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2007年08月22日
新しい人事戦略 ワークライフバランス―考え方と導入法―
■ 書籍情報
【新しい人事戦略 ワークライフバランス―考え方と導入法―】(#944)
小室 淑恵
価格: ¥2625 (税込)
日本能率協会マネジメント 出版情報事業(2007/7/26)
本書は、「私生活の充実により仕事がうまく進み」「仕事がうまくいくことによって私生活も潤う」という、「仕事と生活の相乗効果を高める考え方と取り組み」全般である「ワークライフバランス」に関して、600社以上のコンサルティングに携わった著者の経験と各種資料をもとに、「企業の人事部、ワークライフバランス改革の推進担当となった方に向けての実務入門書として企画・執筆したもの」であり、「ワークライフバランスを戦略的に捉える視点と、実際に企業の現場に導入するための手法を具体的に解説し、明日からでも役に立つ」ことを目指したとしています。
著者は、ワークライフバランスというテーマとの出会いとして、
(1)大学生時代に聞いた猪口邦子氏の講演
(2)大学を休学して滞在した米国でのスザーンというシングルマザーとの出会い
(3)王手化粧品メーカー入社後に応募したビジネスモデルコンテスト
の3つの大きな転機を挙げています。
第1章「ワークライフバランスは21世紀の経営戦略」では、「ワークライフバランス」の本質を、時間の配分だけではなく、「仕事以外の場を大切にすることによって、仕事も短時間で成果を挙げることができるようになる」など、「双方をうまく調和させ、相乗効果を及ぼしあう好循環を生み出す」ことであるとし、"バランス"よりも"ハーモニー"のほうが近いと述べ、その核心は、「仕事での成果を上げるために『働き方の柔軟性を追求する』」ことであると述べています。
また、ワークライフバランスが、
・短期的には人事労務面のメリット
(1)優秀な人材の確保
(2)女性社員の定着
(3)職場全体のモチベーションアップ
(4)人事コストの削減
・中長期的には経営全般のメリット
(1)労働力不足への準備
(2)労働生産性の改善
(3)企業体質の改善・強化
(4)企業イメージの向上
を有していると述べています。
さらに、ワークライフバランス度によって、
・ファミリー・フレンドリー度
・男女均等推進度
の2つの軸によって、
<A>本物先進ワークライフバランス企業
<B>モーレツ均等企業
<C>見せかけワークライフバランス企業
<D>20世紀の遺物企業

の4つのタイプに企業をタイプ分けしています。
第2章「先進企業に見るワークライフバランスへの取り組み」では、NTTデータ、花王、クレディセゾン、サイボウズ、松下電器産業、三菱UFJ信託銀行の6社を取り上げています。
NTTデータでは、2004年に実施した「企業診断調査と社員満足度調査」の結果、創業当初のチャレンジ精神・新種の気風が薄れ、現状維持のマインドが蔓延していることに危機感を持った経営層の呼びかけによって、新たなグループビジョンとそれに伴なう3つの宣言が決定され、これらを具体化するために社員公募で「経営層へ提案する改革案の作成」作業メンバーが集められ、このWGの中から、「女性活躍推進(後にワークライフバランスWGに発展)」と「社内ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)」という2つのプロジェクトが承認されたことが紹介されています。そして、社内SNS内に女性専用のバーチャル名コミュニティを立ち上げ、「仕事の悩みからプライベートまで、多岐にわたる意見交換が行われている」ことが紹介されています。
クレディセゾンでは、もともと販売担当としての女性社員が多く、小売業から金融業への業態変換の中で、「男性社員の多くが関連会社へと転籍していった」ため、「会社が生き残っていくためには、女性が中心となって頑張るしかなかった」ことが紹介されています。
第3章「ワークライフバランスを導入する8ステップ」では、変革のステップとして、
(1)プロジェクトチームを作る
(2)スケジュールを組む
(3)社内ニーズを把握する
(4)導入プランを策定する
(5)経営層の理解と承認を得る
(6)計画を実行し、告知する
(7)マネジメント層の協力を得る
(8)チェック&フォローを行う
の8つのステップが示されています。
このうち(1)では、
・専任メンバーを含むプロジェクトチームを設け、リーダーを決定する。
・各部門の現場とプロジェクトチームをつなぐ応援団的な存在となるワーキンググループを設ける。
の2つの取り組みを紹介しています。
また(2)では、これからワークライフバランス施策に取り組む企業が、「1年半=18ヶ月」を1つの区切りとして考えることを勧めたうえで、著者が企業から依頼されるケースとして、
・導入プランへの落とし込み
・アンケート結果分析
・インタビュー代行・ファシリテーション
・社内広報
・進行チェック
・社外事例・データの収集
・意識改革研修の講師
などを挙げています。
(5)では、ワークライフバランス施策の導入プランを「事業計画書」の形で経営層に提出する上で、
・自社にはどんな人事労務上の問題があるのか
・それをワークライフバランス施策でどのように解決するのか
・それはどんな経営メリットに結びつくのか
というシナリオを明確に示すことが非常に重要であると述べています。そして、具体的な人件費削減効果として、ある企業では1日・1人当たり平均1.2時間の残業時間削減を達成することで年間9億円の時間外手当を削減したことなどを示すことで、経営層が、「作業効率が落ちる時間帯の労働に高いコストをかけている」ことを理解しやすく、「ワークライフバランスはラクする社員を増やすための施策ではない」ことを伝えるためのシナリオを示してます。
(7)では、「ワークライフバランスの各種施策を社内に定着させる鍵を握っている」のが、現場のマネジメント層であり、ワークライフバランスに拒絶反応を示す彼らの価値観が、「『4時間働ける』男性社員を中心に、『同じ釜の飯を食う』関係を構築し、『以心伝心』で業務を進めることで、業績が伸びる時代」を経験してきたという「過去の時代と企業の要請に基づいたもの」であると述べた上で、彼らの「これまでの功績を認めた上で、会社として変化を求めていることを明確に伝える必要がある」として、「時間当たりで生み出される成果」を評価基準とした、仕事の"見える化"が必要になると述べています。
第4章「ワークライフバランスの各種制度とメニュー」では、制度・メニューの例として、
・休業・休暇
・働き方の見直し
・代替要員の確保
・経済的支援
・意識改革
・その他
のジャンルごとにメニュー例を紹介しています。
休業・休暇に関しては、育休を初めとした長期休業が、「労使双方からキャリアのブランクという受け止め方をされることが多い」ことについて、「企業側はこれを社員の能力開発のチャンスにしていくべきなのだ」と述べています。
また、働き方の見直しに関しては、長時間労働の削減のステップとして、
(1)長時間労働の実態把握:残業が恒常化している部門の把握と要因分析
(2)時間コスト意識の徹底:業務効率化の研修実施、業務フローの見直し、マネジメント層による業務整理と再分担など
(3)実際の削減策に着手:残業や休日出勤の禁止、定型作業の廃止、残業の事前申請の徹底など
の3段階を示し、「業務の見直しを伴なわない『ノー残業デー』の設置では社員の負担が増すだけだ」と述べています。
さらに、代替要員の確保に関して、よく見られる、「社内で同じような業務を担当している、同等ランクの社員」に休業者分の業務を割り振るやり方では、割り振られた社員の負担感が増すことを指摘したうえで、「休業者の1つ下のランク(役職や経験)の社員を代替要員として抜擢する方法」である「ドミノ人事制度」が、ステップアップのためのOJTになり、「休業者が出ることが若手社員のチャンスに結びつき、職場全体のモチベーションアップにもつながる」として勧めています。
この他、事業所内託児施設について、著者がその整備を多くの企業に薦めている理由として、「託児施設そのものが『既存の、そして未来の社員への強力なメッセージ発信』だと考えている」と述べ、「子供が産まれても保育の心配をすることなく、必ず復職できるという安心感は企業への忠誠心とやる気につながるはず」であるとしています。
第5章「実務で役立つ基本データ30」では、
(1)人口の変化
(2)海外比較
(3)女性の社会進出
(4)家族のあり方と意識
(5)仕事のあり方と意識
(6)ワークライフバランスと企業経営
の6つのジャンルごとに、「プロジェクトチームでの意識統一や導入プランの作成、経営層へのプレゼンテーションなどにあたって参考になる基本データや統計資料」を紹介しています。
その内容としては、
・週50時間以上働く労働者の比率は、日本が28.1%と突出して高い。
・男性の4割強は事情が許せば育児休業を取得したい、との希望を持っている。
・子育て期にある男性が、仕事優先の働き方により、家事や育児の時間が確保できていない。
などが挙げられています。
本書は、人事部の担当者はもちろん、自分自身のワークライフバランスを確立したいと思っている社員自身にとっても、大きな示唆を得ることができる一冊です。
■ 個人的な視点から
著者の小室さんには、春に講演をお願いしました。さすがに伝説の営業で知られているだけに、大きな会場でもすぐに聴衆をひきつける話し振りでした。
現在、ビジネス誌でプレゼンテーションの講座を連載されていますが、次著は心を掴むプレゼン術の本になるのでしょうか。期待しています。
■ どんな人にオススメ?
・仕事と生活をトレードオフの関係で捉えてしまう人。
■ 関連しそうな本
大沢 真知子 『ワークライフバランス社会へ―個人が主役の働き方』 2006年07月24日
佐藤 博樹, 佐藤 厚 (編集) 『仕事の社会学―変貌する働き方』 2005年12月01日
橘木 俊詔 『現代女性の労働・結婚・子育て―少子化時代の女性活用政策』 2006年08月18日
パク ジョアン・スックチャ 『会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案』 2006年10月13日
佐々木 常夫 『ビッグツリー 私は仕事も家族も決してあきらめない』 2006年10月31日
山田 正人 『経産省の山田課長補佐、ただいま育休中』 2006年10月10日
■ 百夜百マンガ
団塊の世代の夢を描き続けるこの作品。帯には、「祝 昇進!! 仕事も女性も心の底から愛してる――。彼の生き方こそ、ラブ&サクセス」の文字が。このまま、社長、会長と登りつめた後は、どんな「夢」を実現するんでしょうか? 田舎で自然農業でも始める「隠居」路線に向かうのか、スピリチュアルな方向の「教祖」に向かうのか、気になるところです。
投稿者 tozaki : 2007年08月22日 08:00
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