしています。
 「巡礼の始まり」では、「狩猟最終生活から農耕への切り替えは、私たちの独りよがりな後知恵で考えるような改善では決してなかった」とするコリン・タッジの説を紹介し、ジャレド・ダイアモンドと共通する見方として、「農業革命は人類の幸せを増大させなかった。実際のところ、大きな人口の集団は、正当な進化的理由から、一般により多くの悪質な病気を巣くわせるからである。」という意見を紹介しています。
 また、考古学が示唆するものとして、「4万年ほど前に、ヒトという種に何か非常に特別なことが起こり始めた」ことを挙げ、ジャレド・ダイアモンドの「飛躍的大躍進(great leap forword)」という呼び方が気に入っていると述べています。
 「ランデヴー0 すべての人類」では、「十分に昔の個体で、ともかくも人間の子孫を持つものがいれば、その個体は、すべての人類の祖先でなければならないこと」を入り法により証明しています。
 また、2人の人間を取り上げ、過去にさかのぼったときに行き当たる、「年代的に最も新しい共通の祖先(Most Common Ancestor=MRCA)」と呼び、「すべての人類の最も年代的に新しい共通の祖先」である「コンセスター0」が暮らしていたのが、「おそらく数万年前で、まず確実に、場所はアフリカではなかった」とする「驚くべき結論」について述べています。著者は、ランデヴー0の年代は、「おそらく数万年前、最大でも数十万年前」だと推計し、「次のランデヴー地点」であるチンパンジーの巡礼たちと出会うランデヴー1は、数百万年の彼方であり、ランデヴーのほとんどは、数億年先であると述べています。
 「ランデヴー1 チンパンジー」では、700万年前から500万年前の間にチンパンジーとボノボという「他の種の巡礼者たちとの始めての出会い」を迎えます。「私たちと彼らの共通の祖先」である「コンセスター1」は、「私たちの25万世代前の祖父母」であり、「チンパンジーのように毛むくじゃらで、チンパンジーと同じほどの大きさの脳を持っている公算が大きい」と述べられています。
 「ランデヴー2 ゴリラ」では、19世紀のダーウィン以後、「人々はしばしば、アフリカ人を、至高の白人に向かって上昇する道筋の、類人猿とヨーロッパ人の中間に位置するものと見なした」ことについて、「すべての人類はすべてのゴリラに対して、正確に同じ近さの親戚なのである」と述べています。
 「ランデヴー3 オランウータン」では、「現在生き残っているすべての類人猿は、最終的にアフリカに住むことになったものも含めて、アフリカを出てアジアに移住した系統の子孫である」という「アジアに飛び出してまた戻った」説を紹介し、「人類の祖先はずっとアフリカにいた」説よりも「最終節約になる」と述べています。
 「ランデヴー4 テナガザル類」では、『カンタベリー物語』の85の異本の歴史を進化生物学的な手段によって跡付けた『カンタベリー物語』プロジェクトを紹介し、「私たちは、単一の系統樹は物語のすべてではないことを認めなければならない。種の系統樹は描くことができるが、それは多数の遺伝子系統樹の単純化された要約であると見なさなければならない」と述べ、「種の系統樹は、ゲノムの民主主義的な多数派の間の関係を表現したものと理解することができる」と述べています。
 「ランデヴー6 新世界ザル」では、大部分の哺乳類が「かなり貧弱な、二色系の色覚しかもっていない」のに対し、「私たち狭鼻猿類である類人猿と旧世界ザルは3種類、赤、緑、青の錐体」を持つ三色系であることについて、「私たちは夜行性の祖先が三色系を失った後で、3種類の錐体を獲得し直した」と述べています。
 ランデヴー10 齧歯類とウサギ類」では、「齧歯類は、哺乳類界における最大の成功物語(サクセス・ストーリー)の一つである。哺乳類全種の40%以上が齧歯類であり、世界中の齧歯類の個体数は他のすべての哺乳類を合わせた数より多いと言われている」と述べています。
 また、ビーバーがダムを作ることについて、「ビーバーは、ダム表現型によって引き起こされる湖表現型を持っている。湖は延長された表現型なのである」と述べ、「ビーバーの湖のような表現型と、扁平なビーバーの尾という通常の表現型の間には、原理的に大きな差がないことが明らかになるだろう」と解説しています。著者は、「慣例的に、生物学者は遺伝子の表現型効果を、その遺伝子のもつ生物個体の皮膚の内部に限定されるものと見なしている<ビーバーの物語>は、それが不必要なことを示している。遺伝子の表現型は、言葉の真の意味で、生物個体の皮膚の外まで延長してもよいのではないか」と主張し、「好適な条件の下では、ビーバーの湖は数キロメートルもの範囲に広がることができ、これは世界中のあらゆる遺伝子の表現型の中で最大のものになるのではないだろうか」と述べています。
 「ランデヴー11 ローラシア獣」では、「人類の最近の祖先が弱い一夫多妻であったという証拠が本当にあるとしても、それを何らかの形で道徳的ないし政治的な姿勢を正当化するために使うべきではないことは、今さら言う必要もないと思いたい。『「である」から「であるべき」を引き出すことはできない」はこれまであまりにもたびたび言われてきたので飽きられてしまっている危険がある」と述べています。
 「ランデヴー14 有袋類」では、本物のモグラとキンモグラとフクロモグラを取り上げ、「これら3つの『モグラ』の類似性は収斂現象である。すなわち、その穴掘りという習性のために、異なった発端から、異なった祖先から、独立に進化したものである」、「「この三者すべては、どれも穴を掘るがゆえに互いに似ているのである」と解説し、「オーストラリネアはフクロモグラ類だけでなく、有袋類の劇的な配役リストに名を連ねる動物たちの故郷でもある。彼らのそれぞれは、他の大陸で有胎盤類が果たしているのと多かれ少なかれ同じような役割を演じている」と述べています。
 「ランデヴー15 単孔類」でjは、「人間の脳地図で手が優越しているのと同じ形」で、カモノハシの脳地図は「くちばしを誇張している」と述べた上で、「このくちばしは手よりもすぐれている。それはそれは実際に触っていないものまで手を伸ばし、『感じる』ことができるのである。それは電気を使ってなされるのである」と解説しています。
 同じように、ホシバナモグラが、「その鼻で『見ている』」と推測し、「私たちが色と呼ぶのと同じクオリアを、肌理の触角を示す標識として使っているのではないか」、同じように、「カモノハシがそのくちばしで『見ており』、私たちが色と呼ぶクオリアを電気感覚の違いを表す内的な標識として使っていると思いたい」と憶測しています。
 「ランデヴー16 蜥形類(=鳥類+爬虫類)」では、「蜥形類は私たちが出会う巡礼者の中で、飛び抜けて大きな新参巡礼者たちの集団である。コンsネスター16が生きていたとき以来の年月の大半を、蜥形類は恐竜という姿で地球を支配していた」と述べています。
 また、ドードーやエピオルニス(ロック鳥の伝説のモデルとされる)、モアなどのすでに絶滅した鳥について、解説しています。
 本書は、生命の巡礼のうち、動物好きにとっては楽しい前半部分です。


■ 個人的な視点から

 本書の中には、たまに生物史にはあまり関係ない方向への脱線が含まれていますが、この中の傑作の一つは、ブッシュ大統領に関するもので、「世界で最も強大な核保有国の指導者は(私はこれを2003年に書いている)、この言葉が『ニュクリア(nuclear)ではなく『ニュクラー(nucular)』だと思っている。彼は、自らの英知あるいは知性が読み書きの能力よりもすぐれていることをうかがわせるような理由を、これまで何一つ見せてくれたことがない」と述べています。
 初のMBAホルダーの大統領であるブッシュ大統領の知性に対する不安は多くの人が書いていますが、本書の文脈では、進化論を否定し、創造論を学校教育に持ち込もうとするキリスト教原理主義者への批判が根底にあるものと思われます。


■ どんな人にオススメ?

・自分の「祖先」を見てみたい人。


■ 関連しそうな本

 リチャード・ドーキンス (著), 垂水 雄二 (翻訳) 『祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 下』 
 リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆, 岸 由二, 羽田 節子, 垂水 雄二 (翻訳) 『利己的な遺伝子』 2006年09月26日
 R. アクセルロッド (著), 松田 裕之 (翻訳) 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』 2005年12月20日
 ロバート・アクセルロッド (著), 寺野 隆雄 (翻訳) 『対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』 2005年11月15日
 キム・ステルレルニー (著), 狩野 秀之 (翻訳) 『ドーキンス VS グールド』 2007年02月10日
 スティーヴン・ジェイ グールド 『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語』 2007年03月03日


■ 百夜百音

Hunting High and Low【Hunting High and Low】 a-ha オリジナル盤発売: 1985

 ノルウェー出身。日本では「テイク・オン・ミー」のヒットで知られる一発屋として有名ですが、息の長い活動をしているようです。

『Minor Earth Major Sky』Minor Earth Major Sky

投稿者 tozaki : 2007年06月30日 05:00

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