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2007年08月02日

アメリカ型不安社会でいいのか―格差・年金・失業・少子化問題への処方せん

■ 書籍情報

アメリカ型不安社会でいいのか―格差・年金・失業・少子化問題への処方せん   【アメリカ型不安社会でいいのか―格差・年金・失業・少子化問題への処方せん】(#924)

  橘木 俊詔
  価格: ¥1155 (税込)
  朝日新聞社(2006/08)

 本書は、「格差拡大、社会保障不安、失業問題、若者の苦悩、少子・高齢化、女性の生き方といった諸問題」について、アメリカとヨーロッパの「取り組み方法、すなわちアメリカとヨーロッパの経験を対比することによって、どちらの政策が日本にとって参考となるかを詳細に議論」したものです。
 第1章「アメリカとヨーロッパ 対照的な社会構造」では、戦前にアメリカの影響力がヨーロッパよりも小さかった理由として、
(1)明治・大正期にあってはアメリカよりもヨーロッパ諸国(特に英仏両国)が政治的にも経済的にも強かったし、世界に眼を開いていた。
(2)第1次世界大戦を契機にして、アメリカ経済は発展を遂げて強力なものになったが、自国の経済発展に集中する傾向があったので、対外進出にはそれほど乗り気ではなかった。
(3)政治的にもアメリカは「モンロー主義」の言葉で代表されるように、外国からの干渉を排除する代わりに、自国も他国に干渉しない伝統を持っていた。
の3点を挙げています。
 また、アメリカとヨーロッパの共通点として、
(1)欧米ともに自由主義、民主主義、資本主義を原則としている。
(2)欧米諸国に住む大半の人々は、それ以外の諸国にすむ人たちよりも経済生活は相当に豊かである。
(3)教育水準や科学水準が高く、高い生産性の一つの理由であるとともに、文化水準が高く、政治や社会の安定度も高い。
(4)中心となる宗教はキリスト教である。
(5)個人の自立が重要な人生上の規範となっている。
の5点を挙げるとともに、その差異として、
(1)アメリカは自立の精神が強く、ヨーロッパは個人レベルでの相互依存の精神が強い。
(2)政府に対する期待度と政府の規模の差。
(3)アメリカは経済成長を優先させるのに対して、ヨーロッパは経済成長が第一の目標ではない。
(4)アメリカは市場原理尊重・弱肉強食是認であるのに対して、ヨーロッパは公共政策尊重・ある程度の平等志向である。
の4点を挙げています。
 第3章「それでもお金持ちになりたいか」では、「お金だけがすべてではない」ことを主張する根拠として、「日本人の精神的伝統としての『清貧の思想』」を挙げ、「ごく普通の凡人として生まれた我々に、才能豊かな文人の生き方を真似せよというのは無理なことである」が、「決して豊かではないが、つつましやかな経済生活を欲することは、非人間的ではない」と主張しています。
 第4章「年金改革の切り札は『税方式』だ」では、「公的年金制度を基礎年金部分に限定し、2階部分は積み立て方式の民営化でよい」とする年金制度を提案し、具体的には、
(1)公的年金はすべての国民を対象にして、1階部分の基礎年金を一定額支給する。
(2)現存する2階建て部分は、積み立て方式による民営化に委任する。したがって、加入するしないの自由がある。
(3)基礎年金給付のための財源は全額税収を充てる。
(4)そのための税として累進消費税を導入する。
(5)年金目的消費税を第一歩として導入し、制度が落ち着いたとき時期を見て一般税収に移す。
(6)もし徴税技術が可能になれば、累進消費税から累進支出税に移行する。
(7)現在ある保険料の積立金約140兆円は、ほぼ全額を給付額として保険加入者の積立金額に応じて還元する。
の7点を挙げています。
 第5章「フリーターが日本を滅ぼす」では、「初めて就職する人たちの年齢が先延ばしされる傾向」について、経済学からの理由付けとして、
(1)親の経済が豊かになってきたので、子供を長い教育機関につかせることが可能になった。
(2)できるだけ上級学校に進学することが、社会に出てからさまざまなメリットを享受できるのではないか、とする通念がある。
の2点を挙げています。
 また、企業にとっての非正規労働者のメリットとして、
(1)賃金費用の節約に役立つ。
(2)企業の業績に連動させたバッファー(緩衝材)として利用できる。
(3)社会保険料の事業主負担が節約できる。
などの点を挙げています。
 さらに、「教育に関することにおいて子供がどれだけの勉強意欲があるかの差が、階級分化と関係がある」として、「上層階級の子弟は親の家庭の雰囲気からして、高い教育を受けたいとして勉学・学習に熱心に取り組む可能性が高い」一方で、「非上層階級の親は経済的に豊かでないだけに、日頃から働くことに時間を奪われて、子どもの教育にまで関心が及ばない可能性」がある上、「子供においても高い向上心をもたないかもしれない」として、「階級ないし階層の再生産が教育を通じてなされるとする考え方の一端」を紹介しています。
 第6章「なぜ弱者(貧困者)を助けないのか」では、OECDによる貧困の定義、すなわち、「各国の中位所得の50%にある所得以下にいる人」という定義を紹介し、日本が、OECD諸国の中で、メキシコ、アメリカ、トルコ、アイルランドに次いで5番目に高い貧困率の国であることを紹介しています。
 また、貧困者が増加した理由として、
(1)ここ10~15年の経済不況
(2)高齢単身者の貧困がもっとも深刻。
(3)母子家庭の増加による影響。
(4)若年層における2極化現象。
(5)労働者の中で非正規労働者が激増。
(6)最低賃金制度の不十分さ。
の6点を挙げています。
 さらに、生活保護制度に関して、日本の水平的効率性の低さを、「要生活保護支給対象者の把握の程度が低いということと同義である」として、日本で補足率が低い理由として、
(1)経済支援者として家族と親族に多大の期待がかかっている。
(2)生活保護を受けるための資産保有の状況などの資格審査(ミーンズ・テスト)が厳しい。
(3)国民に恥の感情がある。
の3点を挙げ、「現実には生活保護支給を受けてよいほどの貧困でありながら、それを受けている人の割合は、わが国ではほんの十数%に過ぎない」という報告を紹介しています。
 第7章「十分ではない失業保険」では、日本の最低賃金制度が「きわめて不十分にしか機能していないこと」を指摘し、「なぜ不十分なままに運営されてきたのか、それらの理由を探求し、かつ制度改革がありうるかどうかを検討」しています。
 第8章「少子社会を反転するには」では、「決定的に重要なこと」として、「2人目も生むような環境にない現状を、2人目も進んで生めるような状況にすること」であるとして、2人目を諦める理由として、
(1)1人の子供の出産・育児が大変なことであると経験によって認識する。
(2)働いている女性に特有なこととして、1人目の育児休業を取得したことにより、自分の将来の職業生活に不安を抱く場合が多い。
(3)1人の子供を育てるのに相当なお金が必要なことがわかっている。
の3点を挙げています。
 第9章「働く女性をどうサポートするか」では、「専業主婦誕生と、それへの願望の原因」として、
(1)夫の所得だけで家計が賄えるので豊かである。
(2)農業や商業に従事することや、工場で働くことは労働条件が過酷なので苦痛である。
(3)郊外の家屋に住んで家事と子供の養育に専念できる。
の3点を挙げ、「夫が都市部のオフィス化工場で働き、妻は郊外の家(できれば集合住宅ではなく一戸建て)に住んで家事と育児に専念する」という「いわゆるサラリーマンと専業主婦の世界」が「ひとつの夢」であったことを解説しています。
 そして、男女ともに再び専業主婦への願望が高まっていることの理由として、
(1)女性が子育てをしながら仕事を続けることは、精神的にも肉体的にもきついことに男女ともに気づくようになった。
(2)15年も続いた大不況によって、本人の就きたいと希望する仕事を見つけることが多くの若者にとって困難になっている。
(3)一部に高額所得者が目立つようになって降り、そういう人と結婚すれば自分は働く必要がないと思う若い女性が増加した。
の3点を挙げ、「何がなんでも、あるいはきつい仕事にどうしてもつかねばならない、といった意識が若者の間にやや薄れつつあるのではないか」と述べ、政府による国民への生活満足度を問うたアンケート調査の結果として、「最も満足度の高い女性は、高学歴の専業主婦で夫の所得が高い人」という結果が示されていると述べています。
 第10章「ヨーロッパ型の社会がお手本である」では、「日本国民にはアメリカ型の社会を目指すのか、それともヨーロッパ型の社会を目指すのかを選択する機会が与えられていない」として、「どのような社会を日本は目標としたらよいのか、国民的な議論が沸騰することを期待したい」と述べています。
 本書は、日本社会が抱える問題について、解決のための議論の糸口を与えてくれる一冊です。


■ 個人的な視点から

 タイトルは、「アメリカ」が出てくるのですが、結論としてはヨーロッパを志向しています。確かに、「ヨーロッパ型社会を目指す!」とかではインパクトがないですが、こういう本だとタイトルのつけ方も難しいと感じました。


■ どんな人にオススメ?

・日本の将来の社会の姿を考えたい人。


■ 関連しそうな本

 橘木 俊詔, 斎藤 貴男, 苅谷 剛彦, 佐藤 俊樹 『封印される不平等』 2006年02月10日
 苅谷 剛彦, 石田 浩, 菅山 真次 (編集) 『学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程』 2006年03月03日
 橘木 俊詔 『日本の経済格差―所得と資産から考える』 2006年02月10日
 苅谷 剛彦 『階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』 2006年02月14日
 橘木 俊詔 『現代女性の労働・結婚・子育て―少子化時代の女性活用政策』 2006年08月18日
 橘木 俊詔, 森 剛志 『日本のお金持ち研究』 2006年06月13日


■ 百夜百マンガ

アカンベー【アカンベー 】

 何しろ主人公がマクラっていうのは、落語の原則から言ってありえませんが、あんまりそういう設定は気にせず読んでた気がします。

投稿者 tozaki : 2007年08月02日 00:00

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