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2007年07月25日
戦略の実学 際立つ個人・際立つ企業
■ 書籍情報
【戦略の実学 際立つ個人・際立つ企業】(#916)
谷口 和弘
価格: ¥1680 (税込)
NTT出版(2006/12/15)
本書は、経営学の代表的に一分野である戦略経営論について、慶應義塾大学商学部の「環境と戦略」「経営学」「商学概論」の講義をもとに、「理論と現実の相互作用を強調」した、「実学としての戦略経営論」を展開したものです。
著者は、「戦略経営」を、「外部環境と内部資源が適合するような戦略と組織をつくること」である意と述べ、「その基本要素は、ビジョンの提示、戦略策定、そして組織デザインである」と述べています。そして、戦略とビジョンについて、「戦略は、個人や企業が将来的に『どうなりたいか』や『どうありたいか』といった理想像――ビジョン――を反映する。そして、ビジョンは、個人や企業に進むべき方向性と実現すべき目標を与える」と述べています。
また、本書のタイトルである「実学」については、「実学とは、現実を学ぶこと」であり、「理論の力を借りて、現実の背後にあるメカニズムを明らかにすること。そして、新しい知識を創造して、理論と現実の発展に貢献すること」が、「実学の本当の意味」であると述べています。そして、経営学が、「現実の企業や組織の仕組みを対象」にしたものであるため、「理論を構築する学者と、実際に企業を経営する経営者との間の情報交換」、すなわち、「理論と現実の相互作用が重要な意味をもつ」と述べる一方で、「理論は、現実の世界において現象が生じる仕組――メカニズム――を説明するための枠組み、あるいは概念の体系である」と述べ、「簡単に言えば、理論は、メガネのようなものである。人々に、見えにくいものを見えるようにしてくれるメガネ」であると解説しています。
第1章「個人にも戦略を」では、戦略を、「『異の力(高い評価や高い利潤)』を得るための意思決定や方法である」と述べ、「戦略を理解するためのキーワードは、『まとまり』と『際立ち』である」と解説しています。
そして、「戦略力というのは、ビジョンに基づいて戦略を策定し、それを実行する組織をデザインするために、思考し行動する強い力のことである。もっと簡単にいえば、際立つことによって、異の力をえるという『力の力』である」と解説しています。
第2章「21世紀企業の経営」では、「経営学は、応用ミクロ経済学である。要は、企業の性質を解明すえるために、経済学――より正確にいえば、ミクロ経済学――の論理を応用した学問」だと述べた上で、一橋大学の伊藤秀史教授の「企業経営(マネジメント)――戦略、組織、人事、会計、マーケティング、そしてファイナンスなどの機能――といった研究対象の観点から定義される」という経営学の定義を紹介しています。
そして、ロナルド・コースによる企業の存在理由・役割について、「企業とは、すなわち経営者の権限にもとづいて資源配分が行われるメカニズム(権限メカニズム)」という定義を紹介したうえで、「企業の存在理由が取り引き費用節約である」という企業の役割を紹介しています。
また、企業経営について、「価値創造をつうじて利潤を獲得して利潤を獲得し、組織としての存続を可能にするために、さまざまな人々が行うさまざまなアクティビティのあいだにまとまりを生み出すというコーディネーション、および環境変化の中で古いものを破壊する一方で新しいものを創造するというイノベーションを実現することである。そのためには、企業家精神の発揚が不可欠である」と解説しています。
第3章「戦略経営の方法論」では、市場における競争が、「企業のあいだでレントを減らして均等化するという同の力」をもつと解説しています。
また、一部の経済学者が、経営学を見下して、「経済学は、緻密な分析を行っているが、経営学は、分析のない事実の羅列にすぎない」「経済学は、洗練されて成熟した科学なのだが、経営学は、……」「経済学は、社会科学の女王だが、経営学は……」という態度を取ることについて、「経済学が社会科学の領域で規範的な役割を果たすとしても、経済学者は、さまざまな方法論を知らない限り、自分と違う方法論にもとづいた研究を評価することはできない。判断には、幅広い知識が必要なのである。そして、経済学者は、必ずしもすべてを知りつくしたナンバー・ワンとはかぎらない」と述べています。そして、「経済学者が市場を理解しようとしてきたのと同様に、あるいはそれ以上の努力を企業や組織の理解に振り向けてきた」経営学者の代表例として、「1978年にノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモン」を挙げています。
第4章「ポジショニング論と資源ベース論」では、ポジショニングについて、「ある産業で競争する際、他社に比べて有利な位置取りをすること」であり、「産業とは、相互に代替できる製品を作っている企業のグループである」と解説しています。
そして、ポーターが、「産業における競争のあり方ひいてはその収益性を決定する5つの競争要因(ファイブ・フォース)」について、
(1)新規参入の脅威
(2)業者間の敵対関係
(3)代替製品・サービスの脅威
(4)買い手の交渉力
(5)売り手の交渉力
の5つを挙げていることを紹介しています。
また、企業が、「産業において既存企業や新規参入企業による攻撃に備えながら、買い手、売り手、そして代替品による脅威に対して、強いポジションを確立」するための競争戦略として、
(1)コスト・リーダーシップ戦略
(2)差別化戦略
(3)集中戦略
の3つの基本戦略を提示していることを解説しています。
一方で、資源ベース論については、同じ戦略グループに属している企業のあいだの業績格差、競争優位の問題を説明する上で、「企業の内部資源を強調する資源ベース論が注目されるようになった」と述べ、その代表的論者のジェイ・バーニーが、資源ベース論が、
(1)経営者の特異性
(2)レント(超過利潤)の多様性
(3)資源の集合体としての企業
に関する研究に影響を受けている、と述べていることを紹介しています。
第5章「ゲーム理論とブルー・オーシャン戦略論」では、「ゲーム」を、「意思決定を行う個人や企業や互いに行動を予想し、自分が得る効用や利益が大きくなるように行動を選択するという相互依存の状況を描いた数理モデル」であると解説しています。そして、ゲーム理論が、「少数の企業からなる戦略的相互作用の世界を分析し、過去の競争行動を説明するのに適している」が、「実際の戦略経営の世界は、さらに複雑で急速な変化にさらされている」ため、「ゲーム理論を用いたからと言って、競合他社の将来的な行動を正確に予測できるわけではない」と述べています。
また、「ブルー・オーシャン戦略論」については、INSEADのキムとモボルニュによる、「競争のない市場を創造することによって、競争を無意味化してしまう」ものであり、従来の戦略経営論の常識を覆したものであると述べています。そして、「競争が厳しい市場」である「レッド・オーシャン」から逃れて、「競争のない未知の市場」である「ブルー・オーシャン」を創り出すカギは、「バリュー・イノベーション」、すなわち、「低コストと差別化を同時に実現すること――トレードオン――によって、顧客と自社の価値を高められるように全体的なアクティビティを組織化すること」であると解説しています。
本書は、巻末に「パートII」として、「実際に理論を活用すること」を目指したケースとして、「浜崎あゆみ」「中村邦夫」「グーグル」「ヴィロン」の4つの「際立つ」ケースを収録しています。著者は、「誰もが知っている理論を学習しただけでは、異の力を得られない学習した知識を参考に外部の環境変化を理解し、内部の資源やケイパビリティを利用して、新しい何かの実現に向けて行動せねばならない。つまり、行動によって際立つのである。戦略力を見せつけるのだ」と力説しています。
本書は、「際立ちたい」と思っている個人・企業にとってヒントを与えてくれる一冊です。
■ 個人的な視点から
本書は、大学の講義ノートがベースになっているせいなのか、著者の趣味の問題なのか、「荒川静香」や「浜崎あゆみ」などの「季節もの」が多数登場します。
「CMネタはすぐ風化するぞ」という鳥坂センパイの警句がありますが、本書の賞味期限が短くなるかもしれないと思うと、少し残念な気がします。
■ どんな人にオススメ?
・実学としての経営学を身につけたい人。
■ 関連しそうな本
青木 昌彦 (著), 滝沢 弘和, 谷口 和弘 (翻訳) 『比較制度分析に向けて』
リチャード ラングロワ , ポール ロバートソン (著),谷口 和弘 (翻訳) 『企業制度の理論―ケイパビリティ・取引費用・組織境界』
デビッド J.コリス, シンシア A.モンゴメリー (著), 根来 龍之, 蛭田 啓, 久保 亮一 (翻訳) 『資源ベースの経営戦略論』 2006年02月07日
別冊宝島編集部(編) 『わかりたいあなたのための経営学・入門』 2005年01月26日
伊藤 秀史, 小佐野 広 『インセンティブ設計の経済学―契約理論の応用分析』 2005年02月26日
小佐野 広 『コーポレートガバナンスの経済学―金融契約理論からみた企業論』 2005年02月23日
■ 百夜百マンガ
青年誌で人気の漫画家でしたが、だんだんメッセージ性が強くなっていったというか、政治活動家みたいな人になるにつれて、「説教臭い」と思う人が増えたんじゃないかと思います。
投稿者 tozaki : 2007年07月25日 21:00
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