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2007年07月15日
レナードの朝
■ 書籍情報
【レナードの朝】(#906)
オリヴァー サックス (著), 春日井 晶子 (翻訳)
価格: ¥1029 (税込)
早川書房(2000/04)
本書は、「特異な症状を来たした患者たちの人生と、彼らが見せた反応」と、「そこから医学と科学が何を学ぶべきか」を主題としたものです。「患者たちは今から50年以上も前に大流行した眠り病(嗜眠性脳炎)の数少ない生存者であり、彼らの反応は、画期的な『目覚め』の新薬レポジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)によってもたらされた」ものであると述べられています。
「嗜眠性脳炎(眠り病)について」では、1916年から17年にかけて、ウィーンやその他と都市で突然表れた「新しい」病気が、それから3年で世界中を席巻し、その症状が、「同じ症状をみせる患者が二人といないほど多様なばかりか、あまりにも奇妙だった」ため、「当初は、あたかも何千もの新しい病気が突然あふれ出たかのように思われた」と述べられています。著者は、「患者を荒廃へと引きずりこむ嗜眠性脳炎」が、「多くの患者の場合、一つの機能だけは無傷のまま残る」こと、すなわち、「知性、想像力、判断力、ユーモアといった『より高次の機能』」が残ることに注目し、「患者たちは、いってみれば、ユニークな脳機能の崩壊を表現する独特の存在」であると述べています。
「マウント・カーメル病院の生活」では、L-DOPA登場以前の患者たちの願い、すなわち、「病気の治癒、そして人生を取り戻すこと」、「失われた時間を取り戻し、人生を謳歌していた若い日の自分に戻ること」という「2つの奇跡が起こるのを願い続けずにはいられ」なかったことが述べられています。
「L-DOPAの開発」では、L-DOPAが、「奇跡の薬」であったこと、開発した医師自身が、「私たちの時代の……本当に奇跡的な薬」と呼んでいて、「L-DOPAの効果についての報告がなされると、薬を投与する立場の医師とそれを服用する患者の双方が熱狂に包まれた」ことが述べられています。
「症例1 フランシス・D」では、L-DOPAの投薬によって目覚め、「副作用」が出たために、薬を突然投与されなくなった彼女が、「私はまっすぐ垂直に離陸して、L-DOPAに乗ってどんどん高く、信じられないくらいの高さまで登りました。上空何百万マイルもの、この世のてっぺんにいるような気分だったんです……。そうしていると、わたしを押し上げていた力がなくなってしまい、墜落しました。真っ逆さまに地面に落ちただけではなく、地の底に向かって突き刺さり、今度は地中何百万マイルまで潜っていったんです」と語っていることを紹介しています。
「症例2 マグダ・B」では、L-DOPAを投与された彼女が、日記に鉛筆で、「最後に字を書いてから20年ぶり。自分の名前をどう書くのかさえほとんど忘れていた」と記したことが紹介されています。そして、健康状態も全般によかった彼女が、「ある日突然、自分は死ぬと感じた」ため、娘たちに電話をかけ、「今日会いに来てちょうだい。明日はないんだから……。そうじゃなくて、気分はとてもいいのよ……。悪いことは何もないの。でも、今夜眠ったら死ぬことがわかっているのよ」と話し、病棟を回って、皆と握手し、「さようなら」と言った後、「ベッドに入り、その夜のうちに亡くなった」ことが述べられています。
「症例3 ローズ・R」では、43年ぶりに「目覚め」た彼女について、「43年後の今も、彼女はまだ1926年に『いる』のだろうか? 1926年が彼女の『現在』なのだろうか?」と述べ、「まるでL-DOPAが彼女を数日間だけ『妨害から解放』して、彼女には理解することも耐えることもできない時間差を突きつけたようだった」と述べています。
「症例5 ヘスター・Y」では、「20年以上もの間全く動くことも感情を表に出すこともできなかった彼女は、今や水面に浮き上がり、深い水の中から放たれたコルクのように勢いよく空中に飛び出した。そして、長年彼女を捕らえて離さなかった鎖を引きちぎったのだ。そんな彼女を見て私が思い浮かべたのは、牢獄から解き放たれた囚人や、学校がひけた子供、冬眠後の春の目覚め、眠りから覚めた眠りの森の美女だった」と述べています。そして、「病気の重さ、長さ、その奇妙さ、L-DOPAへの不自然な反応、そして何年にもわたって過ごしている陰鬱な病院――数知れない障害にもかかわらず、へスターは、4年前には考えることすらできなかった方法で、確かに目覚め、現実に戻ってきたのである」と述べています。
「症例18 ジョージ・W」では、彼が、「すべてが順調なときは完璧なのですが、自分が綱渡りをしているか、自分の針の上でまっすぐバランスをとる画鋲になったような気分です」と語っていることについて、「多くの患者が、そうしたイメージを使って、安定した状態が減っていき、ちょっとしたことで興奮する傾向が強まっていく、不安定な状態を説明している」と述べています。
「症例20 レナード・L」では、L-DOPAを投与する以前の彼が、「檻に入れられて、何もかも取り上げられたよう。リルケの『豹』のように」と自らを語り、「ここは人間の動物園だ」と表現していることを紹介しています。そして、L-DOPA投与後、「30年間無縁だった肉体的な運動、活力、幸福感を味わうようになった。することなすことすべてが彼を喜ばせた。レナードはまるで悪夢や重い病気から回復し、あるいは墓場や牢獄から解放されて、突然自分の周りのすべてのものの存在と美しさに陶然としている人のようだった」と紹介しています。しかし、彼は「数多くの『目覚め』と特定の興奮を経験」し、「それはとくに請求さや突進、反復行動、衝動脅迫、連想作用として表れた。非常に早口で話すようになり、言葉や文章を何度も繰り返す(同語反復症)ようになった。常に違うものに視線を奪われ続け、しかも自分の意思でそらすことができなくなった。あえいだり拍手をしたりする衝動に駆られ、一度そのどちらかが始まると自分で止めることはできず、ますます激しさを増しながら同じ動きを続け、最後には硬直するか凍り付いてしまう」などの症状が現れるようになったことが述べられています。症状はさらに悪化し、「その貪欲な性的欲求を問題視した病院」によって「処罰部屋」へと移された彼は、「拷問、死、性器切断といった妄想に取り付かれ」、「病室は『たくさんの蛇』の巣だとか、彼の腹の中に『縄』があって自分を縛り上げようとしているとか、病室の外に絞首台の用意が整っていて、自分の『原罪』によって当然受けなければならない刑の執行がすぐにも行われるなどというもの」であったことが紹介されています。L-DOPAの投与をストップし、「冷静さ」と穏やかさを取り戻した彼は、「最初はL-DOPAが世界で最も素晴らしい薬に思えました。そして、僕にそんな生命の水を与えてくれた先生を誉めたたえました。それから、何もかもが悪い方へ向かいだすと、あの薬は世界で最悪のもの、飲んだ人を地獄へ引きずりこむ毒薬ではないと思いました。それで、先生を呪ったんです。僕は混乱していました。恐れと希望、憎しみと愛という感情の間で……。今では、すべてを受け入れることができます。あの体験は素晴らしく、恐ろしく、劇的で、笑えるものでした。そして最後には寂しく、それだけが残ったんです。自分だけのときが一番いい――もう薬はいりません。この3年間で、色々なことを学びました。これまでずっと自分の周りに築いていた壁を突き破ることができました。僕はこれからも自分自身でい続けます。だから先生はL-DOPAをしまっておいてください」と語っています。
「展望」では、「患者にL-DOPAを投与するに当たり、最初に目にする」のが、
・目覚め:病気からの浮上
であり、その後、
・試練:いくつもの問題
が生じ、最後に、
・順応:ある種の「理解」に到達するかあるいは自分が抱える問題との間のバランスがとれるようになる
という、「目覚め―試練―順応」という状況の連続から、「L-DOPAの結果について最高の議論を戦わせることができる」と述べています。
「目覚め」では、「パーキンソン症候群の患者のほとんどすべてが、L-DOPAを投与すると何らかの形で『目覚める』」とした上で、「一般に――常にではないが――目覚めに要する時間は症状の重い患者の方が早く、おそらく『内側に向けて爆発した』(あるいは『ブラックホール』に吸い込まれた)パーキンソン症状とカタトニーを併発したヘスター・Yのような患者は、一瞬にして目覚めるといってよいだろう」と述べ、「さらに、脳炎後遺症の患者は一般にL-DOPAに対して一層敏感であり、ほんのわずかな投与量、つまり『通常の』パーキンソン病患者に要するよりもはるかに少量で目覚める」としています。
そして、「目覚めによって、患者の意識に、そして自己や世の中との関係のあらゆるところに変化が生じることになる」、「患者はそれまで感じていた病気の存在と世界の不在とを忘れ、病気がなくなり世界が自分の周りに存在すると感じるようになる」と述べています。
「試練」では、「L-DOPAを投与したどの患者にも、ある期間は一点の曇りもない素晴らしい健康がよみがえる。だが、遅かれ早かれ、どのような形であれ、ほとんどの患者に問題が起こる。何か月間、何年間も良好な反応を続けた後で、軽い問題が起こる患者もいれば、何日間かは――一生の長さに比べればほんの一瞬――良好だが、すぐに思い苦痛の中に沈んでしまう患者もいる」と述べています。
そして、「より深く充実した『目覚め』の概念」として、「L-DOPAの『副作用』とは、その人に備わっているかもしれない性質や内なる存在の潜在的能力のすべてを、表舞台に引き出すことがと見なすべき」であると述べています。
「順応」では、「この本で取り上げた患者の何人か」は、「とうとう病気との間に『満足の行く』折り合いをつけることができず、L-DOPAの投与を完全にやめるか、あるいは悲惨な生活を受け容れるかのどちらかの選択しかなかった」が、「本書に登場する他の患者、そしてL-DOPAを投与された大多数の『通常の』パーキンソン病患者」が、「おおむね満足のいく折り合いをつけることができるようになった」と述べ、こうした患者が、「L-DOPAの効果がしだいに減っていき、長い時間をかけてある種の安定期に到達した」点で共通しているが、「この安定期には長所と短所の両方」があり、「ほぼ安定して満足のいく機能は得られても、完全な『目覚め』あるいは『副作用』の劇的さは失われている」と述べています。
本書は、L-DOPAという「奇跡の薬」を通じて、人間の内面、病気とは何かについて考えさせてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
映画見ない人なので知りませんでしたが、20年位前に映画化されているようです。当時、映画見て泣いた人に原作をお奨めできるかどうかはわかりませんが、他の一連のサックス作品の端緒となる作品だけあって、いい作品です。
■ どんな人にオススメ?
・生きていることが「つまらない」と思える人。
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■ 百夜百音
【しあわせって何だっけ】 明石家さんま オリジナル盤発売: 1989
ポン酢醤油はキッコーマン、ということで千葉に縁が深いかどうかはわかりませんが……。
投稿者 tozaki : 2007年07月15日 22:00
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