« 自治体改革と地方債制度―マーケットとの協働 | メイン | クール・ジャパン 世界が買いたがる日本 »
2007年08月18日
眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く
■ 書籍情報
【眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く】(#940)
アンドリュー・パーカー (著), 渡辺 政隆, 今西 康子 (翻訳)
価格: ¥2310 (税込)
草思社(2006/2/23)
本書は、5億4300万年前に、「地史的に見れば一瞬に等しい期間」に、「今日見られる主要な動物グループのすべてが、いっせいに堅い殻を進化させ、それぞれ特有の形態を持つに至った」という「『カンブリア紀の爆発』と呼ばれる出来事を招来した起爆剤は、一体何だったのか」を追ったものです。
第1章「進化のビッグバン」では、地球上でこれまで進化した38の動物門について、「5億4300万年前からのわずか500万年間に、すべての動物門が複雑な外部形態をもつにいたった進化上の大事変」が、「カンブリア紀の大爆発」であり、「それまでみな同じような形態だった動物門が、この時期を境に多様な外形へと姿を変えた」ことを解説しています。
そして、この爆発によって、「現生するさまざまな動物の外部形態の青写真が出来上がった。歯や触手や爪や顎をそなえた動物が突如として出現したのだ」、「軟体性の蠕虫という原型から、ここの動物門に特徴的な複雑な形状(『表現形』ともいう)への変化が、致死的なタイムスケールからすると『またたくま』に起こった」として、「進化史における画期的大事件であり、生命それ自体の誕生に匹敵するほど重要な出来事」であると述べています。
著者は、「複雑で固い外部形態を胚から発生させるには、単なるソーセージ型の袋を形成するよりも多大なエネルギーを必要とする」ため、「大きな一歩を踏み出させ、余分なエネルギーの出費を余儀なくさせた要因は、半端じゃなく重大なものだったに違いない」と述べ、「その要因の正体を明らかにすることで、カンブリア紀の爆発が起きた理由は解き明かされるはずだ」が、これまでの説では、「科学的な精査に耐える説はひとつもなかった」ことを解説しています。
そして、本書において、「カンブリア紀の爆発の原因を巡る不明確さや憶測に終止符を打つ」として、カンブリア紀の爆発の原因に関する新説である「光スイッチ」説を紹介すると述べています。
第2章「化石に生命を吹き込む」では、グールドが『ワンダフル・ライフ』を著してからの十数年で、「カンブリア紀の生物学的研究は長足の進歩をとげ」、「かつて『分類不明の珍妙な動物』とされていたものが、現在では、現生種との溝を埋める中間種の新たな発見により、現生種との類縁関係を緊密に探ることができるように」なり、「カンブリア紀初期の岩石からは、さまざまな生痕化石が見つかっている」ことが述べられています。
第3章「光明」では、「動物は自分を照らす日光を受容するしかない」が、その際の選択肢には、「自分の存在を隠蔽するか、逆に自己主張して存在を目立たせるか」の2つがあると述べています。
また、「現時点では間違いなく、光が動物の行動を支配する大きな力となっている。生物が現在の段階に達するまで、光は過去においてもずっと進化の重要な要因だったに違いない」という考え方が、「カンブリア紀のジグソーパズルを埋めるひとつのピースとなる」と述べています。
さらに、「動物が色を生じるしくみには、色素を利用するほかにも方法がある」として、透明な基盤と物理的な構造による「構造色」について解説し、「動物が光にどのように適応してきたか」の中には、「色彩だけではなく形状や行動も含まれる。進化がもたらした光への精妙な適応は、自然界のいたるところで見つかる」と述べています。
第4章「夜のとばりにつつまれて」では、深海の甲殻類スカベンジャー群集の生態調査の中で、長さ50センチにも及ぶ巨大な甲殻類で、『スター・ウォーズ』の帝国軍兵士(ストームトルーパー)のヘルメットのような頭部を持つ「オオグソクムシ」を引き揚げたエピソードなどを紹介しています。
そして、洞窟魚を取り上げ、「光が存在しない環境下では進化が遅滞しうる」と述べています。
第6章「カンブリア紀に色彩はあったのか」では、カンブリア紀の、多毛類ウィワクシアとカナディア、節足動物であるマルレラの表面に「回析格子」の痕跡を発見し、彼らが、「日光が当たる都虹色光沢を放つ」鮮やかな体色を持っていたことを解説しています。
第7章「眼の謎を読み解く」では、眼を、「大気中を透過する光の波を映像に変換する検知器である」と述べ、「眼が視覚を発明したのはいつか」という問いの直接の手掛かりを追っています。
著者は、「史上初の眼が登場したのはいつか」について、三葉虫のデータから、「5億4300万年ほど前に、目をもったたくさんの種類の三葉虫が出現したのだが、それ以前に三葉虫は一種たりとも存在しなかった」ことに注目し、「5億4300万年前の地球に最初の三葉虫が登場し、最初の眼が登場したのだ」と述べています。
そして、「眼が突然、どこからともなく地球上に現れたように見える歴史的瞬間は必ず存在する」とした上で、「重要なポイント」は、「未発達な光受容器の段階にとどまっているものは眼ではない」と述べ、「眼はカンブリア紀のしょっぱなから存在していたが、それ以前にはなかった」という2つの事実を合わせて、「光が降りそそぐ環境に暮らす動物の行動や進化に対してもっとも強力に作用する感覚ないし刺激の出現」が浮き彫りになると述べています。
第8章「殺戮本能と眼」では、5億4300万年前から5億3800万年前までの間に、すべての動物門が突如としていっせいに硬組織を進化させたという進化こそが、カンブリア紀の爆発であると述べ、「バージェスのすべての節足動物が、防護用のとげか、攻撃から身を守るための何らかの防御を備えていたという事実は、彼らが捕食者であると同時に、食べられる側でもあったことを意味している」と指摘しています。
著者は、「カンブリア紀の幕開けは、能動的捕食の開始でもあった」と述べたうえで、「原始三葉虫から数種の捕食性三葉虫が進化し、それが連鎖反応にはずみをつけたのだろうか」という問いかけをしています。
第9章「生命史の大疑問への解答」では、「可視光波」が、太陽から放射される一連の電磁波のごく一部であり、「物体に当たった光線は、屈折偏光され、その物体に関する情報を抱えて環境中を進む。その屈折光が我々の目に入ると、網膜上に集光され、情報の読み取りが可能になる」と述べた上で、「『色』という言葉は、光が存在する場所に生息しているすべての動物の辞書に見つかる。光は、あまねくすべての動物に作用する重要な淘汰圧なのである」と解説しています。
そして、「自然界の刺激と、政治ニュースを伝える各種メディア(インターネットを除く)を対比させ」、新聞の時代からラジオの登場によって記者のノウハウが変化し、さらにテレビの発明によって、ニュース制作者の仕事が、「劇的な進化を余儀なくされ」、「あらゆるポジションに従来とは異なるタイプのスタッフが必要になった」ことを述べた上で、「光は(少なくとも、今の地球上では)地球上のあらゆる動物がその影響を被る刺激であるという先ほどの見解を考える上での参考となる」と解説し、「光がもつ力を、あらゆる現生動物の行動や進化と結び付けているのは眼である。眼が存在するからこそ、光がありとあらゆる動物動物にとっての刺激となっているのだ。それは、目をもたない動物に対しても同じである」と指摘し、動物にとっての眼のサイズの大きさを挙げています。著者は、「眼は、いうなれば生物進化における『テレビ』であり、登場したが最後、誰にも無視できないものとなっていたという連想が成り立つ」と述べています。
著者は、「どういう淘汰圧が進化をうながすか」として、「ひとえに目をもつ捕食者の存在がもたらす結果なのだ。もし眼が存在しなければ、光が動物に重大な影響を及ぼすということにはならないだろう」と述べた上で、地質年代を「視覚が出現する前と後とに分ける」と、「この2つを隔てる境界は、5億4300万年前にある」と述べ、「この二分された生命進化史のはざまで、光スイッチが恩になった」、「現在の動物の外部形態には、視覚による大きな制約が課せられているのに対し、カンブリア紀以前には、そもそも眼が存在していなかったのだから、視覚がそのような役割を果たすことなどありえなかった。したがって、当然ながら、光が動物の行動システムに影響を及ぼす重要な刺激たりえることはなかった」と述べています。そして、「ようするに、眼の出現とともに、動物の外観が突如として重要となったのだ。しかし、周囲の世界とそこにすむすべての生物に対する刺激として視覚を導入するに当たっては、最初にたった一対の眼が出現するだけでよかった」と述べています。
そして、「カンブリア紀初頭、地球上のすべての海で、眼と捕食用付属肢を備えた三葉虫が姿を現した。能動的な捕食の時代が到来したのだ」と述べるとともに、三葉虫に「新たな淘汰圧が作用」、すなわち、「自分が餌食にならないようにすること」が必要になり、「進化のもうひとつの対応は、三葉虫に遊泳能力を与えた固い外骨格に、装甲としての機能が加わった」と述べています。
また、三葉虫が食べていた軟体性動物についても、それまでの「不活発な受動的捕食」から、「光さす新世界に適応するための必須条件」である「硬組織」を備えることが必要になったとして、「色々な種類で硬組織が出現し、その結果として多細胞動物の形態進化を後押ししたのは、能動的な捕食者だったようだ。この過程こそが、カンブリア紀の爆発だった。しかし、その引き金となったのは、眼の出現だった」と述べています。
さらに、視覚の進化が、「『見えない』状態から『見える』状態への一足飛びの飛躍だった」ことについて、「眼が機能するには、かなり大きな脳と神経ケーブルが必要なわけだが、それらの一部は他の感覚から借用したものだった」と述べ、「どうやら眼は、感覚器としては型破りの進化をとげたらしい」としています。
第10章「では、なぜ目は生まれたのか」では、「最初の眼は、進化とは独立の要因である、日光の増大に反応して進化したに違いない」と述べ、「先カンブリア時代の最後に地表面の日光の量が増大したことを示す地質学的証拠が見つかっている」ことを挙げています。
本書は、カンブリア紀の爆発という進化史上の一大トピックの謎を、「眼の誕生」というひとつの出来事によってスパッと解いてみせた痛快な一冊です。
■ 個人的な視点から
グールドの『ワンダフル・ライフ』、ドーキンスの『祖先の物語』と読んだあとで本書を読むと、カンブリア紀の大爆発について、ザックリと切れ味のよい解説をしている本書はとても小気味よいです。
大胆なだけに色々と反論を受けているのかもしれませんが、どれが正しいか、という断定的な「正答」よりも、世界を見るときの新しい視点を与えてくれる一冊は、その学問分野を越えた部分で重要なのではないかと思います。
■ どんな人にオススメ?
・自分の眼が何のためについているのかを知りたい人。
■ 関連しそうな本
スティーヴン・ジェイ グールド 『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語』 2007年03月03日
リチャード・ドーキンス (著), 垂水 雄二 (翻訳) 『祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上』 2007年06月30日
リチャード・ドーキンス (著), 垂水 雄二 (翻訳) 『祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 下』 2007年07月01日
リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆, 岸 由二, 羽田 節子, 垂水 雄二 (翻訳) 『利己的な遺伝子』 2006年09月26日
キム・ステルレルニー (著), 狩野 秀之 (翻訳) 『ドーキンス VS グールド』 2007年02月10日
ジョン・メイナード スミス (著), 巌佐 庸, 原田 祐子 (翻訳) 『進化遺伝学』
■ 百夜百音
【ベリー・ベスト・オブ・ELO】 エレクトリック・ライト・オーケストラ オリジナル盤発売: 2005
テレビドラマ『電車男』の主題歌として日本では人気のこの曲ですが、そのルーツが「大コン」まで辿ることができるとすると、アキバよりも大阪の日本橋の方が適しているのではないかとも考えてしまいます。
『フジテレビ系列ドラマ 電車男 オリジナル・サウンドトラック』
投稿者 tozaki : 2007年08月18日 22:00
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1463