« クール・ジャパン 世界が買いたがる日本 | メイン | 廃藩置県―「明治国家」が生まれた日 »
2007年08月20日
公務員、辞めたらどうする?
■ 書籍情報
【公務員、辞めたらどうする?】(#942)
山本 直治
価格: ¥756 (税込)
PHP研究所(2006/12/16)
本書は、「公務員の身分保障や官民人材流動化の問題」がクローズアップされる中で、「一部の公務員にのみ可能な『天下り』や『留学後転職』ではなく、公務員から転職して地道に活躍している人たちの姿を紹介することで、官民人材流動化や公務員の転職について社会に一つの問いかけを試みたい」という目的を持ったものです。著者自身が、旧文部省のキャリア組出身で、現在は人材スカウト行に従事する傍ら、転職支援サイト「役人廃業.com」http://www.yakuninhaigyo.com/を運営されています。
第1章「公務員社会の現状はどうなっているのか」では、「安定した公務員の地位を捨てて民間に転出している人たちがそれなりにいる」ことを示した上で、「退職の背景の一つとなっている公務員の過酷な現実」として、内閣官房行政改革推進事務局が公表した「各府省の若手職員等に対するヒアリングの結果(概要)について」(平成13年)から「若手公務員が抱えるさまざまな不満や閉塞感」を紹介しているほか、幹部候補として採用された人に見られる問題として、「その人自身の能動的・主体的なキャリアデザイン(職務経歴・スキルの形成)に配慮した人事異動(配属)が行われているとはいいがたい」点を指摘しています。
また、『霞が関残酷物語』から「辞めるか、死ぬか、諦めるか」の「地獄の三択」という言葉を紹介し、「働きすぎで倒れても役所は守ってくれないから自分の体調は自分で守れ」と教育されてきたと述べています。
さらに、霞が関の若手職員からは、
(1)民間企業に進んだ大学時代の同級生との比較
(2)苛酷な勤務環境との不均衡
の2点で、「給与についての不満が多数聞かれる」ことが述べられています。
著者は、「公務員の仕事に不満を持つ人にとっては、そんな仕事を後にして、颯爽と公務員を辞められたらどんなに気分のよいことだろうか」としながらも、多くの人にとって、「その地位の呪縛により、辞めたくても辞められない」ものであると述べ、「そんな足踏みをしている人たちに、公務員からでも転職したり、起業することができるという実例を紹介することで、現実的な選択肢を提供したい。一筋の光明を示したい」という思い出、「役人廃業.com」を開設したと述べています。
第2章「私の『役人廃業』体験」では、官民の人材流動化が求められる中で、「公務員からの転職に関する社会の認識は、旧態依然としたまま」であると述べています。
そして、著者が旧文部省からの転職に踏み切った動機として、「組織に特有の『省風』だったのかどうかわからないが、官庁の巨大な組織と堅い上下関係(意志決定過程)」を挙げ、「自分が最も力を発揮できる環境は、フラットで風通しがよい職場だろう」と結論付けたことが述べられています。
また、著者が転職のための面接を受け、大苦戦を強いられた理由として、「仕事へのホスピタリティーは充分に感じられたが、ビジネスという観点からは物足りなさを感じた」というものであったことが紹介されています。
第3章「それぞれの『役人廃業』――転職者五〇人の声」では、国家公務員から名門企業に転職した人の意見として、「役所時代は事務処理能力が中心でしたが、今の仕事ではこの他に、ゼロから物事を作り上げる能力が必要になります~役所はどうしても、下のものが発言することは、はばかられましたが、むしろ今は言わないほうがダメですね」という言葉を紹介しています。
また、外務省キャリアから有名シンクタンクに転じた山中俊之氏の言葉として、「『公務員出身者は営業が苦手では』などと言われたこともありますが、私は、人と会うのが大好きなので、営業は楽しくて仕方ないのです。ですから、そのような周囲の声は、すぐに消えました」と紹介しています。
さらに、『社会人から大学教授になる方法』の著者、鷲田小彌太氏の指摘として、「社会人から大学教師に転じた人で、かつての仕事に熱中できなかった人は、大学教師の仕事、研究や教育活動にも熱中できないという事実がある」ことを紹介しています。
この他、Uターンなどの理由で、「地方自治体間で職員の移籍やトレードができるシステム」に対するニーズがあるが、「職員が自ら希望して任意の自治体に出稿し、そこに転籍できるような都合のよいシステムは現状では存在しない」ことを指摘しています。
第4章「公務員からの転身術――民間企業転職編」では、公務員を辞めたいと考えている人に対して、
「あなたはなぜ公務員を辞めたいのですか? 公務員を辞めてまでやりたいことは何ですか?」
という質問を最初にしていると述べています。そして、
「公務員の仕事より楽な民間の仕事はそうそう存在しない」
「ただし、公務員以上にやりがいのある仕事も民間にはたくさんある」
ことを「心に刻んでおいていただきたい」と述べています。
また、「自分が何をやりたいかよりも、自分の経験を活かせる転職先が民間にあるかということばかり気にする人が少なくない」ことを挙げ、著者が、「今の仕事にやりがいを感じないとおっしゃるのに、同じような事務仕事を希望されるのですか。そもそも公務員を辞めて転職する意味はあるのですか」と聞き返して絶句されてしまったことを紹介しています。
さらに、「はっきりと公務員経験者を募集している数少ない求人」である、国内系・外資系のコンサルティングファームやシンクタンクへの転職については、「官公庁経験者を募集すると謳いながらも、実際のところは中央官庁のキャリア組以外の転職は難しい」ことを挙げ、面接においても、「論理的思考を問う事例式の口頭試問(ケーススタディ)が課され」、「とにかく頭の回転の速さと柔軟さが問われる」ため、「『地頭』がよく、それまでの業務経験で高度に知的訓練された人が残る」と述べています。
著者は、公務員向けの求人情報が少ない理由として、
(1)公務員の多くが転職を見据えた能力開発を考えてこなかった。
(2)民間企業は公務員を転職をする意志のない人と認識していた。
(3)多くの民間企業は公務員のもつスキルを理解せず、活用可能性を考えてこなかった。
(4)多くの民間企業が公務員経験を求める求人を出していないのはそれが理由である。
(5)これまでの民間企業への転職者は、奇特な人で、よほど能力と適性があれば採用されていたに過ぎない。
の5点を挙げ、「公務員自身がもっと自己の能力開発を行い、また民間企業側も公務員の顕在・潜在スキルに着眼し、十分に掘り起こせば、その能力を活用できるチャンスは少なくない」と述べています。
また、職務経歴書の書き方のポイントとして、
(1)アピールポイントはコミュニケーション能力、バランス感覚そして調整能力
(2)専門的知識をアピールする場合の書き方
(3)マネジメント・リーダー経験があれば必ず書く
(4)「やらされ仕事」以外も書ければ書く
(5)役所用語(略語を含む)は一般には通じない
(6)志望動機には「仕込み」が必要
(7)長くしすぎない
の7点を挙げています。
さらに、「公務員が現に給与をもらいすぎかという議論はさておき、公務員から民間に転職した場合に年収を維持することは、通常ではかなり難しい」ことを指摘しています。
第5章「公務員からの転身術――起業編」では、「かつての武士のように為政者側に属し、民間のビジネスの舞台から一歩引いたところにいる。世間一般からは、コスト感覚を疑われている」公務員が起業しても、現代版「武士の商法」となるのではないかという指摘に対して、「半分正解で、半分不正解」だと述べ、不利な点がある一方で、公務員向きの部分もあるとしています。
また、副業規制に関して、公立学校の教員が、休日に結婚式の司会をやっていたことが発覚した事件を紹介し、「現行法規上、違反は違反」であるが、規制の趣旨上、「本当に法令で規制すべきものなのだろうか」と疑問を呈し、
・休日の結婚式の司会が職務専念義務に影響したといえるのか。
・公務の中立性に影響したか。
・信用失墜行為に当たるかどうか。
の3点を挙げ、「当たり前のように考えられてきた兼業規制も、見直されてよいのでは」と述べています。
第6章「公務員の転職をめぐる重点問題」では、政府が進めている天下り対策である「早期退職慣行の是正とピラミッド型人事構成の見直し」に関して、
(1)勧奨退職させる代わりに専門スタッフ職として残すというが、それだけの仕事が役所にあるのか。
(2)天下り受け入れ団体の幹部登用に年齢制限を設けて流入を防がないと意味がないのではないか。
の2点の疑問を呈しています。そして、著者の考えとして、
「公務員が天下りに頼らず自力で転職できるように官民の人材流動性を向上させ、天下り不要の社会をつくっていくことが望ましい」
と述べています。
また、留学費用の返還義務について、「早期退職を劇的に抑止する力はありそうにない」と述べ、「留学者を活用できない役所の組織運営・人事管理に問題はないか。あるいは、公務員の留学における専攻選び(特にMBA)は妥当なのか」と疑問を呈しています。
第7章「『役人廃業』であなたは変わる、社会も変わる」では、「公務員からの転職・起業成功者に共通して見られる傾向」として、
(1)公務員退職理由とその後のキャリアプランが明確であり、徹底的に検証もした。
(2)公務員としてもそれなりの仕事をし、それなりのものを達成した自負がある。
(3)公務員であった過去を否定しない。
(4)「損して得とれ」の意識を持っている。
(5)周囲の理解がある。
(6)公務員時代から、公務員を辞めた後のキャリアを意識した行動をしてきた。
の6点を挙げています。
本書は、こんな仕事辞めたいと思っている公務員はもちろん、「公務員は民間では使い物にならない」という「常識」に疑いを持たない人にもぜひお勧めの一冊です。
■ 個人的な視点から
本書の中で、『週刊東洋経済』2005年11月5日号の特集「公務員 史上最大の受難」が紹介されています。この号の「中堅若手公務員の本音トーク」という座談会のために東洋経済の会議室に行ったのですが、普段雑誌で読んでいる対談、座談会がどうやって行われているのかを見ることができて面白かったです。
ただし、「誌上対談」という場合には、スケジュールを合わせることができず、1人ずつ収録することもあるようです。
■ どんな人にオススメ?
・公務員が辞めたら後はないと思っている人。
■ 関連しそうな本
山中 俊之 『公務員人事の研究―非効率部門脱却の処方箋』 2006年06月08日
福田 秀人 『成果主義時代の出世術―ほどほど主義が生き残る!』 2006年06月21日
川手 摂 『戦後日本の公務員制度史 「キャリア」システムの成立と展開』 2005年12月29日
早川 征一郎 『国家公務員の昇進・キャリア形成』 2006年04月20日
稲継 裕昭 『日本の官僚人事システム』 2005年02月10日
上山 信一, 梅村 雅司 『行政人材革命―"プロ"を育てる研修・大学院の戦略』 2005年04月16日
■ 百夜百マンガ
すっかり環境エッセイストみたいになっちゃいましたが、軽い感じのコメディはまた描いてほしいです。
投稿者 tozaki : 2007年08月20日 21:00
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.pm-forum.org/MT3/mt-tb.cgi/1465
【別れたら好きな人 】